幻想の郷の稀人兵士   作:蓬莱の翁

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5話「幻想の守護者」

目を覚ました雅は激しい頭痛に襲われる。どのくらい眠っていたのだろうか?ガンガンと響く痛みに耐えながら体を起こしゆっくりと状況を整理する。確か館の主人レミリアスカーレットと対峙し相討ちではあるが刺し殺した・・・多分。左手はあの時のまま肘から先がない。

 

【放浪者の死霊術】

 

幾分回復しているのか左腕はすぐに再生した。腕の具合を確認する。なんとか大丈夫そうだ、あと2日ほど酷使しなければ完全に回復しているだろう。

 

「あら、お目覚め?死んでるかと思ったわよ」

 

目の前の扉が唐突に開かれ一人の女性が顔を出す。今気が付いたがベッドで寝ている事や完全に洋風な部屋からあの館で眠っていたらしい。女性は日本人らしく漆黒の長髪を後ろで結び、仄かに赤い黒目からは何にかを感じ取るには難しかった。白い着物に緋袴を着ているという事はどうやら巫女であるらしい。

 

「実際死んでたかもな。なあ俺は一体どのくらい寝てたんだ?」

 

「そうねぇだいたい七日ってところかしら?つまり一週間ね。本当に死んでると思ったわ」

 

い、一週間!?確かにそれは死んでてもおかしくない。淡々と告げられた事実に今更になって冷や汗をかく。

 

「まあ助かっただけで儲かりモンでしょ~」

 

巫女さんは上品さなぞカケラも無しと言わんばかりにドッカリと床に胡座をかく。椅子に座ればいいものを・・・

 

「そうかもな、取り敢えず巫女さんが助けてくれたんだろ?ありがとう。」

 

「私だけじゃ無いわよ後でこの館の図書館にいる何とかっていう魔女にお礼しなさいな。それから巫女さんなんて堅苦しいから博麗霊夢そう呼んでね」

 

赤白の巫女、博麗霊夢はにぃと猫のような気紛れな笑みを向けた。

 

「博麗霊夢?ずいぶん変わった名前だな。まあいいか人の名前は難しいものな、俺は鬼灯雅だ外の世界では傭兵をしていた。」

 

よろしくとお互いに手を取り合う。何とか起き上がれるようになったのでとりあえず生きていると言うレミリア・スカーレットのもとへ行ってみることにするしかし流石は吸血鬼あれだけのダメージを負って生きているとは。部屋を出てそばにいた小さいメイドにレミリアの居場所を聞きそこへ案内してもらう、2~3部屋を抜けひときわ大きい扉の前にたどり着くと見知った顔が勢いよく突っ込んできた。

 

「雅さん!生きていらしたんですね!?よかった雅さんが目を覚まさないっていうから私気が気で・・・」

 

この館に着いたその日に殴り合った門番の紅 美鈴が涙目で抱きついてくる。ていうか鯖折り?あ、意識が・・・

 

「わかったから・・・取り合えず放してくれ美鈴、折れるから・・・」

 

「は!?私ったら何を。ごほん、でも生きていて本当に良かった・・・それにあなたのおかげでレミリア様にもいいことが起こったんですよ?」

 

美鈴の話によるとレミリアはあの一件から3日程で目を覚ましたらしい。それでも吸血鬼としては深刻なダメージを負っていたようで今も無茶は禁物らしい。いいことって言うのは?と聞いたがそれはあって直に聞いてくださいと言われてしまった。大きく重厚な扉を開けるとどうやらそこは玉座らしい、レミリヤは優雅に座りワインを傾けている。隣の玉座に座すのは会ったことのない少女だった。レミリアとは相対する金髪の髪に着ている服は少し子供っぽいが大方レミリアと似ている、顔つきは二人ともよく似ているもしやこれが彼女の言っていた・・・

 

「あらよく来たわね、まったく吸血鬼相手によくやったものよ。初めてよ私が生死の境をさまよったのは、図書館のパチェがいなければ私もあなたも今頃死んでたわよ」

 

見た目は元気そうだが会った時より更に青白い顔や俺が付けた翼の傷や折れているようである足、どこにあったのか酸素吸入器のようなものまで持っているところを見るとまだ完全には回復しいないようだ。

 

「随分と元気そうじゃねぇか、まぁだが一週間も部屋を借りて悪かったなありがとさん」

 

「お礼なんていいわよ、それにあんたはよくやってくれたわ」

 

頭を下げた雅に対しレミリアは、頭を上げるように促す。

 

「ねぇお姉様?この人は誰?お姉様のお知り合い?」

 

隣にいた少女が疑問を連打している。やはりこの子があの時レミリアが言っていたたった一人の妹か

 

「落ち着きなさいフラン。鬼灯雅、あなたのおかげで私は妹と初めて向かい合うことが出来た、あなたが私に不遜な態度をとったおかげで今私は妹と肩を並べて座ることが出来ている。感謝しているわありがとう。それと厚かましいことだけれども件の日の態度を許して貰えないかしら?」

 

出会った当初の傲慢な態度はどこかに消え失せ、一人の主人として、誇り高き王として気品のある偉大な態度はカリスマのようなものであった。そこまで素直に頭を下げられては雅とて居心地が悪い

 

「よしてくれ、なんだか気味が悪い。それによかったじゃないか、たった一人の妹とまた肩を並べられて」

 

ええそうねと笑うレミリアは本当に嬉しそうだった。レミリアからはこの館を拠点として使っていいことやこの土地が幻想郷と言うらしきものだと言うことを教えてもらった。また自分たちを助けた図書館の魔女パチュリー・ノーレッジは基本的に出てこないうえにどうせ会ってはくれないだろうからお礼はいいと言われた

 

「じゃあ世話になったな。また頃合いを見てここにくるぜ」

 

レミリア姉妹や美鈴に別れを告げて館を出る。行く当てなどは無かったが地理を把握するには歩くのが一番だ、最悪野宿でも死にはしないだろう。雅は一週間ほど前にいた方角と反対側に歩き出す、館の建っている周辺の湖は、深い霧で覆われ見通しはすこぶる悪かった。暫く湖畔沿いを歩いていると

 

「おーおーいたいた。そこのちと止まりな」

 

雲のように覆われた空からいきなり声をかけられる。なんだっけなここに来る前に丸焼きにしてやった妖精がいたっけなそいつか?でも声が随分ハスキーな気がするな・・・

 

「誰だ?俺は霧のせいでそっちが見えん取り合えず降りて来てくれないか?」

 

霧を飛ばしながら三人ほどが空から降りてきた。真っ白な山伏衣装の二人を従えて、純白と漆黒、相対する色が見事に合わさった法衣とも着物とも言える服を纏い足まであろうかと言う漆黒の髪、黒い翼の女が口を開く

 

「初めましてだねぇうちは天魔。この幻想郷の創始者の一人で紫ちゃんの大親友よ~あ、紫っていうのはあなたをここに連れてきた人ね。どうせあの子名乗ってないだろうし」

 

天魔と名乗った女性はもうすでに友達のようなノリで肩をたたいてくる。犬歯を出して笑う姿はどこか霊夢に似ている、ここの女性はみんな同じような笑い方なのかな?

 

「左肩を叩くな・・・生えたばっかりなんだから。それにしてもこの幻想郷の創始者?そんなお偉いさんがこんな一人の男に何の用だ?」

 

左肩を抑えながら俺は天魔と言う女性に問いかけた。ちなみに彼女随分でかい、俺より頭一個分はでかい。モデルばりの長身に着物の間から見える長い脚が中々にセクシー・・・

 

「おおそうじゃそうじゃ、えーと実を言うと用があるのはわしじゃなくての・・・」

 

そこまで言うと天魔の身体から禍々しいまでの殺気が漏れてきた。数多の戦場を駆けてきた俺でさえ感じたことない猛烈な恐怖が振りまかれていく。

 

「て、天魔様・・・まさかこの人間相手に迦楼羅様を・・・?」

 

そばにいる側近たちも冷や汗を流しながら青い顔をしている。それだけやばい奴ってことか・・・

 

「鬼灯雅 貴様がこの郷に如何なる影響を与えるか我らが見極めようではないか」

 

漆黒の髪は徐々に白金色に変わっていき翼は赤く元の倍ほどに広がっていく。

 

「なんで、一週間も生死の世界を彷徨った後にこんなのが勝負挑んでくるんだよ・・・元の世界に帰りてぇ」

 

「ゆくぞ?稀人よ我は迦楼羅。幻想郷の守護者」

 

猛烈な勢いで滑空してくる天魔、迦楼羅と呼ばれた彼女の上を飛び越える形で避けるものの風圧でバランスを崩す。旋回し再び滑空してくる彼女を蹴り上げるが足を掴まれ宙に放り上げられる。なら

 

【炎神の覇気」

 

力を溜めるようにして自分を中心にドーム状に熱線を放つ。体内のナノマシンが血液を常温で発火させる物質に変化させそれを体外へと放出した。熱と衝撃波で殆どの敵は動きを止めるはずだが。

おおよそ物理法則を無視したかのように後ろへさがる迦楼羅。そして大きく息を吸い込むと

 

 

キィィィィィ!!

 

ほんの一瞬だが空間が歪むほどの咆哮で熱線が霧散していく。(そんなのありかよ・・・なにあの翼、天使?

 

「その程度か?これでは確かめるまでも無かったではないか。無駄な時間を使ってしまった、憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ」

 

後ろにいた従者から受け取ったのは槍の両側が斧のようになった巨大な武器を構える。あれは・・・方天戟(ほうてんげき)!?

軽く振るっただけで周囲の空気が揺れる程質量を感じる。

 

「いやなこった、こっちは大けがしてんだ少しは加減ってものを知れ」

 

この手だけは使いたくなかったがやむを得ない。俺は奥歯の薬品を噛み砕く。現状俺の持つ最強の手段、複数の能力を同時に行使する禁薬。身体中に力が巡りわたるような感覚に思わず口元が緩む。

 

「ほう?なかなかの殺気じゃな。どれ見せてみうぬの能力(ちから)を」

 

迦楼羅も先ほどとは比べ物にならない殺気を放ち身体をひねり投擲の姿勢をとる。パチパチと帯電しつつある俺は陸上競技のクラウチングスタートのような姿勢をとる。

 

 

破滅の大嵐(テンペスト)

 

地面を抉り走り出した俺は槍を投げるように拳を振るうと空気が渦を巻き帯電した槍のように見える。同じく空気を引き裂きながら放たれた迦楼羅の方天戟とぶつかり一帯は落雷にも似た巨大な光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




眠いっていた雅と同じく私も眠っていたようです。毎度のことながら誤字やご指摘、アドバイスなどをよろしくお願いします

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