はじめに気づいたのは妖精だった。
チルノはいつものように霧の湖を凍らせてゆく。
その過程で蛙を凍らせた。
「あれ?」
凍らせたのは蛙かと思ったら、それは全く別のものだった。
一枚の札のようだ。
チルノは興味無さそうに、凍らせた札を放り捨てる。
そして、視界を再び水面に映すと、奇妙な光景が目に映った。
大量の札が水面に浮かんでいるのだ。
不気味に思ったチルノは、霧の湖を凍らせるのを止めて逃げ出した。
勿論、霧の湖付近にある紅魔館がこれに気づかないはずがない。
レミリアは紫に伝えるために、奴隷は再び残党狩りに戻った。
「昨日まで浮かんでなかったよな…」
残党狩りの四人は、長めの棒を持って札を手繰り寄せる。
一枚一枚確認するが、文字は水によって溶けたせいで読めない。
水中までは目が届かないので、わかさぎ姫という妖怪に協力を要請した。
彼女は霧の湖に潜った。
しばらくして、わかさぎ姫が上がってきた。
「霧の湖の底に穴が空いていました。…長年ここにいますが、初めて見ましたわ」
「穴?そこが発生源くさいな」
四人は話し合い、直接現場に行くことに決める。
紅魔館からゴーグルを一つ持ってきて、先に妹紅に渡す。
「先に言って火でも焚いてるよ」
妹紅とわかさぎ姫が霧の湖に潜る。
次に奴隷が、わかさぎ姫に手を引かれて潜る。
確かに、霧の湖の底には穴が空いていた。
穴をくぐり、洞窟に出る。
濡れた体を温めようと、妹紅の火に手を伸ばす。
「うっ…酷い臭いだ」
紅魔館で嗅いだことのある…腐臭だ。
椛が水面から上がってきた。
「この臭い、先に死体があるということですか」
鼻をひくひくと動かしながら答える。
「札が大量に浮かんだ事と関係があるかな?」
「さぁ…」
椛は肩をすくめてみせた。
最後に妖夢が上がり、全員が集合した。
わかさぎ姫とは一旦別れて行動する。
妹紅を先頭に、奴隷達は奥へと進む。
腐臭も強くなっていく。
しばらく進んでいると、行き止まりについた。
「臭いの元はもう少し先なんですが…うーむ」
椛は犬のように臭いを嗅ぎ分ける。
奴隷は目の前に塞がっている岩を押してみた。
「ん、少し動いた。妹紅、手を貸してくれ」
妹紅と力を合わせて岩を動かした。
天井が崩れたが、妖夢がカバーをする。
「あれが元か」
死体が一つ転がっている。
妹紅は屈んで、注意深く観察した。
「この切り傷は妖怪によるものだな。そして骨が砕けてる。強い力で投げられたに違いない」
「妖怪?正邪を殺した時の?」
妹紅は首を振って否定した。
「いや、あいつの死に方とこいつの死に方は一致しない。同一人物ではないと思う」
突然、背後から物音が聞こえた。
妖夢が素っ頓狂な悲鳴を上げる。
「よ、妖夢?」
妖夢は我に返り、慌てて駆け寄る奴隷を静止した。
「大丈夫、幽霊なんて怖くないですから」
「いや、そこまで聞いてない」
妖夢が大丈夫なのを確認して、物音がした方を振り返る。
物音の正体は、瀕死の妖怪が這いずっていた音だった。
「おぉ…残党…狩りか…」
途切れ途切れの声で話す。
声を出すのもやっとのようだ。
「針妙丸の妖怪か。…ここで何があった?」
瀕死の妖怪は薄く笑った。
「はっ、今更あんたらなんか…怖くない!俺は本物…あぁ、思い出しただけで…鳥肌が立つ」
瀕死の妖怪は続ける。
「あれこそ…本物の妖怪だ…。はは…あんたらには、あれは止められない…」
最後に笑い始め、後にスイッチを切ったかのように動かなくなった。
「死んだか。それにしても、本物の妖怪ってなんだ?」
妹紅は少し考えたが、思いつかなかったようだ。
「さあ?長年生きてきたけど、そんなような妖怪は見たことないな」
「…幽霊じゃなければなんでもいい」
妖夢は小さな声で言ったが、奴隷達には聞こえなかった。
死んだ妖怪の血の跡を辿り、奇怪な空間を目にした。
壁はおろか、天井や地面まで札だったのだ。
霧の湖に浮かんだあの札はここの札に違いがない。
「何とまあ…札だらけだな」
一枚剥がそうと試みたが、途端に弾かれた。
妖夢が札を見る。
「かなり昔のものですが、今でも封印は衰えていませんね。少なくとも、浮かんだ札を除けば」
刀を振り下ろすも、それすらも弾いてしまう。
椛と妹紅も試してみたが、結局剥せなかった。
奴隷は辺りを見渡し、一枚の紙が落ちていることに気づいた。
拾い上げて見ると、そこには博麗に代々伝わるインチキな封印の解除法が描いてあった。
その通りにやってみると簡単に札を剥がせた。
「よし、外で調べよう」
これ以上収穫がないことを確認して引き返す。
その帰り道、椛の目が鋭くなった。
彼女は岩の隙間に手を伸ばし、何かを掴む。
その何かを見て奴隷達は驚愕した。
椛が掴んだのは針妙丸だった。