見事三代目博麗の巫女本人を無鬼夜行から引き剥がし、奴隷の程度の能力で(数多の妖怪の支援を受けながら)無鬼夜行本体は完全に消滅した。
即ち、異変が終結したという事になる。
ここまできて、この先何が始まるかは容易に想像がつく。
博麗神社で行われる宴会が始まるのである。
普段動かない妖怪も、この時だけは手が早い。
その光景を眺めてた一人の妖怪があることに気づいた。
「あれ?
「おいお前。今はそいつらの話をしない方がいいぞ」
「何でー?」
「何でもだ。ほら、準備をしろ」
「はいはい…」
宴会は何事もなく始まったが、幻想郷のパワーバランスを担う一つの勢力が参加していいなかった。
それが先程妖怪が言った、紅魔勢であった。
紅魔館の地下牢。
奴隷と美鈴はそこにいた。
異変が終結し、奴隷は永遠亭へと戻った。
しかし、そこには妹を失ってやつれていたレミリアが待っていた。
重傷である美鈴を引きずり、二人に地下牢行きを命じた。
奴隷は美鈴をいち早く安静にするために、反抗せずに応じた。
地下牢へと入れられると、すぐに美鈴を一つしかないベッドの上に寝かせた。
それから三日は経っただろうか…。
目を覚ました美鈴と朝食を兼ねて聞いてみた。
「体の調子はどうだ?」
「大分良くなりました。今日はベッドで寝てもいいですよ」
「悪いな。…ところで、美鈴の外見についてだが」
「ああ、気になります?」
少し鱗が浮き上がっていて、数本の角が生えている。
その見た目は子供でも想像できる。
「私は龍なんですよ。といっても、まだまだ若くて龍神様みたいに天を割る事などは出来ませんが…」
「へぇ、普段は全くそうには見えないな」
「普段はプレートによって封印しているんですよ。三代目様となれば本気を出さざるおえなくて」
美鈴は苦笑した。
美鈴から聞きたいことはたくさんあった。
好奇心をそそる話で、ご飯十杯は行けそうな勢いだったが、檻の外から声をかけられたので中断せざる負えなかった。
「奴隷、お客様よ」
咲夜の声と共にルナサが入室した。
「ルナサっ!?何しにここへ!?」
「二人を解放するために来たわ。紅魔館の人じゃこの牢は…開けられないでしょ?」
ルナサはクスリと笑った。
隣の咲夜も同じ表情を浮かべた。
奴隷と美鈴は顔を合わせて笑い合った。
深夜の博麗神社。
宴会騒ぎも既に終わり、いつもの静けさを取り戻していた。
その神社の縁側で二人の男女が顔を合わせていた。
霊夢と奴隷である。
「う…酒はちょっと」
「なーに言ってるのよ。能力の暴走なんて、それほど扱えればないない」
しばらく酒瓶と睨み合っていたが、
「負けたよ。巫女様の勘が当たっていることを願って」
御猪口に入った酒を一気に飲み干した。
久々の酒の味を堪能し、長い息をつく。
そして切り出し口に、
「あの時は俺を止めてくれてありがとう。もし止めてくれなかったら、心の中にある大事なものが失っていたと思うよ」
「感謝されるまでもないわ。礼ならあの騒がしい楽団のリーダーに言ってちょうだい。『奴隷が何かをしでかすかもしれない』と警告してきたのはそいつなんだから」
霊夢にあの日の事を色々と聞かされた。
無鬼夜行から引き剥がした三代目博麗の巫女については、紫の手によって焼却後、埋葬されたらしい。
「ところで、レミリアの様子はどうなの?」
「…!」
奴隷の動きが止まった。
レミリアの様子…。
「レミリアは部屋に引き篭もっているよ。食事はちゃんととってあるようだけど、毎回皿を割って返してくるらしい。それに独り言もうるさいんだとさ。メイド妖精はおろか、メイド長まで文句を言ってるぜ。あのままじゃあ、紅魔館がどうなるかわからないな」
酒も入って、少し愚痴が混じる。
顔が紅潮した霊夢は、それを黙って聞いていた。
やがて口を開いた。
「実の妹を失ったなら、そうなるのも無理はないわ。妖怪は精神が弱いもの、発狂して暴れ回られるよりはマシよ。
霊夢は少し寂しい様子だった。
「ひょっとして、誰かを思い出してる?」
「ああ…ママの事を思い出していたのよ」
「家族か…」
奴隷も母親の事を思い出した。
十八歳になった日に突然いなくなった母親。
「(あーやだやだ、嫌な思い出だ)」
奴隷は溢れるまで酒を注ぎ、それを飲み干した。
酔いが回ってろくに思考できない。
「ちょっとー、どれー?」
霊夢の声を最後に、奴隷は突っ伏して爆睡した。