IF一夏と束の話【凍結】   作:吊られた男の残骸

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俺は何故1日でここまでの分量を書けたのだろうか...
ただ、このままだとIS学園にたどり着くまで後何話必要になるやら...

とりあえず第二話、始まります。



【第二話】 一夏と束と専用機の話【上】

 中学2年と3年の境目たる春休みのある日。

 一夏は、少しだけ興奮しながら出かける支度をしていた。

 無論、性的興奮などではない。

 そんなもの、今この場においては不要だ。無粋とも言えるだろう。

 一夏が今興奮している理由。それは、束からの電話にあった。

 

 

 時は少し遡り、約10分前の事。

 俺が日課の筋トレを終えた直後、電話がかかってきた。

 送信者は、篠ノ之束。

 全てのISの生みの親にして、俺の姉である千冬姉の親友にして、俺の幼馴染である箒の姉の名前だ。

 俺が受話器を耳に当てた瞬間、耳に飛び込んできたのは――

 

『イエェェェ~〜〜〜イ!!』

 

 耳を貫くような大音声だった。

 俺は思わず受話器を遠ざけて耳を塞ぐ。

 しかし、そんなことは関係ないと言わんばかりに束さんは続けた。

 

『空前絶後のォォォ〜!!超絶怒涛のマッドサイエンティスト!!ISを愛し、ISに愛されt』

 

 そのあまりの煩さに、俺はたまらず電話を切った。

 これ以上は鼓膜が破れてしまう。そう確信したからだ。

 それからおよそ20秒ほど待っていると、再び電話がかかってきた。

 先程の教訓から、耳を受話器から若干遠ざけて電話に出ると、

 

『ひどいよいっくん!少しくらいノッてくれたっていいじゃん!』

 

 束さんが半泣きで怒っていた。

 しかし俺には、怒っている理由がイマイチ理解できていない。

 だから、正直に束さんに聞くことにした。

 

「何で怒ってるんだ?正直よくわからないんだけど...」

 

 それを聞くと、束さんの雰囲気が変化した。

 まるで、渾身のギャグが全く通用しなかった時のような落ち込み方をしている。俺も周りの友人曰く寒いらしいオヤジギャグを言ってはよくスベるから、それはなんとなく察してしまった。

 その雰囲気を察した俺は、少し不味い事をしたような気分に陥っていた。

 

「あー...ごめん束さん。俺が悪かった」

 

 俺がそう言うと、束さんは一瞬で上機嫌になった。

 そして、普段のテンションで俺に話しかけてくる。心なしか、涙声で。

 

『ふ、ふふーん!束さんは寛大だから、今ので許してあげちゃうよ!それでそれで、今回は重大なニュースだよ!』

 

 束さんは俺に何かを言う間すらも与えずに、そのまま続ける。

 一方の俺は、雰囲気に流されながらも内容はしっかりと聞いていた。

 束さんは、たっぷりと溜めを作ってこう言った。

 

『ななななんと!あの機体が完成したのだよ!』

 

 それを聞いて、俺は驚愕した。

 あの機体とは、かつて大破した白式のコアを用いて作られた俺の2代目の専用機。

 千冬姉の愛機と、愛刀の名を継ぐ唯一の機体。

 そうとあらば、何もせずにはいられない。

 

「すぐに初期化と最適化を済ませるぞ!俺はどこに行けばいい!?」

 

 簡潔に言えば、俺は非常に取り乱していた。

 下手をすれば近隣住民に聞こえかねないような大声で、俺は束さんに問う。

 束さんは、即座に返答した。

 

『篠ノ之神社の近くの森の中に開けた所があるでしょ?あそこに一人で来て。それと、落ち着いてよいっくん。今ISが使える事を知られるのは、正直得策じゃないよ?』

 

 それを聞いて、俺は正気を取り戻した。

 確かに、手元にISが存在していない状態でIS適性について知られるのは得策ではないし、ましてや未来から来た事を知られるとそれは面倒どころではない。間違いなくモルモットコースだし、歴史も変わってくる。

 そう考え、周りに配慮して小声で謝罪した。

 

「ごめん束さん、配慮が足りてなかった。それで、篠ノ之神社だな?」

 

 それを聞いた束さんは、小さくため息をついていた。

 もしかすれば近隣住民に会話の内容が聞こえたかもしれない。だが、それはあくまでごく一部。ISの事を言っていると連想するのは一般人では難しいと思われる。

 だけど、決して油断はできない。

 内心で自分に釘を指しながら、俺は束さんの返事を待った。

 

『うん。変にコソコソせずに堂々とね』

 

 それをしっかりと聞いていた俺は、堂々と、しかし声は潜めて返事を返した。

 

「了解。なるべく急ぐ」

 

 そう言って、俺は電話を切った。

 

 

 

 

 そうこうしているうちに支度は終わり、束さんの待つ篠ノ之神社へ出発した。

 無論、戸締まりと千冬姉への連絡は忘れない。

 場合によっては夜まで戻れない可能性があり、なおかつ千冬姉が時々帰ってくるための処置だ。

 今年からIS学園の教師を始めた千冬姉の生活サイクルは不定期であり、家に帰ってくるタイミングすらわからない。なので、これは非常に重要なことだ。

 今は春休み。電話に出る位の時間はあるはずだと考えた俺は、千冬姉に電話をかけた。

 電話は、すぐに繋がった。

 

「もしもし、千冬姉?」

 

 俺は、千冬姉が話す前に通例とも言える挨拶を行う。

 それに対して、千冬姉は若干疲れたような声色で返事を返してきた。

 

『一夏、要件は何だ?時間が押しているから、手早く済ませてくれるとありがたいのだが』

 

 それを聞いて、俺は考えた。

 恐らく、千冬姉は慣れない仕事に疲れているのだろう。

 それをできるだけ悟らせまいと、あえて少しだけ突き放すような振る舞いをしているように聞こえる。

 なので、俺は速やかに要件を伝えた。

 

「今から束さんと会ってくる。もしかしたら夜まで戻れないかもしれないから、7時を過ぎたら定期的にメールを入れる。定時連絡が途切れたら何かあったと思ってくれ。悪いけど、飯は買ってくるか外食で頼む」

 

 俺がそういった瞬間、

 

『束だと!』

 

 先程の束さんに負けず劣らずの大音声で、千冬姉が叫んだ。

 気持ちは分からなくもない。数年前に消息不明になった友人が、突然姿を表したのだから。

 

『私も今すぐに行くから、少し時間を稼げ!場所はどこだ!』

 

 そこまで言って、千冬姉は我に返った。

 周りから聞こえてくる音からして、千冬姉の周りには、それなりの人数が居ると思われる。

 これは後に聞いたことだが、通話していた場所は職員室だったらしい。

 なので当然、千冬姉の怒号を聞いて驚いた人もいる。

 

「きゅぅ...」

 

 現に、山田先生は千冬姉の怒号に驚き、壁に頭をぶつけて倒れているのだが、当時も俺にはそれを知る由もなかった。

 

「篠ノ之神社の近くの森の中で待ち合わせだけど、その後はどこに行くかは聞いてない。一応伝えてはおくけど、待っててくれるかはわからないぞ?」

 

 こうなると千冬姉は止まらないので、俺は千冬姉に束さんとの待ち合わせ場所を伝えることにした。

 千冬姉は、低い声で言った。

 

『いざという時はお前の携帯のGPSを使って追跡するから問題ない。時間が惜しいからもう切るぞ』

 

 そういえばそのために携帯を持たされてたのだと気づき、俺は少し後悔した。

 しかし、秘密を隠し通すのにも限界はある。

 ならばせめて、今のうちに秘密を共有して強力な後ろ盾を得ておこうと考えた。

 なので俺は、

 

「わかった。気をつけろよ?千冬姉」

 

 あえて千冬姉を呼ぶ方向で返事をして、電話を切った。

 その後、IS学園では千冬姉が他の教師に仕事を丸投げして走っていく姿が見えたというが、それはまた別の話である。

 

 

 

 

「おかしいな...ここだったよな?」

 

 特に障害もなく待ち合わせ場所に到着した一夏は、待っているはずの束を探していた。

 束は初めからここにいるかのような口ぶりだったのに、いざ着いてみれば誰もいない。

 少なくとも、()()()()()()()()()()()

 なので一夏は、束を探すために森の奥に進んだ。

 すると、

 

「だーれだ?」

 

 後ろから目隠しされ、こう言われた。

 だが一夏は、言われた時点で声の主の正体におおよその検討がついていた。

 それは道理だ。このような独特な高い声と、背中に当たる二つの豊満な膨らみ、そしてさっきから後頭部に刺さってる二つの機械的なナニカの持ち主はそうはいない。

 一夏は、迷わずに答えた。

 

「束さんですよね?」

 

 俺がそう言うと、後ろにいた人物は目から手を離して一夏の前に回ってくる。

 その人物は、一夏の正面に回るとこう言った。

 

「はろはろ〜☆いっくん!ひさしぶりだねぇ!」

 

 やはり、一夏の予想は正しかった。

 その人物の正体は篠ノ之束。わざわざこんな場所に一夏を呼び出した張本人である。

 それは予想通りだったため、一夏は特に動じずに聞いた。

 

「千冬姉も来るって言ってたんだけど...どうすればいいと思う?」

 

 その発言を、束は聞き逃さなかった。

 千冬が来る。

 それはつまり、旧知の親友との再開を意味すると同時に、一夏がIS適性を持っていることを知られる危険性がある重大な案件だ。

 難しい顔で黙り込んだ束に構わず、一夏は話し続ける。

 

「俺は、今のうちに千冬姉にISに乗れる事だけは教えた方がいいと思う。事前に男性IS操縦者がいることが分かれば来年の部屋割の調整とかもやりやすくなるだろうし」

 

 それを聞いて束は長考し、そして一夏を見る。

 恐らくだが、結論が出たのだろう。

 時間にして数分にも及ぶほどの長考は、束にとって非常に珍しい。

 何故なら、束の頭脳は並の人間を遥かに凌駕するオーバースペックなのだから。

 束は、出した結論を一夏に告げた。

 

「わかった。じゃあちーちゃんが来るまで待つって事で!」

 

 それを聞いて、一夏は少しだけ安堵した。

 わざわざ束相手に時間稼ぎをする必要性が無くなったからだ。

 早速一夏は千冬に電話しようとして、その動作を止めた。

 何故なら――

 

「久しぶりだな。束」

 

 既に千冬がそこにいたからだ。

 生身の癖にどんだけ早いんだとか仕事はどうしたとか色々とツッコミどころはあるものの、一夏はそれをスルーした。

 一方、束はというと――

 

「束、人の弟を呼びつけて何を企んでいる?」

「いだだだだ!離して!離してちーちゃん!頭が砕け散る!ザクロになっちゃうよ!」

 

 千冬からの制裁(アイアンクロー)を受けていた。

 ――無理もないだろう。

 束はかつて世界各国の軍事ネットワークに同時ハッキングを敢行し、日本に2341発ものミサイルを日本に向けて発射。日本を滅ぼしかけた前科がある。

 それを考えれば、たとえ親友の弟であっても何をされるかは想像もつかない。

 故に、(自覚こそないが)ブラコンの千冬がキレるのも当然の事なのである。

 

「いっくんに進級祝いをあげたかったんだよう!受験前の大事な時期だからこそ盛大にお祝いして英気を養ってもらおうと思ったんだよう!だからその手を離してちーちゃん!」

「ほう?お前がそんな事を考えるとは思えんが...なっ!」

「痛い痛い痛い!ホントに洒落になってないよちーちゃん!頭が凹んでる!凹んでるからやめて!いっくん助けて!」

 

 千冬の制裁(アイアンクロー)はより威力を増し、束の頭を砕きつつあった。

 流石に見かねた一夏は、止めに入る。

 

「その辺にしてやれよ千冬姉。元々は俺が久しぶりに会いたかったから呼んだんだ」

 

 それを聞いて、千冬は我に返った。

 千冬が指の力を緩めると、束は重力に逆らわずに地面に落下した。

 頭部には、強烈な指の跡が残っている。

 しかし、制裁(アイアンクロー)から解放された束は痛々しい指の跡を擦りながらも話を始めた。

 

「いたた...さてさて、今日はいっくんにプレゼントがあります。では早速っ!オープンセサミ!」

 

 束が叫ぶと、突如として巨大な箱が姿を表し、段々と開いていった。

 その巨大な箱の中に入っていたのは、ISだった。

 

「馬鹿なッ!ISだと!?」

 

 千冬が驚くのも無理はない。

 突如出現した巨大な箱の中身がISで、しかも()の進級祝いと言うのだから。

 

「...雪暮」

 

 一夏がぼそりと呟く。

 そう。この機体こそが一夏が要求していた()()()()であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだから。

 

――To be continued.

 

 

 

 




千冬の身体能力が人外だった件について。
ホントに機体スペックどーしよ...

次回の投稿は機体の設定をある程度練るのとリアルの事情もあるので数日後になるかもです。

2017/12/11 改訂完了しました。

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