Re:ゼロから始める一方通行   作:天条

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彼は異世界でも変わらない

「はァ……?」

 

 

 

まず目に入り込んで来たのは、ありえない大きさのトカゲ、猫耳を生やした直立二足歩行の動物たちだった。

 

「なンだこりゃァ?」

 

学園都市に7人しか存在しないLevel5の超能力者。その中でも突き抜けた頂点とまで呼ばれる人物、一方通行(アクセラレータ)。彼は自分の置かれた状況を理解出来ずにいた。

 

(俺はさっきまで黄泉川のマンションにいたはず.....それがなンでこんな西洋風の街に1人突っ立ってンだ?)

 

巨大なトカゲのような生物が一方通行の目の前を何体も過ぎ去っていく……

そのありえない光景にさすがの第1位も言葉を失っていた。

 

荷車を引く巨大な爬虫類は1匹や2匹ではない。道行く人もカラフルな頭をしていて日本人と思える見た目のものはぱっと見皆無。

 

(どうなッてやがるッ⁉︎)

 

辺りを見渡しながら、一方通行は自分の記憶を遡るため、脳をフルに回転させる。

 

(まず第一にここは何処だ?この街並みといい、目の前の説明不能な生物といい、ここは学園都市の外部だッてのか? いや、よく考えろ。手続きなしで学園都市の外に出れるはずもねェ。だったら、なンかのバーチャルシステムか……⁉︎ そもそも俺はどうやッてここに連れてこられた?普通に考えりゃ、精神操作系の能力者を使って……いや待て、なら何故このタイミングで洗脳を解きやがッた?)

 

「分からねェな、クソッたれ」

 

謎の状況に苛立ちをおぼえる一方通行。

 

(まァ来るとは思ってたんだそういう馬鹿が。俺に恨みがあるか、俺を利用しようとしてンのか、どッちかは知ンねェが……ぶち、殺す‼︎)

 

いまいち現状を飲み込めていない一方通行だが、とりあえず歩き出そうとしたその時、

 

「なぁ兄ちゃん、そこに立ってられるとこちとら商売の邪魔になるんだが。」

 

不意に商人らしき中年の男に話掛けられた。

顔に傷のあるガタイの良い男だ。

 

「あァ? 安心しろ。今、この汚ねェ露店街から離れる方針が決まったところだ。」

 

「ったく。口の悪りぃ兄ちゃんだな。おまけに目つきも悪いときた、シッシッ。だったらとっとと行っちまいな。」

 

「チッ...」

 

商人の罵倒を無視し、一方通行は見知らぬ世界を歩き出した。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

多くの露店で賑わっていた通りから場所を移し、一方通行は薄暗い路地裏に腰を落ち着けていた。

 

「チッ...あり得るいくつもの可能性を考えてはみたが、どれもあの理解不能な生物たちを説明するには足りてねェ。」

 

(どういう原理か知ンねェが、こうして思考したり普通に歩行ができてる時点でネットワークには繋がッてるみてェだな。チョーカーも正常に作動してやがる。)

 

「まァ良い、いざとなれはこの辺一帯を吹き飛ばしてでも俺をここに連れてきたヤツを見つけ出してやる。」

 

ニヤリと笑みを浮かべながら恐ろしいことを口にする一方通行。

そんな彼を無視して静かな路地裏に響く足音。

 

見れば路地裏の入り口に、一方通行から道を塞ぐような形で、3人の男が立っている。

 

見た目はおそらく二十代半ばくらい。薄汚い身なりと、内面のいやしさがそのまま顔に表れたような雰囲気。

 

一方通行には見慣れている、力の差を理解していないスキルアウトたちと同じ連中だ。

 

慌てる様子もなく一方通行はゆっくりと腰を上げると、ここにきて何度目になるか分からないため息をついた。

 

「なーんか、ため息ついてるよ、アイツ。」

 

「状況がわかってないんだろ。教えてやればいいんじゃないか」

 

気分の下がる一方通行に対して、ニヤニヤと不敵な笑みを浮かべる3人の男たち。ーーが、そんな奴らの態度を無視して、

 

「何か用か三下?」

 

トーンを下げてそう尋ねる一方通行。

 

「おいおい状況がわからねぇのかおまえ、3対1だ。とっとと身包み置いてどっかに消えな。」

 

「哀れだなァおまえら、本気で言ってんなら抱き締めたくなるくらい哀れだわ。」

 

「なに言ってんのかわかんねえけど、俺らを馬鹿にしてんのはわかった。ぶち殺す」

 

そう言いきると、3人組の1番小柄な男が一方通行に殴りかかってくる。

 

一方通行は冷め切った表情で目を軽く閉じると、首もとにあるチョーカーの電極スイッチをONにした。

 

ーー瞬間、反射の甲高い音と共に男の腕が鈍い音を立ててありえない方に折り曲がった。

 

「あがぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎痛てぇーぇぇぇ。腕が……腕がぁぁ‼︎」

 

すると他2人の男の表情が少し変わる。

 

「何をしやがった?てめぇ。」

 

「俺は今、機嫌が悪りィ。死にたくなかったらとっとと失せろーーなんて善人ぶる気はねェ。お前らは全員スクラップ確定だ。」

 

一方通行の笑い声が路地裏に響き渡るーーそのときだ。

 

「ちょっとどけどけどけ、そこの兄ちゃんたちマジで邪魔!」

 

一方通行、もしくはチンピラ以外の声が響き渡り、その声の主であろう小柄な少女が路地裏に走りこんできた。

 

少し驚いた表情を見せるチンピラたちに対し、舌打ちまじりに面倒そうな表情を浮かべる一方通行。少女はそんな彼らを無視してするりと路地を抜けていく。

 

「なんかスゴイ現場だけど、ゴメンな! アタシ忙しいんだ! 強く生きてくれ!」

 

走りながらそう言い放ち、少女は風のように過ぎていく。奥の行き止まりに到達すると、壁を蹴って、上へ上へ。そうして少女は建物の屋上へと消えた。

 

少女の姿が見えなくなり、自然と場に沈黙が落ちる。

 

興が削がれた一方通行は、ため息をつくと黙ってその場を後にしようかと考えたが、目の前のチンピラがそれを許すはずもなく、

 

「おい、どこ行くつもりだよっ!今ので、俺らがおまえを許すとでも思ったのか?こっちは仲間1人やられてんだ。簡単に逃げられっと思うなよ」

 

大柄な男と、どこからかナイフを取り出した男が一方通行に迫ってくる。

 

対する一方通行はと言うととくに構える様子もなくただ、その場に立っているだけだった。

 

ーー当然と言えば当然、一方通行に向けられたナイフは、甲高い音を立てて宙を舞い、男の頬をかすっていく。大柄な男の腕も逆方向に折れ曲り、絶叫が路地に響き渡る。

 

腕を折り曲げられた男2人は地面に這い蹲り、ナイフの男は武器を失って尻餅をついている。

 

「痛てぇ……何なんだよおまえは」

 

まるで化け物でも見たかのような恐怖に満ちた表情。そんな男たちを見かねた一方通行は、今度こそこの場から立ち去ろうと歩き出すーーのだが、

 

「ーーそこまでよ、悪党」

 

路地の入り口にまたしても、1人の少女が立っている。先ほどとは別の、銀髪の美しい少女だ。

 

「あァ?」

 

威圧的な態度で一方通行はそれに応じるが、少女は全く怯む様子を見せない。

 

「今なら許してあげる。だから潔く私から盗ったものを返して」

 

「はァ?」

 

「お願い。あれは大切なものなの。あれ以外のものなら諦めもつくけど、あれだけは絶対にダメ。――今なら、命まで取ろうとは思わないわ。良い子だから、ね?」

 

「俺に言ってンのか?」

 

「あなたと、そこで伸びてる人たちもよ」

 

どうやらその少女は一方通行とチンピラ共に向って話しているらしい。

 

「俺たちは何も知らねぇ。だから頼む、見逃してくれ」

 

一番傷の浅い男が恐怖の表情で頼み込む。

 

「別に命までは取らないって言ったでしょ?ーーまぁでも嘘をついているようにも見えないし、じゃああなたは?」

 

「さァな。こいつらが盗ってないってンならさっき突っ走って行ったガキだろ。まァ俺の知ったことじゃねェがな」

 

「そう、なら早く追いかけないと」

 

こちらに背を向けて路地の外へ向かう銀髪の少女。一方通行もその背中を追って路地に出ようとしたのだが、

 

「それはそれとして、見逃せる状態じゃないわ」

 

振り返りざまにこちらに掌を向けた少女――その掌から、飛礫《つぶて》が一方通行に向かって放たれていた。

 

その速度は目で追えるものではなかったが、一方通行にとっては目で追う必要のないものだった。

 

甲高い反射音が響いたのと同時に、氷の《つぶて》は少女のそばへと跳ね返り、辺りの壁や地面に突き刺さる。

 

拳大の大きさの氷の塊――季節感や物理現象を無視して生じた物体は、その役目を果たした途端に大気に食まれるようにして霧散する。

 

驚きで目を丸くする少女。一体何が起きたのか考える暇もなく、一方通行が口を開く

 

「能力者かーーまさかお前、俺をこのふざけたファンタジー溢れる世界に連れてきた奴を知ってンじゃねェのか」

 

一方通行の質問に対して眉をひそめる少女。

 

「ちょっと何言ってるか分からないけど、その人たちすごく怯えてるし怪我もしてるじゃない。弱いものいじめはしちゃいけないって教わらなかったの?」

 

 

「悪りィが、そんな恵まれた環境で育った覚えはねェ。それに、俺は筋金入りの悪党だ。甲斐甲斐しく説教しようなンざ考えるンじゃねェよ三下」

 

「サン、シタ……?

気のせいかしら?よく分からないけどすごーく馬鹿にされてる気がする。」

 

「それは気のせいじゃないと思うよリア」

 

その声と同時に少女の肩に現れたのは、掌サイズの直立する猫だった。

 

その奇妙な猫の姿を見て、ナイフ男がその顔に戦慄を浮かべて叫ぶ。

 

「ーー精霊つかいか!」

 

「その通りよ。そこの白髪の目つきの悪いあなた、今すぐ引き下がるなら追わない、すぐ決断して。急いでるの。」

 

少女ら再び氷の《つぶて》を作り出すと、それを一方通行へと向ける。

 

「ちょっと待ちなよリア。確かにその人は目つきが悪くて悪人っぽいけど、不思議と悪い感じはしないよ?ちょっと話を聞いてみたらどうかな?」

 

「パックは黙ってて。――あなた、私から徽章を盗んだ相手に心当たりがあるでしょ?」

 

小猫を黙らせて少女は一方通行に問いを投げるーー

 

「ーーそこまでですエミリア様」

 

その声は唐突に、そして明確に、路地裏のひりつくような緊迫感を切り裂いた。

 凛とした声色は欠片も躊躇がなく、聞く者にただ圧倒的な存在感だけを叩きつけ、その意思を伝わせる天性のもの。

 

少女の視線の先に佇む、腰に剣を下げた赤い頭髪の人物。

 

その姿を見たナイフの男が思わず「嘘だろ」と声を漏らす。

 

「ラインハルト?」

 

少女が呼んだその名前にナイフの男は慌てふためき、またしても恐怖の表情が浮かぶ。

 

「なんであなたがここに?それにどうして私を止めるの?」

 

「すみませんエミリア様、ですが自分はこの現場の一部始終を拝見しておりました。おそらく白髪の彼は被害者です。」

 

「え、どういうこと?」

 

「最初から見ていたわけではないので自分にも分かりかねますが、白髪の彼が3人組を襲ったのではなく、3人組が白髪の彼を襲い、正当防衛として彼が3人組を撃退したのかと」

 

「そ、そうなの?」

 

おずおずと申し訳なさそうに聞いてくるエミリアと呼ばれた少女。そんな彼女に対して、一方通行は心底呆れたように、

 

 

「くっだらねェ」

 

そう一言吐き棄てると、一方通行はラインハルトと呼ばれた青年の横を通り過ぎようと足を進める。

 

「ちょっと待って、だとしたら私、あなたにすごくひどいこと……」

 

「だから言ったじゃないかリア。あの子、見た目は悪そうだけど芯は良い子だよ」

 

子猫が少女にそう呟くとすぐに、赤髪の青年が口を開く。

 

「でも少しやりすぎではないかな?君ほどの強さならもう少し穏便に済ませることもできたのではないかい?」

 

「オマエ、俺がそんな涙溢れる善人に見えンのか?」

 

「見えるとも。君は最初から相手を殺す気なんて無かっただろう?」

 

「チッ……」

 

 

赤髪の青年が一方通行にそう告げると、今度はチンピラ3人組の前に来て、

 

「君たちも君たちだよ、まったく...

大事にならなかったから良かったけれどね。

エミリア様、彼等の身柄は自分が預かります」

 

「え、でも……」

 

「ご安心を。決して悪いようにはしません。生憎自分は今日、非番ですので」

 

「ありがとう、ならお願いでる?」

 

「もちろんです。それと君もすまなかった。僕がもっと早く止めに出ていれば」

 

「私も、本当にごめんなさい。私……勝手に勘違いして」

 

「もォいい。それよりオマエ、何か盗られたンじゃなかったのか?」

 

一方通行の問いにハッとなる少女。

 

「いけない!私、徽章を盗まれて...早く追いかけないと」

 

「そうでした!自分も及ばずながら手伝います。大丈夫です、きっと彼も助力してくれるはずですから」

 

さらっと一方通行に協力を求めてくる赤髪の青年。

 

「しれっと何言ってやがる。俺は手伝わねェぞ?他所当たれ」

 

 

「忙しいのかい?」

 

 

「あァ、生憎と大忙しだ」

 

 

そう言い残した一方通行はやっとのことで路地から出ると、露店街の人混みへと姿を消した。


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