「我が名はむきむき。紅魔族随一の筋肉を持つ者!」   作:ルシエド

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 ぼちぼちWEB版と書籍版の現状ある設定をまぜこぜにしたものを、とりあえずの着地点に持っていくための繋ぎにしたオリジナル設定が一杯出てきます


5-1-3

 エリスが事前にむきむきに教えていたことはいくつかある。

 例えば、アクアが持っているが忘れている『魔王を弱体化させる能力の存在』などだ。

 

「『光よ』!」

 

 最近は昨日の朝ご飯のメニューも、自分が女神であることも忘れがちなアクアだが、言われればそこそこ思い出す。

 開幕でいきなり弱体化の力を放ち、魔王のスペックを著しく低下させていた。

 

「弱体化か、小癪な」

 

 魔王は力を著しく削られるが、それで焦る様子も見せない。

 冷静に状況を把握し、部下を自分の周囲に展開し、油断なく敵を見る。

 ゆえに一瞬で気が付いた。

 むきむき達のPT人数が、事前に聞いていたものよりも少ないことに。

 

(頭数が足りていない?)

 

 一瞬でそこに危機感を持った魔王の洞察力は一流と言って差し支えないものであったが、それでも遅い。既に一手遅れている。

 カズマの卑怯戦術は、一瞬でその全てを見抜かれたとしても対応不可能であるものだからだ。

 

「―――『エクスプロージョン』!」

 

 先日考案された、カズマの潜伏で姿を消しためぐみんの無詠唱爆裂魔法が屋上にて放たれる。

 魔法の白光が屋上に展開された魔王とその部下達に直撃し、冬将軍も消し飛ばすほどの威力を的確に直撃させた。

 デタラメな規模の爆発。発生した爆風の余波は、むきむきとダクネスが盾となって遮る。

 

 戦いの開始直後、むきむき達と魔王達が接近する前の問答無用先制攻撃―――容赦の無い一撃必殺であった。

 

「やっぱり潜伏爆裂は……最強だな!」

 

「この戦術私達が使ってるって発覚したら国から厳重に警戒されそうですね、テロ云々で」

 

 カズマ&めぐみんのこの一撃を防ぎたいなら、潜伏を無効化するモンスターを魔王城内部に大量に放つしかない。

 実際魔王はそうしていたのだが、むきむきとアクアに片っ端から駆除されてしまっていた。

 

「しょうもない決着だな……だが、勝ちは勝ちか」

 

 ダクネスが溜め息を吐き、肩の力を抜く。

 めぐみんの爆裂魔法に耐えられる存在などそう居ない。魔王でさえも耐えられない。それはウォルバクが明言したことだ。

 彼女が少しだけ気を抜いたのも、ごく自然なことであったと言えよう。

 

「ほう、綺麗に吹っ飛んだな」

 

「! お前、レッ―――」

 

「第一ラウンドの決着としては悪くない終わりだ」

 

「!?」

 

 ふっ、と突然レッドが現れる。

 戦場の片隅に現れた彼は、魔王が倒されてしまったというのに、驚く様子も慌てる様子もなく、とても静かな様子で顔を隠す仮面をなぞる。

 

「お前達も知っての通り、当代の魔王は老人でな。

 純粋な力で言えば全盛期には程遠く、配下を強化する能力さえも劣化していた。

 されど勇者を待ち受けるのが魔王の責務。弱っているのに、逃げるわけにはいかないときた」

 

 その内寿命でポックリ行くんじゃないかと娘に心配されていたくらいでな、とレッドは仮面の下で苦笑する。

 

「お前達は幹部が補充される前に勝負を仕掛けたい。

 私達は寿命死する前に『今の魔王』を勝たせたい。利害は一致していたわけだ」

 

 この決戦で雌雄を決したいという理由は、人間側にも魔王軍側にもあった。

 

「私の能力は特典職業、モンスターテイマー。

 魔王にも色々と仕込ませて貰った。流石に老人の魔王のままでは味気なかろう?」

 

 爆裂魔法が発生させた爆煙の中で、何かが蠢く。

 マナタイトで魔力を補給するめぐみんとゆんゆんは、杖をそちらに向けた。

 むきむきとダクネスは、レッドと爆煙の両方に警戒心を向けつつ、仲間を庇った。

 アクアはバリバリ油断していた。

 カズマはとりあえずこっそり潜伏で隠れる。

 爆煙を散らすようにして、『それ』は魔王城の屋上にて立ち上がった。

 

「私の手で、魔王に最後の手を加えさせてもらった。

 この世界では魔王の一族は死ねばそこで終わりであるという。

 だがそれじゃあ、魔王らしくないだろう? 魔王はもっと、それっぽさが必要だ」

 

 爆煙の中から現れたのは、20m以上の巨体に膨れ上がった魔王であった。

 筋肉と鋼鉄を融合させたような肌色に、化物としか言えない風体。

 魔王城の屋上も狭くはないはずなのに、その巨体がそこに立っているだけで、急に狭くなった気すらする。

 

「例えば―――倒された後の『第二形態』などは、必要だと思わないか?」

 

 これが、この日のために魔王とレッドが用意した策。

 

 魔王が倒された直後に発動する、強化進化であった。

 

「で……」

「デカっ……!」

「デカい!」

 

「殺された後復活するのは悪魔の特権。

 殺された後、強く変質して新生するのはアンデッドの特権。

 ホーストやアーネスのように、死しても蘇るように……

 ウィズやベルディアのように、一度死んだ後にこそ強化されるように……

 女神の特典で、魔王の体に仕込めるだけの仕込みを行った。

 魔王も一種のモンスター。本人の同意があれば、いくらでも混ぜて強化はできる」

 

 複数のモンスターを女神の力で改造し、意志を剥奪し、魔王に組み込んだ。

 女神の力を勇者に選ばれた人間が魔王のために使うというこの矛盾。

 されどその矛盾は、数十体のモンスターを魔王に組み込むという過程を経て、最強の矛と盾にも勝るものを魔王に備えさせていた。

 

 くぐもった声で、魔王は語る。

 

『さあ、第二ラウンドだ』

 

 魔王はその巨体から、右の豪腕を振り下ろした。

 狙いはむきむき。むきむきは魔王の豪腕の攻撃範囲に入っていたゆんゆんを突き飛ばし、頭上で腕をクロスしてその一撃を受け止めようとする。

 その一撃を甘く見ていたことは否定できない。

 その攻撃を受けきって、反撃することを第一に考えていたのも間違いない。

 ゆえにこそ、その甘い考えは豪腕の一撃で粉砕される。

 

「―――か、ぁ、がっ!?」

 

 頭上からの一撃を受け止めたむきむきの両膝は折れ、普段とは逆の向きに曲がっていた。

 

「!?」

 

 豪腕には状態異常効果が付与されていたようで、それもまたむきむきの体力を削る。

 魔王は一撃でむきむきの両足を折り、もう一度腕を振り上げて、追撃の一撃でむきむきにトドメを刺そうとしていた。

 

「せ、『セイクリッド・ハイネスヒール』!」

 

 そこで飛ぶアクアの回復魔法。

 むきむきは間一髪で状態異常から立ち直り、逆方向に折れた膝が治りきる前に両腕だけで床を叩いて大ジャンプ。巨体豪腕の一撃を辛うじて回避して、滞空中に治った足で着地した。

 

「あ、危なっ!」

 

「こりゃ近寄ったら叩き潰されるか踏み潰され……ん?」

 

 距離を取るべきだ、と皆が判断したその瞬間。

 魔王の全身に鋼鉄の瞼が現れ、開いた瞼がぎょろりと動く鋼鉄の眼球を見せつける。

 更には鋼鉄の唇までもが魔王の皮膚上にずらりと現れ、その唇の全てが魔法の詠唱を開始し、数え切れないほどの数の魔法を射出してきた。

 

「うわっ!?」

 

「私の後ろに隠れろ!」

 

 そこで役立ったのがダクネスであった。

 潜伏さえも許さない絨毯爆撃だが、ダクネスという堅固な盾(しゃへいぶつ)に遮られればその後ろにまでは届かない。

 跳んで絨毯爆撃を避けるむきむき以外の全員が、ダクネスの背後で攻撃をやりすごす。

 

 それも当然。でなければ生き残れるはずもない。

 足を止めて攻撃を遮っているダクネスの背後以外、安全地帯が存在していないのだ。

 しっちゃかめっちゃかに魔法を乱射する魔王のせいで、彼らの周囲は彼らを飲み込もうとする魔法の雪崩しか見えない。

 跳び回っていたむきむきもダクネスの隣に着地、仲間のため安全地帯を作りに動くが、打たれ弱いカズマ達がこれの直撃を受ければ腕の一本や二本は持って行かれかねないだろう。

 

「こ、これは……!?」

 

「魔王の体の表面に口が沢山付いてるの、見えるか?」

 

 この攻撃の正体に真っ先に気付いたのは、やはりというかカズマであった。

 

「あれで多分、一気に複数の詠唱を実行してるんだ。ちょっと、いやかなり面倒だな……!」

 

「ともかく攻めよう、カズマくん! ダメージを通さないと話にならない!」

 

「ああ!」

 

 ダクネスに仲間の守りを任せ、むきむきは敵に隙を作るべく動き出す。

 前に出るのはむきむきに任せ、カズマは仲間に指示を出して動き出す。

 ゲーム的な表現をするのであれば、『一度倒すと強化されて第二形態』『一ターン複数回行動』『通常攻撃が全体攻撃』という能力を実装した大魔王。

 魔王と勇者の戦いを、レッドは遠巻きに仮面越しに眺めていた。

 

 

 

 

 

 セレスディナは魔王の娘の横、魔王軍本隊の中央にて耳を澄ませる。

 魔王城の方から聞こえてくる轟音は、加速度的にその音量を増していた。

 城に残った者達とぶつかるミツルギ達やアクシズ教徒達の戦闘音。

 その戦闘音よりも更に大きな紅魔族と預言者の戦闘音。

 二つの戦闘音さえ塗り潰す、むきむき達と魔王の戦闘音。

 

「始まったか」

 

 ここは魔王軍本隊の中央、戦乱の渦中にして台風の目。要するに安全地帯だ。

 セレスディナの横で、セレスディナが漏らした一言を聞いたのか、魔王の娘が不思議そうにセレスディナに呼びかける。

 何が始まったのか、と。

 

「魔王の野郎の戦いさ。あれが本当の最後ってやつだろ」

 

 魔王の娘が眉をひそめる。

 

「あっちが終わる前にあたしらもこっちを片付けて、戻らねえとな」

 

 魔王の娘はひそめた眉を戻し、不思議そうに首を傾げた。

 そして、ああ部下が心配なんだなこのツンデレ、と思う。

 

「早めに戻るさ。要はさっさと人間の軍の本隊を叩いちまえばいいんだ。

 それまでの間、あたしの部下達が保たせてくれればいい。

 そうすりゃ魔王軍の本隊を反転させて、今城とその周りに居る奴らを全員ぶっ殺せる」

 

 セレスディナはぶっきらぼうにそう言い切った。

 彼女は冷酷で、残酷で、姑息で、卑怯で、部下が死んでも引きずることはまずないが、部下を生き残らせるために奮闘できる女性だった。

 

「が、その前に」

 

 されども、部下を生かすため、魔王軍を勝たせるため戦うセレスディナが居るように―――人間の側にも、仲間を生かすため、人類を勝たせるために戦っている者達が居る。

 ベルゼルグの者、エルロードの者、冒険者、転生者、貴族、兵士、傭兵。

 人類というカテゴリが抱える戦う者達。

 その中でも特に奮闘している者が居た。

 状態異常無効の聖剣を持ち、セレスディナの洗脳も呪いも跳ね除ける、魔王の娘に強化された魔王軍さえも蹴散らしている、魔王の王女と対になるベルゼルグの王女。

 

「てやああああっ!!」

 

 突き進むアイリスは、セレスディナの心に"そもそも勝てるのか"という不安を募らせていた。

 

「ったく、『王』とか肩書に付いてるやつはどいつもこいつも……!」

 

 敵も味方も、王族が命を賭けて戦わなければならない局面に足を踏み入れる。

 

 

 

 

 

 一方その頃、魔王城の頂点では。

 

「うおっ!?」

 

 相も変わらず魔王による魔法の制圧射撃により、カズマ達は反撃の糸口を得られずに居た。

 

「埒が明かねえ! むきむき、アクア、めぐみん、さっき言ったあれやるぞ!」

 

「了解!」

「うーんちょっと私怖いから遠慮したいなーなんて」

「ほらアクアはさっさと行ってください」

 

 カズマは三人を動かしての賭けに出る。

 ダクネスは盾を継続、賭けに出るための一瞬の隙を作るのはゆんゆんの役目だ。

 

「ではまず私が! 『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 ゆんゆんは馬鹿みたいに大量の魔力を注いで、魔王城の結界さえも両断できそうな巨大で鋭い刃を作る。

 魔王もこれは喰らいたくないと考えたらしく、絨毯爆撃に使っていた魔法の全てを一点集中、ゆんゆんの魔法と相殺させる。

 そうして出来た僅かな時間に、めぐみんはマナタイトで回復した魔力を全投入、二発目の爆裂魔法を発射した。

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 本来ならば超長距離から飛来する高速弾頭、それも広範囲を焼き尽くす範囲攻撃。

 かわせるはずもない一撃。

 だが砲弾のように発射されたそれを、魔王は超反応と高速移動にて回避した。

 

「その魔法はワシも既に一度見た!」

 

(っ、本当に忌々しいですね。

 上から下に打ち付けるタイプの爆裂魔法は仲間を巻き込むため撃ちにくい。

 横に射出するタイプだと、あの巨体が信じられない速度で動いてかわされる。

 爆裂魔法ってそんな避けられる弾速じゃないはずなんですが……けど、それでも)

 

 ウィズの店で売っていた高級マナタイトも、魔王軍幹部等との戦闘などで消費してもう残り少ない。めぐみんとゆんゆんの魔力消費ペースが段違いなため、尚更使用ペースは速かった。

 ならば。

 一発ごとに、当てる工夫をすればいい。

 

(これで!)

 

 ゆんゆんが魔法を撃った時点で、アクアを抱えたむきむきが走り出していた。彼はめぐみんが魔法を撃つ直前に跳び上がり、めぐみんが放ち魔王が避けた魔法が、一直線にそこへ向かう。

 

「『リフレクト』!」

 

 その爆裂魔法を、アクアが無限に近い魔力を用いて()()した。

 

「―――!」

 

 プリーストの使用魔法を女神の力で昇華させ、力任せに355°方向転換。

 回避直後で隙を晒している魔王へと爆裂魔法が再び迫る。

 魔王は避けられないと悟り、右腕を振り上げ―――死すらも覚悟し、爆裂魔法にハンマーの如く拳を叩きつけた。

 

「!?」

 

 膨大な魔力を込められた右腕は、右腕を消し飛ばされながらも爆裂魔法を床に――魔王城に――叩きつける。

 魔王を殺すために費やされるはずだった破壊力は、その全てが魔王城の破壊へと費やされた。

 魔王城が壊れ、崩れ落ちていく。

 

「う、うわっ!?」

 

「な、なんて無茶苦茶な……!」

 

「カズマくん、皆を捕まえて!」

 

「お、おう! 『バインド』!」

 

 カズマがバインドスキルの応用で仲間達と自分を繋ぎ、むきむきが空を跳ねながらワイヤーで繋がれた仲間達を回収して、なんとか地面に着地する。

 むきむきの筋肉巨体が空を跳ね回る姿も圧巻だが、今は魔王城の崩落に巻き込まれてもダメージを受ける様子さえ見せない、魔王の巨体の方がよく目立っていた。

 

()ッ……流石に、効いたぞ!」

 

 魔王は爆裂魔法に吹き飛ばされた腕を瞬時に再生、再生した腕で殴りかかる。

 むきむきは仲間を庇うように前に出て、魔王の拳に拳を合わせる。

 拳と拳が衝突し、むきむきの方が競り負け、吹き飛ばされた。

 そして体が浮いたむきむきに、魔王の全身から放たれた無数の魔法が突き刺さる。

 

「くっ……ぐあっ!」

 

「むきむき!」

 

 意識が飛びかける。命が飛びかける。

 少年は自前の回復魔法で一瞬だけ命を繋ぎ、繋いだ命を更にアクアに繋いでもらう。

 むきむきの意識は数秒だけ完全に飛び、意識が飛ぶその直前に、魔王に捕まるアクアとそれを助けようとする仲間達の姿が、むきむきの目に焼き付いていた。

 

 

 

 

 

 その数秒が、むきむきの記憶を蘇らせる。

 一種の走馬灯だろう。むきむきの意識は、ある夜にウォルバクと二人きりで話した時の記憶の中に放り込まれていた。

 

「あなたの性格は私の信徒より、エリスの信徒の方が向いている気がするわ」

 

「うっ」

 

「敬虔なエリス教徒の一部はアクシズ教徒に優しいと聞くけれど……あなたはまさにそれね」

 

 『怠惰と暴虐』という自分の特性と、むきむきの相性がイマイチ良くないのだと彼女は言う。

 確かにこの少年、怠惰に生きることも暴虐に生きることも無さそうだ。

 

 カズマとアクアがこの世界に来てすぐの頃、アクシズ教徒だと思われたアクアは、ギルドの登録料をエリス教徒に恵んで貰ったという。

 敬虔なエリス教徒であるダクネスやクリスは、アクアに優しい。

 寛容な一部のエリス教徒でもなければアクシズ教徒に優しくできないのかもしれないし、先輩のアクアに寛容なエリスに信徒が似るのかもしれない。真相は謎である。

 

「私に気遣わず、エリス教に改宗してもいいのよ?」

 

「今のままで特に困ったこともないので、変えようとは思ってなかったんですが……」

 

「少なくとも、私は人に祈られる資格がある女神じゃないもの」

 

 魔王退治を近日に控えたことで、ウォルバクは妙な厭世感を漂わせていた。

 魔王が死ぬか、この少年が死ぬか、二つに一つ。この先に待っているのはそういう決戦だ。

 その前提が、ウォルバクを嫌な気持ちにさせていた。

 

「前に、あなた達に聞かれたことだけど。……魔王の身の上話、聞く気はある?」

 

「! はい、是非!」

 

 魔王が魔王で在る理由。

 ウォルバクが魔王軍に付いていた理由。

 むきむきはそれを聞きたがっていた。

 だがウォルバクは今日までずっとそれを話そうとはしなかった。

 それを話してしまうことで、むきむきが同情して戦いの手を鈍らせてしまうことを、そのせいでむきむきが死んでしまうことを恐れたからだろう。

 あるいはまだ、魔王の味方をしてやりたい気持ちが少しは残っていたのだろうか。

 

 だが最後の戦いを前にして、ウォルバクはそれを話す覚悟を決めた。

 目の前の『自分を天界に帰そうと頑張っている子供』の姿が、女神としてのウォルバクの心を揺らしたのかもしれない。

 

 魔王の身の上を知った上で、人の世界を守るために倒す決意を固める。

 魔王のことを知り、理解し、それを魔王の討伐に役立てる。

 それがきっと今一番に必要なものだ。

 敵を知り、その上で同情せずに打倒する。それが心持つ敵を倒すために必要なものである。

 

「魔王は、元人間よ」

 

「え?」

 

「それも、佐藤和真や御剣響夜と同じ場所から来た異邦人であり、当時最強の勇者と目された者」

 

 だが流石に、()()()()()を告げられてしまえば、むきむきも驚かずにはいられない。

 ウォルバクは蕩々(とうとう)に、滔々(とうとう)と語り出す。

 

「彼がまだ魔王になっていない、彼がまだ勇者だった頃……

 彼は一人で魔王と対峙し、それを追い詰めた。

 けれども最後に魔王に逆転され、死にそうになった時……事故が起こってしまったの」

 

「事故?」

 

「彼が拾得していた他人の神器が発動してしまったのよ。

 あなたも見た覚えがあるでしょう? 体を入れ替えるタイプの神器を」

 

「!」

 

「彼が負けそうになったその時、神器が発動して勇者と魔王の体が交換された。

 勇者は勝つ直前の魔王の体の中に。魔王は死ぬ直前の勇者の体の中に。

 そうして、『魔王になった勇者』は自分の体の中に入った魔王を倒し、世界を救ったわ」

 

 『今の魔王』は、そうして生まれた存在だった。

 

「いや、待ってください。そこまで詳しく知ってるってことは、まさか……」

 

「あなたにとってのエリスのように。

 佐藤和真にとってのアクアのように。

 今の魔王である彼には女神ウォルバクが居た。それだけよ」

 

「……」

 

 冒険をする日本人が居て、それを見守る女神が居て、人と女神が言葉を交わす。

 本来一対一で向き合うことのない人と神の交流に、不思議な楽しさや喜びが生まれる。

 そんな関係が、過去にもあった。

 今は魔王と呼ばれている男とウォルバクの間にも、そういう関係があったのだ。

 

「でも神器は本来の所有者でなければ正常には機能しない。

 それはあなたも知っているでしょう?

 魔王の体を正しい形で乗っ取れなかった彼の心は、魔王の体に引っ張られ始めた」

 

「……」

 

「そうして、いつしか人ならざる者の味方になった。

 ……優しい人だったから、きっと情が湧いてしまったのね。

 人外の仲間を作り、人外の妻を持ち、人外の娘を得て、人外の軍を率いて……」

 

「"魔王軍の代表者"として、魔王を名乗り動き始めたんですね」

 

「そうよ」

 

 一時ではあっても、バニルほどの大悪魔が魔王の味方をした理由も分かった。

 魔王が『人間』でもあり、『面白く』もある者であるならば、あのバニルの興味を引いたとしてもおかしくはない。

 魔王もからかえば、バニル好みの"人間の悪感情"を吐き出したのだろうし。

 

「彼をそこまで堕としておいて、私だけ知らんぷりはできないでしょう?」

 

「……あなたは、見捨てられなかった。ウォルバク様は、優しい女神だったから」

 

「違うわ。情のせいで見捨てられなかっただけで……邪神が優しいわけがないでしょう?」

 

「……」

 

「レッドという悪い親友も出来て、魔王になってから長いあの子も少し明るくなった。

 それでも元には戻らない。……起きた変化は不可逆で、あの頃にはもう戻れないのね」

 

 ウォルバクは少し寂しそうに笑う。

 彼女は見方を変えれば、"人間個人との向き合い方を失敗した女神"であり、アクアやエリスにもあり得たBADENDの存在であるとも言える。

 特別に親しくしていた人間の結末こそが、彼女を最終的に邪神へと至らしめた。

 

 カズマにとってのアクアが、魔王にとってのウォルバクだった。

 ならばカズマにとってのむきむきが、魔王にとってのレッドなのだろう。

 

 ウォルバク視点、そこかしこに既視感を覚えているに違いない。

 むきむき達の物語は、ウォルバクが詳しくは語らない、彼女の過去の再演だ。

 ハッピーエンドで終わらなかった女神の物語の後始末だ。

 女神に導かれた勇者が魔王を倒し、めでたしめでたしで終わる光景を目にして初めて、失敗に終わったウォルバクの物語は一つの区切りを迎えることができる。

 

「勇者を魔王に堕ちる道に誘った。

 それを理由に人の敵に回った。

 その罪が在ったからこそ、私は邪神だったのよ」

 

 ウォルバクが語っていない理由もあるかもしれない。

 されども、彼女が魔王軍に付いた主たる理由の一つがこれであることに間違いはないだろう。

 彼女は一人の人間に情を持ってしまった。

 その人間となら地獄に落ちてもいい、と思ってしまった。

 自分には地獄の底まで付き合う責任がある、と思ってしまった。

 彼女は骨の髄まで『女神』だったから。

 

 アクアという女神と、カズマという人間の間に、地獄に落ちても断ち切られることがなさそうな腐れ縁があるのと同じことだ。

 ウォルバクは今でこそ誰の味方にもならず中立を保っているが、それまではずっと魔王の味方で居続け、その部下として彼の傍に居た。

 

「女神が誰か一人の人間のために地に堕ちる。

 それは……とても大きなことで、きっと世界さえも変えてしまうものなのよ」

 

 その言葉には、途方もない重みがあった。

 

「ねえ……あなたは、魔王を倒してあげられる? もしも、あなたにその時が来たら―――」

 

 倒してあげて、とウォルバクは言った。

 

 倒さないでと女神は言わない。

 倒して欲しいと女神は言わない。

 倒してあげてと、女神は言った。"終わりにしてあげて欲しい"と、彼女は言った。

 

 

 

 

 

 数秒の意識の断絶が解け、記憶の海からむきむきが復帰する。

 その数秒で、魔王はアクアを捕まえていた。

 むきむきは自前のヒールで気休め程度に体を癒やし、立ち上がる。

 

「ぎゃー! カズマさーん! カズマさーん! たしゅぅけてぇーっ!!」

 

「お前はなんで最後の戦いまでそういうノリなんだアクアぁー!」

 

「これで回復役は潰れたな」

 

 魔王は背中から一本太い触手を生やし、それでアクアを捕まえ、アクアが魔法を使えない程度に自分の近くでブンブンと振り回し始める。

 

「ぎょえええええええー!?」

 

「アクアー! あ、これ洒落にならんやつだ!」

 

 これでアクアは仲間を回復できない。

 ゆんゆんも魔法の使用は消極的にならざるを得ず、めぐみんに至っては爆裂魔法も封じられてしまった。撃てばアクアを巻き込んでしまう。

 

「この女神を取り上げれば、お前達は大怪我も直せない。

 死者も蘇ることは出来ない。強力な支援魔法も使えない。そうであろう?」

 

(こいつ……!)

 

 アクアの支援と回復、めぐみんの一撃必殺さえ封じれば、魔王は圧倒的有利に立つ。

 そう、アクアだ。

 このPTの中で『ぶっちぎりに強い長所』を一番多く持っているのは、アクアなのだ。

 短所も多いがそれは脇に置いておく。

 回復、蘇生、支援を使うアクアが居る限り、魔王はどんなに攻めても攻めきれない。

 真っ先に仕留めるべきはアクアだったのだ。

 

 そうすれば、後は時間をかけて少年達をじっくり削っていけばいい。

 

「ワシもあの時風呂で見た子供が、こうしてまたワシの前に立ちはだかるとは思わなかったわ」

 

(あの時……?)

 

「それもウォルバクの加護を受けて、とはな。奇縁ここに極まれりよ」

 

 魔王は深く息を吸い、その魔力を漲らせる。

 魔力量だけで言えばめぐみんも、ウォルバクも超える魔力が唸りを上げた。

 

「少年。ウォルバクはまだ迷っていたか?」

 

「……そうだよ。魔王(おまえ)の敵にも味方にもなりきれない。まだ迷っていたよ」

 

「ウォルバクは人が良すぎるのだよ。

 本質的に魔王の味方などできない。

 人の敵になど回れない。

 それなのに情が湧いてしまったという理由だけで、ワシの味方をしてしまった」

 

 魔王の言い草からは、ウォルバクが味方をしてくれて嬉しかったのか、ウォルバクに自分の味方ではなく女神のままで居て欲しかったのか、どちらが本音なのかイマイチ読み取れない。

 老人の静かな語り口は、ベールのように本音を隠す。

 

「人の敵たる邪神か、人を愛する女神かどちらかにしかなれないというのに。

 ワシさえ居なければ、迷うことなく人の味方で居続けられたというのに。

 倒されるなら倒されるでワシは満足だというのに。それが魔王に課せられた運命なのだからな」

 

 バニルならば「魔王ならば自分の最期がどうあるべきかくらいは分かっている」と言うだろう。

 ウィズに聞けば「最後に派手に倒されることを望んでいるでしょうね」と言うだろう。

 ウォルバクも「彼はそういう人だから」と言うだろう。

 それでもなお、魔王軍が人類を追い詰めるほど圧倒的で容赦がなかったのは――

 

(そっか、魔王は倒されることを受け入れてる。

 でもその部下は魔王を勝たせたいと思ってる。

 魔王は部下のその想いの分だけ、勝とうという決意を持ってる。

 この矛盾してるようで矛盾してない構造こそが、今の魔王軍……)

 

 ――それを受け入れない者が、魔王の周囲に居たからに、他ならない。

 ベルディア達はどこまでも本気で、魔王を勝者の座に座らせようとしていた。

 

「ワシはいつでも人の味方に戻っていいと彼女に言っていたのだがな。

 結局彼女は『魔王の敵』には戻らなかったか。

 ……ウィズもいつかはそうなるだろうと思っていたが、ワシの予想は大抵当たらん」

 

 魔王がくくっと笑う。

 人類を裏切って魔王となった男が、元女神と元冒険者が自分を裏切らないことを訝しむなど、奇妙な話もあったものだ。

 

「ウォルバクも随分と長く、ワシの我儘に付き合わせてしまったな」

 

 20m超の巨体が蠢く。

 

「だが、それももう終わりだ。今日ここに全てが決着する」

 

 カズマがハンスの毒を使った毒矢を撃った。

 ゆんゆんがアクアに当たらないよう威力を絞った魔法を撃つ。

 むきむきもカズマがスキルで創った鉄球を投げつけた。

 だがそのどれもが、魔王の各種耐性に弾かれてしまう。

 

 魔王(ラスボス)はただひたすらに、世界を殺す自らの脅威を見せつけていた。

 

「さあ、続きを始めようではないか。ワシもいい加減、この運命に決着を付けたいのでな!」

 

 むきむきの身体能力を超え、爆裂魔法でも腕一本しか喪失せず、数多くの特化能力を持つ魔王の第二形態。

 レッドは胸を抑えながらそれを見て、仮面を外し青い顔でニヤリと笑う。

 

「……行け、魔王が、勇者に勝って、世界に救いはなく、女神は嘆き……それで終わりだ……」

 

 魔王のこの形態を維持するため、レッドは命を削っている。

 おそらくはこの戦いの後、数日生きることも叶わないだろう。

 特典に命の全てを食わせる勢いで、レッドは魔王のために能力を使っている。

 魔王のために死ぬことを、この男は躊躇わない。

 

 そうするだけの理由があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 DTレッドと呼ばれる彼は、根が悪い奴である。

 クズだカスだと言われるが根は良い奴なカズマとは対極にあたる。

 逆説的に言えば性格の根を除けば善人であったとも言える。根が悪人だった彼をそう育てたのは両親であり、環境であり、周囲の善意だった。

 むきむきとは対極でレッドは幼少期からずっと、この上なく環境に恵まれていたのだ。

 

 彼は若くして死に、女神に能力を貰って何事もなく転生する。

 だが、この時既に片鱗は見えていたと言えよう。

 彼は他の生物を支配し、自分の思い通りに変える力を特典に求めたのだから。

 

 異世界に辿り着き、彼は冒険者になって、ある日遠出した時に食料が尽きてしまって、その上森の中で迷子になってしまった。

 

「……腹減ったー」

 

 食べるものはなく、帰り道は分からない。

 このままでは死ぬかもしれない、という疑惑が心の中で確信へと変わっていく。

 

「何か食えるものないか……」

 

 死を肌で感じ取りながら彷徨う彼が見つけたのは、一匹のジャイアントトードだった。

 

「お、カエルか。あー……あと一時間見つけるのが遅かったら、餓死してたな……」

 

 まだレッドと名乗っていなかった頃の彼は、カエルを捕まえて食べる。

 飢えに飢えていた彼はカエル肉を生で食べていた。

 冒険者ならば多少は胃腸も強くなっているため、元より鶏肉に近い性質のカエル肉を食べることに問題はない。

 食べる。

 ひたすらに食べる。

 飢えを凌ぐために食べる。

 食べて、食べて、食べて、彼は気付けば――

 

「は?」

 

 ――カエルの腹の中に居た『人間の子供の肉』を食べている、自分に気付いた。

 

「あ、え?」

 

 ジャイアントトードは人を食う。

 毎年のようにこのモンスターに人間の子供が捕食されている。

 その腹の中に人間の子供が居ることも、カエルの肉が"人間を消化した栄養で作られている"ことも、この世界の住人ならば容易く受け流せる事実だ。

 だが、彼はこの世界の住人ではない。

 そのショックは途方もないものだった。

 

「……う、わ……なんで……」

 

 ここで一つ、彼の性根を見返してみよう。

 彼の根は悪性だ。

 善性というものを上塗りしていただけで、本質的には悪である。

 

 残虐な殺人を見ても殺人犯を酷い悪人だと思えない。何故なら彼はもっと残虐な殺し方を思いつけるし、実行できるから。

 自分の方が悪人なのだから、その殺人犯を悪人だとは思えない。

 他人の大切な物が失われると快感を感じた。

 葬式で泣いている人を見ると思わず笑顔になれた。

 取り返しの付かない悲劇にこそ、素晴らしさを感じ取ることが出来た。それが彼だった。

 

 社会の歯車を回す人間の大半は、善人であると言える。

 犯罪者になるサイコパスは、壊れた善人であると言える。

 人の苦痛を全て喜べるのであれば、それは倫理が逆転した善人であると言えよう。

 彼は違う。彼は性根が悪性だ。

 彼に時折垣間見える善人のような思考や動きは、後天的に教育で獲得したものである。

 

「なんで私は……()()()()()()?」

 

 生まれつき正義の味方が向いている人間が居るように、生まれつき悪の味方が向いている者も居る。

 

「なんで、人の肉を食べて笑ってる?

 無残な子供の死体を見て笑ってる?

 普通の人は……そういう反応を、するべきじゃないんじゃないか?」

 

 『食人』という特大の禁忌を破ってしまったショックは、人によっては発狂しかねないものだっただろう。

 それが彼の()()を外してしまった。

 

「ああ」

 

 エリートが一度の失敗で転落してしまうように。

 ただの悪ぶった子供が一度の万引きで、犯罪を躊躇わない人間になってしまうように。

 普通に生きていただけの人間が、徴兵により平気で人を殺せる人間になってしまうように。

 彼もまた、その"ただの一度"で悪に堕ちた。

 

「いいな、これ。もっとこういう死体が見たい」

 

 かわいそうな過去などない。

 あったのは小さなきっかけ一つのみ。

 彼は最初から、根底からそういう人間だった。

 魔王軍に魂を売ったのも、単に悪行を行うならそっちの方が都合がよかったというだけの話。

 

「すみません、魔王軍に入りたいんですが」

 

「は? お前人間だろう?」

 

「はい」

 

 彼は能力を駆使して魔王城までの道のりを突破し、魔王城に座すという魔王に会うべく動いていた。まだレッドと呼ばれてないこの頃には、魔王軍に入る以上の目的はなかっただろう。

 だがそこで、彼は意外な人物と再会する。

 

「……ユージ?」

 

「え? ……まさか、マキトか?」

 

 彼は魔王が自分のことをユージと呼ぶのを聞いて驚き、その呼び方から何かを察して、魔王のことをマキトと呼ぶ。

 魔王が元勇者で、元地球人で、地球に居た頃親友だった男だっただなんて、どこの誰が想像できようか。

 魔王になってから途方もない年月が経った頃、地球に居た頃親友だった男が女神に送られてくるなど、どこの誰が想像できようか。

 

 ―――カズマとむきむきが再会したのと同じように、彼らもまた、奇縁によって再会したのだ。

 

 二人は自分達の境遇を懐かしそうに語り合い、再会を喜び合い、共に戦えることに奇妙な運命のようなものを感じていた。

 魔王という人間にとっての悪性となった魔王と、生来人間社会に適合しない悪性を持っていたレッドは、地球に居た頃よりも気が合うようになっていた。

 親友である二人の男と、再会を導いた女神。

 彼らの境遇はどこかむきむき達のそれと重なる。

 ウォルバクはカズマとむきむきとアクアの関係を、一体どんな目で見ていたのだろうか。

 

「戦隊の構成員募集の準備も出来た。私もようやく魔王の配下らしくなったんじゃないか?」

 

「何故戦隊……」

 

「私の趣味さ、魔王」

 

「ああ、そうなのか。ワシももううろ覚えだが、お前はそういう奴であったな……」

 

「そうとも、私はこういう悪党が正義の味方を暗にコケにするのも好きなんだ」

 

 二人は相棒だったのだ。魔王軍の大半は、そのことに気付きもしていなかったが。

 

「だが、本来の名前を捨ててそんな適当な偽名を名乗る必要はあったのか?」

 

「お前に合わせただけさ。お前も過去を捨てて、今の魔王になったんだろう?」

 

「する必要もないことを、よくもまあ。ワシにそこまで合わせる必要はなかっただろうに」

 

 レッドにとって魔王軍は自分の欲求を満たすための、悪行を行う下地でしかない。

 ……なのに。

 魔王の正体を知って、魔王軍に対し湧いてしまった情があった。

 

「地球ではお前くらいしか居なかったからな。こんな顔の私と友人になろうとした物好きは」

 

「……バカが」

 

 レッドは自分の心も顔も醜いと、そう考えている。

 他人から憎まれることが苦にならない。

 他人に正しく同情できない。

 正義の語り口に一切感化されない。

 自分の行動の結果他人が幸福になっても、何も感じない。

 泣きながら縋り付いてくる誰かを蹴飛ばすのが好きだ。

 そういった根底の感性の上に、普通の人の感性を後天的に貼り付けたのが彼の性格だ。

 

 人類を絶滅させ、モンスターだけになった社会を自分の能力で『争いの無い世界』にし、そのトップに魔王を据えるなど、まともな精神の人間の考えることではない。

 その思想は悪そのもの。

 だが、それでも。

 

 悪には悪の友情がある。

 

「私は醜いアヒルの子さ」

 

「……ユージ」

 

「今はレッドだ、魔王」

 

 レッドは『みにくいアヒルのこ』。

 彼は同族には馴染めない。

 彼にとっての本当の仲間は、最初に同族だと思った者達ではなく、自分と同じ異質(みにく)さを人間に感じさせる魔王軍の中にこそ在る。

 自分がなんであるかをきちんと自覚して初めて、醜いアヒルの子は飛び立てる。

 

「アンデッドも、悪魔も、モンスターも、魔王も、人間視点じゃ醜い奴らさ」

 

 白鳥の子は、アヒルの群れの中には混ざれない。

 住む場所が限られているのなら、まずはアヒルを皆殺しにしなければならない。

 

「昔から思ってたんだ。この顔は自分の心の醜さが出たものなんじゃないかと」

 

 レッドは醜い己が顔を指でなぞる。

 

「私はどうやら人間社会の味方にはなれない、魔王軍(おまえたちの)側の存在のようだ」

 

 そんなレッドに、魔王は手製の仮面を渡し、その手を取って強く握った。

 

「ようこそ、魔王軍へ」

 

 男同士の握手が、人を人とも思わない残酷な悪役同士の握手が、魔王軍(ここ)にレッドの居場所があるのだということを強く知らしめる。

 

「勇者だった頃、ワシは一人で戦っていた」

 

「……」

 

「だが魔王軍(ここ)で、初めて仲間を得た気がした。

 一人で全てを成そうとしたワシの考え方の、なんと愚かだったことか……」

 

 この二人は、本当に皮肉なことに、人間を平気で虐殺できる悪党になって初めて、心許せる仲間や心安らぐ居場所を得たのだ。

 

「……ワシはウォルバクにも、ここまで深い部分の心情を話したことは無かったな」

 

「男が本音を語るのは大抵男で、大抵は親友じゃないかね」

 

「違いない」

 

 くっくっくと、男二人で屈託なく笑う。

 魔王として世界を滅ぼしてもいいと思う魔王が居た。

 それに与してもいいと思う悪人が居た。

 志半ばで勇者に討たれても別にいいと思う魔王が居た。

 魔王のためなら別に死んでやってもいいかと思う悪人が居た。

 部下の献身の分くらいは頑張ってやろうかと思う魔王が居た。

 魔王を世界の覇者にしてやろうと考える悪人が居た。

 

 それは、命を懸けて果たすに値する『悪行』だった。

 

 

 

 

 

 レッドの心臓は今にも張り裂けそうで、『最強の魔王』の維持だけで命は削られていく。

 "魔王が死ねばそれだけで自分も連鎖的に死ぬ"という確信を持ちながらも、第二形態の維持をやめることはない。

 自分も苦しかったが、それ以上に人間達の上げる苦悶の声が、レッドの心に力をくれていた。

 

「腐れ縁の情があった。湧いた情があった。ただそれだけだ」

 

 誰よりも仲間を庇い、最後まで仲間を守り続けたダクネスが倒れ。

 めぐみんもゆんゆんも、攻撃の余波だけで瀕死の重傷を負い。

 アクアは相変わらず捕まったまま魔王の玩具にされていて、むきむきの回復魔法で仲間達は死んでこそいないものの虫の息。

 残るはカズマとむきむきだけという、引っくり返し難い窮地へと追い込まれてしまう。

 

「与することに大した理由など要るものか」

 

 なおも魔王は、進撃を続けた。

 

「そうだろう、レッド!」

 

「ああ、そうだな魔王!」

 

 人間の敵となった()()()()

 良い人であるむきむきと、根が良い人なカズマとは決して共存できない人種。

 彼らに押し込まれながら、むきむきは自身の無力に歯噛みする。

 倒してあげてと、ウォルバクは言った。

 終わりにしてあげて欲しいと、女神は言った。

 巨大な化け物(モンスター)と化したこの魔王を見ていると、その意味がよく分かる。

 

(……普段、女神様に祈ったり感謝してるくせに! 何やってるんだ僕は!

 たまに女神様に願われた時くらい、その願いを叶えてやれなくてどうする!)

 

 歯噛みするむきむきに守られるカズマは、友情を匂わせる台詞を吐いて息を合わせる魔王とレッドを見て、白けた顔で口を開く。

 

「知らんがな」

 

 ビックリするくらい、鬱陶しそうな声色だった。

 聞いた魔王が困惑してしまうくらい、今のこの状況にそぐわない声色だった。

 

「お前、一体何を……?」

 

「うるせー!

 悪役がカワイソカワイソな過去匂わせて出て来るのやめろ!

 周りの同情とか共感とか買おうとすんのやめろ!

 そういう風に悪役がしれっと仲間入りするパターンはモヤッとするんだよ、俺は!」

 

 カズマは昔から読者の同情を買いつつ、大した罪滅ぼしもしないまま仲間に加わる悪役にモヤッとするタイプだった。ただし美少女キャラは除く。

 

「悪役は黙ってやられてどっかいけよ! 倒した後にモヤッとするような要素入れんな!」

 

 彼は言いたいことを言う。

 そりゃもう遠慮もなしに言う。

 言い切られたその言葉が琴線に触れたのか、魔王は愉快そうに笑った。

 そして、豪腕を振るってカズマを捕まえんとする。

 

「カズマくん!」

 

 むきむきはそれを止めようとするが、スペック差で一手届かない。

 カズマは魔王の巨腕に掴まれ、人間がフィギュアを持つように持ち上げられ、いつ握り潰されてもおかしくない状態に陥ってしまう。

 

「いい名乗りだったと褒めてやろう、サトウカズマ。

 力量が伴っていたならば、よい勇者になれたかもしれんな」

 

「うっせ……クソ難易度のボスとかゲームからも異世界からも根絶しやがれ……」

 

「……貴様、何気に大物だな」

 

「そう言うお前は魔王のくせに小物だな。

 言っとくがお前倒せそうな方法がいくつか頭に浮かぶ時点でショボいぞ?

 むきむきの三角関係とかやべーからな、解決方法が思いつかん。

 あっちの方がお前を倒すより遥かに難易度が高くて面倒くさあだだだだっ!?」

 

「貴様、口から先に生まれて来たのか?」

 

 魔王が握る力を少し強めるだけで、カズマは喋れなくなってしまう。

 

「言い残すことはあるか? 歴代最弱の勇者よ」

 

「……俺は自惚れが強いんだよ。あいつの一番の男友達は俺だって、確信してる」

 

 魔法が雨のように降り注ぎ、助けに走るむきむきの足を止める。

 その隙に魔王はカズマに語りかけながら、親指をカズマの首に寄せた。

 それでもカズマの減らず口は減る気配を見せない。

 

「俺が死んだ時にこそ、あいつは最強になれる……気がする」

 

「そうか」

 

 魔王の親指が動いて、人の骨が折れる音がする。

 首が折れ、糸が切れた人形のようになったカズマを、魔王はゴミを捨てるかのように造作もなく投げ捨てた。

 べしゃり、と落下したカズマの死体が音を立てる。

 

「決め台詞を格好良く言おうとして寸前でヘタれるのは、少し格好悪いな」

 

「―――」

 

 友への侮辱は、むきむきを怒らせて然るべきものだった。

 そうしてむきむきは、精神の成長につれ控え目になっていた感情の爆発―――仲間がやられた怒りによるスペックアップを迎え、魔王へと殴りかかった。

 雨のように降り注ぐ魔法を全て殴り壊して、油断していた魔王の反応速度を凌駕し、一気に接近して拳を振り下ろす。

 

「―――ッッッ!!!」

 

「ぬっ!?」

 

 左腕を盾にした魔王だが、その腕が強烈な一撃に痺れてしまう。

 規格外のスペックと体格を手に入れた魔王であったが、その一撃に体を浮かされ、望まずしてたたらを踏んでしまった。

 魔王は反射的に、虫を叩くように右腕を振るう。

 それがむきむきを叩き落とし、その体を地面へとめり込ませていた。

 

「がッ―――!?」

 

「運が無かったな」

 

 魔王は思わず、ほっとしていた。

 今の一撃に感じた『脅威』を処理できたことに、ほっとしたのだ。

 だがその安堵もほどなくすぐに消えて失せる。

 死に体で立ち上がってきたむきむきが、心胆寒からしめるほどに強い意志の光を宿した目で、魔王を睨んできたからだ。

 

「僕に、運は、ある」

 

 運が無いなどと、この少年に言ってはいけない。

 常日頃から幸運に感謝しているこの少年に言ってはいけない。

 彼は人生の中で出会った全ての『幸運』に感謝している。

 

「僕が貰った一番大きな幸運は、人との出会いに恵まれたことだ!」

 

 彼の周りにはいつだって、巡り合わせの幸運が、幸運に恵まれた人が、そして未来に待つ幸運があった。

 少年は死に体のまま、よたよたとした足取りで、拳を振り上げ前に出る。

 

「この『幸運』を、僕は守る! 昨日も、今日も、そして明日もっ―――!」

 

 そして。

 魔王が振り下ろした豪腕に彼は潰され、死に絶え、ぐちゃりと潰れた肉塊に姿を変えた。

 

「決意は買おう。覚悟は認めよう。だが、それだけだ」

 

 もはや、魔王の前に立っている者は居ない。

 人間を蘇生する者も居ない。

 レッドは息も絶え絶えに魔王の勝利を確信し、穏やかな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王との戦いに決着がついたその頃。

 紅魔族と預言者の戦い、魔王軍の一部とアクシズ教徒の戦いはいつの間にか混戦し、二つの戦いと戦場は重なり完全に一つのものとなっていた。

 しっちゃかめっちゃかな大混戦の中、不思議な巡り合わせでぶっころりーとゼスタが共闘しており、二人は互いに背中を預けながら戦っていた。

 

「おお、やりますな、紅魔族の方。私とも今晩あたりヤリませんか?」

 

「結構です! 自分好きな(ひと)居るんで!」

 

 ゼスタに尻を向けることに絶大な不安を感じていたぶっころりーであったが、今はこの男に背中を預ける以外に選択肢はない。

 

「こういう戦いではアクア様に感謝の祈りを捧げれば生き残れるともっぱらの評判ですぞ!」

 

「いや遠慮しときます! アクシズ教の主神とかマジで勘弁!」

 

 預言者が無尽蔵の魔力で魔法を乱射している中でも、隙あらば勧誘。

 アクシズ教徒の勧誘癖は本当に筋金入りだ。

 

「第一、女神様は居るでしょうけど、女神様に祈ったって大抵助けてくれないじゃないか!」

 

 女神様に祈りながら死んでった人ってたくさん居るでしょうが、そういう人はむしろ助けてくれなかった女神様を恨んでるんじゃないか、とぶっころりーは叫んだ。

 それを聞き、ゼスタは"何を馬鹿なことを言うのか"とでも言いたげに笑う。

 

「ははっ、何をおっしゃるのやら!

 自分の命の危険を前にして

 『神様私の命を助けて』

 と叫び、助けてもらえなかったから神を恨むなど片腹痛いと言い切れますとも!」

 

「え、どういうことです?」

 

「それは我欲と保身からくる、懇願でしかありません。

 祈りでもなんでもないのですよ、それは。

 祈りとは神に感謝するもの。穏やかな気持ちで願いを空に手向けるもの。

 窮地の時にだけ必死に神に祈りすがる人間になど、醜さ以外の何が感じられましょうか!」

 

 自分が死にそうな時にだけ本気で祈るような、命乞いの時にばっかり女神にすがるような祈りなど、届くはずもないとゼスタは言う。

 アクシズ教徒らしい、強靭さとおかしさが感じられる主張だ。

 だが、よく考えれば当たり前の話だろう。

 アクシズ教徒は常日頃から、自分の行為や変態性をアクアに許してもらう時や、アクアに感謝する時にだけ、アクアに祈りを捧げているのだから。

 

「理想的な祈りは、もっと透き通っているものです。

 そう……自分の死に際に、神への感謝と隣人の幸福を願うような―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ死後の世界へ」

 

 声は静かに、死後の魂が至る天の世界に響く。

 

「私はあなたに新たな道を案内する女神、エリス。

 むきむきさん、あなたは今日その命を失いました。

 辛いでしょうが、あなたの人生は終わったのです」

 

 死したむきむきは、女神エリスと向き合っている。

 彼は負けたのだ。魔王相手に、抵抗する余地もなく圧倒的に。

 

「あなたには、私に小さな願いを奉る権利があります」

 

 女神は返答を待つこともなく、少年に語りかけ続ける。

 

「私は全能の神ではありません。

 できることも多くなく、救いたい世界も救えない無力な神です。

 それでも、私に祈りますか? その願いを、他の誰でもなく私に届けますか?」

 

「はい」

 

 少年は他の誰でもなく、女神エリスに願いを捧げた。

 

「……僕の友達を、助けてください。この世界に、祝福をください」

 

「その小さな祈り。確かに聞き届けました」

 

 そうしてエリスは『人の祈りを聞き届け、それを叶える』という大義名分を得る。

 

「『蘇生せよ』」

 

 女神の蘇生魔法を受け、少年の意識は天界から地上へと移って行った。

 

 

 

 

 

 一つ、蘇生魔法には女神だけが知る裏技が存在する。

 魂だけの存在になっている時に天上の女神に蘇生魔法をかけてもらい、後に肉体の方に地上の女神が蘇生魔法をかけると、通常の蘇生魔法とは段違いの蘇生効果が得られるのだ。

 その効果たるや、魂に付けられた傷でさえも修復可能なほどのものである。

 

 その裏技を知っている魔王でさえも、目の前の光景に自分の正気を疑っていた。

 

「『蘇生せよ』!」

 

 何故。

 

「何故―――()()()()()()()()()()()!?」

 

 何故、エリスが地上に現れ、死んだむきむきとカズマを蘇生しているのか。

 

「天上で私が彼らに蘇生魔法をかけ、今私が地上で回復魔法をかけました。

 これで彼らはあなたに付けられた全ての傷を癒やし、完全な蘇生を果たします」

 

「ワシが聞いているのはそういうことではないッ!」

 

「強いて言うなら、この人が望んだからですね。罪なき人の未来が救われる、祝福を」

 

 ウォルバクは言った。

 軽い気持ちで女神が地上に堕ちることはないと。

 エリスは地上に降りて来てくれた。

 他の誰でもないこの少年の祈りに応え、世界と彼を救うべく、この地上に降りて来てくれた。

 分け身ではなく本体の降臨のため、そのスペックはアクアのそれに匹敵する。

 

 エリスはむきむきの手持ちの道具からこっそり抜き取った、吸血鬼の持ち物だった神の力の増幅石を使って、倒れたダクネス達も回復させる。

 魔王がエリス出現に驚くその間に、むきむきは魔王の触手からアクアを助け出していた。

 

「っ!?」

 

 切断された触手が地に落ち、カズマとむきむき、アクアとエリスが左右に並ぶ。

 

「ありえるはずがない!

 この世界で最も大きな力を振るえる女神が!

 この世界で最も多くの信仰を集める女神が!

 力の大部分を捨て、直接殺されるリスクを抱え、天界から不可逆の降臨を行うなど!」

 

「……ああそうか、魔王(おまえ)は知らないのか」

 

 むきむきは、狼狽える魔王を指差した。

 

魔王(おまえ)を倒せば、女神様達は全員天界に戻る権利を得るんだよ」

 

「―――!」

 

「勝てばいいんだ、勝てば。……そのために、エリス様はここに来てくれた」

 

 むきむきはエリスに感謝しかなく、感謝されている当のエリスは、先程までずっと魔王に振り回されていたアクアに回復魔法をかけていた。

 

「おぼろろろろ」

 

「せ、先輩!? お気を確かに!」

 

「はぁ……はぁ……

 このゲロを吐いてる時に背中をさすってくれる優しい感触……

 懐かしくも暖かいこの感触……まさかエリス……?

 とうとう偽乳罪で神の座から降ろされ、天界を追放されたの……?」

 

「なんてこと言うんですか!」

 

 ゲロの女神はゲロだけでなく謂れなき中傷まで吐いていた。

 

「カズマくん! 女神様がいいとこ見せてくれたんだから、人間もいいとこ見せなくちゃ!」

 

「おう、これ勝ったら一生引きこもってやる!」

 

「魔王倒したなら、仮にカズマくんが一文無しになっても一生養ったげるよ!」

 

「言ったなこいつ! 優雅なニート生活餌にされた時の俺の強さ、舐めんなよ!」

 

 拳を掲げる少年。弓を構える少年。

 二人揃って最強。仲間と女神が揃えば無敵。幸運添えれば奇跡も起こせる。

 

「「 これで最後だ、魔王! 」」

 

「……っ、正念場だ、踏ん張れ魔王!」

「お前に言われるまでもないわ、レッド!」

 

 最後の最後の戦いは、最終局面へと突入しようとしていた。

 

 

 




 次回最終話。その後エピローグ、あとがき投稿して完結

【余談】
・ルシエド解釈
 WEB版魔王と書籍版魔王は別人のような同一人物。設定の変更がされた同一人物。

・WEB版の魔王と書籍版の魔王に繋がりがあると仮定した場合の考察(一例)
 書籍版魔王がまず勇者から魔王化。その後娘に『仲間を強化する能力』を渡し、その娘の子孫に『仲間を強化する能力』と『日本人名』が継承される。
 代を何度か重ね、WEB版魔王の代にまで知識・能力・名前が継承される。
 書籍版魔王の子孫がWEB版魔王説。

・この作品における設定
 勇者は体を入れ替えるタイプの神器により、魔王の一族となった。
 勇者時代の経験値式成長チートはその際に喪失、女神ウォルバクとの取引(魔王を倒したことで勇者は一つ願いを叶えてもらえる)でアイリスのエクスカリバー同様血継で渡せる特典を獲得、それを娘に継承させる。
 周囲には自分の一族が血で継承させている力である、と教えている模様。

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