IF一夏と束の話【凍結】 作:吊られた男の残骸
でろーんの配信聞きながら書きました。Vtuberはいいぞ(ダイマ)
では、本編をどうぞ。
「ねえちーちゃん、この世界は楽しい?」
茜色に染まった教室で、束は問う。
それは初めて話した時にも問われたこと。そして、これから一生問われ続けること。
その問いかけに、私は決まってこう答えるのだ。
「そこそこにな」
それを聞いた束は、曖昧に笑う。
束にとって、私の答えが望ましいものではなかったからだろう。
だから束は、何度でも同じ問いを投げかける。
「そっか」
そう呟くのも、不満の証なのだろう。
私も束も超人であるが故に、並大抵の人間とは隔絶した何かを有している。私の場合は肉体で、束の場合は頭脳がそれだ。
だが、人間とは異物を嫌う生き物。
中世の時代に起きた魔女狩りのように、現代社会でも異端者は排斥されるのが常だ。
故に私たちは世界に馴染めない。異端者として排斥されるか、それを隠して生きるしかない。
束はきっと、それが不満なのだ。
自分とその親友である私が、自由に生きられないこの世界が。
「...ねえ、ちーちゃん」
そして束は、再び私に問いかける。
「二人でさ、世界を変えてみない?」
束はその愛らしい顔に微笑みを浮かべて、私を見据えてそう言った。
いつもの束なら、こんな問いかけはしない。"この世界はつまらない"とでも呟いて、そこから他愛のない話が始まるだけだ。
しかし、今回はそうではなかった。
身にまとう雰囲気が、いつもの束とは明らかに異なっているのだ。別人ほどではないが、心境の変化でもあったかのように。
そう思って、私は逆に問いかける。
「お前は、どんな世界を望んでいるんだ?」
世界を変えることに興味はないが、束の望む世界にはほんの少しだけ興味がわいた。
それに、束が能動的に動こうとするのは珍しい。仮にこれが中身のない与太話だったとしても、付き合ってみるのも一興だとも思ったのだ。
若干の思案の後、
「私たちが、私たちらしく生きられる世界」
束はそう答えた。
「誰も私たちを否定しない。誰も個性を否定しない。誰もが認められる、素晴らしい世界。――それはきっと、すごく楽しいよ」
...理想論。それが初めに浮かんだ感想だった。
確かにその理想は素晴らしい。しかし、永遠に実現することはない。
人は争いをやめられない。人は排斥をやめられない。それは太古の昔から連綿と紡がれるDNAが証明している。
けれど。
「...いいな、それは」
それが実現したら、どんなにいいだろうか。
「でしょでしょ!じゃあ協力してくれるよね?」
私の呟きを聞かれたらしく、束は満面の笑みを浮かべて詰め寄ってくる。
...その笑顔に、押し負けた。
「――ああ、付き合ってやるさ。地獄の果てまでな」
恐らく、束なら本当に世界を変えてしまうだろう。それも、跡形もなく粉々に。
だが、それも全て受け入れる。
その覚悟は、あの笑顔を見たときに決めていた。
若かりし頃の千冬と束の話。
一周目と二周目の明確な分岐点。この話がどちらの過去なのかは、あえて伏せておきます。
...感想、受け付け中ですよー(露骨)