最終手段がリスク無しとは限らない
レミリアの部屋の前に割られた皿が散らばっている。
「はぁ…」
溜息をつくも、奴隷は箒とチリトリを用意して片付ける。
そっと部屋の扉に耳を当てると、
「〇♨︎▓█✕…△←☟!」
意味が分からない独り言が聴こえてくる。
これが最近のレミリアの毎日である。
ここは主に咲夜と奴隷、たまに副メイド長が担当している。
掃除を終え、咲夜がいる厨房へ入る。
「手伝おうか?」
「そうね…皿洗いを頼むわ」
「分かった」
並べられた皿をスポンジで洗う。
「皿が減ったな」
「…」
咲夜は無言だった。
奴隷は構わず続ける。
「皿代が馬鹿にならん。財政難に陥るぞ」
「…お金にうるさいのね。それは外の世界の考えかしら?」
「そうかもな。こう皿を割られまくると、自然とそう考えてしまう。実際、皿は高いんだ。買い物している俺が言うから間違いはない」
「そうね。このままお嬢様があの調子なら、紅魔館の財政難は避けられ用がないわ。でも、どうすればいいと言うのよ…」
咲夜が悩むのも分かる。
奴隷達はあらゆる方法でレミリアを立ち直させようと努力した。
しかし、その結果はほとんど失敗に終わった。
何とか奴隷と美鈴を牢から出す解放令を言わせたのが最大の成果だった(最も、咲夜の手引きにより解放令前から二人共牢から出ていたが)
あれ以来進展が無く、今は時間によって解決することを天に祈っている状態にある。
「正直、私はこのままでは駄目だと思うわ。お嬢様は妹様をこよなく愛していた。それ故、失った時の悲しみは大きい」
「そうだよな…。レミリアの気持ちは分かる。俺も同じ様な体験はしたからな。でも、ここは人間と妖怪の違いかな」
奴隷は、昔図書館で読んだ幻想郷縁起内容を思い出した。
「えーと…妖怪は、人間よりも肉体が頑丈であり、五体がバラバラになる様な事があっても、すぐに治癒する。まぁ、これは分かる。妖怪は、人間よりも信念に作用されやすく、精神的なダメージが致命傷となる…問題はこれだな」
人間では立ち直れるレベルの悲しみも、妖怪にとっては相当な致命傷なのだろう。
それがどれほどなのか、レミリアを見れば分かる。
「肉体面での怪我なら治せるけど、精神面での怪我は治せない」
八意先生はそう言っていた。
続けて、
「誤魔化す事は出来るわ。ただし、一度これを使うと…これ無しでは生きていけない体になるわ」
奴隷は永琳が持っている、試験管内に入っている液体の正体に気づいた。
外の世界で投与すれば即御用となる…麻薬だった。
「それは…駄目です。危険な薬です。それを使えばレミリアはレミリアじゃなくなります」
奴隷は首を振って拒否をした。
ニュースでしか見たことないのだが、麻薬を使用した者は皆おかしくなっている(そこから立ち直った人もいるようだが)
「そろそろ食事の準備をしなくてはいけませんので、ここらで失礼します。今日はありがとうございました」
奴隷は椅子から立ち上がり、背を向けた。
「待ちなさい」
永琳は奴隷を止めた。
「頭の片隅に残しておいて。あの精神状態では、いづれ自滅するわ。だから
奴隷はしばらく固まっていた。
それから、
「貴重なご意見をありがとうございます」
奴隷は永遠亭を出て、道案内の妹紅に着いていく。
人里に着くまで、奴隷は薬を使うか使わないか、激しく悩んでいた。