奴隷は訳あって命蓮寺に来ている。
賽銭箱に銭を投げ込み、両手を合わせる。
参拝が終わった後、奴隷は命蓮寺裏へと行く。
目的は参拝ではない。
命蓮寺裏の墓地へと用があるのだ。
「(清蘭はここらへんにいるって言ってたけど…)」
鍛治妖怪の多々良小傘が見当たらないどころか、気配すら感じない。
奴隷は墓を一つ一つ見てまわったが、めぼしい収穫はなかった。
ただ、この墓の下には、人間の死体が埋められていることが分かっただけだ。
奴隷はがっかりして、もう一度、墓を見てまわった。
二つ、三つ目の所で、あることに気づいた。
この墓だけ卒塔婆が無いことに。
奴隷は墓石を動かす。
「ここか?」
そこに死体はなく、空洞があった。
人一人が入れそうな入口だ。
奴隷はそこに潜り込む。
「こ、これは…」
まさか墓石の下に、これほどの鍛冶場があるとは。
奴隷はまじまじと鍛冶場を観察してした。
そのために、奴隷の真下の床が動いたことに気づかなかった。
「うーらめーしやー!」
「!?、!!、!!?」
真下から、突然誰かが現れた。
驚きに声も出せず、反射神経で地面を蹴った。
しかし、奴隷が入ってきた入口は、天井が低かったため、鍛冶場内に鈍い音が響いた。
「〜〜!?」
頭に響く痛みに耐えきれず、床を転げ回る。
「あっ…えーと、だ、大丈夫?」
驚かせた者は、おずおずと奴隷に話しかける。
「痛ってぇ…目に星が浮かんだわ」
クラクラする頭を押さえつけながら、奴隷は正面を見る。
「あんたが、清蘭が言ってた、多々良小傘か?」
「と言うことは、貴方が奴隷だね」
「そうだ。清蘭から銃剣を預かっていないか?」
その言葉を聞いた小傘は、小柄な体を反らし、胸を張った。
「ふふん。バッチリだよ!」
小傘は近くの扉を開け、その中に奴隷を招待する。
机の上に、一つのーー傘が置いてあった。
「傘?」
「そうだよ!」
「いや…えっ?銃剣が傘になったの?」
「清蘭ちゃんからは、バレなければなんでもいいって聞いたからね。その傘の部分は擬態の意味も込めてるよ」
傘を手に取り押してみると、銃剣の部分が露わになった。
「なるほどね。ところで、この傘の部分についてだが…」
「気づいた?」
触ってみたが、明らかに感触がおかしい。
言葉では表現が難しい。
完全に未知の感触だった。
「それはねー、月の光なんだよ!」
「月の光?」
「清蘭ちゃんがくれた設計図を元にして、何とか傘状にしたんだ。わちきが試した限りでは、その下にいれば日焼けしないよ!」
「へぇ!レミリアやフランドールと一緒の時に便利だな」
銃剣のあらゆるところを触っていると、つい、何かの突起に触れてしまった。
その瞬間、傘の一部分から大きな舌が飛び出した。
思わず銃剣を手放しつつ、小傘に聞く。
「小傘さん?これ…小傘さんの傘の、舌の部分にとても似ているような気がするんだが」
「それも月の光なんだよ!折角だし、わちきと似たようなもの付けようかと思って…」
「あぁ…そう」
舌を収納する。
あらかた説明を聞いた後、奴隷は懐から財布を取り出す。
「さて、後は代金だな。鍛治となれば、相当な額のはずだ」
一応レミリアに頼みこんで、何とかお金を借りた。
人生初借金だが仕方がない。
しかし、小傘は両手を振ってお金を拒否した。
「いいのいいの、わちきは役に立てれば満足だから!お腹もいっぱいだし」
小傘は断固として拒否をした。
意思が固い事を察し、奴隷は諦めた。
「…分かった」
財布をしまい、銃剣を手に取る。
その時、小傘が声をあげた。
「あっ、そうだ!名前なんだけど…」
「ああ、小傘さんが自由に決めていいですよ」
「わちきはね…『
「いいですね。それにしましょう」
小傘に礼を言って、鍛冶場を後にする。
帰ろうかと思った時、墓場の入口近くに少女がいた。
何やら呟いているようだ。
「(
彼女の目の前を通ってみたが、歌が中断されることは無かった。
奴隷の事なんて気づいていないのかもしれない。
「(まぁ…邪魔しちゃ悪いし帰るか)」
紅魔館に帰ろうと一歩踏み出した時、くしゃりと何かを踏んだ。
それは、一枚のお札だった。
「…?」
奴隷はよく分からず捨てた。
月傘を持って、ほくほく顔で紅魔館に戻っていった。