蓮子とハーンに案内されたのは、古くボロボロな神社だった。
鳥居は欠けていて、ここがなんて名前の神社か分からない。
どうやら、心霊スポットらしい。
「あと十分すれば開くわ」
その言葉に緊張が走る。
正邪の反転する弾幕にどう対処しようか天子に相談した。
「その傘で防げばいいじゃない。そのためのものじゃないの?」
「月の光の編み物…とやらで防げるか?」
天子は呆れた顔を見せた。
「それはね、穢れたものは一切通さないのよ。故に、昔はそれがフェムトファイバーの代わりになってたらしいけど…逆に言えば、穢れてないものには全くと言っていいほど効果がない。身内を捕まえる場合には、結局はフェムトファイバーの方が効率がいいから一切使われなくなったんだけどね」
役立つ知識を得て、時間まで待つ。
きっかり十分経った頃にハーンが声を上げた。
奴隷と天子は頷き、蓮子とハーンの手を取ってスキマの中に飛び込んだ。
「これが私の目指した世界だ!」
正邪の革命はほぼ成功した。
数ある実力者は手を出してこなかった。
正邪は長年の夢が実現手前まで来て涙を流した。
「泣くのはまだ早いよ正邪」
多数の部下が正邪の肩を叩いた。
正邪は頷き、最後の目標を掲げる。
「後は博麗神社。博麗大結界の主導権を奪えば完全に成功する」
その声に、弱小妖怪は雄叫びをあげた。
それを見て、正邪の胸が震える。
「明日だ!それまでに余力を残しておけ」
各々が解散した。
正邪は築き上げた革命の塔に見惚れていた。
「なんだあの塔は…?」
見せしめるように塔がそびえ立っている。
正邪に異世界流しをされる前までこんな塔は無かったはずだ。
「あそこに正邪がいるってことが丸わかりじゃないか。…準備はいいか?」
天子達は頷いた。
四人は正門を見る。
門番がいるようだが、何故か酒に酔って寝ていた。
「めっ、めーり…いや、何でもない。とにかく、今がチャンスだ」
起こさないように忍び足で正門を開け、正邪の塔に侵入する。
中は思ったより広い。
「捻れてる…?いや、これは…」
ハーンの言葉を天子が取った。
「空間をいじってるわね。外見から見た広さと全く違うわ」
四人は先に進む。
「分かれ道か…」
どちらが正解などわかりもしない。
奴隷が首を捻って考えていると、天子が指を指して言った。
「私は左に進むわ。そうね…蓮子。ついてきて」
「えっ、私?」
天子に手を引かれて蓮子は天子とペアになる。
「それじゃあ、俺とハーンは右に進むぞ」
「頼んだわ」
天子と蓮子と別れ、奴隷とハーンは右の道へと進む。
「…しっ!」
突然のことにハーンは固まる。
奴隷の視線の先には妖怪がいた。
二人は慌てて物陰に隠れる。
血痕が付着している壁の広間には、一人の妖怪がいた。
先ほどの門番とは違い、しっかりと警備をしているようだ。
誰も気づかれずに通り抜けることは難しそうだ。
ダンボールを被っても難しい。
「ハーン、ここに隠れてろ」
ハーンから離れ、二人から離れた位置にいる妖怪の近くまで歩く。
奴隷は月傘を大きく振りかぶり、妖怪の頭を撲る。
さすが、中身は玉兎兵の銃剣からなのか、妖怪は気を失った。
口笛を吹いてハーンに無事を知らせる。
「この先は行き止まりだな。ハズレを引いたらしい」
目の前の壁を蹴ってみるも反応はない。
ハーンは壁を凝視した。
「奴隷さん。この壁に小さなスキマがありますよ」
ハーンに指示をしてもらい、月傘で強引にスキマを開いた。
奴隷達が進もうとすると、ふと、足音が聞こえてきた。
間隔は短い。
走っているようだ。
奴隷はハーンに注意するよう言い、近くの物陰に隠れる。
徐々に近づいてくる。
丁度横をすぎようとしたあたりで、月傘を物陰から出す。
走ってた者は躓き、派手に転んだ。
「動くなよ!」
奴隷が月傘を構えつつ、顔を確認した。
「橙…か?」
八雲邸の縁側で寝ていた化け猫がそこにいた。