残党狩りは各々帰った。
針妙丸を撃退したことから、弱小妖怪達による暴動が無くなったのだ。
無論、解散とまではいかないが。
紅魔館に戻った奴隷はレミリアに今までの事を報告した。
それを聞いたレミリアは、笑みを浮かべて頷いた。
「お疲れ様」
その言葉を聞き、奴隷はレミリアの部屋を後にする。
掃除道具を持ち、仕事を始める。
奴隷に休みは与えられなかった。
そんな平和な日がしばらく続くと思っていた。
しかし、針妙丸の手はすぐそこまで迫っていた。
「…?」
美鈴はある異変に気づいた。
気が乱れている。
近くに集団がいる時の乱れ方だ。
不審に思った美鈴は、一発の弾幕を放った。
その瞬間、茂みから弱小妖怪達が現れ、美鈴に不意打ちを行った。
ギリギリ対処するも、紅魔館の門を突破されてしまった。
「(連携が取れてる…革命派か!)」
美鈴は取り押さえようとする弱小妖怪を一蹴し、紅魔館に急いで戻った。
紅魔館の鐘が鳴り、奴隷達は一気に戦闘態勢に入った。
「針妙丸だと…?刺したというのにまだ抗うか!」
月傘を持ち、奴隷はエントランスに移動する。
すでにメイド妖精と弱小妖怪が戦っていた。
「ホフゴブリンはどこいった?…くそっ、やるしかないか」
弾幕を展開し、攻め入る妖怪達を倒していく。
「メイド長!」
その言葉に振り向き、同時に手を払った。
「こっちは心配しなくていいわ。頭を探しに行きなさい!」
奴隷は頷き、針妙丸を探した。
簡単に見つからないと思っていたが、それはすぐに見つかった。
低い唸り声が聞こえたと思ったら、巨大な緑色の足が奴隷を襲った。
「な、なんじゃこりゃあ!」
月傘で防ぐことを諦め、奴隷は横に飛び跳ねた。
緑色の足は消滅し、その隙に奴隷は発生源…針妙丸の元へ走った。
到着した時、奴隷の目に衝撃の光景が目に映った。
「レミリア!」
針妙丸を目の前にして、レミリアが苦い顔をして立ちすくんでいた。
レミリアの周りには日光があり、行動が制限されているようだ。
「さしずめ、日光牢とでも言いましょうか」
奴隷に気づいた針妙丸は、針を構える。
今回は何をしてくるかわからない。
奴隷は油断しないように針妙丸に突撃した。
「剣符『ルナティックナイフ』!」
大量の月の光のナイフを展開する。
「妖剣『輝針剣』!」
針妙丸も大量の針を展開し、奴隷の弾幕を防ぐ。
針妙丸が針を構え直すのを見て、奴隷は月傘を振った。
月傘の刃で針妙丸の針を切断する。
前のように針をもう一本出すのかと思ったら、針妙丸は
「*緑の巨人よ、おおきくなれよ!*」
先ほどの緑色の足が巨大化して再び襲いかかってきた。
奴隷は慌てて月傘を差す。
しかし、のしかかる重圧に腕が耐えきれず、月傘と一緒に奴隷は弾き出された。
倒れ込む奴隷に追い討ちをかけようとする針妙丸に反応し、奴隷は月傘を振った。
その攻撃は当たらなかった。
針妙丸が小人と化していたからだ。
「ちっちゃく…!?」
針妙丸の攻撃を受けた…が、そこまで痛くはなかった。
小人になれば、それほど力も弱くなる。
奴隷は立ち上がろうと手を床につくも、力が入らない。
奴隷は、体の中の異変に気づいた。
「針妙丸…お前何をした!?」
傷口からビキビキと血管が浮き上がる。
やがて身体中に広まり、奴隷は黒く変色しながら倒れた。
倒れた奴隷を見て、針妙丸は大人サイズに戻った。
針から煙が出ているのを確認し、それを捨てる。
「黒谷の毒。人間には耐えられないだろう?」
捨てた針は完全に溶けた。
このまま苦しむ様子を見てもいいのだが、とどめはこの手でやりたいと針妙丸は思った。
針を抜き、奴隷の脳天を貫く体制をとる。
「あの世で正邪を殺したことを後悔するといい!」
一気に振り下ろされたが、それが奴隷の脳天を貫くことはなかった。
「その男を殺すのなら、私を倒してからにしてくれない?」
針妙丸の針を誰かが握っていた。
「お前は…!」
「偽弦『スードストラディヴァリウス』」
針を握られていたために動けず、何者かの弾幕にゼロ距離で被弾した。
なんとも表現しにくい音を発しながら針妙丸はピチュッた。
奴隷は辛うじて顔を上げる。
「ル…ナサ…?」
そう言って奴隷は意識を失った。
「鐘の音が聞こえたと思ったら、まさか革命派が紅魔館を襲撃するなんて思わなかったわ」
日光牢を解除してレミリアを解放する。
続いてルナサは、奴隷に触れようとする。
しかし、レミリアが大声をあげてルナサを止めた。
「駄目よ!黒谷の毒は接触感染。触れたらお前まで…」
「接触感染ね。でも、霊体には効果が無いみたいよ」
奴隷を抱え、ルナサは飛翔する。
「永遠亭に連れていくわ」
「…お願いするわ」
レミリアの返事に安堵が覗く。
ルナサは妹達がいることを知らせ、永遠亭まで飛んで行った。
レミリアはしばらく考え、逃走した針妙丸の追跡を開始した。
「(あのオカルトボールを破壊できれば…奴は抵抗する手段が無くなるなず)」
スペルカードを確認し、最速のスピードで移動を開始した。