紅魔館の奴隷   作:ハクキョミ

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あの日の謎

戦争が始まってから約二日経った。

紅魔館に奴隷は戻ってきていない。

レミリアの顔が曇る。

「本当にいないわ。妖精達にも聞いてみたけど、見てないっていうし…」

フランドールの耳に入ったらどうなるか分からない。

最悪、紅魔館ごと破壊されかねない。

「お嬢様、あの飛行物体から何かが!」

「?」

咲夜の声に上を見上げる。

空に浮いている飛行物体から何かが射出された。

皆が固唾を飲んで見守る中、紅魔館の門の前にそれは降りてきた。

紅魔館の主、レミリア・スカーレットがたったの一撃で負けてしまった相手。

十六夜咲夜も敗北した。

「綿月依姫…」

「この館はあの吸血鬼の建物だったのね」

その声に、レミリアは後ずさる。

「お嬢様、今度は一緒に」

「ええ。今度は一撃でやられないわよ」

レミリアと咲夜は依姫に構える。

依姫も祇園様の力を帯びた刀を構える。

「さぁ、今度はどんな神様の力で倒されたい?」

 

 

幻想郷とはかけ離れた未来の部屋。

その部屋の一つに奴隷は監禁されていた。

「吐け穢れ者。あの会議に参加していたことは先遣隊の報告で分かってる」

「…」

部屋の中は玉兎兵と奴隷で二人っきり。

奴隷はフェムトファイバーの組紐で縛られている。

先程から尋問が行われているが、奴隷は一向に答えない。

玉兎兵はその態度にイライラしていた。

「くっ、穢れ者が!」

そう言い、銃剣を構える。

「死にたくなければ話せ!」

「…」

「この…!」

玉兎兵が怒りのあまり引き金を引こうとした。

しかし、それは別の玉兎兵の声によって制止される。

「おーい、依姫様からの命令。地上へ加勢に行けってさ」

「その声…清蘭か。穢れ者はどうするの?」

「私達イーグルラヴィが担当するよ」

「はぁ…任せるわ。一切吐かないのよ」

「まぁまぁ、任せといて」

玉兎兵とすれ違いで青髪とブロンド色の髪をした玉兎兵が入ってきた。

「やぁ元気?」

「…」

「私は清蘭。こっちは鈴瑚」

「…何故自己紹介したのかを教えて欲しいね。敵なのに」

清蘭は大きな木槌、鈴瑚は団子を食べている。

とても尋問という雰囲気ではなさそうだが、油断はできない。

「質問をいくつかするわ。反抗せずに答えてね」

清蘭は人差し指を立てる。

「一つ、貴方の名前は奴隷?」

「…」

奴隷は黙秘した。

これには清蘭と鈴瑚も呆れた。

「口が堅いねー…。せめてそれだけでも答えてくれない?」

「…奴隷だったらどうした?」

「そうだね。もし貴方が奴隷だったら次の質問にいってたわ」

「はぁ…そうだよ、俺が奴隷だよ」

「認めてくれたみたいね。んじゃ、次の質問」

清蘭は続いて中指を立てる。

「奴隷、嫦娥様を介抱したでしょ?」

「…!?」

思わず反応してしまった。

何故こいつらが知っているのか。

「いい反応♪」

「待て、何故分かる?」

「ん」

鈴瑚から一枚の写真を渡される。

そこには、奴隷が嫦娥を抱えているところがバッチリ収められていた。

「…すでにバレていたってことか。んで?その質問になんの意味がある」

「いやぁ、月の姫様がそんな所で寝ているっておかしくない?」

「まぁ…そうだな」

道端で首相が寝ているようなものだ。

そんなことはどの世界を通じても大問題だ。

「実は私達見ちゃったのよ。嫦娥様と思わしき人が月から落ちてきたのが」

「何?」

「月の中では八雲紫が一番の候補に挙がったんだ。スキマとやらを使って嫦娥様を攫ったんじゃないかってね。でも、あれは普通に落ちていたの。まるで月からね」

清蘭と鈴瑚が話していることが本当だとすれば、それは驚くべき事だ。

この戦争は嫦娥が穢されたという理由で勃発した戦争だ。

月側が自ら嫦娥を地上に落としたとすれば…この戦争は月側の勝手という事になる。

「何なんだよそれ…何のために?」

「私達も分からない。調べようにも情報は規制されている。…そこで貴方よ」

「え?」

鈴瑚は奴隷を縛っていたフェムトファイバーの組紐を切る。

「奴隷、月の都に侵入して証拠を見つけてほしいの。この戦争は月側から勝手に始めたって証拠を」

「何故?何故玉兎であるお前らがこの戦争を止めようとする。月にとっては得じゃないか」

しかし、清蘭と鈴瑚は首を横に振った。

「この戦争、私達の意思でやってるわけじゃない。大賢者様が勝手に始めたからね」

「つまり、不満を抱えていると?」

「そりゃそうだよ。私達は根っからの戦争狂じゃない。地上は穢れているけど、食べ物だって豊富だしどこか魅力を感じるの。地上を滅ぼしたい、って思う玉兎兵なんていないと思うよ」

玉兎兵の中にも、地上の事を思っている玉兎兵がいるんだな、と感心した。

奴隷は清蘭と鈴瑚の頼みを了承した。

もし月側が勝手に起こしたとすれば、幻想郷にとっては不利益だ。

そんなことは許さない。

「あっ、そうそう。これあげるよ」

清蘭から銃剣を渡された。

玉兎兵が持っていたやつと少し違う。

「いいのか?清蘭のじゃ…」

「私にはこれがある。それに弾ぐらい簡単に出せるしね」

清蘭は木槌を叩きながらそう言う。

「残りのイーグルラヴィのメンバーをここに残らせる。それじゃ奴隷、お願いね」

「任せておけ。清蘭と鈴瑚もありがとな」

奴隷は銃剣を手に、月の監禁施設を抜け出す。

月の都が目に映る。

月地戦争を終わらせるためにも、奴隷は走る。

 

 


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