IF一夏と束の話【凍結】   作:吊られた男の残骸

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飽きるまでは投稿していこうかと。
リリなの?GE?聞こえんなぁ?

嘘です展開思いつかないんですごめんなさい





原作開始前
【第一話】 IF一夏と束の話


 既に廃墟となった学園。

 ここはかつて、世界の注目が集まる場所だった。

 小さな島をまるごと敷地として作られたこの学園には、世界の最先端の技術が集まって競い合っていた。

 

 しかし、それはもう過去の話だ。

 かつての栄光は見る影もなく、かつての活気はとうに失われている。

 しかしそこには、人影があった。

 存在してはいけない人間が、そこに居た。

 

「束さん、行けるか?」

 

 彼は、近くに居る仲間に話しかけるように言った。

 彼の周囲に人影は無い。

 しかし、返事は即座に返ってきた。

 

「うん、いつでも行けるよ。いっくん」

 

 周囲に人影が無いというのに返事が返ってくる事など気にせず、彼は言った。

 

「そうか...これでようやく、報われるのか...」

 

 内容は独り言のようだった。

 しかしその言葉には、強く感情が篭っていた。

 返事はない。だが彼は続けた。

 

「これが成功すればきっと、俺も束さんも、皆も幸せになれるはずだ」

 

 若干の間を空けた後、返事が返ってくる。

 その声には、重みがあった。

 例えば、思い出したくもない記憶を無理矢理引っ張り出された直後のような。

 或いは、決して後戻りの出来ない究極の選択を強いられているかのような。

 ともかく、そのような声色だった。

 

「...うん。きっとそうなるよ、いっくん」

 

 束の返事を聞いて、彼は少しだけ脱力した。

 気を抜いているわけではない。

 どちらかと言えば、肩の荷が降りたと言うのが正しいのだろう。

 彼は少しだけ柔らかくなった声色で、姿なき声に話しかける。

 

「じゃあ、そろそろ行こう。鉄は熱いうちに打てとも言うしな」

 

 束と呼ばれた姿なき声は、その言葉に反応した。

 姿がないため表情こそ伺えないが、もしそこに束が居るのであれば、きっと覚悟を決めたような顔をしている事だろう。

 しかし、あえてその空気を振り払うかのように束は言った。

 

「そうだね。じゃあ行こう、遥かな過去へ!」

 

 その瞬間、辺りが光に包まれた。

 彼は口元を引き結んで仁王立ちしている。その姿は、まさしく仁王のようだった。

 光が強くなると同時に、それに呼応するように彼の身体が薄くなっていく。

 彼にはその光景は見えていない。だが、自分の身体が消えていく感覚は十分に感じていた。

 辺りの光が一際強まり、数瞬の間の後にそれが収まる。

 その時、彼はこの世界から消失した。

 

 

 

 

 結論から言えば、実験は半分成功した。

 それは揺るぎない事実だ。

 しかしそこには、致命的なまでの見落としが存在していた。

 過去には跳べたし、状況もある程度理解できている。そこは問題ない。

 自分の名前もわかる。記憶を失っているということもない。

 しかし、しかしだ。

 

「まさか過去の俺に憑依するとは...」

 

 それは、まさしく予想外だった。

 俺と束の本来の計画は、肉体ごと過去に送り込んで未来を変えるという物である。

 しかし、それを行うために必要だった肉体は消失していた。

 精神と記憶だけが引き継がれ、過去の自分の身体に憑依する形での時間跳躍となってしまった。

 そうなってくると――

 

「束さんは大丈夫なのか?」

 

 それが気がかりだ。

 束さんはおそらく()()()()()束さんに憑依しているだろう。

 しかし、万が一束さんが消失していたら。

 そうなれば、きっと未来を変える計画は頓挫してしまうだろう。

 だから、まずは束さんを探す。

 そのために、俺は最愛の姉に連絡を取ることを決意した。

 

 

 

 

 所変わって、ここは束の研究室。

 束はかつての自身の体に憑依し、研究室にある機械の類を片っ端からアップグレードしていた。

 彼のバックアップを行うためには、最先端のシステムがなければならない。

 かつて作った二機目の専用機を再現する必要があるのだから、当然それが作れて、メンテナンスも可能な設備を作らなければならない。

 それは、この時代の束には不可能な芸当。

 しかし、今の束にとっては簡単なことだった。

 

「ふんふんふふーん♪ふんふふーん♪」

 

 束は、いかにも即興感漂う鼻歌を歌いながら作業を続けていた。

 そこに、突如として軽快な音楽が響く。

 束は、すぐさまその音楽の元である携帯に駆け寄り、通話を始めた。

 

「もすもすひねもすー!みんなのアイドル、たっばねさんだよー♪」

 

 無論、かつての自分の演技も忘れない。

 数百年の時を経て束も流石に落ち着いたのだが、今はかつての自分の殻を被るべきだと判断した。

 何せ相手は、最愛の親友なのだから。

 

「前置きはいい。あまり時間をかけても通話料が馬鹿にならんから要件だけ言うが、一夏がお前と話したいと言っている。連絡先を教えてもいいか」

 

 電話の主は、凛とした声でそう言った。

 その言葉が想定していたものと同じだったことに、束は内心でVサインをする。

 当然、返事は決まっていた。

 

「あー、こっちからかけるからだいじょうブイ!いっくんの連絡先だけ教えてちょんまげ?」

 

 束の返事に、電話の主は疲れたようにため息を吐いた。

 そして、一夏――先程まで彼と呼ばれていた人物――の連絡先を告げた後に電話を切る。

 手元の電話を見て、束は感傷に浸っていた。

 

「そっか...まだ、ちーちゃんは生きてるんだよね...」

 

 決意表明をするように、束は言う。

 

「絶対、死なせないからね。ちーちゃん...」

 

 

 

 

 千冬姉と連絡を取った後。

 俺は、いつも(かつて)のように家事をしていた。

 幸い今日は夏休みの中盤であり、時間はほぼ無限にあるので気長にできる。

 宿題も先程見た所全て終わっていたので、これからは夏休みをある程度自由に満喫できるのだ。

 そう考えながら掃除を終わらせると、ちょうどそのタイミングで電話がかかってきた。

 俺は受話器を取り、通話を始めた。

 

『はろはろー♪久しぶりだねいっくん!』

 

 受話器からは、束さんの声が聞こえてくる。

 それを聞いた俺は、奇しくも千冬姉のような口調で束さんに訪ねた。

 

「前置きはいい。単刀直入に聞くけど、そっちはどうなんだ?戻れたのか?」

 

 それを聞いて、束さんは一瞬無言になる。

 そして、再び口を開いて言った。

 

『うんうん。ちーちゃんにそっくりだね!前置きはいいって所とか特に!...質問に答えるとだね、私は君と一緒に数百年もの間旅をした束さんだよ。これ、ちーちゃんには言ってないからそのつもりで』

 

 その言葉を聞いて、俺は安心した。

 それを目ざとく察した束さんは、ドッキリが成功したいたずらっ子のような口調で言う。

 

『もしかして束さんが消えちゃったと思った?ノンノン、束さんが消えることは理論上ありえないのだよ!』

 

 恐らくそれは、俺を安心させるためだろう。

 実際、それを聞いた俺はほんの少し安心していた。

 

「束さん」

 

 俺は簡潔に束さんを呼ぶ。

 それに対して、束さんは―――

 

『なあに、いっくん?もしかして愛の告白?や~んたばねさんこまっちゃう〜♡でもでも、いっくんがどうしてもって言うなら受けてもいいよ?今は身体もあるし、ね?』

 

 千冬姉なら速攻でアイアンクローをかける程に、非常にうざったく返してきた。

 しかし、一夏はそれを軽く聞き流す。

 伊達に数百年もの間、束さんと行動を共にしていたわけではない。

 

「あの機体を作ってほしい。白式に代わる、俺の剣を」

 

 今頃、束さんはにやりと笑みを浮かべているだろう。

 それが電話越しに想像できる程度には、俺達の付き合いは長い。

 

『もっちのろん!そのための設備を今まさに作ってるよ!最新版とはいかないけど、あの時のアレと同じだけのスペックは出してみせるから安心してね!』

 

 その言葉に、俺はかつての千冬姉を幻視した。

 無論のこと、千冬姉の面影は全く、何一つとしてない。むしろ箒の方が千冬姉に近いはずだ。

 だが、それでも。

 

(千冬姉みたいだ)

 

 俺はそう感じた。

 束さんがめったに見せない、姉としての顔。

 それが、今俺が千冬姉を幻視した理由だ。

 

 千冬姉と束さんの間に、共通項は少ない。

 だが、そんな二人にも共通点はある。

 一つは性別。一つはそのオーバースペックな肉体。そして最後の一つは、姉である事だった。

 

『どしたのいっくん?お腹痛い?ぽんぽんなでなでしてあげようか?』

 

 しばらく黙っていた俺に、束さんが声をかけてきた。

 声色からして、心配しているのがわかる。

 束さんの声を聞いて我に返った俺は、内心を悟られまいとするように言った。

 

「いや、大丈夫。ちょっとふらっと来ただけだよ。貧血かな?」

 

 本音を言えばからかわれるのは目に見えているから、俺は適当な嘘を吐いた。

 しかし、束さんはそれを本当の事だと勘違いしたのか、

 

『ふーむ...いっくんの体調も悪そうだし今回はそろそろ切るよ。じゃーねーいっくん!また今度!』

 

 そう言い残すと、電話を切ってしまった。

 俺は少しだけ罪悪感を覚えたものの、今更だと考えて罪悪感を明後日の方向に放り投げ、ソファに寝転がる。

 俺は、人知れず強く決意していた。

 

「今度こそ、皆を救うんだ」

 

 この時代では、未だその大半が会ったことのない人間だが、俺は確かに覚えている。

 倒れ伏す皆の冷たくなった身体と、高笑いする黒い全身装甲(フルスキン)のISを。

 あの地獄の中でただ一人、俺だけが生き残ったことを。

 そう。俺だけが()()()()()()()()()

 

「だから、俺は変えなければいけない。あのクソッタレな過去(未来)を、変えてみせる」

 

 それが、織斑一夏という男にできる唯一の贖罪なのだから。

 

 

 




文章の練習のために書いたはいいが、そもそもIS出てくるまで続くのかね?

追記:指摘があったので該当部分をぼかす形に修正しました。

2017/12/10
最新話の形式に合わせて文章を改訂しました。以後、新しい形式で改訂された話には【】が付きます。

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