三日、永遠亭に入院した。
腹の傷はすっかり完治し、痛みもなくなった。
最後に診察を受けて、退院を言い渡される。
「八意先生、優曇華院さん、ありがとうございました」
お礼を言い、永遠亭を出る。
永遠亭の入口には咲夜が待っていた。
「げっ」
「露骨に嫌な顔をしないの」
「いや、お前を倒してしまったからな。どういう顔で話せばいいか分からん」
「普通でいいのよ。気にしていないし」
咲夜に手を引かれ、空を飛ぶ。
多少バランスは不安定なものの、数十分かかって紅魔館に着いた。
「奴隷さん!」
到着した直後、美鈴の声が聞こえた。
「ただいま…でいいのか?自分から逃げておいてただいま、と言うのはなんか違和感が…」
「そんなこと気にしなくていいじゃないですか。妹様も待ってますよ」
「行ってやりなさい奴隷」
二人に押され、奴隷はさっさと紅魔館に入る。
「妹様があんなに泣いたのを見たのは久しぶりですね」
「私には覚えがないわ。さ、仕事に戻りなさい」
「全く、仕事熱心ですね咲夜さんは」
美鈴は門番を、咲夜は紅魔館内掃除をするために紅魔館へと戻った。
紅魔館に入って早々、フランドールに殴られた。
そして、ただいまと言われた。
「…こりゃ勝てないな」
奴隷はフランドールの頭を撫でた。
「奴隷、今から遊べる?」
少し戸惑った。
奴隷となって一年間はフランドールの遊びに付き合っていたが、辛いものもあれば楽なものもあった。
果たしてどっちだろう、と思ったがフランドールの笑顔を見て快く了承した。
「フラン、ちょっと奴隷を借りてもいいかしら」
遊びが始まろうとした時に、パチュリーが横槍を入れた。
「えー?後じゃ駄目?」
「駄目よ。奴隷にとって大事な話なんだから」
「…分かった。なるべく早く終わってね」
「善処するわ」
パチュリーに連れられてヴワル魔法図書館に行く。
道中、空いている個室が沢山あるのに、何故ヴワル魔法図書館なんだろうと思ったが口に出さないことにした。
「座りなさい」
パチュリーに従って椅子に座る。
小悪魔が紅茶を淹れてくれた。
「それで、大事な話ってのは?」
「貴方の程度の能力についてのことよ」
想像していたのと全く違うことを話されて戸惑う。
いきなり程度の能力、と言われても分からない。
「質問いいか?」
「どうぞ」
「そんな能力なんて俺にあんのか?」
「あるから、今話すんじゃない」
「あー…それを知ってなんの得がある?」
「貴方が
「なっ!?それは本当か!?」
外の世界ではアルバイトをしていたので、存在を忘れ去られるなんてことが起きるわけがない。
それはずっと疑問に思っていた。
「単刀直入に言うわ。貴方は『あらゆるものを消し去る程度の能力』よ」
「…名前だけ聞くと凄いな。確証はあるのか?」
「あるわ」
そう言って、パチュリーは一枚の本を取り出した。
「これは『
「?」
「実際に見てもらったほうが早いわね」
まぁ正確じゃないけどね、と言いながらパチュリーは稗田書を広げる。
何やら呪文的な文字がびっしりと書いてある。
バーコードみたいだ。
中央に円形模様があり、左端は空白になっている。
「この円形模様に霊力、または妖力を流し込めば、その人の程度の能力が分かるっていう代物よ。レミィなら運命を操る程度の能力、フランならありとあらゆるものを破壊する程度の能力よ」
「それで俺のも分かったのか」
奴隷は稗田書に感心する。
まるでコンピューターみたいだ。
「それで…その程度の能力と俺が幻想郷に迷いこんだ理由にはどんな接点があるんだ?」
「奴隷、幻想郷に始めてきた時は、外の世界で
「ああ。二十歳になったばっかだったからな」
やっぱりね、とパチュリーは言う。
「程度の能力の暴走よ。奴隷は酒を飲んで酔い、それで元々制御できない程度の能力が無意識にでていたのよ」
「マジ?」
「ええ。貴方はおそらく自分の…存在を消し去ったのだと思う」
「なら、フランドールがたまに俺を見失うってのも…」
「おそらくね」
奴隷は衝撃の事実に頭を抱える。
まさか、幻想郷に迷いこんだ原因が自分のせいだったなんて。
「酒は控えるべきか?」
「程度の能力が制御できれば飲んでも構わないわ。制御できないうちは危険だわ」
特に酒に執着はないので、禁酒されても問題はない。
しかし、制御ができなければいろいろ消し去ってしまう。
「制御したければどうすればいい」
「程度の能力を徐々に使いこむことよ」
パチュリーの説明を熱心に聞く。
大事な話を終えてから一時間ほど経った。
奴隷は様々な真実を頭に叩き込み、ヴワル魔法図書館を出る。
このモヤモヤとした気持ちを、フランドールとの遊びで晴らそうと思った。
奴隷が出ていった後、小悪魔は紅茶のカップを片付ける。
「それにしても…あらゆるもの消し去る程度の能力って、なんか妹様のありとあらゆるものを破壊する程度の能力と似てますね。主に能力名が」
「能力的には、歴史を食べる半獣の程度の能力の方が似ているけどね」
「あはは、そうですね。…あれ?もし奴隷が程度の能力を制御できてたら、紅魔館から逃げるのも容易じゃないですか」
「でしょうね。そこのところはフランも気にしてほしいところだわ」
パチュリーは稗田書を小悪魔にしまわせる。
椅子に腰掛け、魔導書を開く。
今考えると、制御できてたらこの本も消し去られたかも知れなかったと思い、少し背筋が寒くなった。
稗田書(能力解析特化)は、霊力又は妖力を流すと『運命を操る程度の能力』と書かれるわけではなく、『運命を操れそうな妖力(又は霊力)』と書かれます。
そこからは推測で『程度の能力』に合うように文字の配列を変えて『〜の程度の能力』と結びつけます。
設定系はいつか投稿します。