この前の弾幕ごっこは残念な結果で終わってしまった。
フランドール共々医務室送りにされ、そこで睡眠をとった。
よく考えると檻の外で寝るのは貴重な体験かもしれない。
あの弾幕ごっこについてだが、咲夜の話によると残機というものがあるらしく、フランドールと奴隷は残機一で行っていたようだ。
それでも実質引き分けなので、奴隷が妹様相手に引き分けに持ち込むなど、と咲夜は驚いていた。
そんな体験をした奴隷は、いつも通り廊下と部屋の掃除をしていた。
「(明日は外掃除か。楽しみだな)」
外の掃除は過酷だが、美鈴と会話ができる。
あの時スペルカードのことが分かっていたのも美鈴のおかげだ。
好意的な感情は一切湧かないが、この世界のことを知るのには美鈴に聞くのが一番だ。
大抵の事は答えてくれる。
雑巾を絞り、本日のノルマは達成する。
あとは咲夜を待つだけ。
どの部屋にも脱出に役立つものがないのでこの時間が暇だ。
部屋の扉が開く。
しかし、そこにいたのは咲夜ではなくレミリアだった。
「ここにいたのね奴隷。貴方に話があるわ」
「…何でしょうか?」
紅魔館の主が直々に話があるなんて嫌な予感しかしない。
もし、食料になりなさい、的なことを言われたら背後にある窓を突き破るつもりだ。
だが、レミリアが話した内容は想像と全く違った。
「明日ここで宴会をやるから、咲夜の手伝いを命じるわ。調理場はわかるでしょ?」
「…分かりました」
掃除道具を片付けて調理場へ向かう。
「(宴会?なんかあったのか?)」
疑問に思いながら調理場へ入ると、既にいた咲夜の背中が視界に映った。
「レミリア…お嬢様の命令で来た。何を手伝えばいい?」
「助かるわ。奴隷、料理はできるかしら?」
「一人暮らし舐めんな」
咲夜に頼まれ、料理を開始する。
今から作って冷めないか?と質問したが、パチュリー様の魔法で温度は戻せるから大丈夫よ、と返された。
魔法って便利。
紅魔館はガスも通ってないのか、火をつけるのに時間がかかった。
「…外の世界より使い勝手が悪いかしら?」
突然咲夜がそう言った。
「家にあるやつはボタン一つで火がつく」
「それは便利ね」
火をおこし、その上に鍋をのせる。
煮えるまで何もしないのもあれなので、咲夜と会話を始める。
この際、分からないことを質問してみよう。
「メイド長らはよく“外の世界”と言うが、ここは日本じゃないのか?」
レミリアやフランドール、パチュリーや美鈴などを見て、一目で外人っぽいとわかるも、日本語が通じている。
「…そうね、ここは確かに日本よ。でも日本の地図には載ってはいない」
「なんだって?」
「ここは
「幻想郷…」
確かに、そんな地名は聞いたこともないし、地図にも載っていない。
「なら、レミリアやフランドール、パチュリーや美鈴は忘れ去られたもの…なのか?」
「…まぁ、そうね。お嬢様達は妖怪だもの、科学が発展している外の世界では忘れ去られるはずよ」
「妖怪…」
確かに外の世界では妖怪などというものは迷信となっている。
現在では様々なことが科学で解明されて、そういう古い文化がどんどん失っている。
「いや、待てよ?メイド長は人間のはず。俺も人間だけど、人間もこの…幻想郷に流れ着くのか?」
「私は違うわ。私はお嬢様を追って…私のことはいいわ。貴方はおそらく存在が忘れ去られたから幻想郷に流れ着いたと思うの」
「俺が?」
こう見えて、アルバイトしていた。
友人もいるし、とても存在が忘れ去られる環境じゃないはずだ。
「迷い込んだ時のスタートは、殆どは無縁塚からなのよ。貴方は紅魔館周辺の森にいた。だから迷い込んだ、ということはないと思うわ」
「…忘れ去られるなんて絶対ない。てか普通にない」
「断言はできないでしょ?未来は分かるものじゃないから…」
そう言って、咲夜は料理を保管庫まで持っていった。
奴隷も料理を作り終え、保管庫まで運ぶ。
「お疲れ様。これで大丈夫よ」
「メイド長もお疲れ様。じゃあ、俺は戻るとするか」
奴隷は檻の中へ戻る。
ベットに入り、咲夜が言っていたことをまとめてみる。
「(ここは幻想郷、忘れ去られたものの楽園…か。そしてレミリア達は妖怪なのか。ならあの強さも頷ける)」
血を吸う行為から、おそらく吸血鬼かなと予想する。
「(後は…何故俺がここに来たか、だ。あの日は初めての酒を飲んだ日…酔ってここに来てしまったのなら他にも沢山迷い込むはずだが…)」
これ以上考えても何も思いつかないことを知り、奴隷は深い眠りについた。