幻想の郷の稀人兵士   作:蓬莱の翁

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第1話 「ようこそ幻想郷へ」

小鳥の囀りに目を覚ます。雅はゆっくりと辺りを見回す。先程までいた場所とは明らかに違う場所。取り敢えず雅は懐から煙草を取り出し火をつける。紫煙を燻らせながら今の状況を確認する。おそらくここは日本、あの少女の言うようにここが忘れ去られた物たちの地なのだろう。それにしてもあの少女は・・・と近くの樹木にもたれ掛かりながら考えていると森から気配が近ずいてくる。気配の方へ体を向ける。樹木をへし折りながら現れたのは巨大な熊だった。空へ咆哮を轟かせ獲物を見つけた飢えた巨獣はその巨体に似合わぬスピードで跳び巨大な腕を振り下ろす。

 

「オイオイ、こんなのがいるなんて聞いてねぇぞ?向こうの世界の熊より一回りくらいデカイぞ」

 

すんでのところでそれを躱しコートとスーツの腕を捲る。細い体の線からは想像もできないほどの筋肉が浮き上がる。彼は元いた世界では、一人の被験体だった。人並みの暮らしはしていたが来る日も来る日も薬物を注入されデータを取られる。その研究機関では体を自由自在に操れるナノマシンの研究を行っていた。壊れた細胞を瞬時に修復し、骨密度や骨の長さを自由自在に変え、体内の電気信号を変換増大し電撃を放つ。脳内の考えを相手の脳に直接伝える等まさに世界の軍事バランスを根底から覆すような研究だった。しかし彼以外の被験者は、ナノマシンの拒絶反応やコントロールの失敗により全員が悲惨な末路を辿っている。

 

たった一人の被験者を除いて。

 

「 さて、折角新しい土地に来たんだ。来て早々三途の川に逆戻りなんてのはごめんだね。悪いが手は抜けないぞ?」

 

【亡霊の鋭爪】

 

雅は左手にをかざす。すると手首の少し上の位置から鋭く研ぎ澄まされたような骨が二対皮膚を突き破り出現する。熊はその異様な光景を本能的に危険と察知したのか急いで踵を返すが

 

「相手が悪かったな」

 

瞬時に熊の頭上に跳躍し腕を振り下ろす。その日幻想郷全体に爆音が轟いた

 

 

 

「さてこれからどこへ行くか?どこにもアテは無いんだがな・・・」

 

乱れた襟を正し男・・・鬼灯雅は周囲を見渡す。鬱蒼と森が茂るだけで何かありそうな気配はない。取り敢えずさっき熊が来た道とは逆へ進む。動物が出て来たなら森は余計深くなるだろうと言う考えだ。暫く進むと感が当たったのか湖の畔に出た。昼間だと言うのに霧がかかっていて視界が悪いが湖の向こうに赤い建物のようなものが微かに見える。取り敢えずそこを目指してみるか。歩み出そうとしたその時俺の頭にでっかい氷の塊が飛来して来た。

避ける暇もなく氷は俺の頭にぶち当たる。砕けた氷が溶けて服を濡らす

 

「あわわ何してるのチルノちゃん⁉︎」

 

「此奴がボサッと突っ立ってるのが悪いだ。あたいは何も悪くない!」

 

頭上から女の子の声が二人分聞こえて来た。デカイたんこぶをさすりながら上を見ると青い服に青い髪の女の子のと緑の髪の女の子がいた。パンツ見えそう・・・顔色や声の位置から察するに青い方がチルノと言うらしい。しかし人に氷塊をぶつけておいてあの言い草、まさしく不良娘そのものだ。お灸を据えてやろう。

 

「人に氷塊をぶつけておいて全く、何モンだ?って待てよ・・・宙に浮いてる⁉︎」

 

「何驚いてんだ?あたいはチルノ。最強なんだぞ。」

 

「あわわ。私は大妖精と言います。チルノちゃんの代わりにごめんなさい」

 

「あぁ成る程。大妖精ちゃんは、律儀ないい娘だね。それに比べてこんの不良娘が」

 

「何だ?あたいに難癖つけるのか」

 

大妖精ちゃんは自分がしたわけでもないのにきちんと頭を下げて謝罪したが、チルノの方は未だに空中に踏ん反り返っている。もう堪忍袋の尾が切れたぞ。

 

【消火者の焔槍】

 

俺は、体内の血液をナノマシンによって増幅。更にその血を炎に変える。体力を消耗するが、死ぬ事はない。

 

「げげっ炎⁉︎ちょ、まっ・・・」

 

「おら!」

 

俺は、5m程度の長さに炎を調節して手の先から撃ち出す。飛ぶ鳥を落とすように逃げる氷の妖精に超高温の槍を撃ち出す。

氷の妖精なら掠っただけでも致命傷だろう。そもそも妖精って死ぬのか?

数分後、チルノは、身体からプスプスと煙を上げてグッタリしている。

 

「全く、さてとじゃあ大妖精ちゃんでいいかな?俺は行くよ。こいつを頼むよ?」

 

「え、えぇ?わかりました。ところであまり見慣れない方ですがどちらに?」

 

「俺は、鬼灯雅ついさっきここに来た人間だ。これからあの館に向かおうと思っている。」

 

俺は、簡素に自己紹介をする

 

「あの館にですか・・・」

 

あまりいい顔をされない。あの館に何かあるのだろうか?

 

「あの館には誰が住んでいるだ?あんまりいい答えを聞けるとは思えんが」

 

「あの館には吸血鬼が住んでいるんです。いたずらに近づかない方かいいかと・・・」

 

吸血鬼?あの人間の血を吸う?妖精どころか吸血鬼までいるとは、ここは本当にどこなんだ・・・と考えて見ても何も思い浮かばない。一先ず泊めてもらえるかどうかだけ聞こう

 

「そうか。忠告ありがとう、気をつけるよ。俺は、寝泊まりする場所を探しているんだ。もう日も落ちるだろうしこの山から人がいる場所まで降りるのは危険だろうから取り敢えず行ってみるよ。」

 

「そうですか・・・わかりました。お気を付けて、また何処かで会ったら声をかけて下さいね。」

 

俺は、非常にいい娘の大妖精ちゃんと別れ館へ向かう。真紅に染まる不気味な館へ。


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