IF一夏と束の話【凍結】   作:吊られた男の残骸

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なんかめっちゃ長くなっとる...
セシリアさんが心なしかチョロくなってる気がするけど陥落してるわけじゃないから許してつかぁさい...




原作1巻 クラス代表決定戦編
第六話 一夏とセシリアと決闘の話


「それじゃあ、SHRをはじめますよー」

 

教室内に、明るい声が響く。

しかし、生徒からの反応はない。

それはある意味当然だ。

世界初の男性IS操縦者たる織斑一夏が、最前列にいるのだから。

 

「私の名前は山田真耶で、このクラスの副担任です。一年間、よろしくお願いしますね」

「はい。よろしくお願いします」

 

副担任の山田先生の挨拶に反応する生徒は、ごく一部だった。

というか、一人だけだった。

その一人こそ、織斑一夏である。

女の園に放り込まれて何故余裕があるのかと言えば、彼が()()()だからだろう。

しかし、二周目といえどもこの環境はやはり辛いものがある。

 

「う...女子生徒の反応が一切ない...じゃ、じゃあ自己紹介をしましょう。相川さんから出席番号順でお願いします」

 

そう言って、山田先生は一歩引いた位置で見守る姿勢に移行した。

それを皮切りに、相川と呼ばれた生徒から自己紹介が始まる。

自己紹介を聞いていると、それがとても懐かしいものに思えてきた。

細かい所こそ覚えていないものの、大筋はかつて聞いたものと同じだからだ。

しばらく聞いていると、山田先生が声をかけてきた。

 

「次、織斑君ですよ」

「あ、はい。」

 

一夏は、返事をして立ち上がる。

それだけの動作ですら、女子生徒たちはじっと見てくる。

その中には幼馴染の箒や、当時は敵対的だったセシリアもいる。

懐かしさを感じつつ、一夏は自己紹介を始めた。

 

「織斑一夏です。IS搭乗歴は一年で、専用機持ちと言うことになってます。趣味は運動と料理で、特技は...そうだな、料理と剣術です。できれば、男子だからって距離を置かずに接してくれるとありがたいな。一年間、よろしくお願いします」

 

事前に決めておいた内容を言うと、女子から歓声が上がる。

恐らく、専用機持ちというワードが効いたのだろう。その歓声は、一周目の時よりも大きい。

そのタイミングで、歓声に包まれた教室のドアが開く。

そして、ドアを開けた女性が声をかけてきた。

 

「それなりに良い自己紹介だったぞ、織斑。他の生徒も、これ位の自己紹介をしろ。いいな?」

 

そう告げた瞬間、一夏の自己紹介と同等以上の歓声が教室を飲み込んだ。

それも当然だ。何故なら、

 

「私がこのクラスの担任を務める織斑千冬だ。私の仕事は、君たちを一年後までに鍛え抜き、IS操縦者としての基礎を徹底的に叩き込む事だ。私の教え方はドイツ軍で教導を行った経験から来ている物だから、学生にはキツいかもしれん。だが、その分実力が向上することは保証しよう。一年間、よろしく頼む」

 

女性の正体は、織斑千冬なのだから。

生徒たちの歓声は止んでいないが、千冬はそれを気にせず、山田先生と会話を始める。

 

「すまんな、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてしまった」

「いえいえ、担任の先生のサポートが副担任の仕事ですから」

 

そして、一夏は違和感を感じていた。

それもそのはずだ。一周目に比べて千冬の態度が軟化している。

更に、山田先生が少し堂々としているのだ。

他にも細かい違いが多々あるが、その辺りはスルーしても構わないだろう。

そう考えていると、千冬が言葉を発した。

 

「自己紹介を進めろ。これではSHRが終わらん」

 

そう言うと、自己紹介は円滑に進み始めた。

これも逆行の影響だろうかと考えつつ、一夏は自己紹介を聞き続けていた。

 

「篠ノ之箒だ。一年間、よろしく頼む」

「まともな自己紹介をしろ、篠ノ之」

「ぐうっ!」

 

なお、本来は一夏が食らうはずの出席簿は、代わりに箒が食らっていた。

 

 

一時間目の授業が終わり、休み時間になった。

それと同時に、箒が一夏に近づいてくる。

一夏は、()()()()()()()()()()()()()()()()

箒は、一夏に声をかけた。

 

「...少しいいか」

「ああ、箒か。久しぶりだな」

 

そう言うと、箒は睨みつけるような視線を向けてくる。

他の人ならたじろぐだろうが、これが軽い驚きの意味を持つ事は知っている。

視線はそのまま、箒は続けた。

 

「話がしたい。廊下でいいか?」

「この状況じゃどこだって同じだろ?移動の時間が無駄だからここがいい」

 

箒は少しむっとしたが、一夏はここぞとばかりに話題を振る。

何故なら、こうなる事を見越して準備していた話題があるからだ。

 

「そういえば、少し前におばさんと会ったぞ」

「何ッ!?」

 

案の定、箒は驚いている。

それを見て、一夏は少しだけ上機嫌になった。

直後、箒は猛烈に問い詰める。

 

「母上といつ、何処で会った!母上は何処にいる!答えろ、一夏!」

「落ち着けよ、箒。会ったのは京都で、中二の時だ。今何処にいるかは分からねぇよ。ただまあ、元気にはしてたぜ」

 

それを聞いて、箒は少し落ち着いた。

周りを軽く見渡すと、ギョッとして固まっている女子が見えた。

しかし一夏は、それを意に介さずに続けた。

 

「あ、そうだ。おばさんからプレゼントを預かってるんだよ。会えるかもと思って、持ってきてるんだ」

「母上が...贈り物を...?」

「おう。ちょっと待ってろ」

 

それを聞き、箒の目には驚愕の色が浮かぶ。

箒の表情から一夏はそれを察し、鞄を漁りはじめた。

そして、目的の物を見つけた一夏は、それを箒の手に握らせる。

 

「あったあった。ほら、これだ」

「これは...?」

「開けてみろ」

 

箒は、恐る恐る小袋を開け、中身を取り出す。

中には、ガラスで出来た球状のストラップが入っていた。

色は赤と白の二色が混ざったもので、美しい色合いをしていた。

 

「北海道に住んでた時期に、おばさんが自分で作ったんだってさ。携帯なんかに付けてみたらどうだ?」

「あ、ああ...」

 

動揺しながらも、箒はストラップを携帯に付けた。

それだけで、飾り気のなかった携帯が華やかに見えた。

一夏は、満足したように言う。

 

「お、いいな。携帯の色に合ってる」

「...そ、そうか」

 

少しだけぎこちなくなりながらも、箒は返事をした。

それと同時に、チャイムが鳴る。

 

「お、もう二時間目か。箒、戻らないとまた出席簿食らうぞ?」

「わ、わかっている!」

 

そう言うと、箒は自分の席に戻って行った。

去り際に、口の端がほんの少し上がっていたのを見て、一夏も釣られて笑う。

そこに、

 

「何をニヤニヤしている。席につけ、織斑」

 

――バシンッ!と小気味の良い音を立てて、一夏の頭に出席簿が振り下ろされた。

 

「...ご指導ありがとうございます、織斑先生」

 

なお、出席簿の威力は一周目より若干弱かった。

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

二時間目の終了後、一夏に声をかける女子が現れた。

その声を聞いて、一夏は振り向く。

振り向いた先には、金髪碧眼のいかにも高貴な雰囲気を纏った女子がいた。

一夏は、少し遅れて返事を返す。

 

「おっと、反応が遅れた。悪いな、オルコットさん」

「ふん...まあ、及第点といった所ですわね」

 

セシリアは、若干不機嫌そうに言い放つ。

それに対して、一夏は用件を尋ねた。

 

「それで、用件は?無いなら飲み物買いに行くけど」

 

少しだけ、雰囲気を変えてそう言うと、セシリアは露骨に不機嫌になる。

そして、見下したような態度で言った。

 

「まあ!何ですの?そのお返事は。わたくしに話しかけられるのも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

一夏は、言われて思い出した。

ここはあくまで二周目で、基本的に好感度はリセットされているのだ。

自己紹介の時点では覚えていたのだが、細かな相違点を発見するのに夢中になっていたために失念していた。

そこで、一夏はセシリアが嫌う物を思い出す。

 

――セシリアは、"軟弱な男"が嫌いだった。

ならば、女性という"強者"を相手にしても、真っ向から立ち向かえる強さを見せれば、態度が軟化するかもしれない。

そう考えて、一夏は強気な口調で言った。

 

「悪いな。初対面の女性は警戒するようにしてるんだ」

「警戒?随分面白い事を言いますわね?男はどう足掻こうとも、女には勝てないというのに」

「どうだろうな。少なくとも、第二世代機の大手と言われるデュノア社の社長は男性だし、世界各国のトップは未だに大多数が男性だぜ?」

 

そう言うと、セシリアの目の色が変わる。

その目には驚きの色が見えた。

直後、セシリアは表情を崩しながら言った。

 

「...なるほど。貴方は軟弱な他の男とは違う。それは認めますわ」

「代表候補生に認められたか。それは光栄だ」

「あら、お世辞が上手いのね。でもまあ、悪い気はしませんわ」

 

露骨に上機嫌になったセシリアは、ふふん。と鼻を鳴らしながら言った。

実のところ、一夏は少しばかり面白いと思っているのだが、それには誰も気づいていなかった。

 

「単刀直入に言いましょう。わたくしは貴方が気に入りましたわ。同じ教室で学ぶ仲間として、切磋琢磨していきましょう?一夏さん」

「ああ、そうだな。よろしく、オルコットさん」

 

一夏がそう言うと、セシリアは微笑みながら返した。

 

「あら、セシリアで構いませんわよ?わたくしは、貴方を友として認めたのですから」

「お、それは嬉しいな。じゃあ遠慮なく、セシリアって呼ばせてもらうよ」

 

セシリアとの()()()のファーストコンタクトは、極めて穏便に終わりを告げた。

箒は若干面白くなさそうにしているが、それはそれ。

気持ちの良い気分で、一夏は三時間目を迎えた。

 

 

「この時間では、実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

凛とした声が、教室に響く。

一時間目と二時間目の授業は山田先生が行っていたが、この授業では千冬が教壇に立っている。

教室内の全員が、真剣に千冬の話を聞いていた。

 

「おっと、その前にクラス代表者を決めなければいけないな」

 

思い出したように、千冬が言う。

それを聞いた一部の生徒は、少し緊張していた。

 

「クラス代表者とは、言ってしまえば学級委員長のようなものだ。再来週に行われるクラス対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席が仕事になる。一度決まれば、基本的に変更は無い。ああ、自薦他薦は問わんが、他薦の際には理由を述べろ。ノリでの推薦は却下する」

 

教室の雰囲気が色めき立つ。

一夏は、この後の展開がある程度予想できていた。

 

「はい!私は織斑くんを推薦します!推薦の理由は、専用機持ちなので他と比べてアドバンテージがあるからです!」

「私もそれがいいと思います!理由は、剣術が特技と言っていたので、対抗戦などで有利になると思ったからです!」

 

それを聞いて、一夏は笑う。

少しずつ一周目とのズレが生じているが、これだけは殆ど変わらなかったからだ。

しかし、ここで何もしなければ面倒な事が起こる。

そう考えて、一夏は言った。

 

「俺はセシリアを推薦します。彼女は代表候補生なので、確かな実力もあるかと」

 

千冬は、三人の意見を黒板に書いた。

 

「ふむ。織斑にオルコットか。他には?」

 

千冬はそう聞くが、特に意見は挙がらなかった。

その様子を見て、千冬は言う。

 

「では、募集はこれで締め切るぞ。どちらがクラス代表を務めるかは、明日までに当事者同士で――」

「織斑先生。少し宜しいでしょうか」

 

甲高い声が、千冬の発言を遮る。

その声の主に、千冬を含めた全員が視線を向けた。

千冬の発言を遮ったのは、セシリアだった。

 

「何だ、オルコット。拒否権は無いぞ?」

「違いますわ。わたくしは、クラスの代表を決める方法にISでの模擬戦を提案します」

 

その言葉を聞いて、千冬と一夏以外の全員が驚愕した。

山田先生も、目を見開いて驚いている。

その状況の中、千冬は口を開いた。

 

「理由は?」

「わたくしは、クラス代表は最も実力のある者が務めるべきだと考えています。実力を測るのなら、ISでの模擬戦が一番効果的であると判断しました」

 

それを聞いて、千冬は暫し考えこむ。

熟考が終わった後、千冬は一夏に尋ねた。

 

「と言うことらしいが、この提案を受けるか?織斑。無論、これはあくまで提案だ。拒否権はある」

 

一夏は、迷わなかった。

 

「受けます。その方が分かりやすいし、いい教材にもなると思いますから」

 

その返答を聞いて、千冬は苦笑する。

それを見た生徒たちは、少なからず動揺していた。

滅多に笑わないと噂の千冬が笑ったのだ。動揺の一つもするだろう。

 

「くくっ、いったい誰に似たのやら...さて、話は纏まったな。模擬戦は一週間後の月曜、放課後に第三アリーナで行う。両者は準備をしておくように」

 

その言葉は、セシリアと一夏にとっては最高のものだった。

互いの闘争心が少しだけ膨れ上がる。

今の一夏は千冬ですらも倒せるほど強くなってしまったため、かつてのような緊張は無いものの、それでも、模擬戦の前に感じる高揚感はそのままだった。

 

「...一つ言い忘れていた。織斑。同学年との試合ではお前の機体の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)と展開装甲の使用を禁止する。お前の操縦技術でアレを使えば、一瞬で試合が終わってしまうからな」

 

そう告げられ、一夏は口の端を釣り上げた。

そして、言う。

 

「元々使う気は無いですよ。ただでさえ俺の機体はオーバースペックなのに、その上で展開装甲なんか使ったら戦力に差がつきすぎる」

「あら。手を抜く気ですの?一夏さん」

「手を抜きたくないから制限を付けるんだよ。そうでもしないと手抜きしても勝てちまうからな」

 

一夏がそう言うと、セシリアの表情が険しくなった。

最後の発言が気に障ったのだろう。

イライラした表情は一向に崩れない。

しかし、その表情は千冬の発言によって容易く崩れた。

 

「織斑の発言は正しいぞオルコット。専用機と量産機の間に埋め難いスペック差があったとはいえ、私は一度、織斑に負けている。これは対等な試合を行うための処置だ」

 

それを聞いて、生徒たちは動揺していた。

織斑千冬(ブリュンヒルデ)に勝てるということは、即ち一夏の実力が世界最強クラスという事に他ならないからだ。

無論、セシリアも動揺している。

しかし、それを隠してセシリアは言った。

 

「一夏さん、わたくしは貴方を打倒してみせますわ。そして、わたくしの実力を証明してみせましょう」

 

それを聞いた一夏は、獰猛な笑みを浮かべる。

そして、セシリアに向かって言った。

 

「ああ。見せてみな、お前の本当の力を」

 

その言葉は、周りの生徒を硬直させるには十分な威圧感を持っていた。

しかしセシリアは、その威圧を直接受けているにも関わらず、気丈に返した。

 

「ええ。お見せしましょう、わたくしの力を」

 

それを見て、千冬は笑みを浮かべる。

 

――どうやら今年の生徒は、鍛えがいがありそうだ

 

そう心の中で告げ、千冬は思考を切り替える。

手を叩いて硬直した生徒たちを再起動させつつ、千冬は言った。

 

「さあ、授業を始めるぞ。席につけ」

 

千冬の指示を聞いて、一夏とセシリアは席についた。

 

――クラス代表決定戦まで、後一週間。

 

 

 

 




次回はどうしたもんか...
箒との特訓にするか、早速模擬戦にするか...ぐぬぬ...

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