IF一夏と束の話【凍結】   作:吊られた男の残骸

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戦闘回にして、当初の目標。
次の目標は、ひとまず一巻の内容を書き切ることにします。




第九話 一夏とセシリアと代表決定戦の話

それは、生徒達が寝静まった深夜のこと。

寮長室に、携帯の着信音が響く。

部屋の主たる千冬は、面倒という感情を圧し殺して通話を開始した。

 

「...もしもし」

「はろはろー、ちーちゃん!みんなのアイドル、たっばねさんだよ〜?」

「束か。用件は何だ?」

 

束の声を聞いて、千冬は無愛想に返事を返す。

彼女らは、非常に付き合いが長い。

多少雑な態度でも気にしない性格であると分かった上でのやり取りなのだ。

束は、若干テンションを落としながら言った。

 

「もー、ちーちゃんはつれないなー...いっくん宛に荷物を送るからよろしくって伝えたかっただけだよ。中身は雪暮の後付装備(イコライザ)。いっくんに伝えといて。じゃ、ばいばーい!」

 

そう言って、束は電話を切る。

千冬は、一人考える。

 

「...それにしても、束のやつは何故このタイミングで追加装備を送るんだ?学園内の状況を知っていても驚かないが、それならわざわざ今送る必要は...いや、単に凝りすぎたのか。アイツなら十分ありえるから怖い...とりあえず、諸々のことは明日にしよう」

 

そう言って、千冬は部屋の電気を消した。

 

 

時は流れ、現在は翌日の放課後。

第三アリーナには大勢の人が集まっている。

理由は言わずもがな。今日はクラス代表決定戦当日であり、専用機同士の対決が見られる貴重な機会だからだ。

更に言えば、片方はイギリスの代表候補生で、もう片方は篠ノ之束が直々に作った専用機を纏う史上初の男性IS操縦者とあらば、注目されない筈がなかった。

 

当の一夏はというと、ピットで準備をしていた。

周りには千冬と山田先生、そして整備科の教師がいる。

 

「で、これが俺の機体の後付装備ってワケですか」

「ああ。今朝方届いた物だ」

 

一夏は、束から届いたという複数の長方形の箱を見ながら言った。

それに千冬は返答する。

千冬の返答を聞いた一夏は、新たな疑問を抱いた。

 

「中身は何なんですかね?」

「それを知るためにも、開ける必要がある」

「なるほど。では、開けちゃいますね」

 

そう言って、一夏は長方形の箱に手をかざす。

すると、かざした手に反応して箱が開く。

中にはスタイリッシュな形状をした一対の箱と、USBメモリが入っていた。

一夏はUSBメモリを手に取り、携帯に接続する。

画面に表示された情報を見て、一夏は笑った。

 

「...ははっ!束さんも粋な事をしてくれたもんだ!」

 

近くにいた千冬は、ぎょっとして一瞬硬直したものの、すぐに復帰して一夏に問う。

 

「どういうことだ?」

「ああ、いえ。このタイミングでこの装備が送られてくるとは思ってなかったのでつい」

 

それを聞いて、千冬は不可解そうな表情を見せる。

しかし、すぐにいつもの顔付きに戻って告げた。

 

「ふむ。それはいいが、とっとと装備の換装を済ませろ。オルコットの準備は終わっているぞ」

「もうそんな時間でしたか。サクッと換装終わらせますから、セシリアにもう少し待つように伝えておいてください」

 

そう言うと、一夏は猛スピードでキーボードを叩き始める。

そのスピードは、束と同等だった。

超人的な速度で入力されていくデータを見て、整備科の教師であるレイラが猛烈に落ち込んでいるが、そこを気にしていては作業が終わらない。

優しさを見せたのは、山田先生だけだった。

 

一方のセシリアは、ISスーツ姿で待機していた。

隣には同じイギリスの代表候補生であるサラ・ウェルキンが座っていて、セシリアと仲睦まじげに話している。

 

「それにしても遅いわね。織斑イチカくんだったかしら?」

「はい。つい先程機体の後付武装が届いたらしく、それに関係する調整が必要とのことですわ。整備科のレイラ先生も作業に参加しているとは聞いていますが、それにしては随分と...」

 

二人は英語で会話しており、その間に他の人間が入る余地はない。

しかし、そこに通信が繋がる。

相手は織斑千冬。自身の担任にして、かつて世界最強と呼ばれた女性だ。

セシリアは、咄嗟に日本語で応対する。

 

「何でしょう?織斑先生」

「ああ、織斑の準備がそろそろ終わるから、そちらも用意を頼む」

「分かりましたわ」

 

そう言うと、千冬からの通信が切れる。

それと同時に、サラから声が掛けられた。

 

「そろそろ出番みたいね。頑張ってきなさい、セシリア」

「ええ。決して油断できない相手ですが、勝たせていただきますわ」

 

そう言うと、サラは軽く吹き出す。

そして、楽しそうに笑いながら言った。

 

「ふふっ、楽しみにしてるわ」

 

そう言って、サラは観客席へ戻っていった。

一人残されたセシリアは、ピット・ゲートに向かって歩き出す。そして、ゲート前で自身の専用機たる『ブルー・ティアーズ』を展開した。

 

「行きますわよ。ブルー・ティアーズ!」

 

そう告げた瞬間にゲートが開放し、セシリアは素早く飛び出した。

 

 

その頃、一夏は雪暮を纏っていた。

調整は既に完了し、セシリアが飛び出したのを見届けてすぐにISを装着。ピット・ゲートへ移動した。

機体調整の最中に来た箒が、ゲート開放の直前に言う。

 

「一夏。勝ってこい」

 

それを聞いて、一夏は振り向く。

そして、笑顔で返事をした。

 

「ああ。そのつもりだ」

 

直後にゲートが開放。一夏は素早く飛び出した。

そして、セシリアの向かいで静止する。

セシリアは、曲線的な蒼い機体を纏って優雅に浮遊している。非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)にはその機体の最大の特徴たるビットが装備されており、それが機体の美しさを際立たせている。

その姿に、一夏は面食らった。

一周目と二周目では機体すら異なるというのかとも考えたが、機体のハイパーセンサーから伝わる情報から、セシリアが纏っている機体が『ブルー・ティアーズ』であると分かる。

長考によって生じた沈黙を断ち切ったのは、一夏だった。

 

「待たせて悪かったな。セシリア」

 

一夏は、待たせたことに対して謝るが、セシリアは軽く笑みを浮かべて言う。

 

「少し遅刻ですわよ。紳士たるもの、時間は厳守するのがマナーではなくて?」

 

それを聞いて、一夏はバツの悪そうな表情を浮かべる。

 

「悪かったって。さて、そろそろ始めよう。アリーナを使える時間は限られてるしな」

 

その声を聞いて、セシリアは少しだけ口角を上げる。

そして、一夏の目を見据えて言った。

 

「ええ、始めましょう。わたくしとブルー・ティアーズ、そして貴方で奏でる輪舞曲(ロンド)を!」

 

セシリアの言葉が終わった瞬間、一夏は右に飛ぶ。

直後、先程まで一夏の身体があった位置を複数のレーザーが貫いたのを見て、一夏は冷や汗をかく。

そこで、一夏はセシリアが一周目より強くなっていることに気がついた。

一周目のクラス代表決定戦では、ビットと自身での同時攻撃は出来なかったが、今回は出来ている。

決して、油断はできないと一夏は悟った。

 

「やりますわね。織斑先生を倒しただけありますわ」

「ヒヤヒヤしたぜ。そら、お返しだ!」

 

一夏は瞬時に『吹雪』を展開。即座に中距離射撃形態に変形させて射撃する。

しかし、セシリアはそれを回避し、四基のビットで撃ってきた。

一夏はそれを円状制御飛翔(サークル・ロンド)で回避。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で距離を詰めながら、『吹雪』を近接形態に変形させる。

それを見て、セシリアは『インターセプター』を展開して迎撃に入るが、時既に遅し。

一夏は、二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)で更に加速。すれ違いざまにセシリアを斬りつけた。

 

「そら!」

「くっ...ああっ!」

 

超高速で装甲の無い部分を斬りつけられては、国家代表候補生のセシリアも無事では済まない。

シールドエネルギーは一気に削られ、一撃で五分の一を持って行かれた。

怯む間にも、一夏は次の攻撃への布石を打ち始める。

一夏は、減速して再び円状制御飛翔を始め、移動しながら非固定浮遊部位に搭載された後付装備のミサイル『暮雨』をセシリアに向けて発射する。

 

「全弾、持ってけ!」

「ッ!...はあぁぁぁぁぁ!」

 

しかし、セシリアは即座に武装を持ち替え、両手に蒼いハンドガン『ティアー・ドロップ』を構える。

そして、周囲から迫り来るミサイルを撃ち落とし始めた。

その射撃精度は高く、実に6割が撃ち落とされた。

4割はセシリアに迫るが、その中の半数近くは『インターセプター』で切断されていく。

しかし、残りの2割はセシリアやビットに当たり、確実に戦闘能力を奪っていった。

ミサイルの猛攻が止んだ頃には、セシリアの武装は『スターライトmk-Ⅲ』とミサイルタイプの『ブルーティアーズ』一基しか残っておらず、シールドエネルギーも二桁にまで減少していた。

しかし、セシリアは諦めない。

 

「行きなさい、ティアーズ!」

 

そう言うと、弾道型のビットが射出されて一夏に向けて飛んでいく。

一夏はそれを『吹雪』で撃ち落とそうとしたものの、悪寒を感じて咄嗟にその場を離脱しようとする。その瞬間、ビットが爆発すると同時に機体背面にレーザーが着弾。回避が間に合わず、一夏はダメージを負う。

 

「ちぃ...っ!」

「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

そこに、セシリアが迫る。

右手にはミサイルを迎撃する過程で吹き飛ばされた『インターセプター』が握られており、その刃は一夏に向けられている。

まさかの近接格闘。

一夏は想定していなかった事態に若干動揺するも、即座に蹴って距離を離し、『日暮』を展開。『吹雪』も利用して、セシリアを中距離で封殺する構えに出た。

しかし、

 

「そこは...私の距離ですわ!」

「くっ!」

 

中・遠距離での戦闘は、セシリアの十八番だ。

ビットは一基を残して撃ち落とされ、『吹雪』の荷電粒子砲は回避される。

一夏に射撃の才能がないこともあるが、この戦闘でセシリアも成長しているのだ。

恐ろしい程の集中力で『吹雪』と『日暮』からの猛攻を凌ぎきったセシリアに向かって、一夏が突撃する。

二度目の超高速での突撃を、セシリアは『スターライトmk-Ⅲ』で迎え撃つ。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

正確無比な狙撃を躱しながら一夏は突撃。二段階瞬時加速を開始する。

それを見て、セシリアは一夏の眉間を中心に三発発砲する。

躱せない。そう直感した一夏は、手にした『吹雪』を迫るレーザーに向かって振り抜く。

狙い通りにレーザーは斬り払われ、一夏に当たらずに霧散する。

それを見たセシリアは、驚愕しながらも笑みを浮かべ、既に目の前にいた一夏に向けて発砲。

一夏は、レーザーが命中したにも拘わらず、セシリアに突撃し、『吹雪』を振り抜く。

狙い通り、一夏の振るった『吹雪』はセシリアを斬り裂き、シールドエネルギーをゼロにした。

 

『試合終了。勝者――織斑一夏』

 

歓声が、アリーナを包み込んだ。

 

 

時間は進んで、時計が20時を示す頃。

一年生寮のフリースペースにて、一夏とセシリアは談笑していた。

 

「それにしても、まさか格闘で来るとは思わなかったぜ。事前に見た映像では狙撃とビットだけで敵を倒してたから、終始中・遠距離戦で来るのかと...」

「あら。たとえ苦手分野であろうとも、克服するために努力するのがわたくしでしてよ?」

 

それを聞いて、一夏は思い出す。

セシリアは、家を守るために必死に努力を重ねてきた努力家でもあった。

故に、狙撃に関しては学年一。いや、生徒最強クラスの実力を誇っていた。

その性質は、二周目でも健在らしい。

 

「セシリアは努力家なんだな。俺も見習わなきゃいけないや」

 

一夏がそう言うと、セシリアはくすりと笑いながら言った。

 

「ふふっ。それを言うなら、一夏さんも相当な努力家だと思いますわよ?」

「俺がか?」

「ええ。何せ、IS登場歴1年程度であれだけの動きが出来るんですもの。それは、必死に努力をしてきた証拠ですわ」

 

セシリアは、そう言って一夏を褒める。

本当は数百年近く乗っているのだが、それを話す訳にはいかない。

若干モヤモヤしたものを感じつつも、一夏は言った。

 

「...面と向かって言われると照れくさいな。まあ、褒め言葉は受け取っとくよ。ありがとう」

「お礼は結構ですわ。わたくしはただ、事実を言ったまでですもの」

 

一夏が礼を言うと、セシリアは少し照れくさそうに返事を返す。

その姿を見て、一夏は笑う。

それに釣られたのか、いつの間にかセシリアも笑顔になっていた。

その直後、一年生寮のフリースペースに、楽しそうな笑い声が響く。

無論、声の主は一夏とセシリアだ。

 

「ははっ...お、いい時間だな」

「ふふっ...あら、もうこんな時間ですか」

 

時計を見て、二人は言った。

一夏は、さり気なく切り出す。

 

「じゃあ、俺は風呂入ってくるわ。お休み、セシリア」

「では、わたくしも部屋に戻りますわ。お休みなさい、一夏さん」

 

そう言って、二人はそれぞれの部屋に向かって歩き出す。

二人の間には、一種の絆が芽生えていた。

 

 

 

 




いやぁ...戦闘描写が大分マシになったような気がする...
千冬戦と今回を比べれば、きっとそれなりに変わってるはずだと思いたいなぁ...

追伸 お気に入り登録が125件になりました。応援してくださる皆様、ありがとうございます。


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