奴隷とハーンがスキマを見つける少し前、左の道に進んだ天子たちは順調に進んでいた。
「単体だと弱いわね」
そう言いつつ、警備をしていた妖怪を絞め落とす。
天子は単純に強いので、道中の妖怪が相手になるようなことはなかった。
「部屋が沢山ありますよ天子さん」
天子は扉を開け放つ。
「ここの構造は複雑。だから、一つ一つ調べるわ」
しかし、収穫はなかった。
天子は頬を赤らめながら言う。
「さ、さぁ先に進むわよ」
蓮子はニヤニヤしながら天子の後についていく。
「天子さん」
蓮子は目を細めて言う。
「あれは牢屋じゃないですか?」
天子も見る。
「本当だ…。よく見えたわね蓮子」
「視力はいい方ですから」
近くに見張りがいないことを確認し、牢屋に近づく。
中は薄暗くてよく見えない。
蓮子が携帯を取り出し、ライトをつけた。
牢屋の中にいた人物を見て、天子の顔色が変わった。
「衣玖!?」
天子は檻に手をかける。
檻を揺らす音に気づいたのか、中にいた衣玖が顔を上げた。
「総領…娘様?」
「気がついたのね衣玖!今ここをこじ開けるから待ってて」
蓮子はとても不安だった。
あまりにも警備が少なすぎる。
こういうことには罠がつきものなのだ。
蓮子は蓮子なりに辺りを警戒した。
しかし、心の中ではこう思っていた。
「(流石に赤外線とか…ないよね。霊力的なものだったら、私にはわからないし…)」
そうしている間に、天子は檻をこじ開けた。
踏み入ろうとした天子を、衣玖が声を荒らげて止めた。
「駄目です総領娘様!何が仕掛けてあるか分かりません。引き返してください」
「でも…ここまで来て見捨てるのは私のプライドに傷をつけるわ」
「天子さ…!」
蓮子も止めようとしたが、天子は一歩踏み入れてしまった。
ビー、と心臓に悪い音がけたたましく鳴った。
天子は何に引っかかったか確認したが分からなかった。
蓮子は天子が何に引っかかったか確認した。
蓮子は、先ほど考えていたことに後悔した。
赤外線ではなかったが、天子が引っかかった糸の先に小さな機械が取り付けられていた。
恐らく、幻想郷の住民が気づかぬよう対策したのだろう。
通路の奥が騒がしくなる。
天子と蓮子は顔を青ざめた。
「蓮子!衣玖を解放して!」
そう言いつつ、天子は緋想の剣を取り出す。
蓮子は急いで衣玖を縛っている札を剥がしていく。
妖怪達の姿が視界に映った。
「侵入者だ!」
天子は舌打ちし、緋想の剣を地面に突き立て宣言する。
「地震『
天子達の元へ行かせないようにと地震を発生させる。
その間に、蓮子は札を全て剥がした。
「天子さん!」
「奴隷の元へ行くわよ!あっちは進めない!」
地震に対応してきたのか、妖怪は浮遊し始めた。
天子は緋想の剣を抜き、蓮子と衣玖と共に逃走した。
藍様。
どこ行ったの?
いつまで待っても帰ってこない。
紫様は心配ないと仰った。
ある日、幻想郷に変な塔が建った。
微かに藍様の妖力を感じた…気がした。
藍様を求めすぎて、適当な妖力に反応してしまったのかもしれない。
でも…もしかしたら…。
橙は紫の言いつけを破って革命の塔に侵入した。
そうして、橙は奴隷とハーンに出会った。
「どうしてここに?」
橙は俯きながら答える。
「その…藍様を探しに」
奴隷は眉をひそめた。
「藍さん…?帰ってきてないのか?」
橙は頷いた。
「(まさか…)」
奴隷は自分が考えたことを振り払った。
橙はハーンをじっと見つめた。
「…紫様?」
「えっ?」
ハーンは否定した。
「私は紫って人ではないわ。マエリベリー・ハーンよ」
「マエリベリー…ハーン」
そう呟いた直後、奴隷達の耳に音が聞こえてきた。
「蓮子の声だわ!」
「待て、それにしては騒がしいな」
奴隷達は目を凝らした。
嫌な予感がした。
「逃げてメリー!」
天子と蓮子がこちらに向かってきている。
さらにその後ろに、大量の妖怪達がこちらに向かってきていた。
「ばっ、馬鹿野郎!」
奴隷は橙とハーンにスキマに入るように促す。
「走れ天子!蓮子!」
間に合いそうだった。
しかし、ハーンの目にはこう映っていた。
蓮子が通る道にスキマが出現したのだ。
「蓮子!」
ハーンはスキマから飛び出した。
予想もしない行動だったので、奴隷と橙は止めることができなかった。
ハーンは蓮子を引っ張り、強引にスキマの中に入れた。
その瞬間、ハーンのすぐ後ろでスキマが発生した。
そこから出た手には見覚えがあった。
「正邪!?」
正邪の手はハーンの後ろ首を掴んだ。
「メリー!」
蓮子は手を伸ばしたが、ハーンはスキマの中に引きずり込まれてしまった。
呆然とする蓮子を奴隷がスキマの中に引っ張り、月傘でスキマを強引に閉じた。