戦争が始まる、と言っても実感はできなかった。
戦争経験者から話は聞いたことはある。
しかし、全ては想像上でしか体験できなかった。
だから、幻想郷の上空に巨大な飛行物体が現れてもどう対処すればいいのか分からない。
「レミリア!」
「分かってるわ…来るわよ」
飛行物体から雷のようななにかが放たれた。
それはいとも簡単に幻想郷の大地を破壊していく。
メイド妖精達が怯えるのはそれだけで十分だった。
「嫦娥は?」
「あれが嫦娥本人とは分からないけれど、一応地下に部屋を移しといたわ」
「よし。もし嫦娥がこのことを知れば、どういう行動をとるかは分からない」
万が一紅魔館内で暴れたら大変だ。
穴が出来てしまう。
飛行物体からの砲撃が終わり、今度は大量の流れ星が降り注いだ。
「違うわ!玉兎よ!」
一瞬で紅魔館の前に玉兎達が集結した。
おそらく、各地にも玉兎達が集結しているだろう。
皆、銃剣を携えている。
「行くぞぉ!」
奴隷が時計塔の鐘を鳴らす。
それが合図となり、玉兎兵とメイド妖精はぶつかり合う。
各地に玉兎兵、さらには月人まで現れた。
普段戦わない妖怪、妖精達は次々と逃げ、殺される。
戦況は一気に不利になっている。
そんな中、妖怪の山の長の天魔が跪いている天狗らに指示をだす。
「妖怪の山の防衛は数名と私だけでいい。残りは散れ!」
「はっ!」
天狗らが飛んでいく。
「あとは…あちらから来る奴らを倒すまでだ」
その言葉の数秒後に月人が現れた。
紅魔館にも月人が来た。
表にはレミリアや美鈴、咲夜まで出ている。
レミリアのグングニルと月人のビームサーベルのような武器がぶつかる。
そんな激戦を、奴隷は紅魔館内で見ていた。
「(おっかねぇな。戦争ってこんなに怖いものなのか…)」
震える手を抑えながら、紅魔館の各所にバリケードを作っていく。
穢れたものを積み重ねれば、月人や玉兎兵らは穢れを除去するのに時間がかかる。
つまりバリケードさえ崩さなければ紅魔館内には入ってこれない。
その安心感が、同時に奴隷を油断させた。
まさか、直接玉兎兵が入ってくるなんて。
羽衣を纏った玉兎兵が窓から強引に侵入してきた。
油断していたメイド妖精らは、玉兎兵に殺される。
奴隷は近くにいた玉兎兵の後頭部を掴み、壁に二、三度力強くぶつけ、気絶させる。
「ダイナミックすぎだろ!」
奴隷は近くの部屋に避難する。
廊下では、多数の銃声が響く。
「部屋の捜索お願いします!」
「こっちは任せて!レイセンはそっちね」
奴隷が避難していた部屋に、玉兎兵…レイセンが入ってきた。
「玉兎兵っ!?」
「人間!?」
奴隷は手に棒を持ち、レイセンが持つ銃剣に振り下ろす。
レイセンの手から銃剣が落ち、隙が生まれる。
レイセンの垂れ耳を掴み、強引に引っ張って投げる。
「(…弱い?)」
恐ろしく強いと聞いたのだが、とてもそうには見えなかった。
明らかに咲夜より弱い。
咳き込むレイセンを殴り、馬乗りになる。
レイセンは抵抗したが、構わず拳を振り下ろす。
無抵抗になったレイセンは無視し、落とした銃剣を拾って廊下にいる玉兎兵を倒す。
トリガーは引けなかったが、先についているナイフで十分だった。
「大人しく…しろ!」
銃剣の持ち手で玉兎兵の頭を殴って気絶させる。
なるべく殺さないように。
バリケードも半壊していた。
「月人が入ってきちまう!」
倒れているメイド妖精を起こし、バリケードの修復作業に移る。
しかし、別の箇所でバリケードが全壊してしまったようで、月人が中に侵入してしまった。
「メイド妖精達は下がってろ!」
特殊な武器を持った月人に立ち向かう。
相手は容赦ない。
「(玉兎兵と違って…強い!)」
月人の攻撃を銃剣で受け止め、先のナイフで足を突き刺す。
よろめいた月人の顔面を殴り、地面に後頭部を叩きつけることで気絶させる。
「強いけど、メイド長より強くないな」
全壊したバリケードを直そうと向かった時、視界の端に何か連絡をしているレイセンの姿が見えた。
レイセンの体から光を発している。
「何してる!」
奴隷が止めようとレイセンの体に触れた瞬間、レイセンと奴隷がその場から消えた。
「状況は?」
「天狗の参戦によってなんとか」
八雲紫と八雲藍は、襲いかかる月人を倒しながら会話する。
「あの飛行物体から放たれたやつは、穢れを払うためのものだったのね」
「それで穢れを嫌う月人が幻想郷の地に…」
飛行物体は見えない壁があるようで、弾幕はおろか能力ですら効かない。
「さすがの科学力ね…」
「どうします?」
「とりあえず、月の賢者には気をつけて。これらの比にならないわよ」
それは、月面戦争を経験しているから言えること。
月の賢者達がどう出るか。
それによって戦況が大きく変わる…。