IF一夏と束の話【凍結】   作:吊られた男の残骸

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初の戦闘回。
今回はオリキャラも出ますが、特に重要なポジションというわけでもありませんのであしからず。
...今のところは




第五話 一夏と千冬と入試の話

ここはIS学園の第三アリーナ。

火薬の音と、金属がぶつかり合う音が試験会場から漏れ聞こえてくる。

どうやら、今は実技試験の最中であるらしい。

一夏は、落ち着いた口調で呟く。

 

「そろそろ、か」

 

大きな金属音は少なくなり、逆に火薬の音と小刻みに響く独特の音が増える。

聞き間違えるはずもない()()()()()

山田先生の操る『ラファール・リヴァイブ』に搭載されたアサルトライフルが弾丸を放ち、それが絶対防御に当たる音だ。

聞こえる音から察するに、試験官の山田先生が押しているのだろう。

それを証明するかのように、ブザーの音が聞こえてきた。

前の受験者の試験が終了したのだろう。

そう一夏は考えた。

1分程待った後、誰かと通信していた優しげな女性が声をかけてきた。

 

「織斑君。後10分で実技試験を始めるから、それまでに準備を済ませてね」

「大丈夫です。ISスーツはありますし、後は機体を纏うだけですから。それにしても、何故時間を空けるんですか?」

 

一夏は、その答えに予測がついている。

応急のメンテナンスと、エネルギーの充填にそれ位の時間がかかるのは経験で把握していた。

しかし、帰ってきた答えは予想を裏切るものだった。

 

「織斑先生の準備に時間がかかってるみたいなの。織斑君が到着した後に織斑先生宛にIS用の近接ブレードが届いて、"これを織斑先生の機体に搭載して、織斑君と戦わせろ"って指示が出たの。だから織斑先生のISを調整してるのよ」

 

それを聞いて、今朝試験会場まで送ってくれた束がニヤニヤしていた理由を知った。

恐らく、その近接ブレードというのは劣化版零落白夜とも言える機能を搭載したものだろう。

一夏は、ため息を吐きながら言った。

 

「束さんも余計なことを...つくづく山田先生とは縁がないな...」

 

一夏は、山田先生とマトモに戦ったことがない。

入試では戦ったものの、アレは山田先生が自滅しただけで、戦いにすらなっていなかった。

しかしその発言は、漏らしてはいけないものだった。

 

「え?何で織斑君が山田先生を知ってるの?それに、つくづく縁がないって?」

 

――不味い。

言われてやっと失言に気づいた一夏は、急いで言い訳を考える。

そして思いついたのは、ある一つの事実だった。

 

「いや、千冬姉に名前は聞いてたんです。酔った千冬姉が家に連れてきたことも何度かあったみたいなんですが、決まって俺が居ないときでして」

 

実際、こんな出来事はあった。

 

――夏休みのある日、一夏が弾の家に泊まって帰ると、テーブルの上に妙に纏まった酒類の空き缶があったり、作った覚えのないつまみと洗った覚えのない食器があったり、千冬の横にタオルケットが置いてあったりと、千冬にしては不可解な事があったので、目覚めた千冬に聞いたのだ。

すると千冬は、こう返した。

 

「一夏が知らんということは、恐らく山田くんがやったんだろう。山田くんはこういう事に気が利くからな」

 

それと似たようなことが冬にもあったため、その話を利用したというわけだ。

しかし、優しげな女性はなおも問い詰める。

 

「じゃあ何で山田先生が試験官をやっているって分かったの?」

 

それを聞いて、一夏は回答に詰まる。

そこで思いついたのは、束と一夏が()()()()()()()()()()IS学園に来たという事実。

それを少し脚色して話す事にした。

 

「俺が束さんと一緒に空路で来たのは知ってますよね?しかも試験中に」

「流石に知ってるけど、それが何?」

「その時、空から見物してたら見つけました。遠目だったので細かいところは分からなかったんですけど、試験官を担当する事とある程度の特徴は千冬姉に聞いてたので」

 

そう言うと、優しげな女性は少し考え込む。

そして、観念したように言った。

 

「なるほど。一本取られちゃいましたね」

「これで合格という事には?」

「なりませんよ?」

 

一夏の冗談は、即座に打ち消された。

直後、スピーカーから女性の声が聞こえた。

 

「試験の準備が完了しました。次の受験者は、第三アリーナまでお越しください」

 

その声を聞いて、一夏は立ち上がる。

そして、優しげな女性に向かって言った。

 

「時間です。じゃあ、次は試合後にでも」

「うん。また後でね、織斑君」

 

それを聞いた一夏は、一礼して自動ドアの向こうに去っていった。

それを見て、優しげな女性は言った。

 

「姉弟対決か...勝敗がどうなるか、ちょっと楽しみかも」

 

 

「来たな、一夏」

 

アリーナに入って早々、千冬が鋭い口調で言った。

しかし、この程度は日常茶飯事である。

一夏は慌てず、堂々と言った。

 

「勝つぜ、千冬姉」

 

その言葉を聞いて、千冬は一瞬獰猛な笑みを浮かべる。

あれは千冬が本気を出す時の癖だ。

そこから考えるに、恐らく同じ条件で戦えばすぐに負けてしまうだろう。

しかしそれは、()()()()()()()()()()の話。

一夏が思考していると、千冬が言った。

 

「出来るものならやってみろ。なんなら束に与えられた専用機で来ても構わんぞ?」

 

それを聞いて、一夏は驚愕する。

アレはオーバースペックの塊。そう簡単に見せられる物ではない。

実際、周りにいた教師たちはどよめいている。

その為、一夏は確認する。

 

「いいのか?」

「ちょうどいいハンデだろう?私も雪片系列の武器を搭載しているんだ。お前も全力で来い」

 

そう言われて、一夏は覚悟を決める。

恐らく束は、これも見越していたんだろう。

ならば、専用機を使っても問題ないはずだ。

 

「...分かった。行くぞ、雪暮」

 

束の事だ。派手な演出が望みなのだろう。

そう考えた一夏は、機体を少しずつ展開した。

両足、腰、両腕、非固定浮遊部位、そして頭部。

イメージするのは、プ●キュアの変身だ。

どよめく教師の中に、ハッとしたような表情をした人がいた。

イメージした物に心当たりがあったのだろう。

そして、その話は拡散し、今度は別の意味でのどよめきが起こる。

それは収まる気配を見せないため、一夏は勝手に出撃。千冬の正面で静止した。

 

正面に浮かぶ千冬は打鉄を纏っており、右手には束が作ったであろう近接ブレードを携えている。

対する一夏は、専用機である雪暮を纏っており、右手には雪片終型を携えている。

両者は、鏡写しのようだった。

 

「ふむ。久しぶりに見たが、中々似合っているぞ」

「束さんプレゼンツだからな。似合わない方がおかしいんじゃないか?」

「違いない。さて、そろそろ始めよう。先生、お願いします」

 

姉弟としての軽い雑談の末、千冬は中継室でフリーズしていた先生に声をかけた。

すると、先生は即座に正気を取り戻し、定型文を読み上げる。

 

「これから、IS学園入試の実技試験を始めます。試験内容は試験官との模擬戦。勝敗が合否の判定基準にはなりません。胸を借りるつもりで挑むように。では、始め」

 

試合開始を告げるブザーが鳴り響く。

それと同時に、二人は同時に斬りかかった。

人外の膂力にパワーアシストが加わり、人機一体となった二人が振るった刃は衝突し、甲高い金属音を響かせる。

 

「やるな一夏。並の相手ならこの一撃で終わっているところだぞ!」

「そいつは...どうもッ!」

 

一夏は左手に吹雪を展開。射撃形態に変形させ、荷電粒子砲を撃つ。

しかし、それは読まれていたらしく、腹を蹴られて回避される。

後方への瞬時加速。それは、一撃離脱を得意とした千冬の十八番の一つだ。

だがそれは、一夏の得意技でもある。

 

「逃がさねぇ!」

「ッ!」

 

故に、当然弱点も知っている。

それは、通常の瞬時加速に比べて速度が出ない事だ。

その場での反撃を回避するには十分だが、突っ込んでくる近接格闘機相手には通じない。

 

「うおぉぉぉぉっ!」

「ちぃ...ッ!」

 

――ガキィィン!!

崩れた態勢で振るわれた剣を、一夏は左手の吹雪で迎撃。即座に右の雪片終型を振るう。

流石に弾かれた状態から防ぐ事は出来ず、千冬はダメージを食らう――

 

「甘いッ!」

 

――ことは無かった。

恐ろしい程の速度で葵を展開した千冬は、瞬時に雪片終型と切り結ぶ。

流石に堪えることこそ出来なかったが、ダメージはずっと少なく抑えられた。

一夏は、千冬の技量に舌を巻く。

 

(流石に世界最強。今のままじゃ敵わないな...だったら!)

「使うぞ、切り札その一だ」

 

そう言って、一夏は装甲を展開した。

それを見た観客はどよめくが、そんな事はもう気にも留めず、一夏は二段階瞬時加速(ダブル・イグニッション)で突撃する。

 

「お...らぁっ!」

「くっ!」

 

流星の如く迫ってくる一夏を、千冬はギリギリで回避した。

無論、無茶な機動をした千冬はダメージを負っているが、直撃を食らうよりは遥かに低いダメージだ。戦闘続行に影響はない。

だが、

 

「行け、日暮!」

 

ビットによる射撃が、千冬を襲う。

それを回避する事その物は、難しいわけではない。なにせAIに偏向射撃(フレキシブル)は出来ないのだから。

だが、そこに使用者である一夏の攻撃が加われば話は別だ。

ビットで退路を塞ぎ、荷電粒子砲で牽制。そこに超スピードでの突撃。

そのコンビネーションを食らうたびに、着々とシールドエネルギーが削られていく。

暮桜(専用機)であればまだしも、打鉄(量産機)では勝ち目は無い。

それでも千冬は――

 

「『雪断』開放」

 

――戦う道を選んだ。

元々シールドエネルギーは残り少ない。

どうせならば斬り合いで終わらせたいと、千冬は考える。

それは、唯一の千冬の意地だ。

手の中の剣を、(一夏)に向ける。

 

「これが、織斑千冬(世界最強)の最後の一撃だ。受けてみせろ、一夏」

「ああ。来い、千冬姉」

 

一方、一夏も構える。

それはかつて千冬と箒に教わり、そして一夏が数百年もの間、戦いの中で練り上げた『一閃二断の構え』。

千冬の攻撃を弾き、そして斬り伏せる。

一夏はその意志を雪片に込め、

 

()()()()、発動」

 

最後の切り札の名を告げる。

 

互いに準備は整った。

 

((後はただ、振り抜くのみッ!))

 

「うおぉぉぉぉッ!」

「はあぁぁぁぁッ!」

 

一閃。

千冬と一夏の斬撃が互いの刀を弾き飛ばし、姿勢を崩す。

そして再び、刀は閃き――

 

「試合終了。勝者――織斑一夏」

 

一夏は、千冬を斬り伏せた。

 

 

ピットに戻ると、驚愕の渦が一夏を飲み込んだ。

 

「まさか織斑先生に勝てる人がいるとは...」

「弟も強かったんだ...」

 

それは、ある意味では当然の反応だ。世界最強のIS操縦者と、()()()()IS搭乗歴1年程度の男が対決しても、誰も男が勝てるとは思わないだろう。

しかし、一夏はその予想を覆したのだ。

 

そこに、先程の女性がやって来る。

 

「お疲れ様。まさか勝っちゃうとは思わなかったわ」

「俺もですよ。千冬姉の機体と俺の機体の間にスペック差があったとはいえ、正直勝てる気はしませんでした」

 

それを聞いて、周りで驚いていた女性たちは少し納得する。

そう。千冬はあくまで量産機だったのだ。

それを考えれば、一夏は盛大なハンデ付きで勝ったも同義。

更に言えば、一夏には数百年分の経験がある。

機体性能、経験、慣熟度合いが大幅に上を行くのなら、一夏が勝つのは自明の理だ。

 

「はい、プレゼント。スポーツドリンクは好き?」

「あ、はい。ありがとうございます」

 

感謝の言葉を言いながら、一夏はスポーツドリンクを受け取った。

それと同時に、女性はくすりと笑う。

一夏は、その理由が分からなかった。

 

「何で急に笑ったんですか?」

「ああ、ごめんね?戦ってる間は凄く格好良かったんだけど、こうして見ると普通の男の子だなぁって」

 

それを聞いて、一夏は複雑な心境になった。

数えるのが面倒だから数えるのは止めたが、これでも数百年程生きていたのだ。

それなのに普通の男の子と言われれば、少しショックではある。

しかし、それと同時に若く見られるのは嬉しいという気持ちもある。

故に、両方の気持ちが混ざっているのだ。

しかし、内心の動揺を見せずに一夏は言った。

 

「そうですかね?戦いながら鏡を見た事はないので分からないんですけど...」

「ふふっ、言われてみれば私もないや」

 

仲睦まじげに談笑する二人。

他愛もない会話だが、もしやそういう関係かと邪推してしまう人がいるのも無理はない。

距離感が非常に近いのだ。

例えるのなら、幼い頃から近所に住んでいるお姉さんのような距離感と言えばいいのだろうか。

少なくとも、周りからはそのように見えた。

しかし、その予想は完全に間違っている。

何故なら一夏は、

 

「あ、そういえば名前って...」

「ああ、言ってなかったよね。私、葉村由貴って言うの。3年間よろしくね?」

「はい。よろしくお願いします」

 

彼女の名前すら知らなかったのだから。

その事実を知って、周りの女性たちは心の中でずっこけた。

一部の人は体ごと転んでいる。

それと同時に、盛大なツッコミが入る。

 

((あんだけ距離感近いなら名前くらい知ってろよ!))

 

尤も、口に出したわけではないため一夏には伝わっていないのだが。

それを知らず、二人は楽しげに話している。

しかし、それも終わる時が来た。

 

「あ、そろそろ仕事に戻らなきゃ。じゃあね、織斑君」

「はい、葉村先生。また今度」

 

由貴は、特に名残惜しいような表情も見せずに去っていった。

その一方で、一夏は周りの女性たちに向けて言った。

 

「皆さん、仕事は大丈夫ですか?」

 

それを聞いて、女性たちは焦る。

当然だ。

試合前は専用機のことで騒ぎ、試合中は千冬と一夏の姉弟対決に興奮し、試合後は由貴と一夏の会話に聞き耳を立てていただけで、特に仕事もしていなかったからだ。

バレたら大目玉は確実である。

しかし、そんな事を知らない一夏は、

 

「じゃあ、俺はこれで。お疲れ様です」

 

そう言ってアリーナを出ていった。

 

――後に残された女性たちは大慌てで言い訳を考えていたが、その努力も虚しく減給を言い渡されるのはまた別の話。

 

 

 




戦闘描写むりぃ...
誰か教えてくれないもんですかね...

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