IF一夏と束の話【凍結】 作:吊られた男の残骸
そしてバトル要素てんこ盛り。
本編に繋がる要素はそこまで強くないので、読まなくても大丈夫です。
――戦術機。
それは、ISの最強の座を揺るがした兵器の名だ。
ISとは違って条件さえクリアすれば誰でも動かせ、ISに対抗できる火力を持ち、整備性もそれなりに良いという利点を持つ。
そのため、各国がこぞってこれを購入し、独自のバリエーションを開発し始めた。
これによって各国の航空部隊はその価値を取り戻すこととなり、ISショックによって退役した軍人達を呼び戻す事によって、退役軍人による事件が減少したと言われている。
そんな戦術機をいち早く配備した精鋭部隊が、米軍の『
――これは、ドイツで起きた戦いの話だ。
硝煙の香りが漂う戦場。
その只中に、彼女らは居た。
『01から02。状況報告を』
『はい。こちらは無人戦術機を32機、有人機を4機撃破。付近に敵影はありません』
『損耗は?』
『多少の差はありますが、
それを聞いて、01と呼ばれた女性は言う。
『私の隊もほぼ同様だが、そちらよりはマシな状況だ。我々が警戒を受け持つから、お前達は補給してこい』
『了解。02分隊補給に入ります』
そう言うと、02と呼ばれた女性が率いる分隊は補給のために後退する。
01率いる分隊は、02の抜けた穴をカバーし、警戒を続けた。
第666戦術機中隊の全機が補給を済ませた後、司令部から通信が入る。
『こちらHQ。第666戦術機中隊、応答せよ』
『はい。こちらは第666戦術機中隊所属、アイリスディーナ・ベルンハルトです。戦況はどうなっていますか?』
アイリスディーナと名乗った女性の質問に、声の主は答える。
『現在、『黒ウサギ隊』が
HQの説明を聞いて、アイリスディーナはある疑問を覚えた。
その疑問を解消するために、アイリスディーナはHQに問いかけた。
『こちらの守りはどうするのですか?』
『『ヴェアヴォルフ』がもうすぐ到着する。奴らも精鋭だ。そう簡単には落とされんよ』
――『
その名を聞いて、アイリスディーナは僅かに驚く。
彼らは、戦術機を配備した部隊の中では第666戦術機中隊に並ぶほどの実力を持つ。
指揮官はアイリスディーナの同期にして、同等の実力を持つベアトリクス・ブレーメが務めており、言わずと知れた『
故に、アイリスディーナは安心して司令部の防衛を任せる事ができると判断した。
しかし、更に疑問が噴出する。
『『ヴェアヴォルフ』をあちらに行かせれば良いのでは?』
そう言うと、HQは即答した。
『現在『ヴェアヴォルフ』は推進剤の損耗が激しく、兵装に不安がある。それを踏まえて考えれば、現状では貴官らの方が少ない損耗で敵を撃破できると判断した』
それを聞いて、アイリスディーナは納得した。
確かに、大きく推進剤を損耗した部隊がいきなり敵軍のど真ん中に飛び込んで味方を救援するのは難しい。徒に将兵を消耗するのは司令部も避けたいのだろう。
そう考えたアイリスディーナは、命令を受諾した。
『了解。...中隊各機、聞いていたな!これより我々は『黒ウサギ隊』の救出に向かう!『
『『了解ッ!』』
隊員たちの勇ましい声が、アイリスディーナの耳を叩く。
暫くして機体に位置情報が転送され、人狼大隊からの通信が入る。
『こちらは『
それを聞いて、アイリスディーナは号令をかける。
『感謝する。総員、噴射跳躍開始!私に続けぇ!』
『『了解!』』
そう言うと、アイリスディーナが先行する。
直後、隊員達が順々に跳躍ユニットを点火し、アイリスディーナに追従する。
暫く噴射跳躍していると、『黒ウサギ隊』の面々が見える距離に入った。
『黒ウサギ隊』は、苦戦しているように見える。
それを見て、アイリスディーナは叫ぶ。
『各機、陣形を確認するぞ。私の部隊は『黒ウサギ隊』の救出を行う。残りはファムの指揮の元、無人機を掃討しろ。いいな?』
『『了解!』』
『良い返事だ。...これより我々は『黒ウサギ隊』の救援に入る。01分隊は先行するぞ!私に続け!』
『了解!』
アイリスディーナ率いる01分隊は、『黒ウサギ隊』の下にいち早く飛んでいく。
一方、ファムも02分隊に指示を出していた。
『02分隊は私と04、07と08に分かれて敵を誘導する。相手は『黒ウサギ』をあそこまで追い詰める手練よ。気は抜かないように!』
『了解!』
隊員たちは返事をすると、即座に二人一組のペアを組み、それぞれ別の方向に跳躍していく。
――互いの幸運を、祈りながら。
時は少し遡り、第666戦術機中隊が噴射跳躍で司令部を発った頃。
『黒ウサギ隊』は、劣勢に立たされていた。
「ぐああっ!」
『隊長!しっかり!』
隊長のラウラが、悲鳴を上げる。
彼女は、単独で6機ものISの誘導を受け持っていた。
IS学園を卒業して7年の歳月が経っており、ラウラの腕も、愛機の性能も遥かに向上していた。
しかし、個々の能力が国家代表クラスにまで高められた無人機と格上の敵が相手では、流石のラウラも苦戦は免れない。
愛機の『シュヴァルツェア・レーゲン』は破損が目立ち、リボルバーカノンも破壊されている。
しかし、敵の損害もそれなりに大きい。
ラウラがISを誘導していた甲斐あって、当初は5機いた無人機は全滅しており、今や有人ISと戦術機24機が残るのみである。
だが、『シュヴァルツェア・レーゲン』のシールドエネルギーは風前の灯火であり、ISが解除されるのは時間の問題だった。
『隊長をよくも!ハアァァァァァァァッ!』
「待て、クラリッサ!」
ラウラの静止の声も聞かず、クラリッサは専用機の『シュヴァルツェア・ツヴァイク』で黒いISに突撃する。
しかし、
『遅えんだよ』
『がはっ...!』
戦力差は圧倒的だった。
ラウラとの戦いで多少は疲弊しているはずだが、それを微塵も感じさせない動きでクラリッサを刺す。
黒いISは、恐ろしい程の膂力で絶対防御を貫通。そのままの勢いでクラリッサの腹部を貫通し、背中から刃を突き出す。
クラリッサのISスーツには血が滲んでおり、重傷であるのが一目でわかった。
なけなしのエネルギーを振り絞って、ラウラはクラリッサを抱き留める。
「クラリッサ!クラリッサ!」
『隊長...私を、置いて...逃げてください...』
クラリッサは自身を置いて逃げろと言うが、ラウラはあえてそれを無視。クラリッサを抱えて離脱しようとする。
しかし、それを赦すほど敵は馬鹿ではない。
『させるわけねえだろうが』
「ちぃ...っ!」
精密射撃によってカスタム・ウイングが破壊され、ラウラはバランスを崩す。
せめて一夏がいれば。そう後悔するが、彼は束と共に何処かに旅立った。
今ここに来る事は、きっと無いだろう。
それでも、口に出さずにはいられなかった。
「助けてくれ...一夏ッ!」
『ああ、勿論だ』
その声と共に、荷電粒子砲が黒いISを掠める。
ラウラの瞳から、涙が零れた。
何故なら、その声の主は、
『こんなトコまで追ってきやがったか。その執念深さにはアタマが下がるねぇ、織斑イチカぁ!』
「お前だけは殺す。それが、俺がアイツ等に出来る唯一の弔いだ!」
――織斑一夏なのだから。
『中隊各機。『黒ウサギ隊』の隊長機周辺に正体不明の機影を確認した。警戒レベルを上げろ』
『了解!』
アイリスディーナがそう言うと、隊員達は正体不明のISを警戒する。
そして、そのISがハッキリと見える距離まで来て、01分隊は愕然とした。
『織斑...一夏だと?』
織斑一夏が、"悪魔"と戦っているのだ。
――織斑一夏と"悪魔"には、浅からぬ因縁がある。
かつてIS学園に出現した"悪魔"は、当時のIS学園の生徒たちを惨殺した。
死傷者は三桁にも上り、その中には専用機持ちや教師も含まれていた。
"悪魔"によって友人達や唯一の家族を惨殺された一夏の心の傷は重く、運命の日から実に半年もの間、口を開かなかったという。
一夏は、学園を卒業した後に"悪魔を追う"という書き置きを残して失踪する。
それから7年の時を経て、一夏はドイツに現れた。
恐らくは、かつての友を救うため。そして、"悪魔"を葬るために。
かつて聞いた情報を元にそう推測したアイリスディーナは、『黒ウサギ隊』に通信を送る。
『こちらは『
『ッ!...こちらは『
それを聞いて、アイリスディーナ達はラウラが抱えている女性を見る。
女性の正体は、かつての合同訓練で猛威を奮ったクラリッサ・ハルフォーフ大尉だった。
その傷を見て、すぐさまクラリッサに手当を施す。
出血こそ止めたものの、バイタルは未だ危険域にあり、容態は一刻を争う状態だった。
そこに、一夏からの通信が入る。
『アンタらが
一夏は、"悪魔"を単独で引きつけながら通信を送ってきた。
その負担は、恐らく並ではない。
"悪魔"は、ラウラと戦っていた時以上の超人的な機動で一夏と斬り結んでいる。
それを見て、両者は共に恐ろしい程の実力者である事を知った。
アイリスディーナは、部隊の面々に指示を出す。
『...分かった。01分隊は散開し、生存者を救出。車輌部隊の位置まで搬送し、治療を受けさせろ!02分隊は戦術機を陽動し、確実に減らせ!それと、ヴァルターはボーデヴィッヒ少佐を回収して着いてこい。いいな!』
『『『了解!』』』
そう言うと、アイリスディーナはクラリッサを、03――ヴァルターはラウラを抱えて戦域を離脱した。
ラウラは、一夏のいる戦場を強く見つめていた。
『アッハッハッハッハッハッ!愉しい、愉しいぜ織斑イチカぁ!』
「こっちは、全然楽しくねぇよッ!」
一夏は"悪魔"の振るう槍を躱しつつ、手にした『雪片終型』を袈裟がけに振るうが、それは"悪魔"には読まれており、回避されてしまう。
瞬時に左腕にショットガン『雪華』を展開して撃つものの、それは大型のシールドビットで防がれる。
しかし、それだけでは終わらない。
一夏は"悪魔"に向けて『暮雨』を斉射する。
だがそれすらも予測の範囲内だったのか、"悪魔"はシールドを正面に展開して防ぐ。
一夏は、そこに勝機を見出した。
「コイツはどうだ!」
『何ッ!ぐお...ッ!』
"悪魔"は、
――
それは、かつての"悪魔"が苦手としていた攻撃だ。
BT適性の低い一夏に使えるとは思っていなかったのだろうが、一夏はそれに付け込んだのだ。
右手には『雪片終型』、左手には束謹製のハンドガン『星光』を持って、一夏は攻める。
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
『クソッ...タレがぁぁぁぁぁぁっ!』
追尾する弾丸と、超人的な速度で振るわれるブレード。
その両方に対応しながら、"悪魔"は撤退のタイミングを見計らっていた。
しかし"悪魔"は、それが困難である事を悟る。
今の一夏には、機体性能も含めば織斑千冬と同等かそれ以上の実力があるからだ。
――かつて織斑千冬を殺せたのは、千冬が殿をしていたからという理由に尽きる。
千冬は、死んでいく教え子を守るために『暮桜』を纏って矢面に立ち、そして敵の攻撃を受け続けた。
自身の命を削って、生徒たちを、そして一夏を逃がすことを優先したのだ。
そこに付け入る隙があったため、千冬を殺せたのだ。
しかし、一夏にはそれが無い。
一夏は殺す気で"悪魔"と戦っている。
故に、素人に生まれる躊躇いも、守る対象もここには無い。
一夏は、殺すために剣を振るう獣と化した。
「ぜあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
『ガアッ!』
渾身の力で振るわれた一夏の剣は、"悪魔"の右腕ごと、槍を切断した。
楯無と簪、そして千冬を刺し殺したその槍を。
そして、腹を『雪片終型』で刺し貫く。
腹部を剣で貫かれた"悪魔"は、ニヤリと嗤う。
『ソイツはやるよ。だが、テメェの腕も貰っていくぜ!』
「ッ!」
尋常ではない殺意と悪寒を感じた一夏は、咄嗟に武器を格納して全力で後退。来るであろう攻撃を避けるように動いた。
しかし、それは"悪魔"のブラフだった。
"悪魔"は、即座に対IS用のフラッシュバンを起爆。
一夏は咄嗟にハイパーセンサーを遮光モードにして失明を免れたが、次に目を開けたときには、"悪魔"は逃亡していた。
「また、殺し損ねたか...!」
そう呟いた一夏は、戦術機の群れに飛び込んでいった。
一方、『第666戦術機中隊』の02分隊に所属するテオドールは、多数の戦術機を誘導していた。
「07!01分隊に敵を近づけさせるな!」
『了解!08も頑張ってください!』
「ああ!」
僚機と会話を交わしつつも、巧みな操縦技術で敵の戦術機達を翻弄していく。
その技術は中隊長であるアイリスディーナ仕込みのものであり、ナイフでの近接格闘に関しては、アイリスディーナと同等クラスの技量を誇っていた。
そのテオドールに向けて、敵戦術機による射撃が放たれようとしていた。
「させるかよ!」
テオドールは、敵戦術機の兵装担架を利用しての射撃を密着するようにして背後に回ることで回避。すぐさま背部から胸を貫通するようにナイフを突き立てる。
敵が人間であれば胸から鮮血が溢れるものだが、どうやら無人機であるらしく、胸から溢れたのはオイルの類と推進剤だけだった。
どうやら無人機は、人間が乗っていない分だけ多くの推進剤を蓄えられるらしい。
ふと僚機の方を見ると、僚機が二機の戦術機を相手に立ち回っている。
このままだと殺されかねない。
「カティア!」
すぐさま、テオドールは僚機に支援射撃を行う。
その射撃の大半は外れたものの、敵を分断するという目的は十分に達せられた。
テオドールは、分断した敵を
『やああああああ!』
それに少し遅れて、カティアも射撃で敵戦術機の胸部を破壊して無力化する。
それを見て、テオドールは胸を撫で下ろした。
直後、尋常ならざる悪寒がしてその場から全力で噴射跳躍。コンマ数秒後にテオドールがいた場所を弾丸が通り抜け、テオドールは冷や汗をかく。
テオドールは、弾丸の飛んできた方向を見る。
すると、
『外したか...やはり、慣れない機体は良くないな。いや、
『テメェ...クリストファー!』
かつての仲間を殺して離反した男が、新鋭機を纏ってテオドールに銃を向けていた。
――クリストファー。
彼はかつてドイツ軍に所属していた軍人だった。
ISこそが至高の存在と謳われた時代に於いてもしぶとく軍に在籍し続けた強者であり、戦術機が配備されてからは『
当時は、アイリスディーナの兄であるユルゲンと肩を並べて戦っていた。
しかし、ある時を境にクリストファーは単独行動が目立つようになり、ついには当時の上官であったユルゲンを殺して軍を脱走。
アイリスディーナとベアトリクスは心に傷を負い、士官学校以来の友人だったヤウク達も大いに悲しんだ。
当時のテオドールは士官学校から卒業したての若輩であり、クリストファーと私的な話をしたことは無かった。
しかし、当時の隊長であったユルゲンや、その身内であるアイリスディーナ、そして『
「テメェは、テメェだけは赦さねぇ!」
『勝手にしろ、ガキがぁ!』
テオドールは、突撃砲を兵装担架に納め、近接格闘戦を始める。
クリストファーの機体の性能と、クリストファー自身の技量を本能的に悟ったテオドールは、射撃より格闘の方がマシだという結論に至った。
テオドールは、クリストファーによって振るわれる腕部モーターブレードを上体を逸らすことで回避。オーバーヘッドキックを頭部に食らわせつつ、兵装担架を利用して脚部装甲を射撃。蹴りの軌道を逸らすことでモーターブレードの直撃を避ける。
『やるじゃねぇか、クソガキ!』
「テメェには言われたくねぇな、上官殺し!」
テオドールは、上下が反転したままの状態で後方に噴射跳躍。姿勢を立て直しつつ、接近してきたクリストファーの脚部に
『ぐうっ!』
「カティア!ナイフを!」
『了解!』
テオドールの指示を受けて、カティアはナイフを投擲する。
テオドールは即座に
「ッ!」
『残念だったなぁ!』
しかし、クリストファーも元は軍人。
咄嗟に身体の向きを変えて装甲のみを切らせ、自身の身体は傷つけずに回避する。
ソレをいとも簡単に成功してのけたクリストファーの技量に、テオドールは舌を巻く。
『死ねよ、クソガキ!』
「生き汚えんだよ、テメェは!」
テオドールが振るうナイフを、クリストファーは紙一重で避け続ける。
脚のダメージが甚大すぎて動きに支障が生じている状態でもなお衰えぬ技量と、装甲を削り取るような異音がテオドールを焦らせる。
それによって生じた隙をついて、クリストファーはテオドールの心臓めがけてモーターブレードを突き出す。
あまりに近すぎて反応が間に合わず、テオドールは死を覚悟した。
胸にモーターブレードが刺さる一歩手前。その時、テオドールは僅かに笑みを浮かべた。
この状況を覆す
それは、アネットの狩るバラライカだった。
『切り裂け!バラライカァァァッ!』
『ッ!ガアァァァァァッ!』
アネットの持つ長刀が、クリストファーの右腕を肩から切断する。
本来アネットは01分隊の指揮下にいるのだが、カティアからの連絡を受け、カティアと役割を交代。テオドールの救援に駆けつけたのだ。
間一髪で難を逃れたテオドールは、クリストファーの胸にナイフを突き立てた。
『この、クソガキがぁぁぁぁぁ!』
「いい加減、死にやがれッ!」
肉を貫く独特な感触と、迸る鮮血が、クリストファーの死をテオドールに伝えた。
安堵と共に疲労感がテオドールを襲い、鉛のように身体が重く感じるが、ソレを振り払って機体の状態を確認する。
全身の装甲が削られ、所々に機能不全を起こしている。中でも酷いのは左腕で、
推進剤の残量も2割を切っている。
状況を整理して改めて、激しい戦いだった事を再確認する。
『テオドール!無事!?』
「ああ、バイタルも機体も酷いけどな」
アネットからの通信に応えた後、中隊長であるアイリスディーナに通信を繋げる。
『隊長。敵部隊に所属していたクリストファーを撃破した』
『...良くやった。機体状況とバイタルは見えている。任務もあと少しで終わる。お前はアネットを連れて先に帰投しろ』
アイリスディーナは、少しだけ驚きの表情を見せたが、すぐに表情を引き締めて言った。
その言葉の内に、アイリスディーナの優しさが垣間見えた気がした。
『了解。帰投します』
そう言ってテオドールは通信を切り、アネットに対して手短に告げた。
「アネット。帰投するぞ」
『了解。...アンタの機体ボロボロだから、肩貸してあげるわ。ほら、肩の装甲邪魔だからパージしなさい』
「...助かる」
2機のバラライカが、寄り添って戦場を離れていく。
その様子を一瞥したアイリスディーナは、通信を中隊に繋げて言った。
『総員傾注!これが最後の大仕事だ。あのISに手柄を総取りされる前に突撃するぞ!――第666戦術機中隊、突撃に、移れぇ!』
『了解!』
――この出来事が一夏の運命を変えることになるのは、一夏も、ラウラも、そして束も予想していなかった。
今回は他の話に比べてダントツで長くなりました。
ISとクロスさせる都合上、戦術機はISと同様に身に纏う仕様となっておりますのでご了承を。