紅魔館の奴隷   作:ハクキョミ

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迷い込んだ人間


幻想郷とはご存知だろうか。

試しに周りの人に聞いてみるといい。

答えは知らない、と答えるだろう。

それもそのはず、幻想郷とは存在を忘れ去られた者や忘れかけられた者達の楽園なのだ。

物も例外ではない。

普通に生きていれば幻想郷に迷い込むことはない。

しかし、そんな幻想郷に迷い込んだ人が現れる…。

 

 

辺りは木々が生い茂っている。

既に夜で、空には星が輝いている。

「あれ?おかしいな…。俺は家にいたはずなんだが」

缶ビールを片手に一人の男が呟く。

いつの間にか地面の上に寝っ転がっていた。

「(何で俺はこんな所で寝てるんだ?確か二十歳になったから、初めてのお酒を飲んで…。うーん)」

試しに頬をひっぱたいてみるが、痛みだけが感じられて覚める気配もない。

どうやら夢ではないようだ。

「酔ってフラフラっとこの森の中に入ったのかな。あーあ、初めてのお酒がこんな結果になるなんて」

次にお酒を飲む時は友人に付き添ってもらおうと思いながら森から出ようと歩き出す。

「(つか、うちの近所にこんな森なんてあったっけ?おっかしいなぁ〜)」

不審に思いながらも歩き続けると、遠くに明かりが見えた。

「(おっ、明かり見っけ。あとは帰るだけだな)」

とりあえず、この森で遭難する事はなさそうだと思いながら足を早める。

そして、その男は明かりの正体を見て驚きの声をあげる。

「や、館?こんな場所に?」

この地に住んで約二十年、こんな真っ赤な館なんて見たことなかった。

明らかにおかしいと感じた時、背後から声が聞こえた。

「誰かしら?」

突然の女性の声に素っ頓狂な声をあげるも、同時にこんな森の中で人に出会えたという安心感が湧いてきた。

「こ、こんばんわ。俺は…」

名前を名乗ろうとした時、声をかけられた女性の手にナイフが握られているのを見て、思わず後ずさりをした。

「どうしたの?」

ナイフを持った女性はこちらに近づいてくる。

月の光に照らされて、その女性の姿がハッキリと視界に写った。

その女性は…メイドの服を着た女性だった。

想像もしない格好に、思わず気が抜けてしまった。

「あー、コスプレか?するのは自由だけど、そのナイフは本物と誤解されるからしまっておいた方がいいぞ。貴女も警察のお世話にはなりたくないだろ?」

その女性を気遣うように話したが、気にしてないようだった。

「コスプレに警察ねぇ。貴方はもしかして…ま、いいわ。一週間は持つわね」

メイド服を着た女性は、ナイフを男に向ける。

「貴方、これが偽物と思っているようだけど」

そう言いながら、ナイフを投げる。

頬を掠め、木に突き刺さる。

「悪いけど本物よ」

頬から血が流れる。

そう気付いた時には、思わず大声をあげていた。

「うっ、うわああああ!?」

メイド服を着た女性に、持っていた缶ビールを投げる。

そしてそのまま背を向けて全速力で逃げる。

「あら、外の世界にはこんな美味しいお酒もあるのね」

という声を背後から聞こえたが、男は無視して無我夢中で走った。

 

 

「くそっ!くそっ!何だあのメイドは!」

息を切らせながら、それでも走る。

いつまでたっても森を抜けない。

果たして終わりがあるのかと思ってしまう。

「あのメイドから逃げないと…。捕まったら殺される!」

ひたすら走り続けた結果、既に右も左も分からない状態だが、死ぬよりはマシだ。

流石に疲れたので、木に寄りかかって休む。

「来てねぇよな?」

様子を伺って見たが、辺りに人影はない。

どうやら逃げきれたようだ。

「マジでなんなんだよこの森!人がいると思ったら殺人メイド!そして終わりが見えないこの森!」

愚痴をグチグチと吐き出すも、状況は変わらない。

「(これからどうするか。携帯もないし、お金もない)」

まさに絶体絶命の状況に陥っていた。

警察にも通報できない。

そんな時、遠くから足音が聞こえてきた。

慌てて口を塞ぎ、足の震えも抑えて音をたてないようにする。

「(あのメイドか!?見つかったら殺される…見つかったら殺される!)」

途中、目を瞑りながら藁にもすがる気持ちで天に祈った。

「ここにはいないわね」

あのメイド服を着た女性の声が聞こえて恐怖に怯えたが、いないという言葉を聞いてホッとする。

「(行ったか…?)」

木影から様子を伺おうと覗くと…

目の前にメイド服を着た女性が立っていた。

「あ…あ…」

声もロクにだせなかった。

「まさか気づいてないとでも思っていたの?残念、ゲームオーバーよ」

メイド服を着た女性はそう言って、ナイフの柄で男の頭を殴った。

男の意識はここで途切れた。

 

 


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