IF一夏と束の話【凍結】   作:吊られた男の残骸

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うむ。めっちゃ眠たい。
後半は眠気で頭回らない状態で書いてたので誤字があるかもです。




第十一話 一夏と一組とパーティーの話

「織斑君、クラス代表就任決定おめでとう!」

「「おめでとう!」」

 

ぱぱぱぱぱん!と音を立てて、クラッカーが連続して鳴らされる。

その音に反応して一夏は反射的に戦闘態勢を取りかけたが、女子生徒達の黄色い声を聞いて我に返る。

それと同時に、大量の紙テープが一夏の頭や肩にどっさりと乗った。

カラフルな紙テープに彩られた一夏の頭はまるでピエロのようであり、女子達に大ウケしている。

当の一夏がそれを全く意に介さずにお茶を飲んでいる事も、女子達のハイテンションに拍車をかけていた。

 

「いやー、これでクラス対抗戦も盛り上がるねぇ」

「ほんとほんと」

「同じクラスになれてラッキーだったよね!」

「ほんとほんと」

 

一夏が周りの会話に耳を傾けると、一周目の時もいた二組の女子が適当な相槌を打っているのが聞こえた。

雑談の声に紛れて分かりにくいが、かすかに電子音も聞こえる。

おそらく自撮りか何かをしているのだろうと考えた一夏はそれをスルーして、近くにいた箒に声をかけた。

 

「なあ箒、明らかに人数多くないか?」

「ああ。どう見ても50人はいるな」

 

どうやら箒も一夏と同じ疑問を持っていたらしく、近くに置いてあったおかきを食べながら一夏の問いに答えていた。

そこに、カメラを首から下げた活発そうな女子生徒が現れ、会場に響くような声で宣言する。

 

「はいはーい、新聞部でーす!学園唯一の男子生徒、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ましたー!」

 

その宣言が終わった直後、新聞部と名乗った女子生徒――リボンの色で上級生とわかる――はずんずんと一年生の波をかき分け、一夏の元に辿り着いた。

 

「君が織斑一夏君ね?私は黛薫子。新聞部の副部長やってます。よろしくね。あ、名刺どうぞ」

「あ、はい。織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

薫子は、一夏と対面した直後に自己紹介を始める。

その姿勢を見て、一夏は少し一周目の頃のインタビューを思い出した。

 

「じゃあ、早速始めよっか。ずばり、クラス代表になった感想をどうぞ!」

 

そう言って、薫子はボイスレコーダーを一夏に突き出してくる。

それに対して、一夏は事前に考えておいた文章を読み上げるように答えた。

 

「そうですね...代表候補生を退けて就任したからには、誰にも負けないよう精進します」

 

そう言うと、薫子は不服そうな顔をして言った。

 

「なんか堅いけど...まあいっか。じゃあ、他のクラス代表に向けて一言どうぞ!」

 

薫子のその言葉を聞いて、一夏は少し考える。

思い出すのは、千冬が第一回モンド・グロッソを優勝した時の台詞。

しかしそのままだと味気ない。そう考えた一夏は、元の台詞にアレンジを加えながら言った。

 

「...誰が来ようと関係ねぇ。ただぶった斬るだけだ」

 

その台詞を聞いた薫子は、無邪気な笑みを浮かべながらペンをビシッと一夏に向けて告げる。

 

「いいねそれ!採用!」

 

それを聞いて、捏造を回避できた事に一夏は安堵する。

若干の間を置いてからセシリアの方を見ると、薫子がセシリアに話しかけていた。

 

「じゃあ次はセシリアちゃん。織斑君と戦った感想をどうぞ」

「そうですわね...私は全力で戦いましたが、一夏さんは武装を制限していてなお、殆どダメージを与えられない程に実力差がありました」

「ほほう。そんなに強いのね...そうだ、織斑君が言った台詞に関して一言お願いできる?」

「...並大抵の代表候補生は宣言通りに斬られるとだけ言っておきますわ。それこそ、最低でも国家代表でもなければ相手にならないでしょう」

 

その会話を聞いて周りの女子が大興奮する中、一夏は困惑していた。

正直なところ、一夏はわりと本気で戦っている。

そもそも今回の試合では、専用機の機能制限や、零落白夜の使用禁止、後に簪に押し付ける予定だった装備の性能試験を行う事等の条件が課せられていたため、機体の性能もかなり抑えられていた他、自身の得意分野である短期決戦が出来なかった。

故に、ある程度本気でかからなければセシリアには勝てなかっただろう。

自己分析を終えた一夏は思考を停止し、意識を現実に引き戻す。

いつの間にかテーブルに置いてあった軽食の類はほぼ消えており、会場の雰囲気もやや落ち着いてきていた。

 

「よし、じゃあ写真撮ろうか。織斑君、こっち来てもらっていい?」

「了解です」

 

薫子の呼びかけに反応して、一夏は立ち上がった。

そして薫子達のいたテーブルまで歩いていくと、薫子から新たな要求が下される。

 

「んー...じゃあ二人で向かい合って、握手してくれるかな?」

「俺はいいですが...セシリアはどうだ?」

「構わなくてよ。そこいらの軟弱な男ならば眉間を撃ち抜いていたところですが、一夏さんは別ですわ」

 

二人の承諾を得て、薫子はカメラを構えながらセシリアに向かって質問する。

 

「織斑君は別ねぇ...もしかして惚れてたりするの?」

 

その質問を聞いたセシリアは、しかしクールな姿勢を崩さずに返答する。

 

「そういうわけではありませんわ。わたくしは、自身より強い男かまだ年端も行かぬ子供以外には、例え手であろうと触れたくはありませんの」

「流石代表候補生。意識高いね!...じゃあ、そろそろ撮るから握手してくれる?」

 

薫子の言葉を聞いて、二人は速やかに互いの手を握り、目を合わせて笑みを浮かべる。

二人の準備が完了したことを悟って、薫子が声をかける。

 

「それじゃあ撮るよー。9+14+15+94は?」

「132ですわ」

「大正解!」

 

その言葉と共に、デジカメのシャッターが切られる。

パシャッという音と同時にフラッシュが焚かれ、一夏とセシリアが握手をしている図が写された。

 

「ふふっ」

 

その写真を見て、薫子が笑う。

それが気になって、一夏とセシリアは薫子の写した写真を確認した。

そこに写っていたのは、握手をする二人と、バラバラな位置でカメラに笑顔を向ける一組の生徒たちだった。

その中には箒もいて、数人の女子生徒と一緒にぎこちなく笑顔を向けている。

 

「...カメラから視線を外している方が誰一人としていませんわね...」

「よく反応できたな...」

 

二人は、写真を見て少なからず驚愕する。

特に、一周目とはまた違った女子の謎を見てしまった一夏の脳内では、クエスチョンマークが飛んでいた。

 

「私はそろそろ帰る予定なんだけど...カメラ返してくれる?」

 

薫子の声を聞いて、一夏は我に返る。

そして、すぐさまデジカメを手渡した。

 

「...すみません。つい夢中になってました」

「別に気にしなくていいよ。あの写真を見て驚く気持ちは分かるしね」

 

その言葉に、二人は大いに頷く。

この行動こそ、十代女子を舐めてはいけないという事が二人の間の共通認識となった瞬間だった。

 

「じゃあ、私はこの辺で。記事の出来上がりをお楽しみに!」

 

そう言って、薫子は去っていく。

それをきっかけに、会場は少しずつお開きムードに包まれていき、時計が21時過ぎを示す頃には、参加者たちはそれぞれの部屋に戻っていた。

 

 

現在、時刻は22時の少し前。

寮に戻ってから素早くシャワーを済ませた一夏は、既にベッドに寝転がっていた。

 

「...無駄に疲れた...」

「あら、たまにはパーティーみたいな馬鹿騒ぎも悪くないと思うけど?」

「悪くはないですけど、あのノリに付き合うのはちょっと辛いです」

 

薄暗い部屋の中、一夏は楯無と向かい合って雑談をしていた。

一刻も早く寝ようとは思っていたのだが、ベッドに横になった瞬間に楯無に捕まったため、そのまま何となく雑談を続けていた。

 

「一夏くん。こういう薄暗い部屋で話してるとさ、ちょっとえっちな気分にならない?」

「...俺の場合は修学旅行の印象が強いんですけど、楯無さんはそういう事に興味があるんですか?」

 

楯無から振られた話題(地雷)を、一夏は軽くあしらう。

それどころか、楯無の振った地雷はブーメランとして楯無に返ってきてしまった。

 

「まあ、これでも年頃の女の子だしね。一夏くんは、そういう事に興味ないの?」

「多少はありますよ。これでも健全な男子高校生ですからね」

 

楯無が再び振った地雷に、一夏は無難な答えを返す。

しかし、その反応が原因で楯無に火がついた。

 

「...じゃあ、試してみる?」

 

それは、思春期の男子高校生にとって禁断の問いかけだ。

しかし、楯無は平然と言い放つ。

無論、本気でしようと思っているわけではない。

楯無は、あくまでも冗談でやっているのだ。

それを察知した一夏は、

 

「...え?」

 

楯無のベッドに倒れ込み、四肢で楯無に覆い被さるようにして楯無の逃げ道を塞ぐ。

その姿勢は、まるで楯無が押し倒されたかのようだった。

楯無の耳元に顔を寄せた一夏は、息で耳をくすぐるように囁く。

 

「...そういうのがお望みなら、今夜は寝かしませんよ?」

「ひゃっ!ちょっ、ちょっと一夏くん!?」

 

その台詞を聞いた楯無は、身体をびくりと震わせた。

楯無は、弄るのには慣れていても弄られる事には慣れていない。

それは、一周目の時点で学習済みだった。

現に、楯無は殆ど抵抗していない。

だが、これ以上弄るのも可哀想だと考えた一夏は、もう一度顔を寄せて囁く。

 

「冗談ですよ」

 

そう言って、一夏はゆっくりと耳元から顔を離す。

改めて楯無の顔を見ると、若干涙目になった楯無が、きょとんとした顔で一夏を見つめているのがわかる。

楯無は、目尻に涙を溜めたまま言った。

 

「...え?冗談?」

「はい。冗談です」

 

楯無の問いかけに、一夏は笑顔を向けながら返す。

一夏の言葉を聞いた楯無は、顔を真っ赤にして寝返りを打ち、一夏から顔を背ける。

それを見て、一夏は自分のベッドに戻った。

そして、楯無の方を見て言う。

 

「お休みなさい、楯無さん」

「ふん!一夏くんなんて知らないんだから!」

 

そう言ってむくれる楯無の反応を楽しみながら、一夏は眠りについた。

その寝顔は、悪戯っ子のような笑みを浮かべていた。

 

「まったく...眠れないじゃないの...」

 

悪戯を返された楯無は、一夏を起こさない程度の声量で小さく呟いた。

 

 

翌日の朝。

一夏がたまたま食堂で会った女子生徒たちと一緒に教室に入ると、妙にソワソワした雰囲気が所々で起こっていた。

一夏は暫し考えて、その理由に思い当たった。

今日は、一周目では鈴が転校してくる日だったのだ。

それが分かれば、普段交流の少ない女子とも話すことが出来る。

そう判断した一夏は、近くにいた女子生徒に声をかけた。

 

「そういえば、今日は転校生が来るんだってな」

「あ、織斑くんも知ってたんだ。そうそう。何でも中国から転校してくるみたいでさ、隣の二組に入るらしいよ」

「転校してくるっていっても、かなり条件厳しいんだろ?それこそ、代表候補生くらいでもないと入れないんじゃなかったか?」

「そうそう。だから私は中国の代表候補生と睨んでるんだよねー...」

 

無論、一夏は大体知っているのだが、それは頭の中に押し留めつつ女子と話している。

すると、若干遠い席にいた箒が声をかけてきた。

 

「その転校生の事なんだが、昨日偶然会ったんだ」

「えっ、ホント!?どんな子だった?」

「む、そうだな...サバサバした印象だったな。それに、とても運動神経が良さそうだった」

「へー...仲良くなれるといいなぁ...」

 

箒たちの話を聞いた一夏の脳裏に、一つの疑問が浮かんできた。

一夏は、躊躇なく箒に質問した。

 

「会うにしても、いつ会ったんだ?お前、9時前に寮に帰ってただろ?」

「ああ、風に当たりに行った所で声をかけられてな。そのまま案内してきた。会場に戻らなかったのは、その前に谷本さんから解散の連絡があったからだな」

「へー...偶然もあるもんだな...」

「ああ。本当にな」

 

箒への疑問はあっさり解消され、代わりに一周目との差異が思い浮かんだ。

一周目では、箒は鈴と会っていない。

たまたま遭遇したにせよ、これは上手い具合に一周目との差異が作用したのかもしれないと一夏は判断した。

ふと教室の扉に目をやると、まるで一夏が指示したかのようなタイミングで扉が開く。

そしてそこから、真新しい制服を着た懐かしい友人が現れた。

 

「久しぶりね、一夏。一年と少しぶりかしら」

「ああ。久しぶりだな、鈴」

 

――彼女の名前は凰鈴音(ファン・リンイン)。一夏のセカンド幼馴染が、かつてと変わらない笑顔を浮かべて立っていた。

 

 

 

 




シャルを早く出したすぎてシャル編のストーリーを練ってたり入れたい展開を纏めてた結果がこれだよ!
更新遅くて申し訳ない!


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