既に夜だが、奴隷は霧の湖へ向かう。
紅魔館から直ぐなので、時間もかからないだろう。
「おーい、奴隷」
呼び止める声が聞こえた。
声が聞こえた方を見ると、清蘭と鈴瑚が手を振っていた。
「清蘭に鈴瑚?月人は今あの飛行物体に呼び出しくらってるんじゃないのか?」
「ちょいと抜け出してきてね。それより、証拠は見つかった?」
「ああ、バッチリだ。…誰にも言わないなら見せよう」
「言うつもりはないよ。私達も地上人を月の都に侵入させたからね」
約束し、清蘭と鈴瑚に証拠を見せる。
「…!?」
「これは…」
清蘭と鈴瑚は目を見開いて驚いた。
「衝撃だろ?」
「衝撃…だけど、これをどう私達に?」
「その件は大丈夫…のはずだ」
「…そこのところは任せるわ」
「任せろ」
不安の声を混じらせつつ、清蘭と鈴瑚と別れる。
霧の湖から移動してないか心配しつつも、八雲紫に会いに行く。
美鈴の言う通り、八雲紫は霧の湖にいた。
その隣には八雲藍もいた。
月の都のモニター室から出た報告書には綿月豊姫と衝突したと書いてあった。
服もボロボロで、とても豊姫に勝てたとは思えない。
気がたっていたらどうしよう、と思いながら八雲紫に話しかける。
「ゆ、紫さん。少しいいですか?」
声に、視線が奴隷に集中する。
「吸血鬼のところの奴隷?何か用かしら」
「お話があります」
「そう、手短に頼むわ」
奴隷は辺りを見渡す。
「その前に…どこか安全な場所はないですか?」
いくら月人が今はいないとはいえ、広く開けた場所。
先ほどの清蘭と鈴湖みたいに、抜け出した玉兎がいるかもしれない。
「なら私のスキマに来なさい」
紫にスキマ内に案内される。
大量の目玉が奴隷を睨みつける世界にビクビクしながらも、奴隷は話す。
「今から話すことは、幻想郷の未来を左右するかもしれません」
その言葉に、紫の眉が動く。
「聞かせてもらおうじゃない」
悪い笑みを浮かべる。
奴隷は証拠を取り出す。
「まずはこれを見てください」
「これは…あの飛行物体の設計図?」
「ええ。そしてこれを…」
メインを手渡す。
紫はそれに目を通す。
何分か紫は固まっていた。
その間にも、奴隷は話したいことを話す。
「あの飛行物体を墜とせば、月側は地上から撤退せざるおえない。そこでこちら側から…なんというか…あー…話し合う?そう!話し合いの場に持ち込むんです」
幻想郷と月のお偉いさんが集まっている中なら、大賢者は簡単に手出しはできないだろう。
そして、一気に戦争の真相を月側に知らせられる…それが奴隷の考えた作戦だった。
「それにはまず、あの飛行物体を墜とさなければならない。あれが月側の生命線ですから」
話し終え、スキマ内に沈黙が訪れる。
先に口を開いたのは、八雲藍。
「紫様。あの飛行物体を堕とすなどできる訳がありません。それに…月側の攻撃でこちら側はかなり傷ついています」
藍の否定の声に、奴隷は抗議する。
「しかし藍さん…」
「分かったわ」
紫に遮られた。
紫は奴隷に証拠を手渡す。
「他に手が無いのは分かってるでしょ藍。それとも、何も抵抗せず殺されたい?」
「それは…」
藍は口ごもる。
「奴隷、よくやったわ。貴方のおかげでこの戦争、勝てるかもしれないわ」
「お礼を言うなら、勝ってからお願いします」
紫らはスキマ外に出る。
「藍、戦える者を今すぐ集めてきなさい」
「…っ、分かりました」
早速戦力をかき集める。
一体、あの飛行物体を墜とすだけにどれだけの犠牲がでるかは分からないが、やるしかない。
「あー…紫さん、俺なんかの作戦に協力してくれてありがとうございます」
「…この戦争に勝ったら、一緒にお茶でもしましょう?」
次々とスキマを通じて強者達がやって来る。
手段を選んではいられない。
皆、ただ幻想郷のためだけに戦うことを胸に誓っている。
月の外れ。
純狐、へカーティア、クラウンピースはそこにいた。
「まさか、月詠本人が登場するとはね」
「ごめんなさいご主人様。あたいがミスをしなければ…」
「大丈夫よ。嫦娥は殺せなかったけど、かわりに派手に暴れたわよん」
「かなりの暴れっぷりだったわね」
純狐とへカーティアは笑う。
まるで失敗することが楽しみだったかのように。
もしかしたら、月に攻めるということで。
彼女らの欲求は満たされているのかもしれない。