男は再び目を覚ました。
今度は手に拘束器具もついておらず、何故かフカフカのベットの上に寝かされている。
天井は紅い。
横を見ると、目の前には頑丈そうな鉄格子。
「…え?」
男はベットから起き上がり、鉄格子に手をかける。
揺すってみたが、ビクともしない。
「いやいやいや、嘘だろ?俺捕まったの?」
そういえば羽が生えていた少女に腹を刺された気がするが、傷跡はなくなっていた。
今の状況が全く分からないまま呆然としていると、鉄格子の外の扉が開いた。
「あっ、奴隷!」
入ってきて第一声が、奴隷という単語だった。
奴隷と言ったのは、シャベルで突き刺したはずの金髪少女。
「…は?」
いきなり奴隷と言われて、男はしばらく固まっていた。
そんな男を無視して、金髪少女は自己紹介を始める。
「私の名前はフランドール・スカーレットっていうの。貴方は私の奴隷よ!よろしくね!」
男…もとい奴隷はフランドールの自己紹介を聞き、そして鉄格子を殴った。
「ふざけんな!何でてめぇの奴隷にならなきゃならないんだよ!意味が分からねぇ、外に帰してくれ!」
思い切りフランドールに反抗したが、逆にフランドールに指をさされた。
「ふふっ、私は貴方よそういうところが気に入ったの。だから奴隷にしたのよ」
「はぁ!?」
言っている意味が分からなかった。
「今まで、私は何人もの奴隷を飼ったことがあるの。…でも、全部勝手に壊れちゃった。みーんなつまらなくなっちゃう」
フランドールは寂しそうな声で言う。
どうやら前にも奴隷はいたらしいが、自殺したり、フランドールの遊びにわざと巻き込まれて死んだり、檻の中で狂いだしたりして全員いなくなったようだ。
「みんな私に口を利いてくれない。みんな懺悔の言葉ばっか。つまんない、つまんない」
フランドールは手に持った人形で再現しているようだ。
奴隷はため息をついた。
「…当たり前だろ。いきなりこんな場所に連れてこられて、自分の名前があるのに奴隷って言われるんだぞ?そりゃ、死にたいって思うだろ」
人は追い詰められた時、死の事なんてどうでもよくなる。
つまり、生欲が薄れるのだ。
「奴隷は死にたいって思ってるの?」
「俺はまだ死にたいとは思わん。少なくとも、外に出るまでわな」
実際、まだこの場所のことをよく分かっていない。
脱出できるチャンスはまだ失ったわけではない。
機会を待てばいい。
「…とりあえず、助けてくれてありがとう」
「え?」
フランドールは突然の感謝の言葉に驚く。
「もしお前が俺を奴隷にしなかったら、俺は死んでいただろ。そこだけは感謝するよ」
「初めてだわ。奴隷にしたのに感謝されるなんて」
「少なくとも、命が伸びたさ」
そんな会話をしている時に、扉が開く。
入ってきたのは、あの羽が生えている少女だ。
「あら、調子はどうかしら奴隷?」
「お前…」
「…お前じゃないわ。私は誇り高きカリスマの女王、レミリア・スカーレットよ」
「…ふーん」
ポーズまでキメているレミリアを軽くスルーしてフランドールと会話を始める。
「んで、俺は何をすればいい」
奴隷、というからには過酷な労働が待っているはずだ。
内心では嫌だなと思っているが、この館から脱出するためにはこの檻からでなければならない。
「今日は無いわ。パチェの魔法が定着したら、存分に働いてもらうわ」
レミリアはそう言って、部屋から出た。
「じゃあね奴隷。バイバイ」
フランドールは手を振って、部屋から出た。
一人残された奴隷は、手で顔を覆った。
「なんでだよ。なんでこんな目に…帰りたいよぉ」
レミリアとフランドールの前では強がっていたが、誰もいなくなった途端に強がりが崩れた。
すっかり弱気になった奴隷はベットに潜り込む。
そのまま目を閉じて寝た。
今夜の枕は濡れそうだ。