日ノ本、某所。全世界で戦争が日常化し非暴力、軍権の破棄を謳っていた。国々も軍備を再建し、核を持ち違法に人体実験を行なう国まで現れ出した。兵士は体内にナノマシンを打ち込まれナノマシンの相互リンクによる意思疎通の簡略化、身体機能の制御などを施され1秒の無駄もなく最前線を死が訪れるまで戦い続けている。
木漏れ日の差す森の中を一人の男が歩く。男の名は
「ん?こんな所に社・・・?」
彼がふと顔を上げると、目の前に朽ちた鳥居と小さな社が姿を見せる。世界中が戦場に変わった中ここは人の手が全く入っていない。森の最深部に何故人工物が?と普通なら思うところだろう。しかし彼は社の階段に腰を下ろすと、フッと微笑み
「忘れ去られた俺が命の灯を消すにはいい所だ。逆に風情がありすぎるか?」
そう言い目を閉じる。こんな森の深部だ次に目を覚ますときは三途の川かどこかか。と最期の思考を巡らせ意識を落とそうとした時
「忘れ去られた物たちが辿り着く場所があるわよ」
耳元でそう囁かれる。目を開き声の主へゆっくりと向き直る。先程まで確かに誰もいなかった雅の隣に一人の少女が立っていた。紫を基調とした中華風のドレスを身に纏う金髪の少女だった。顔に幼さはあるものの高めの身長と何よりその身に纏う妖艶さが奇妙な空気に拍車をかけている。雅は流れる様な動作で立ち上がり目の前の少女の首に手刀を突きつける。あと数センチ踏み込めば少女のか細い喉を貫けるが雅は動かずにいた。否踏み込めずにいた。少女はどこからか取り出した傘を同じ様に雅の喉元に突きつけていた。暫くの沈黙の後に雅が口を開いた
「忘れ去られた物たちの地?・・・・・・面白そうだな。どうせ消えるはずの命だったんだ、案内は頼めるのかい?」
暫し悩んだ雅は警戒しつつも興味本位でそう尋ねる。少女は微笑みながら「ええいいわよ。それでは・・・」
一種の決め台詞のようなものを投げかける。
「 幻想郷へようこそ 」
雅の意識はそこで途切れた。
《これは、紅白の巫女もいなければ白黒の魔法使いもまだ生まれていない時代。そんな時代の招かれた未来に生きた兵士雅が稀人と崇められ、幻想郷平定の一翼を担う昔噺である。利用され棄てられた雅が見出すのは、未来への憤怒か?過去への希望か?》