一番先に反応したのは美鈴だった。
彼女は奴隷とフランドールを抱えてその場を飛んだ。
次の瞬間、無鬼夜行の攻撃が先ほどいた場所を襲った。
奴はしつこく追いかけてくる。
奴隷達は構えた。
無鬼夜行は飛びかかってきた。
美鈴は拳を振るい、無鬼夜行を弾き飛ばした。
無鬼夜行の行動パターンはそれほど複雑ではない。
飛びかかり、力任せに叩きつける等読みやすいのだ。
その事は奴隷も分かっていた。
奴隷は月傘を開かずに回避に専念した。
四つん這いの無鬼夜行は地面を叩きつけ、奴隷に向かって突進した。
奴隷は横に走ってそれを避け、木にぶつかって怯んだ無鬼夜行に向かって発砲した。
美鈴は無鬼夜行に上から押さえつけ、フランドールが片手を突き出した。
それは破壊の構え。
握れば全てが終わる…のだが、フランドールは握れなかった。
奴隷はフランドールの元につき、握れない手を覆った。
「一緒に握ってやる!」
握らせまいと無鬼夜行は抵抗したが、二人の力によって握られた。
無鬼夜行の中の何かが壊れた音が響いた。
激しく痙攣し、そのまま力なく倒れた。
「た、倒したのか」
奴隷は安心感に包まれ、腰を抜かしたように地面に座った。
フランドールも同じ姿勢になった。
美鈴はパチュリー様に無事を伝えると言い、紅魔館へ戻って行った。
奴隷はフランドールに、
「こんな化物が封印されてたなんて驚きだな」
「簡単に握れなかった奴って、こいつが初めてよ。いつもは簡単に破壊できるのに」
「お、おお。無闇に壊すんじゃないぞ」
紅魔館に戻る事にし、門をくぐった。
「?」
奴隷は何かを感じて振り向いた。
見ると、無鬼夜行が起き上がっているではないか。
「フランドー…!」
先程まで動物のような外見をしていた無鬼夜行だったが、何と二足歩行で立ち上がり、人型になっている。
平べったい物をこちらち向かって投げたのを見た。
奴隷にはフランドールを突き飛ばすことが限界だった。
平べったい物…一枚の札は奴隷の腹に刺さり、軽い爆発を引き起こした。
フランドールが行動を移す前に、無鬼夜行は素早くフランドールの懐に入った。
フランドールはぶるりと震えた。
これまでの人生の中で、地下室に居たのが殆どだったフランドールにとって、向けられた純粋な殺意に恐怖を感じた。
「あ…あ…ど、どれ」
フランドールは倒れている奴隷に助けを求めたが…。
直後に無鬼夜行に胴体を貫かれた。
そこには弾幕は存在しなかった。
奴隷が悲鳴で目を覚ました。
「フラン…ドール…?」
倒れたフランドールは反応しない。
奴隷の中の何かが爆発した。
奴隷は月傘を掴むと、痛む腹を気にせず突撃した。
大量に弾幕をばら撒いた。
殆ど反則に近い量の弾幕を。
しかし、無鬼夜行は全てを防ぎ、奴隷の元へ向かっていく。
奴隷は次第に追い詰められていた。
「(まずい、このままじゃ死…!)」
そう思った時、無鬼夜行の背後から美鈴が渾身の蹴りを放った。
「奴隷さん、今すぐ妹様をここから離してください!」
「しかし、それじゃ美鈴が!」
「もとよりこの命、すでにお嬢様に捧げています。殿の覚悟などとうに出来ています」
「美鈴!」
「行ってください!」
奴隷はフランドールを抱えて紅魔館から逃げた。
それを確認すると、美鈴は帽子から『龍』と彫られているプレートを引きちぎった。
「無鬼夜行…いえ、貴女と戦うのはいつぶりでしょうか」
美鈴は拳を固く握りしめる。
無鬼夜行は変化していく美鈴から危険を察知した。
両手に札を揃え、美鈴に襲いかかる。
「さあ、かかってこい!…三代目博麗の巫女!」
両者が放った一撃はぶつかり、紅魔館を揺らした。
この場だけが、昔の幻想郷を再現していた。
一方、紅魔館から逃げた奴隷は辺りをうろついていた。
「誰か、誰か!いないのか!?くそっ、このままじゃ…」
フランドールが死んでしまう。
奴隷には空を飛ぶことも出来ず、さらに永遠亭の場所すら知らない。
大量に分泌されていたアドレナリンが収まったことで、腹の痛みに襲われるようになった。
そんな奴隷の前に、三人の幽霊が現れた。
「頼む、フランドールを救ってくれ!」
そう言うと、三人の幽霊はにっこりと微笑んだ。