IF一夏と束の話【凍結】   作:吊られた男の残骸

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もはや前書きが面倒くさい。最近そう思うようになりました。
今回から原作2巻編。あの子たちが登場します。

では、本編をどうぞ。




原作2巻編
【第二十一話】 一夏と転入生と驚愕の話


 6月初頭の月曜日。

 天気は快晴。気温は高め。IS学園では夏服が解禁され、女子生徒たちは一斉に衣替えを行っていた。

 それぞれが思い思いの改造を行った制服を纏い、女子たちは今日も登校する。

 その中に混ざる、一人の男子を意識しながら。

 

 

 

 

「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」

「ハヅキのは性能微妙じゃん。時代はミューレイだよミューレイ。特にスムーズモデル」

「わかってないなー。どうせならかわいいのを着たいじゃん?」

「ガールズガーデン社も侮れないよ?安いのに性能も十分で、しかもカワイイし!」

 

 教室に入ると、手にISスーツのカタログを持った女子たちが談笑していた。既にISスーツを持っているセシリアに意見を聞いたり、仲の良いグループで固まって話したりしている。

 俺は特注品を持っているので注文はしないが、やはり女子たちは服に関する話題になると熱が入るらしい。

 

「ねーねー、織斑くんはどういうのがいいと思う?」

「オルコットさんの意見は参考になったし、織斑くんの意見も聞いておきたくってさ。オススメとかある?」

 

 談笑する女子たちを傍観していると、そのグループの一つからISスーツに関して意見を求められた。

 特注品を使っている俺に期待されても困るが、ISスーツは装着者の生命に直結するものだ。既に持っている人に意見を求めたくなるのは当然だろう。

 とはいえ、俺はろくなことを答えられない。ISスーツは何度か変えたが、白式が破壊されてからは束さんお手製の特殊なISスーツだったためだ。

 なので俺は、それを伝えることにした。

 

「うーん...すまん。ISスーツの事はあまり詳しくないんだ。俺のISスーツは根本からして違うみたいで...」

「あー、確かに他とは全然違うよね。ならわからなくても無理ないか」

 

 どうやらそのグループの皆は納得してくれたらしく、俺のISスーツと従来のISスーツの違いについての話をしていた。

 俺のISスーツは、他に比べて異質だ。全身を覆う形状になっていたり、素材からして従来とは大きく異なっていたりと相違点は多い。

 これには雪暮の設計思想が関係しているのだが、それを話してしまうとお縄にかかりかねないので自重する。

いくら元世界最強で精神年齢数百歳のジジイでも、文字通り世界そのものを相手に戦えるほど理不尽ではないのだから。

 

「おはようございます。なんの話をしてたんですか?」

「あっ、やまぴー!オススメのISスーツとかってあるー?」

 

 山田先生が教室に入ってくると、即座に生徒の一人がISスーツについて質問する。愛称で呼んでいるのは親愛からか、あるいは同年代にしか見えない故の対応か。

 いずれにせよ、今の俺には愛称呼びなんかできないだろう。一周目で知り合った直後ならやりかねないが。

 

「そうですね...。私の主観ですが、総合性能ならミューレイ。伝達速度ならデュノア。耐久性ならイングリッドの3社が強い印象ですね。ちなみに、私はデュノア社のクリアオーダーモデルを使ってます」

「ほほー...さっすがまやまや、勉強になるぅ!」

 

 あくまでも自分の主観であると前置きしつつ、山田先生は生徒の質問に答えていく。愛称呼びを気にした様子もなく、だ。

 その様子が一瞬引っかかったが、まあ何か影響があるわけでもないだろう。

 

「諸君、おはよう」

「「「おはようございます!」」」

 

 しかしその空気は、千冬姉が教室に入ってきたことで一変した。

ざわめいていた生徒たちはその場で姿勢を正し、千冬姉の方を向いて一斉に挨拶を返す。憧れの力というやつだろうか、その一体感は完璧だった。

 

「先週末にも連絡したが、今日から本格的な実践訓練を開始する」

 

 千冬姉がそう告げた瞬間、生徒たちの雰囲気が変化した。表面上は取り繕っているものの、殆どの生徒が若干浮き足立ったような雰囲気を纏っている。その一方で、俺とセシリアは逆に気を引き締めていた。

 なにせこの時期は、ISに不慣れな生徒たちがいきなりISを動かす故に事故が起きやすい。派手な挙動をするわけではないが、生身の人間に向かって転べば当然生身の人間を潰してしまう。

 おそらく、セシリアもそれを見てきたのだろう。その表情は、いつもより2割増で真剣だった。

 

「スポーツ用とはいえ、ISは危険な代物だ。原則、我々教員や専用機持ちの指示を守って行動しろ。それと、各自のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないこと。もしも忘れた場合は、下着で授業を受けてもらう」

 

 生徒たちは、千冬姉の注意を真面目に聞いていた。千冬姉が改めて声に出したことによって、ISの危険性を再認識したのだろう。

 そして注意事項も後半に入ると、生徒たちが下着という言葉に反応した。さりげなく胸を隠したり、なにやらぶつぶつと呟いたりと忙しない。一応、いつ何が来てもいいように警戒はしておこう。

 

「話は以上だ。では山田先生、ホームルームを」

「はい。織斑先生」

 

 そう言って、織斑先生とすれ違うようにして山田先生は教壇に立つ。その動作自体は時々見るそれと変わらないが、俺の直感は何かを訴えていた。

 

「今日は転校生を紹介します。なんと二名です!」

 

 そこまで聞いてようやく、今日はシャルとラウラが転入してくる日であると気づいた。

 言われてみれば、教室の外に二人の気配を感じる。懐かしすぎて思い出せなかったが、おそらく間違いはないだろう。

 周りの女子たちは、山田先生の発言にどよめいている。学生にとっては、転校生が自分のクラスに入るというのは一種のイベント。騒ぐのも無理はない。

 

「では...二人とも、もう入っていいですよ」

 

 山田先生の呼びかけに応じるかのようにドアが開き、二人が教室に入ってくる。そしてそれと同時に、ざわめきがぴたりと止まった。

 転校生が教卓の横に並び、教室には驚愕を原因とした沈黙が訪れる。誰もが口を開けないような雰囲気の中、口を開いたのはシャルだった。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国には不慣れですが、みなさんと仲良くできればいいなと思っています。一年間、よろしくお願いします」

 

 そう告げて一礼すると、シャルは一瞬だけ俺に視線を向けた。生来の穏やかさの中に緊張を孕んだ、どこか申し訳なさそうな視線。この頃はまだ、デュノア社からの指令を受けていたためだろう。

 しかし、そんなことはどうでもいい。

 今の俺にとって重要なのは、ラウラがずっと俺を見据えていることだ。

 

「お、男...?」

「はい。僕と同じ境遇の方がいると聞いて、本国より転入を――」

「「「きゃああああああ―――っ!!!!」」」

「う、うわっ!」

 

 比較的慣れているであろう千冬姉ですら耳をふさぐ、音響兵器のような叫び声が教室中に響くが、それを聞いてもラウラは多少眉をひそめただけで、ただ俺を見続けている。

 その視線からは感情を読み取れない。ぼうっとしているかのような虚無的な雰囲気だ。心ここにあらずという言葉がぴったりだろう。

 

「あー...ラウラ。自己紹介を」

「はい、教官...先生」

「...まあいい。次は()()先生と呼べ」

「了解しました」

 

 千冬姉との短い会話を終えて、ラウラが再びこちらに向き直る。妙な呼び方をしていたのは、多分ぼうっとしていたからだろう。

 先程からの印象と同様、やはり一周目の時とは何かが異なっている。その眼に宿す感情は絶対零度の拒絶ではなく、穏やかなる融和に近い。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ。一年間、よろしく頼む」

「...以上ですか?」

「ああ。残念ながら、言うことが見つからん」

 

 そう言いながら、ラウラは俺の席の前まで歩いてくる。その雰囲気は視線と同様に穏やかで、とても初対面時のラウラとは思えないほどだ。

 人が変わったような変化というには少し違う。なんというか、まるで()()()()()()()()()()かのような――

 

「久しぶりだな、()よ」

「――え?」

 

 頭が真っ白になった。

 

「覚えていないのならそれでいい。だがな――」

 

 一周目を含めて俺は数百年以上生きているが、それだけ長い人生の中でも一二を争うほど、とんでもない間抜け面を晒しているだろう。

 全くの想定外。ありえざる真実。それが俺の動きを止めている。

 あまりのことに声が出ない。もしかすると呼吸も止まっているかもしれない。驚きもここまでくれば異常の域だが、そんな状態だからこそとある事実に辿り着いた。

 

「――私は、()()()()()ぞ」

 

 やはり、ラウラは記憶を持っている。そう確信した瞬間、柔らかいものが額に触れた。

 離れていくラウラの顔と、額に触れたものの正体を認識し、自然と顔が熱くなっていく。

 そしてそのまま、俺の意識は闇へと落ちた。

 

 

 

 

「織斑くん...おーい、織斑くん?」

「...ん、ああ」

 

 虚ろだった意識が覚醒すると同時に、短く切り揃えられた金髪が目の前で揺れる。

 ふわりと漂う甘い香りが、目の前の人物の正体を教えてくれた。

 

「...起こしてくれたのか。ありがとな、シャル」

 

 シャルにお礼の言葉をかけつつ、眠気を振り払いながら立ち上がると、何故か訝しげな視線を向けてきた。

 対応を間違えたのかと首をひねりかけたその時、その疑問への答えが提示された。

 

「...シャル?」

 

 訝しげな視線の原因は、その呼び方だった。

 気が抜けていたとはいえ二度もやらかすかと自分を問い詰めたくなったが、真っ先に行うべきは弁解だろう。

 

「あー、すまん。噛んだ」

「別にシャルでもいいよ?僕も一夏って呼ぶからさ」

 

 当たり障りのない弁解が功を奏したのか、シャルは()()()()()可愛らしい笑顔を俺に向けてくる。

 どう見ても女子のそれなのだが、今のところは言わぬが花だ。そのあたりは、後々誰にも聞かれない場所で話すとしよう。

 

「じゃあ遠慮なく。よろしくな、シャル」

「うん。よろしくね、一夏」

 

 互いの名前を呼び合い、握手を交わしたその直後。ふと時計を見た俺は、自分たちが置かれている現状を思い出して青褪める。

 授業開始まであと1分。第二グラウンドまでの移動時間は、俺だけでも着替えを含めると5分はかかる。シャルが加わるとなると、もっと所要時間が増えるかもしれない。

 つまり、だ。

 

「...一時間目、もう間に合わないな」

「...そうだね」

 

 授業に間に合わせることは不可能。そう悟った俺たちは、むしろ落ち着いて更衣室に向かうのであった。

 

 

 

 




流石ラウラ!
俺たちにできない事を平然とやってのけるッ!そこにシビれる!あこがれるゥ!

というわけで、2巻開幕。展開が遅くなるのが目に見えてるので、五反田兄妹のシーンはバッサリとカットしました。
ISスーツのあたりは独自設定が含まれるので、ここに記載しておきます。

・ガールズガーデン社
安くて性能もあり、デザインも可愛らしい学生向けのブランド。学生からの人気が高く、学園指定のISスーツの製造元でもある。

・山田先生の解説
ミューレイ→性能がいいという原作の記述から。
イングリッド→一夏用の特注スーツを作ったことから、信頼されている企業だと思われるため。
デュノア→原作でシャルのISスーツはファランクスベースのほぼフルオーダー品であるという記述があるため

・山田先生のISスーツ
絶対にラファール用のISスーツとか作ってるだろうと思ったので捏造。デュノアならやる。

次回は授業風景になると思いますので、気長にお待ちください。
では、次回をお楽しみに。


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