IF一夏と束の話【凍結】 作:吊られた男の残骸
原作のメインヒロイン組のはずなのに一度しか出てない。そしてその影響で他のクラスメイトも出てない。
...どうせ楯無関連とかで出たりするからいいか
「さて。一夏君、準備はいいかな?」
「はい。勿論です」
そう言うと、楯無はゆっくりと構える。
ここは学園内に存在する畳道場。主に格闘技系統の部活が使用する場所だ。
その道場にて、二人は向かい合っていた。
「じゃあ、ルールを確認しようか。ISを除いて、攻撃手段は何でもあり。勝敗は、10分以内に行動不能になった方の負け。立会人は、虚ちゃんが行うものとする。ってところかしらね。他には何かある?」
楯無がそう言うと、一夏はそれを肯定する。
「特にありません」
「ふむふむ、潔いね。そういう男の子、好きだよ?」
楯無は、いつもの調子で一夏をからかおうとするものの、一夏には通用しなかった。
一夏は、少し呆れたように言う。
「ゴタゴタ言ってないで早く始めましょう。時間は有限ですから」
「そうね。じゃあ始めちゃおっか。虚ちゃん、お願いね?」
虚は、凛とした声で告げる。
「はい、会長。それでは...始め!」
その声を聞いた瞬間、二人の周りの空気が一変した。
一夏は研ぎ澄まされた刀のような鋭い殺気を出し、楯無はそれに呼応するかのように、流れる水のような柔らかい殺気を出す。
身体スペックでは一夏に分があるが、楯無も負けてはいない。
一周目に比べて、明らかに強いと分かる。
殺気だけなら、一周目の千冬と同等だ。
故に、一夏は気を抜かない。
気を抜けば、すぐに倒されてしまうからだ。
「来ないの?じゃあ、私から――行くよ」
その声を聞いて、一夏は瞬時に手刀を放つ。
しかし、迫りくる楯無はそれを避け、崩れた姿勢から蹴りを放ってきた。
右手を地面につけての回転蹴り。
まるで扇風機の羽根のようなスピードで繰り出されるそれは、ガードした一夏の腕に切り傷を生じさせる。
「ふっ!」
「っと、危ないな!」
一夏は怯まずにローキックを放つが、それは飛んで避けられてしまう。
しかも、その間も楯無の連撃は止まらない。
楯無はすぐさま姿勢を立て直し、四肢を使っての乱打を仕掛けた。
だが、一夏はそれを尽く逸らし、防ぎ、或いは躱す。
有効打は、一度も与えられていない。
「やるわね、一夏君!」
「そっちこそ!」
楯無の攻撃をいなし続けた一夏は、少しずつ反撃を開始する。
一夏は楯無の姿勢が崩れた隙を狙っての回し蹴りを放つが、楯無はそれを紙一重で躱し、拳と拳の間合いにまで接近。顎を狙った掌底を繰り出す。一夏はその腕を取って関節を極めようとするが、楯無の攻撃によって中断せざるを得なくなる。その動作で姿勢が崩れた一夏に楯無の蹴りが迫るが、それを腕で弾いて一夏は後退する。
一瞬でも気を抜けば、四肢の弾幕によって全身を砕かれるようなハイレベルな攻防。
それは、虚にとっては一瞬。しかし、一夏と楯無には10分にも20分にも感じられた。
そして、戦況は動く。
「ハッ!」
「ぐっ...!」
一夏の拳が、楯無の腹筋に直撃した。
それを皮切りに、一夏は怒涛のラッシュを仕掛ける。
多方向から放たれる拳を逸らしながら、楯無は反撃のチャンスを見計らう。しかし、食らったダメージが原因で身体の動きが悪くなっていることもあり、マトモに反撃出来ない。
それでも楯無は、一夏の猛攻を紙一重で避け続ける。
ダメージが残りやすい腹部に強烈な拳を受けてなおその動き。一夏は、それに驚愕する。
その焦りが、攻撃を大振りにさせた。
右ストレートが、恐ろしいスピードで楯無の顔面に迫り、そのまま直撃する。
しかし、それこそが楯無の狙いだった。
「おねーさんを、舐めないようにね!」
「マズッ...がはっ!」
楯無はその場で後方に回転しながら、一夏の顎を蹴り上げた。
反撃を予想していなかったため、一夏はロクな防御も出来ずに打ち上げられる。
楯無が使った技は、一夏の攻撃の勢いを利用してのカウンターで、敵の攻撃をあえて受け、敵の攻撃の威力を自身の攻撃に転化するという技である。
更識家に伝わる奥義の一つだ。
一夏の攻撃は、一撃一撃が並のISのパンチと同等の威力を持つ。
故に、楯無の技は一夏にとって非常に効果的だった。
しかし、
(流石に、完全には吸収できなかったか...)
あまりに威力が高すぎて、楯無にもダメージが生じた。
これで、状況は五分。
全身に細かい傷を負い、顎に強力な蹴りを食らった一夏と、腹に一夏のパンチが直撃し、他にも全身に軽度の打撲を負った上、額に痺れが残る楯無。
互いに手負いであり、そのダメージは両者ともに大きい。
だが、
「うおぉぉぉぉぉっ!」
「はあぁぁぁぁぁっ!」
二人は、咆哮しながら戦い続ける。
目潰し、金的、鳩尾、頚椎などの急所も躊躇なく狙い、獣のように連撃を繰り出す。
しかし、それらの殆どが逸らされ、防がれ、躱される。
とんでもない速度で繰り出される攻撃を迎撃しながらの超高速戦闘。
虚は、息を呑んだ。
(こんな戦いが、あってもいいのでしょうか...)
そう思いながら、虚は手元のタイマーを見る。
タイマーには、もう残り少なくなった制限時間が表示されていた。
「いい加減、倒れなさい!」
「ここ...だ!」
焦りからか大振りになった楯無の攻撃を躱し、一夏は楯無の懐に入る。
何度か攻撃が直撃しているため、全身が痛みに悲鳴をあげるが、一夏はそれを無視。
左手で道着の袖を。右手で鳩尾部分を掴み、そのまま投げ飛ばした。
その技の名は、
「嘘ッ!」
「おぉぉぉぉぉぉ!」
――篠ノ之流古武術奥義・旋風。
「があ...っ!」
楯無は、初見の技ということもあってか、成す術なく投げ飛ばされた。
受け身も満足に取れず、肺から空気が吐き出される。
そこに、楯無の鳩尾に添えられた右手による掌底が直撃する。
楯無は、一瞬にして意識を刈り取られた。
畳道場に、虚の声が響く。
「そこまで!勝者、織斑一夏!」
それを聞いて、一夏は溜息をつきながら戦闘態勢を解除する。
その直後、楯無は意識を取り戻し、痛みに悶えながら虚に聞いた。
「いたた...もしかして私、負けた?」
「はい。最後の投げの後に掌底で意識を刈り取られていました」
それを聞いて、楯無は溜息を吐く。
その溜息の長さは、奇しくも一夏と一致していた。
そして、自分の体の状態を確かめた後、楯無は言った。
「負けちゃったかー...強いね、一夏君」
「正直危なかったですよ。あの蹴り上げを連発されてたら負けてました」
そう言われて、楯無は苦笑する。
そして、一夏に向けて言った。
「あれは敵の攻撃を放った本人に返すっていう技だから、タイミングが難しいのよ」
「なるほど...それにしても、俺の攻撃ってあんな威力あるんですね...」
「痛かったわよ?まあ、あの技は習得は難しいけど、上手く決まればそれなりに使えるからオススメね」
そう言って、楯無はいたずらっぽく微笑む。
それに釣られて、一夏も笑う。
その姿はまるで、喧嘩によって絆を結ぶ昭和の不良のようだった。
「痛っ!」
「どうしました?まさか最後のアレで骨折でも?」
痛がる楯無に、一夏は心配そうな口調で言う。
それを聞いた楯無は、背中を指差して言った。
「最後の投げで受け身取れなくて、腰を痛めたの。...一夏君。私を医務室まで連れて行ってくれない?」
一夏は、暫し考え込む。
今の一夏は、お世辞にも絶好調とは言えない体調だ。全身ボロボロで、足元は定まっていない。
虚は無傷だが、楯無を抱える事が出来るかと言われれば不安が残る。
そう考え、一夏は虚に質問した。
「...虚さん。楯無さんを抱えて医務室まで行けますか?」
「その位は出来るけど、織斑君はどうするの?見たところ、足元が定まってないみたいだけど」
「あー...どうしましょう?」
そう言って、一夏は再び熟考する。
正直に言えば、暫くは歩くのも避けたいような状態だ。
しかし、このレベルの怪我なら医務室まで行った方がいいとは思う。
そして、ある事実に思い当たった。
「...担架を使えば、安全に医務室まで運べますよね?足りない人手は、先生を連れてくれば解決しますし」
「それもそうですね。では、私は先生を呼んできます」
「お願いします」
一夏の案を聞いた虚は、道場を小走りで出ていった。
しばらくして、楯無が一夏に話しかける。
「ねえ、一夏君」
「何ですか?楯無さん」
「そんなに強くなったのは、どうして?」
そう聞かれて、一夏は答える。
「守れるように、なりたかったからです」
「守れるように?」
一夏は、過去を思い出しながら言葉を紡ぐ。
「はい。...俺は昔、誘拐されたんです。その時、千冬姉に助けられて、俺は千冬姉に憧れました。...全てを守るとか、そんな大層なことは出来ません。でも、せめて自分が守りたいと思った人を守れるようにはなりたくて。気付けば、こんなに強くなってました」
一夏の言葉を聞いて、楯無は目を細める。
そして、懐かしむように言った。
「...その気持ち、ちょっとわかるわ」
「え?」
楯無の意外な言葉に、一夏は目を丸くする。
それに構わず、楯無は続ける。
「私もね、守りたいから強くなったの。大好きな妹を守るために、色んなことを学んだわ。それが、妹を苦しめる事になるとも知らずにね。...その結果、私はロシア国家代表の称号を手に入れて、妹はますます苦悩するようになった。でも、私はそれに気付かずに、無神経な言葉を言っちゃったの」
楯無の言葉に、一夏は息を呑む。
楯無は話を続ける。
いつの間にか、雰囲気は重くなっていた。
「『無能なままで、いなさいな』ってね。...私、何をやってるのかしら。守りたかった妹を自らの手で傷付けて、挙句の果てに拒絶されて。学園最強の称号も、ロシア国家代表の称号も、これじゃあ何のために取ったのかわからないわ...」
同年代の人間に初めて負けたからなのか、楯無は弱気になっていた。
その目尻には、涙すら浮かんでいる。
楯無の言葉を聞いた一夏は、励ますように言った。
「大丈夫ですよ」
「え?」
楯無は、驚愕した。
しかし、それに構わず一夏は続ける。
「兄弟姉妹なら、誰だって一度は喧嘩するんです。俺と千冬姉だって、昔はよく喧嘩しました」
「...励ましてくれるのは嬉しいわ。でもね、一夏君。私と妹の関係は、ちょっと普通じゃないのよ」
楯無は、一夏を諭すように言った。
しかし、一夏はそれに反論する。
「それを言ったら俺もです。当時は、世界最強の姉と無能な弟って周りからは見られてましたよ。当然、比較もされました。それが原因で、千冬姉がちょっとうっとおしくなった時期もありました。でも、結果的には仲良くなれるんですよ。俺と千冬姉が、その証人です」
その言葉は、楯無にとっては希望に見えた。
しかし、それにはまだ穴がある。
「...仮にそうだとして、どうやって仲直りするの?私と簪ちゃんの間の溝は、決して浅くはないわよ?」
そう、具体的な手段が欠けているのだ。
一夏の言葉には、そのための手段が含まれていなかった。
故に、楯無は反論した。
それを聞いて、一夏は一瞬苦笑する。
楯無は、それを見て少し苛立ちを覚えた。
「何がおかしいの?」
「いえ、楯無さんも妹さんも、不器用だなって思いまして」
そう言うと、一夏は一瞬だけ間を置く。
そして、優しく語りかけるように言った。
「簡単なことですよ。腹を割って、本音で話し合うだけです。楯無さんが妹さんを想っているなら、それを伝えればいい。本当の気持ちが伝われば、妹さんもきっと応えてくれますから」
それを聞いて、楯無は拍子抜けしたような表情で天井を見上げる。
それと同時に、楯無が纏っていた重苦しい雰囲気が霧散し、空気が軽くなっていく。
「...そっか。そんな単純な事だったんだ」
溜息を吐くように、楯無は言った。
そして、再び一夏に向き直る。
楯無の表情は、晴れ晴れとしていた。
「ありがとう、一夏君。お陰で、何だか楽になったわ」
それを聞いて、一夏は思わず笑顔になる。
そして、楯無に言った。
「いえいえ。...妹さんとの仲直り、頑張ってください。もし何かあれば協力しますから」
そこに、虚と先生たちが担架を担いで駆け込んでくる。
その中には、由貴と千冬の姿もあった。
「先生方をお連れしました」
「助かるわ、虚ちゃん。腰痛くてまだ立てないのよ...」
「俺は大分回復してきましたけど、まだ色々痛くて歩き辛いですね」
それを聞いて、千冬は言う。
「馬鹿者。大事なIS戦の前に身体を壊すやつがあるか」
「うっ...ごもっともです」
「まあまあ。織斑君も更識さんもボロボロですからその辺で。まずは医務室に運んで手当をしましょう?」
由貴の助け舟によって、説教はひとまず中断された。
そして、千冬が楯無を担架に乗せて、一夏は虚に肩を貸してもらいつつ担架に乗る。
それを見た楯無から、
「織斑君ずるい!私も虚ちゃんと密着したい!」
という声が上がったものの、その場の全員がそれを軽くスルー。楯無は、担架の上でさめざめと泣きながら運ばれていった。
一方、束のラボである『
一人はこのラボの主である、篠ノ之束。
彼女はISの武装らしきものを鼻歌を歌いながら弄っており、その周りには、機械や工具が散らばっている。
もう一人はというと、
「束様。お食事をお持ちしました」
「おぉ〜!ありがとねくーちゃん!おぉ、サンドイッチだ!さっすがくーちゃん、気が利くぅ♪」
束に食事を振る舞っていた。
束は片手でサンドイッチを食べながら、もう片方の手とマシンアームで恐ろしいほどの精密作業を行っている。
束の前には、スタイリッシュな形状のISの武装が鎮座していた。
「さてさて、最終チェックは終わりだね!あとはIS学園に送るだけだ!」
それを聞いて、くーちゃんと呼ばれた少女は問う。
「それは?」
その問いに、束は答える。
「雪暮の後付武装で、マルチロックオンシステムに対応したミサイルだよ!名前は『暮雨』!今ならセットでマルチロックオンシステムのプログラムもついてくるのだ!」
束の説明の意味を、少女は理解していた。
故に少女は、束に尋ねる。
「何故雪暮の後付武装を段階的に送るのですか?
その質問は、まるでこれから迫りくる脅威の事を知っているかのようだった。
それもそのはず。この少女は、束や一夏と同じく時間を遡行しているのである。
名をクロエ・クロニクル。束のかつての義娘だ。
クロエの質問に、束は答える。
「今いっくんを強くしすぎると、いらない敵まで作っちゃうからね。それに、まだアレは設計図の段階だよ。だから段階的に送っても問題ないのだ!」
それを聞いて、クロエは納得する。
しかし、納得はできても来るのがわかっている脅威に備えない理由にはならない。
クロエは、束に進言した。
「なるほど。ですが、万が一ということもあります。いつ来てもいいように、備えだけはしておいた方が良いかと」
それを聞いて、束は少し考える。
そして、クロエに向き直って言った。
「...そうだね。よし!紅椿も8割位は出来たし、雪暮の武装の方に集中しよっか!」
「はい。そうしましょう」
二人の声と金属音が、ラボに響き続けた。
ラボの片隅では、紅いISが主を待ち続けていた。
今回は、ブラックブレットというライトノベルを参考にして戦闘描写を書いてみました。
女の子可愛いし、野郎はイケメンだし、挿絵は毎回細かいし、内容も好みなのでお気に入りの作品の一つです。
興味がありましたら、是非読んでみてください。