慈悲深い聖職者×聖女   作:アスプルンド

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何か書けていたんで投稿します。


聖女と姫の独白

私の名前ですか?私はアーシア・アルジェントと言います。この町に来た目的ですか。そうですね、いろいろありましたけど堕天使について行ったというのが主ですので、目的はないに等しいですね。何でしょう?私に聞きたいことがあるんですか?正確には牧師さんについてですか。はい、あの"人"はとても良い"人"ですよ。出来る限り詳細に話せ?分かりました。そのときの心情も含めてお話ししますね。

いつ知り合ったかですか?確か駅前でしたね。そうですね、あの"人"は…すごくすごく、泣いていました。私はあの"人"を同僚のフリードさんと思ったんです。だって人目も気にせずに泣いているんですよ?ずっとずっと。あんなに目立つ行動する人って教会関係者を探してもそうはいません。 だからおそらくフリードさんだろうなと思いました。で間違いました。あの"人"は教会とはおそらく何の関係もありません。あの"人"はあの"人"でただ、やりたいことをやっていただけだと思います。関係性ですか?友達ですよ!あの人は!!いろんなことを相談しました!反省も聞いてもらいました!あの人はただ一言、

『君は悪くない』

と、言ってくれた人なんです…。

その…教会を探している最中でしたね。あなたの下僕と知り合いました。私を見ていやらしい目をしたそのヒトです。牧師さんもちゃんとお礼を言っていたのに、あの日、そのヒトは私にだけにお礼を言っていました。その時点で印象は最悪ですよ。何を勘違いしたのか知りませんけど私はこのヒトに対して何の感慨もありません。 ただただ不愉快なだけです。本当はここにいて欲しくありません。話し合いに参加して欲しくありません。

 

話が脱線しましたね。何でしたか?教会に行った時の事ですか?仲間割れ?いえいえいえいえ。ただそこで運悪く本物のフリード神父と会っただけですよ。堕天使たちはみんなあの"人"を罵倒しました。ただのいい"人"。いい"人"だったのに…!あの"人"は傷つけられて、叫び声を上げて、その場から逃げ出しました。私は追いかけようとしましたが、 堕天使から止められました。そんなことよりも、儀式の準備をしろと言われました。どこかフリード神父が、面白そうな顔をしていましたけど…。今更どうでもいいですね♪

で、二日ほど経った後です。公園であの"人"を見ました。 私はその時、買い出しに行く途中でした。何か趣味のある堕天使に余分にお金も貰っていました。とにかくその時は、余計なことを考えまいと、仕事を頑張っていました。でも、あの牧師さん、ボロボロの格好でいるんですよ。 逃げ出したあの日のままで。何もかも削ぎ落とした能面のような顔をしていらっしゃいました。放っておけなくて近づいたんです。そしたら、あの"人"はすぐに叫び声をあげて逃げようとしました。腰が抜けたのか這ってでもにげようとしていましたよ。遊具があってそれ以上脱け出せなくなると許してくれ殺さないでくれって、泣きながら懇願するんです。そこで私は確信しました。この人はただ巻き込まれただけなんだって。その後の言葉がすごく印象的です。

 

まだ生きていたい

 

それがあの人の根幹、全てでした。私は手を握りました。ただ元気になって欲しくて。私の神器『 聖母の微笑み(トワイライト・ヒーリング) 』は、触れた相手の傷を癒すことができます。だからあの"人"の手を握りました。その時は、ただただ恐怖していました。すぐに私の手を振り払って、逃げ出そうとしました。 でも私は諦めきれなくて、あの"人"の腰あたりに抱きついたんです。そして私は言いました。

 

あなたを傷つけたりはしないと。

 

でも牧師さんは喚きます。信用できるか、どうして自分を殺そうとしたやつを信じられるのか!と

 

そう言って逃げ出そうとしてました。でも確かに私は見たんです。というより感じたんです。腰の辺りに抱きついた時から、私があなたを傷つけないと言ったその瞬間に、あの人は間違いなく安堵していました。あくまで一時的ではありましたが、だから私はまた何度も何度も あの"人"を止めようとしました。そしたら急に、あの"人"の力が抜けたんです。

ずっと緊張状態だったんでしょう。何もする気が起きなかったんでしょう。空腹の音が鳴っていました。ひどい熱もありました。私は、自分のウィンプルを牧師さんの頭の上に置いて、冷やすようにしてから、余分なお金で食べ物を買いに行きました。買い物を終えてお店からでると、牧師さんは起き上がっていて、また私から逃げようとしていました。急いで駆け寄ろうとしてこけてしまって、手からおにぎりがあの"人"の方へ向かって行ったんです。鼻柱を抑えながらあの"人"に近づいて 空腹そうだったのでと言っておにぎりを渡しました。あの"人"はどこか困惑した様子でしたが乱雑ながらも、ちゃんと受けとってくれて、食べてくれたんです。一口食べた後、一瞬だけど止まって、その後すごい勢いで食べ進めました。その様子がどこかおかしくて、幼くて、私は笑っていたと思います。

そして困惑した様子で、こちらを見た後、指についたお米を口に含みました。そこでまたあの人は、駅で会った時と同じようにワンワンと泣いていました。私は落ち着くまで寄り添っていました。片腕をさすっていました。そしたらあの人は…フフッ、すいません、ちょっとおかしくて。とにかく笑ってたと思います。それで私はお茶のペットボトルを差し出そうとしたんです。そうしたらあの人が謝罪してきました。

君を疑ってごめん。ただの傍観者だったのに疑ってしまってごめん。

…どこか、なぜ止めてくれなかったのかと言外に言われたような気になって、必死にごめんなさいを繰り返していました。そしたらその"人"は優しく頭を抱えてくれて、

 

お互い謝ったんだから、もうおしまいにしよう

 

と言ってくれました。それで改めて、お茶を渡すことしたら手元になくてどこかに落としたのかなと必死に探してたら、牧師さん、笑ってるんですよ。手にお茶のペットボトルを持って。私が渡そうとしたお茶でした。気づいてなかったんだと言って、とても楽しそうに笑っていました。私はからかわれた気がして、結構な力で牧師さんを叩いていたんですけど、牧師さんには全然効いてなくって。むしろ、そうやって拳を使って叩いているのに 、あの人はもう、私に対して殺されると思ってないんだと思うと嬉しくて。その後、一緒になって笑いました。

その時の様子から、先ほどの謝罪は本当だったんだと確信が持てました。ただ生きていたい普通の"人"なんだって……。

 

それから、何日かに一度は牧師さんと一緒に食事と話をしていました。今までのこと、これからのことを話していたんですが、どこか言いにくそうにしていたので、ノートとペンも食事と一緒にお渡ししました。考えがまとまったら見せて下さいとそう約束してから1日経った後、牧師さんの所に行こうとしたら 堕天使が私に対して、時期が来たと言いました。それでフリードさんと一緒にお仕事をして、そこの下僕と会って、私は帰ってきたその瞬間に、十字架に吊し上げられました。怖かったです。とてもとても怖かった。準備ができたと言って堕天使たちは楽しそうでした。もういないですけど。フリード神父はこちらを見ようとしませんでした。もしかしたら良心の呵責があったのかもしれませんね。もう、あの人もいませんけど。それで、あなたの下僕がでしゃばってどうやってか知らないですけど、私のところまで来て、助けようとしてくれたんでしょうね。結果は無残なものでしたけど。目の前でひざまづかされて、蹴られて、殴られて、嬲られて、見てて本当に哀れでした。そういうことは聞いていない?申し訳ありません。詳細に話せということでしたので。そして、そうしている最中に、お腹を押さえて、両腕の皮膚がボロボロになった牧師さんが来てくれました。そしたら一直線に私の元に向かってきてくれました。でも殴っていた人たちが牧師さんの方に行って、同じように跪かせて、殴っていました。 それは憐れと思うことはなかったのかですか?憐れと思いました。だから私、もう終わりかなと思った時堕天使が手をつないできたとき最後のお祈りとして願ったんです。

生きてください、牧師さん

 

その時です。急に、どこからか音楽が聞こえてきたんです。はじめは小さく、その後少しずつ大きく。結婚行進曲でしたか?そんな音楽でした。祝福の金の音も聞こえてました。何かの皮肉かなと思ったんです。そしたら、手を繋いでいた堕天使のすぐそばを殴っていた仲間たちが通り過ぎて行ったんです。牧師さんはすでに立っていました。堕天使は激昂して、牧師さんに攻撃しようとしました。でもその時にはもう牧師さんは、壁際に移動していて…。すぐに逃げるかなと、そう思いました。でも私はそれでよかったんです。私の最後の願いは叶うんですから 。本当は、もっと牧師さんと一緒にいたかった。友達と一緒に笑いたかった。友達と一緒にまだ話せてないこともたくさんあるのに。ノートだって、見せてもらってないのに…。

ごめんなさい。話が脱線しました。

そして牧師さん 聖職者らしいことを初めて言ったんです。祈りなさいって、そしたら教会自体が作り変えられてるような感覚があって、私にかけられた術が一気に壊れたんです。少し呆けてしまって、気がつくと魔法使いたちや、フリードさんと剣士さん。いろんな人が私の十字架の近くに集まってました。牧師さんは上にあった鐘の近くまで一気に跳躍して、そして異形の姿になってました。棺桶にまたがって、腕が六つになって そのうちの4つで聖書を持ってて、前の方の二つの腕でどこかリズムをとってました。そして言うんです。

 

誓いなさい

誓いなさい

病める時も、健やかなる時も、神の身元に

you shall die!

 

ポカンとしてどうしました?あなたが知ってるものと違いますか?些細なことですよ。そして聖書を持ってる手で、周りの人たちを攻撃し始めました。牧師さんにそんなことはやってほしくなかった。でも全く表情が動いてなかったですけど、泣きながら、叫びながら、あの"人"が戦っているように見えました。フリード神父もどこか同じようにハイテンションで切りあってました。どんどん傷が増えていくなかであの"人"がいろんなことを誓わせ始めたんです。

 

殴らないこと

技を使わないこと

道具を使わないこと

えばらないこと

 

そしたら、周りにまたがっているのとは別の棺桶が浮き始めて、その誓いを破った人の方に飛んで行きました。 それと同時に、色のついた鎖が絡みついて、身動きを取れなくしてました。その術でフリード神父と取り巻きはみんな行動不能になってました。唯一、あの女だけは 普段の姿とは別の姿になって、助けてほしいとあなたの外僕に頼んでました。そこのヒトに感謝すべきところがあるとすれば、その時助けに入らなかったことだけです。おや?別室送りですか?もうこれ以上辛い思いをさせたくないと?そうですか。甘いですね…。そんなに怖い顔しないでくださいよ。自分の立場で置き換えて考えてみてください。自分の好きだった人が、勘違いで傷つけられて、見捨ててもいいところで、こちらに向かってきて、助けてもらって、なのに私は、何も返していない……。もう、返せない…………。

……続けますね それであの人は、聖書であの女をボコボコにした後、私の鎖をちぎってゆっくりと床に下ろ してくれました。

その時に あなたの下僕が近づくなとか化け物とか、そんなことを言いながら牧師さんに殴りかかってしまった。他の人は傍観に徹して、何もしませんでした。むしろそのままでいてくれればよかったのに。そうやって牧師さんが攻撃を受けていると、どんどん体が小さくなってきました。それから仰向けになって倒れたんです。どこか西日がステンドグラスに反射してて、眩しかったのをよく覚えてます。それで、よく座っていたベンチと一言遺して

神 みもとへ 今から行くと

言い残して、消滅しました。はい。消滅です。体は何も残ってません。衣服は塵になって消えました。残ったのはあなたたちが触れることすらできない聖書だけでした 。それから後はあなたがたが見た通りです。私は聖書を抱いてワンワンと泣いてました。あなたの下僕が肩を抱こうとしてましたけど、ただただ気持ち悪かったです。

 

私はどうなるんでしょう?グレゴリに突き出しますか?それとも魔界で裁判ですか?別にもどちらでも構いません。

……そちらの女性の家で預かると?私を?なぜですか?

グレゴリからはもう事件は関係ない。そもそも起こっていないことになったと。だから裁判もないと。それでなんで私を置くんですか?ひょっとして神器が目的ですか?貴重ですもんね回復系の神器。どうしたんですか?顔色が悪いですよ?それとも何ですか?置いてあげるんだから感謝しろとでも?しませんよ!!監視の名目でおそらくですけどあなた方の学校に入れとかも言われるんでしょう!?もちろん教育を受けさせてくれるのはありがたいです。ただ、あなたと、あなたの外僕は勝手な判断と勝手な独善で動きに動き回ってあの"人"を殺したんだと自覚してください……!

さて、それでは失礼します。何ですか?学校に入ったらオカルト研究部に入れ?はいはい、わかりました。ここの土地はあくまであなたがたのモノですからね。

……今のはシャレが効いてますね♪親父さん聞いたら喜んだだろうな…♪

スタスタスタ

 

ではさようなら、また明日とかですかね?

……殺人者さんたち………!!

ガラガラピシャリ

 

 

 

………………………………………。

 

沈黙が場を支配する。

思い出すのは話をしていた、あの人の目。

とても、くすんだ瞳を。もう本当に希望なんかないんだ。そう悟って自棄になっているようにも見えるあの目だ。

リアスや一誠くんにはかわいそうですけど、でも今回の件は圧倒的なまでに状況把握が足りてませんでした。リアスは土地の管理者としての事件への対処が欠けていて、一誠君については調子に乗りすぎた。聞けばアーシアさんは一誠くんのことを何とも思っておらず、いえ、むしろ嫌悪感すら抱いていました。勝手に舞い上がって、勝手にはしゃいで、周りにも迷惑をかける。殺されたのも殺したのも 自業自得だというのに、反省の気配も全く見えませんでした。アーシアさんが、言葉を交わしてくれるまでは。

 

彼女はどうやら自分の置かれた状況を正しく理解しているようです。自分の神器が貴重というより自分たちが必要としていること。今まで逃げ続けた人生からも、わかっているのでしょう。そしてここから逃げられないということも。リアスは、暴言を吐かれたとまだ怒っています。何も知らない子がとか、散々こっちを侮辱してとか そんなことを言っていますが、もう本当は分かっています。自分達はあの人の大切な"人"を殺してしまったんだということを。何の罪もない人を殺人という手段で排除したことを。

一誠くんは、まだ、受け止めきれないようで

嘘だ、俺は悪くない、あの牧師が悪い、とうわ言のように繰り返しています。

言わなきゃ自分を正当化できないものね。

16、17歳の普通の人だった一誠君には耐え難いコトなのかもしれない。

何と言うか、強力な神器を持っていても、やっぱり使うのは人なんだなと改めて再認識できました。

木場くんは青ざめています。自分と同じ境遇かもと思案しているようです。

子猫ちゃんは吐き気をこらえています。普段は自分の側にお菓子を置くのにお皿すら出していません。

結局、そのあと話すこともなく気まずい空気のまま解散。

 

私は監視のためもあって、神社の方に一旦帰っています。玄関前でうずくまるアーシアさんを見つけました。駆け寄って見ると泣いてました。嗚咽を漏らさず静かに、とにかく辛そうに。懐を見ると どこかま新しいノートがぐしゃぐしゃに抱きしめられていました。泣きながら、彼女は言います。

 

牧師さん、牧師さん、牧師さん。

会いたい、会いたいです。

私は今、寂しいです。

 

……これからいやが応でも、この子は巻き込まれ続けます。私たちの勝手で。それが……それがどれだけ残酷なことなのか……。私たちはいい。自分の意思で悪魔になったのだから。しかし彼女は牧師が守ったおかげもあって人のまま……。

頭が痛くなるのも分かっていましたけど、祈らずにはいられませんでした。

 

どうかこの子に この先 祝福がありますようにと

 

案の定、頭が痛くなりましたけど気分転換にすらなりませんでした。





うん。どうしてこうなった。

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