紅魔館の奴隷   作:ハクキョミ

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密かな宴会

正邪はすぐに見つかった。

天子と橙が、死体となっていた正邪を塔の外で発見した。

奇妙なことに、正邪は自殺していたという。

 

 

天子と橙が一度引き返した後、針妙丸が現れた。

自ら命を絶った正邪を見て崩れ落ちた。

「正邪…」

その時、背後で足音が聞こえた。

誰かが近づいて来ているようだ。

針妙丸は気づかれぬようにその場から去っていった。

 

 

あの日から二日ほど経った。

藍がぜひお礼をしたいと言い、蓮子とハーンは幻想郷に一時滞在した。

紅魔館は少し危ないので、ルナサ達にお願いして廃洋館に居候させてもらった。

何故か、俺がルナサと話している時に蓮子とハーンがニヤニヤしていた。

「誰にも言わないでくださいね」

レミリアや咲夜にあれやこれやと質問されたが、藍の言葉に従い、蓮子とハーンのことは話さなかった。

勿論、外の世界に流されたこともだ。

「天子と橙と藍さんと協力して正邪を倒した」

奴隷はそう答えた。

間違ってはいないので、怪しまれることはなかった。

夜になると、紅魔館に藍が現れた。

奴隷を宴会に誘いに来た、との事らしい。

奴隷はすぐに支度して紅魔館を出た。

途中、廃洋館に寄った。

「ありがとうルナサさん。匿って…くれて」

「構わないわ。第三者からの意見も聞けたし、感謝しているわ」

「あ、ああ」

蓮子とハーンが廃洋館から出てきた。

「いやぁ、こんな素晴らしい音色を聴けたのはいつぶりだろう!」

「一生の思い出になるわ!」

二人とも意気揚々としていた。

「それじゃあ向かおうか」

藍の尻尾に捕まり、空を飛ぶ。

 

 

「いらっしゃいませ!」

藍達御一行は、ミスティア・ローレライの屋台の席に座っていた。

藍曰く、外の世界の人間がいることを紫様にバレたら宴会どころじゃなくなる、とのことらしい。

橙は、自分の代わりに紫様についているということで来ないらしい。

「ところで」

藍が横を見ながら言う。

「玉兎が何のようだ?」

屋台には先客がいた。

清蘭に鈴瑚、この屋台の常連客である。

「月に報告するつもりか?我々の失態を」

清蘭と鈴瑚は顔を見合わせ、大笑いした。

「そんなことする気もない!仮に報告するのなら、もっと前にしてるよ」

「そうそう、私達はここがお気に入りだからね。ここで会ったのは偶然よ」

その言葉に、少し警戒しつつも安心する。

「メニューは決まりましたか?」

「えーと…」

藍と奴隷と蓮子とハーンは八目鰻重。

清蘭は八目ひつまぶし。

鈴瑚と天子は八目桃・天を頼んだ。

「「「「「「「いただきます」」」」」」」

一斉に食べ始めた。

「どうだ蓮子、ハーン。八目鰻も美味いもんだろ」

「美味しいわ!八目鰻はクセが強いって聞いたけど、これならいくらでも食べれそう」

「もしかしたら、京都の鰻重より美味しいかも…」

各々の感想に、ミスティアは笑顔になる。

「今日は私の奢りだ。どんどん食べて、飲んでくれたまえ」

藍が胸を張って宣言した。

「やったね清蘭!奢りだってさ」

「…お前らの分は奢らないぞ」

清蘭と鈴瑚からのブーイングを軽く流し、藍は奴隷と天子と蓮子とハーンに向かって頭を下げた。

「今回の事に関して…本当に申し訳なかった。紫様の分まで、深く深く謝罪する。そして、同時に感謝する」

突然の真剣な空気に、奴隷は戸惑った。

蓮子とハーンも奴隷と同じようだった。

しかし、天子はため息をついた。

「藍。ここは飲んで食って騒ぐ場所なのよ。今は(・・)その事を忘れなさいな」

藍の頭を一回叩いた。

藍は目を見開いていたが、やがて酒に手を伸ばした。

「そう、そうだな。は、は、は!私としたことが、宴会でのルールを忘れてしまった。変な空気にしてしまってすまない。さぁ、飲もう!」

天子は頷いた。

「それでいいのよ。つまらない宴会なんて嫌でしょ?」

蓮子はお酒を片手に大げさに頷いた。

「そうよ。せっかくの宴会なのに!」

蓮子の頬は赤く、すでに酔っているようだ。

ハーンはちびちびとお酒を飲み、蓮子より酔わないようにしていた。

「ちょいといいですかね」

鈴瑚が天子の方を向く。

「ひょっとしてなゐ様ですか?」

天子の眉がピクリと動いた。

天子は鈴瑚を見つめ、諦めたように首を振った。

「…よく分かったわね。私の顔は賢者と月の都の兵しか知らないはずなのに」

その言葉に、清蘭は苦虫を潰したような顔をした。

「玉兎は奴隷ですからね。なゐ様が()を持ってこなければ飯も不味かったでしょう」

天子の口に笑みがこぼれた。

「お偉い様は美術品とか、そんなのばっかり月に持って行っちゃうのよ。被るのは嫌だったのよ。だから桃を持っていったら凄く感謝されたわ」

奴隷は月の都にあった桃の木を思い出した。

「なるほど。だから月の事に詳しかったのか」

あまりにも詳しかったので、天人というのは嘘なんじゃないかと思っていたが、謎が解けてすっきりした。

奴隷はジュースを片手に、藍主催の宴会を楽しんだ。

 

 

蓮子の酔いを醒めたのは、午前四時ほどだった。

寝ている藍と清蘭と鈴瑚に気づかれずに移動する。

「蓮子、ハーン。本当にありがとう。そして、危険な目にあわせてすまなかった」

「いいんですよ。スリルがあって楽しかったです」

ハーンの言葉に、蓮子は少しショックを受けた。

「…私、結構心配してたんだけどなー」

「ごめんごめん」

天子が手を叩き、談笑している二人を注目させる。

「ほら、紫に見つかる前に行きなさい。バレたら面倒だから」

蓮子とハーンは深々と頭を下げて、奴隷達と別れた。

今頃、外の世界にいるだろう。

「それじゃあ、あの狐達を起こしに行きましょうか」

「そうだな」

奴隷は月傘を、天子は緋想の剣を握って藍達の頭にたんこぶを作りに屋台に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 




八目桃・天
仙果に八目鰻につけるタレを何重にも塗り、表面を香ばしく焼き上げることで完成する一品。

癖が強く、食べる人を選ぶもの。

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