ただ思い付いただけです。
続きなど全く考えてないです。
◆
『
◆
調子にのっていた。自分は特別だと思っていた。
だから転生の特典も豪華になると思っていた。結果は無惨なものだった。
アトラスのゲーム世界に行き、
エリアボスになって殺されては復活を繰り返す。
数回で終わると思っていた。終わる気配がなかった。
怖くなった。泣きたくなった。なんでも良いから外にぶつけたかった。やるせない思いを吐き出したかった。
気づけば自分にはそんな機能がなかった。
何回目かも分からないくらいに死んでまた同じ場所で
触れてみる。ざらつく感触、土と砂利と金色の細かい粒子が指につく。道の隙間からは草花が生えている。
顔を上げる。人が行きかえっている。会話をしている。
上を見る。白い天井でなく、青い空だ。大きな鐘でなく、太陽がある。等間隔な窓でなく、不規則な雲が流れている。
そと…。
外だ。
外の世界だ!
涙が溢れる。身を抱き締めて、絶叫する。
叶うとは思っていなかった、
涙を流せることに感動し更に泣く。周りの目など気にならず、声を上げる。その場でしばらく、いままで出来なかった分まで泣き続けた。
落ち着いてから前を見ると人はいなかった。大方変人扱いされ、敬遠されたのだろうとため息をつく。
後ろから金髪の少女が声をかけてきた。英語だったのと会話が久しぶりだったので、吃りながらも英語で答えた。聞き取れたのか笑顔になり、立てるかを聞いてきた。噂通りの人だからすぐに分かったとも。
人違いをしているのは直ぐに分かった。だが、言い出すことはなかった。話し相手が欲しかった。
よい名前だと褒めたら嬉しそうだった。
何をしていたのかを聞いたら教会を探していると言う。
教会という一言で、体が震え嘔吐した。
少女が、背中をさすってくれていると楽になってきた。
武器の冷たさや魔法の熱ではない、相手の体温を感じてまた泣いた。
◆
『神ノー? 御許へー?
You shall die !!』
◆
落ち着いてからしばらく歩くことになった。道中、体の事が気になりあちこち触れたが異形の体ではなくなっていた。その最中に教本を見つけた。気持ち悪さにとらわれ、すぐにでも捨ててしまいたかったが体面が悪くなると思ってとっておいた。後で捨てよう。
こちらを思ってか彼女はよく話しかけてくれた。何か思い出を話して欲しいと願った。しばらく躊躇してから思い出を話してくれた。楽しかったこと、辛かったこと、悲しかったこと、暗い話が多かった。何処か彼女の半生を聞いた気分だった。話終えたのか彼女が黙る。そこからしばらく無言が続いた。君は悪くないと呟いたが反応が無いということは聞こえなかったのだろう。
気まずくなって此方からも人であった頃の思い出を話す。彼女は怪訝そうにしたが、しばらく続けると楽しそうな表情を浮かべていた。しばらくしてまだ着かないのかという旨を伝えてきたが、なんのことかと聞くと顔を青くし、戸惑い始めた。ああ、そういえば教会に用があるんだと思い出して、吐きそうになった。近くに人がいないか探すと制服を着た男子がいた。事情を説明し、案内を頼むと面倒そうな顔をしたがアーシアを見てすぐさま了承してくれた。元気な人だ。案内をしてもらい教会に着いたので礼を言っておいた。私とアーシアがお礼を言うときに露骨に表情が違った。現金な人だ。
立ち去ろうとするとアーシアが袖を掴んできた。一緒に入りましょうと言って共に教会に入った。中にいた神父と鉢合わせになった。途端にアーシアの周りにいる数人から偽物だの、牧師服は偽装かだの、教会がどうだの声高に罵る声が此方に浴びせられた。
嗚呼、一緒だ。何回と繰り返したあの時と。
敵意、侮蔑、驚愕、不信、殺意
舞台が似ていて余計
呆けていると黒い翼人から攻撃を受ける。かすっただけだが血が出ていた。
痛い、痛い痛い痛い。
いやだ……嫌だ!痛いのは、死ぬのは嫌だ殺されるのはイヤだ!
いやだ嫌だ嫌だ嫌だいやだ!
背を向け全速力で逃げた。
幸い追ってはいなかった。
また、殺される、世界が変わっても。そう思って身を隠してまた泣いた。
◆
『迷えるモノたちにはコレデース!』
◆
2日がたった。家はない。追っ手はいない。話し相手もいない。空腹感もない。喉の渇きもない。ナイナイずくしだった。あの感動は、あの涙はなんだったのか。感情すら磨り減って麻痺していた。公園のベンチで佇んでいると
叫び声を上げて、手で距離をとろうとするがすぐそばに遊具があったためそれ以上離れられなかった。手を合わせて赦しを請う。
許してくれ。悪かった。騙すつもりはなかった。ただ話がしたかった。人と触れ合いたかった。殺さないでくれ。死にたくない。
―――まだ、生きていたい。
この願いを叶えるために、手に、頭に、目に、言葉に熱がこもった。
温かさを感じた。魔法の熱ではなく体温を感じた。彼女は涙をながして、此方の手を握っていた。振り払って逃げようとした。今度は腰の辺りから温度を感じた。彼女が此方にすがり付いていた。そして聞いた。確かに聞いた。
私はあなたを傷つけませんと
信じなかった。信じられなかった。私も言う。
あの時殺そうとしたと
この女はそれを認めた。認めた上で大丈夫だという。
ふざけるな。滅茶苦茶な理論だ。
信じられない。お前も辛い経験をしたなら分かるだろう。
人のいうことは信じられないと、嘘ばかりだと。
この女はそれに対して答えない。だがすがってくる。すがり続けてくる。腰にまわった腕に力がこもる。
離してくれ。
離しません。
離せ。
いやです。
離せっていってんだろうが!
いやです!傷ついている人を、まだ生きたいと思っている人をそのままにしておけません!
何を―――
と言いかけて膝から崩れ倒れる。
まだ逃げなくてはいけないのに……!
視界は暗転した。
◆
『神にィ・逆らう・不届き子羊ッ!
そんな・奴にはァ・誓ってもら
◆
目を覚ます。ベンチに寝かされていた。辺りを見ると人はいない。
殺されなかったことに安堵する。べちゃりと何かが膝に落ちてきた。顔を触ると額の部分が冷たい。見覚えのある生地だ。確か…
もう一度周囲に目を凝らす。彼女が店から出てきた。
びくりと体が反応し、逃げようとするが声をかけられた。けして早くはないが走って此方に向かってくる。一目散に逃げようとすると転けた。いや、私ではなく彼女が。それと同時に此方になにかが飛んできた。とっさに避けるとなんとも懐かしいナイロンに入ったお握りが地面に着地した。
訳がわからなかった。なんだこれと独り言を呟くとお腹空いているようでしたのでと彼女が言う。
空腹は感じていないがと言うと感覚が麻痺しているのだという。拒絶しているとも。当たり前だ。此方を殺そうとした奴から飯など貰えるかと言ったが涙をため、外装を剥がしたお握りを持って此方に迫ってくる彼女。全身が震えており、小動物が怯えている様を幻視する。
なんだこれ罪悪感半端ないと口にはださないが思考する。分かった、分かりました。一口だけですよ!とお握りを相手の腕からふんだくる。乱雑に食べると懐かしい味がした。塩の味、米の食感、海苔のパリっという音。全てがもう、手が届かないと思っていたもの。なんてことはない日常がそこにあった。気がつけばお握りは無くなっていた。全部食べきったのだ。くれた彼女の顔を見た。笑顔だった、眩しいほどの、それこそ人間時代にすら向けられたことの無いような綺麗な顔。
自分の手を見た。米つぶがついていた指を口に含んだ。塩と海苔の味がした。麻痺していた感情がほどけてまた泣いた。
落ち着くまで彼女はそばにいた。気がつくと腕を擦られていた。気恥ずかしくなり飛び退いたら悲しそうな顔をした。
イやちがうこんかいのはちがうのだこわくてとかころされるとかそういうのではなくてただきはずかしくてなんというかきれいでみとれそうでこわくていやいまのこわいはちがくてその――
まで言って手のひらを前に出され発言を遮られた。プルプルと震えて顔色を伺うと真っ赤だった。綺麗とか言われ慣れてないのかなと思っているとお茶の入っているペットボトルを渡された。一杯泣いていたからとのことでありがたく頂戴しようとするが、その前に謝っておく。
君はただ見ていただけで手を出したわけでも命令したわけでもない。ただの傍観者だったにも関わらず必要以上に怖がって罵ってしまってすまなかった。
謝罪を終えて彼女を見ると泣きそうな顔になって謝ってきた。要領をえずご免なさいを連呼していたが、頭を抱えて止める。両者が互いの非を認めたのだから謝罪は終了だと言って抱えているペットボトルを抜き取る。
目にたまった涙を拭いてからではこれをと言い空の両手を差し出してくる。一連の流れで気づいてなかったと分かり笑った。吹き出してたっぷり3分ほどは笑い続けた。彼女が此方を叩いてくる。ポカポカと擬音が聞こえてきそうな拳だった。
◆
『導ィてやる・子羊メーン!
天罰
◆
また今日もベンチにたたずむ。あれから何日かに一度、昼には公園で昼食を一緒にするようになった。なんでも気安い友人ができたようで嬉しいと言っていた。
自分は友人だと思っていたので、伝えると顔を真っ赤にしていた。赤面はもう見飽きたというと、ポカポカ叩かれた。
そのやり取りを楽しみにして、もはや日課だなと苦笑していると見覚えのある制服の少年が此方に近づいてきた。胸ぐらを捕まれ怒鳴られる。
アーシアはどこだ。返せ、彼女を返せ!と矢継ぎ早に此方を罵る言葉と共に怒鳴り散らしてくる。
なんのことかと聞くと惚けるなという声と拳が此方に向かってきた。首の動きだけで避け、腹に蹴りをいれる。腹を押さえて蹲ったため顔をつかんで此方を向かせる。で、何だって?
唾を吹き掛けられた。手を離して顔を拭くと同時に腹に拳が突き刺さる。私も少年と同じように蹲る。
同じ制服を着た少年と少女が此方を見下している。またアーシア何処だ彼女を返せと怒鳴り散らす。しかも今度は
教会ではないのか?
そう言うと此方を見向きもしなくなり走り去って行った。はぁ、とため息をひとつ。この体は脆すぎるなと始めの感動とは相容れない感想をもちながら、痛む腹を押さえて教会へ向かった。
教会に着く、まだ大丈夫そうだ。大勢いるけど大丈夫そうだ。
戦っていた覚えの薄い少年はスルーした。
奥へと進む。アーシアと女の翼人と少年がいた。
走ってアーシアの方に向かうと別の翼人が現れて、此方を拘束した。
もがくが逃げられそうにない。跪かされ顔を蹴られる。脳が揺れる。意識がぶれる。何かをしゃべっているが聞き取れない。誰がしゃべっているかも分からない。
薄く目を開ける。
女の翼人が何かを言いアーシアの手に触れた。
手を繋いだ。
そうすると途端に五感が研ぎ澄まされた。
…………………………………。
響く弱者の絶叫と高笑い
その中で、確かに聞いた彼女の願い。
生きてください。牧師さん。
死にかけているやつが何を言っているのやら
……教会、教本、手を繋ぐ二人。
条件は揃った。
しょうがないか。
ニッコリと
自分を押さえる翼人たちを腕の力だけで引き離し女に投げつける。女がなにかを言うが自分はアーシアとは逆方向へ走り出す。壁の前でひとつ短く深呼吸。
そして私は言葉ヲ紡グ
『……祈りナ・サーイ…』
6本の腕を広げる。テンションを高める。
自分の願いは叶わない、それは
一人の少女のために戦う。
あと反論させてもらうが、
貴女の方こそ生きなさい。
さてと泥臭く
勝ったか負けたかはご想像にお任せします。