IF一夏と束の話【凍結】   作:吊られた男の残骸

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参考資料(ラノベ)を漁ってたら遅刻しました。
これを投稿し次第FGOのシナリオを進めるので、年内の更新は無いと思ってほしいです。
まだ終局どころかバビロニアにすら到達してないけど、年内に何とか2部を読みたい...!

では、本編をどうぞ。




【番外編】 黒兎に穏やかな日常を

「おーい、起きろー。飯できてるぞー」

 

 その声で、私は目を覚ます。

 声の主を寝ぼけ眼で見つめながら手を伸ばすと、彼は私を優しく引き起こしてくれた。

 そこでようやく、私は朝の挨拶をする。

 

「...おはよう、一夏」

 

 そう言うと、一夏はからりと笑って返事をしてくれた。

 

「ああ。おはよう、ラウラ」

 

 

 

 

 リビングに着くと、そこには良い香りのする作りたての食事があった。

 今日は和食らしく、炊きたてと思われるご飯が湯気を立てている。

 それを見た私は、後ろに立っている一夏を見上げて言った。

 

「流石は私の嫁だな。今日も美味そうだ」

「夫と言え夫と。見た目は若い時のまんまだけど、これでも三十路なんだぞ?」

 

 料理の腕を褒めているというのに、一夏は呆れていた。

 その理由は予想がつく。

 大方、私が未だに一夏のことを嫁と呼んでいるからといったところだろう。

 流石に昔のように素で言っているわけではないが、時折嫁と呼ぶといい反応を返してくれる。

 それが面白くて、ついついやってしまうのだ。

 くすりと笑いながら食卓につくと、一夏は向かいにある椅子に座り、そして手を合わせる。

 私もそれに習って手を合わせ、習慣となっている挨拶を口にした。

 

「「いただきます」」

 

 手元に置かれた箸を取り、そしてご飯を一口食べる。

 やはり美味いなと思いながらも、わざわざそれを口には出さない。

 食前に美味しそうと言い、食後に美味かったと言う。今の私達は、それだけで十分だった。

 

『...次のニュースです。今日未明、東京都千代田区で男性の遺体が発見されました。遺体は高村出雲さん(46)のものと見られており...』

 

 点けっ放しにしているテレビから、物騒なニュースが流れてくる。

 それを見た一夏は、呆れたように言った。

 

「最近、随分物騒だな。場所と被害者の身分からして女性権利団体の残党あたりがやったんだと思うんだが...」

 

 一夏はニュースで流れてくる情報から犯人を推測していくが、その途中で私を見た。

 そして、そのまま話を中断する。

 

「...悪い。飯の最中にする話じゃなかった」

「気にするな。それより、早く食べないと冷めるぞ」

 

 どうやら私に気を遣ったようだが、私としては別に話を続けていても構わなかった。

 これでも元は軍人で、人の死とその話題には慣れている。

 今更そんなことを気にするような性分ではないのだ。

 ただ、せっかくの温かくて美味しい食事を冷ますのはいただけないので、私は一夏に食事の続きを促した。

 私の言葉を遠回しに責めていると取ったらしい一夏は、

 

「...そうだな」

 

 と、バツが悪そうな表情で言うのであった。

 

 

 

 

 一通りの家事と昼食を終えた私達は、何をするでもなく外を眺めていた。

 今日はなんとなく、そうしたい気分だったのだ。

 窓の外をぼんやりと眺めていると、

 

「そういえば、今日はクリスマスだな」

 

 窓から空を眺めている一夏が、そう呟いた。

 その声には、過去を懐かしむような雰囲気がある。

 その雰囲気に釣られて、私も思わず過去のことを思い返した。

 

 思い返すのは、IS学園に通っていた頃のクリスマスパーティー。

 1年生の専用機持ちに生徒会メンバーを加えた、豪華なパーティーを開いた覚えがある。

 食材を用意したのはセシリア。料理は一夏や鈴にシャルロット。飲み物とデザートは生徒会メンバーと簪が自分の得意な物を持ち寄り、一夏の家で夜を明かしたのだ。

 翌日の朝に目を覚ますと、教官がソファに座ってコーヒーを飲んでいたのをよく覚えている。

 

「...ああ、そうだな」

 

 感傷に浸っていた私はやや間を空けて返事を返したが、過去を懐かしんでいるのは一夏も同じらしい。

 優しい顔で頷くと、それっきり無言になってしまった。

 しばらく外の景色を眺めていると、一夏が声をかけてきた。

 

「...なあ、ラウラ」

 

 一夏の呼びかけに、私は顔をそちらに向けることで応える。

 すると、一夏は私にこう言ってきた。

 

「イルミネーション、見に行かないか?」

 

 それは、唐突な話だった。

 特に外出用の服も着ていないし、化粧をしているわけでもない。

 私も既にいい歳だ。クラリッサは若々しく見えると言うが、それでも化粧は必要だ。さらに、とある事情で着替えに難儀するという問題もある。

 だが、断ろうとは思わなかった。

 

「...時間がかかる。玄関で待っていろ」

 

 そう言って、返事を待たずに私はリビングを立ち去った。

 もはや会話をしている時間も惜しい。

 一刻も早く支度を済ませなければ、一夏を待たせてしまうからだ。

 それに、イルミネーションが見られる場所はそれなりに遠いと以前聞いていた。

 急いで最低限の化粧を施し、服を着替えて外に出ると、約束通り一夏が玄関で待っていた。

 

「早かったな。じゃあ、行くか」

 

 一夏はそう言うと、慣れた仕草で私の後ろに回って歩き始めた。

 

 

 

 

「お、見えたぞ。イルミネーションだ」

 

 会場に着いた私達は、イルミネーションを見られる位置を探す。

 だが一夏はともかく、周りの男女が壁になって私には見えていない。

 どうやってイルミネーションを見ようかと考えていると、一夏が私を持ち上げて肩に乗せた。

 

「お、下ろせ!」

「下ろしてもいいけど、こうでもしないと見えないだろ?」

 

 周りのカップルが微笑ましい物を見るような目で私を見ているのを感じて、私は真っ赤になる。

 しかし、こうでもしないと見えないのは事実なので、私は大人しく肩車されることにした。

 

「...まあ、な」

 

 恥ずかしさで不機嫌気味の私は、ぶっきらぼうな口調でそう言う。

 くつくつと笑う一夏は、肩車されている私を見て言った。

 

「だろ?」

 

 その表情は、まるでいたずらが成功した子供のような無邪気な笑顔だった。

 イルミネーションにも満足した頃、私はしっかり掴んでいたフードを引っ張る。

 すると、一夏は私を地面に下ろしながら言った。

 

「よし。晩飯でも食うか」

 

 それを聞いた瞬間、私の腹がぐぅと鳴る。

 咄嗟に左手首の時計を確認すると、午後6時45分を示していた。

 今から家に帰るまでは、とても保ちそうにない。

 

「そうだな」

 

 自分の腹や時間との兼ね合いを考えて、私は一夏の提案を承諾した。

 私の返事を聞いた一夏は、にかっと笑いながら言う。

 

「じゃあ、行こうぜ。美味い店があるんだ」

 

 煌めくイルミネーションに背を向けて、私達は食事をするために会場を出た。

 

 

 

 

「...寝ちまったな」

 

 俺はそうひとりごちて、()()()で幸せそうに眠っているラウラを見る。

 そう。ラウラは自分の意思で歩くことができない身体になっていた。

 原因は遺伝子操作によって組み込まれた反逆防止措置『活命制限(ライフ・リミット)』による寿命の低下である...と、クラリッサさんから説明を受けている。

 

 これは20世紀末にアメリカで研究されていた『人工天才(ジニオン)』計画の副産物の一つ。

 胎児の段階から行われる遺伝子操作によって、特定の化合物を摂取しなければ生命維持に異常をきたすように人体を調整するという狂ったシステムだ。

 クラリッサさんはその化合物の代用品が見つかったらしいのだが、ラウラは軍を退役してから一度もその化合物を口にしていない。

 本来なら5年もすれば死んでいるはずなのだが、ラウラは化合物の摂取を止めてから7年経っても生きている。

 

『生きていること自体が奇跡なのだから、どうか隊長に無理はさせないでくれ。これは、我々旧黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)の総意だ』

 

 クラリッサさんは、こう言っていた。

 

「けど、さ」

 

 ひとつ呟いて、俺はラウラの言葉を思い出す。

 

『やりたいことはたくさんある』

『旅行に行きたい。海に行きたい。その結果死んだとしても、悔いはない』

 

 ラウラはそう言っていた。

 なら、俺もその意思を尊重したい。

 

「最後くらいは、楽しく生きたいよな」

 

 車椅子を止めて、ラウラの頭を撫でる。

 柔らかい髪の感触が、俺の手に心地よさを感じさせた。

 

 

 

 





...仕込みは終わった。
あとはただぶん投げるのみ。



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