「我が名はむきむき。紅魔族随一の筋肉を持つ者!」   作:ルシエド

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 WEB設定でスタートしておきながら書籍設定の時間経過が実装されたこのすば二次とか面白そうですよね。
 書籍はもう作中で二年が経ちそうですし、イベント盛れば三年経過させるのも余裕。
 ダクネスはWEBだと22歳前後なので最終的にアラサードMバツイチ処女貴族女騎士の行き遅れとかいう美味しい設定にできます。
 そして悩むダクネスとカズマさんがこんな会話したりするんですよ。
「もしや、冒険者家業を続けているせいで私の婚期は遠のいているのでは……?」
「おいおい、それだとお前に婚期が存在したことがあるみたいじゃないか、ダクネス」
 これ絶対楽しいやつです! 行き遅れ美人にズルズルと歳を重ねさせるヒモ男!


3-3-2

 小山ほどのサイズがある合体ロボ・マジンガーンダムがアクアを踏み潰しに動く。

 

「わあああああっ!!」

 

 アクアは裏返った声で叫び、美人な顔を情けなく歪め、涙や鼻水まみれの顔で逃げ惑う。

 アクアの足では、一歩で100m以上は進めるであろうマジンガーンダムの歩幅からは逃げ切れない。

 

『死ねぃ!』

 

 人間が地面を踏む音はせいぜいが"ドン"。

 されどもこの巨体であれば音は"ドゴン"。

 「踏み潰されれればまず即死」と音だけで分かるその一撃。

 むきむきは凄まじい速度での疾走でアクアを抱え、そのまま回避し、その恐ろしい踏み潰しの音を耳にしていた。

 

「あ、あ゛り゛がどお゛お゛お゛お゛お゛」

 

「無事でよかったです、アクア様。……でも鼻水はあんまり付けないでくださいね」

 

 むきむきはアクアを一旦地面に降ろし、巨大ロボの背後に回って、思いっ切り助走をつけてからの両足ドロップキックで踵を狙う。

 馬鹿げた筋力でのキックは巨大ロボの足を動かし、ズザザと地面の上でその巨足を滑らせるも、鉄の足が移動した距離は1mかそこらであった。

 マジンガーンダムの上半身は僅かに揺れたが、バランスを崩すことさえできない。

 

(流石に足払いは無理か!)

 

 これで転ばせないのであれば、この一撃で足も壊せないのであれば、できることはかなり限られてくる。

 

『もう一度!』

 

「来ないでーっ!」

 

 アーネスによるアクアを狙った再度踏み付け。

 むきむきはまた救出にひた走る。

 位置的に先程の方法ではアクアを助けられないと判断したむきむきは、アクアの眼前で地面を蹴り込んだ。

 爆散し、深く抉れて大穴を空ける地面。

 むきむきはアクアを抱えてそこに滑り込み、コンマ1秒の差で踏み潰されるという結果を回避していた。

 穴に滑り込んだむきむきとアクアの鼻先に、マジンガーンダムの足裏が触れている。

 文字通りの滑り込みセーフであった。

 

「うええ、うえええっ、もう嫌よぉ……! これ本当に怖いぃ……!」

 

「しっかりしてくださいアクア様!」

 

「むきむき、むきむきはいい子だから……

 死んでもいいところに転生できるようエリスに頼んであげるからね……」

 

「諦めないでください女神様!」

 

 むきむきはぐずるアクアを抱えて、アーネスが死体確認のために足を上げた隙に穴を脱出。

 どうにかして逃げ切らなければ、と走り出すが、そこでむきむきの逃走を支援すべくアクセルの冒険者達が魔法や弓矢を一斉に放っていた。

 リーンやキースといったむきむきと親しい知人の姿も、ちらほらと見える。

 

「援護するよ! ファイアーボール!」

 

 中級魔法は上級魔法にこそ劣るものの、大衆浴場に注がれた大量の冷水を一瞬で熱湯にできる火力を出すことも可能な威力の魔法だ。

 中堅冒険者の弓矢も、薄い金属鎧は平気で貫通する威力がある。

 それでも、効かない。

 この敵には効かない。

 デストロイヤーの魔力結界は健在であり、装甲は硬く、サイズ差のせいでそもそも腰から上にはまともな攻撃が届いてさえ居ない。

 

「魔力結界残ってるの!?」

「リーン下がれ!」

「全員下がれー! こりゃバリケードも意味ねえぞー!」

 

『人間どもが……魔王軍のあたしが、見逃してやるとでも思ったのかい!?』

 

 アーネスは対デストロイヤー陣地の奥に居た冒険者達に狙いを定める。

 そして、ジェノサイダー由来の火砲を一斉に発射した。

 逃げ遅れた冒険者達は死を覚悟して逃げ惑うが、そこはむきむきがカバーする。

 

 少年はアクアの服の襟首を歯で噛んで彼女を持ち運び、空いた両手で冒険者達を片っ端から運搬していった。

 助け、抱えて、運んで、掴んで、助けて、投げて、救って、守って、運ぶ。

 なんとか巨大ロボの攻撃範囲から、全員を逃がすことに成功する。

 

「サンキュー少年!」

「し、死ぬかと思った……」

「むきむき君! あとで牛乳奢ってやるからな!」

 

「無事で何よりです! でも皆さん、カズマくんの所くらいまで下がっていてください!」

 

『どうやらお前を潰した方が早そうだねえ!』

 

 むきむきに散々邪魔されたアーネスは、マジンガーンダムの腕を使った右ストレートを放つ。

 対するむきむきの選択は、右アッパー。

 アクアを脇に置いて、むきむきは今の状態の自分が出せる全力をそこに叩きつける。

 

「せいっ!」

 

 何千トン、何万トンあるかも分からないロボの右ストレートを『受け流すように』して、下からむきむきのアッパーが当たる。

 アッパーの反動で、地面が陥没する。

 巨大ロボのパンチをかち上げるパワーに耐え切れず、地面が爆発する。

 地面の爆発でアクアは泥まみれになりながら地面を転がされ、マジンガーンダムのパンチは上方へと受け流されていた。

 むきむきのパワーと技が織りなす剛柔一体が、巨大ロボ相手にも『格闘技』を成立させる。

 

「わきゃあああああっ! もういやあああああっ!」

 

 とはいえ、成立しただけだ。

 じんじんと痛む少年の拳が、この敵の危険性を如実に伝えてくる。

 

「……こりゃやばい!」

 

『その忌まわしいアクシズ教徒のプリーストを守るのはやめな!

 あたしとしちゃあそいつさえ潰せれば、今日はお前らを見逃しても構わないんだよ!』

 

「断る! 僕は仲間に見捨てられたくない!

 自分がされて嫌なことは、仲間にもするべきじゃないんだ!」

 

「わああああああっ! 死んじゃう! 死んじゃう! カズマさーん!」

 

 マジンガーンダムはただ歩くだけで地面を揺らす。

 アクアはただそこに居るだけでうるさい。

 むきむきはアクアを抱え、また踏み潰しに来たマジンガーンダムの足から逃げんとした。

 

「『カースド・クリスタルプリズン』!

 『カースド・ペトリファクション』!」

 

 そこに、援護で飛んで来る魔法。

 魔法は魔力バリアに包まれたロボを直接狙わず、むきむき達を囲むように氷の壁を作り出し、その氷を石化させて岩の壁とする。

 その壁が機械の足を止めてくれた僅かな時間に、むきむきはアクアを抱えて脱出することができていた。

 

「デストロイヤーと聞きつけて駆けつけてみれば……手助けは、必要ですか?」

 

「ウィズさん!」

 

 陽光を遮るフード付きローブ。フードの下の優しい微笑み。

 かつて魔王軍を苦しめたアークウィザードであり、今はリッチーたる彼女が、戦線に加わる。

 そんじょそこらの冒険者よりもずっと心強い援軍であった。

 

『一人や二人増えたところで、どうにかなるもんじゃないだろう?』

 

 ウィズが陽光を遮る装備で来たため、アーネスはそれがウィズであると気付いていない。

 ウィズもまた、その機体を使っているのが魔王軍であると気付いていない。

 互いが互いを正確に認識しないまま、戦いは再開される。

 

「くっ、ぐっ……!」

 

 火砲と複合して放たれる踏み付けに、アクアを守ろうとするむきむきとウィズが対処しきれず、二人まとめて踏まれてしまう。

 

「まだまだぁ!」

 

 されども『通常の物理攻撃を無効化する種族』リッチーのウィズ、及び単純に頑丈なむきむきはそのくらいでは死に至らない。

 豆腐に埋まったつまようじのごとく埋められていたむきむきが地面から這い出てきて、地面に体のボンキュッボンが引っかかって抜け出すのに苦労しているウィズを、むきむきが上から引っこ抜く。

 

 むきむき、ウィズ、アクアを揃えても、マジンガーンダムは戦うに難い敵であった。

 

「カズマ! なんとならないのか!?」

 

「無理に決まってんだろ! デカくて硬くて魔法無効とかどうしろっってんだ!」

 

 アクアが持つ技能をカズマが全部把握していたなら、あるいは別の道もあったかもしれない。

 例えば、破壊不能な結界を破壊するというとんでも技能の存在だけでも知っていれば、また違っただろう。

 が、「そういえば私そんなこともできたわね」などと言うようなアクアが自分にできることを全部語っている――覚えている――わけもなく。

 カズマがそれを知っているわけもない。

 それはしょせん、もしもの話だ。

 

「……む?」

 

 カズマとダクネスがあーだこーだと話している横で、ポーションを飲んで魔力を多少回復しためぐみんが違和感に気付く。

 マジンガーンダムの動きが、どこか妙に感じたのだ。

 その違和感の出処は、本来ならばデストロイヤーの足があるべき場所にあった。

 どうやら事前に足を全部破壊していたことが、合体ロボの戦闘力を削ってくれているらしい。

 

「デストロイヤーの足を壊しておいたのが功を奏しているようですね。

 カズマ、あの足を壊した時の方法をもう一度やるというのはできないのですか?」

 

「細い足の関節狙ったのは、あそこが一番壊しやすかったからだ。

 今の太い二本足を壊そうとしても、どんだけ時間がかかるのやら……」

 

 アクアが強化したむきむきの筋力で鉄球を投げても、足関節を壊すだけでどれだけの時間、及びクリエイターの魔力を消耗することになるか見当もつかない。

 かといってむきむきが踵を蹴っても壊せなかったように、このロボは硬い所は物凄く硬いようだ。

 

 葛藤が、カズマの中に生まれていた。

 

 カズマの中のエロ衝動と保身精神が拮抗している。

 三次元の美少女とも二次元の美少女ともエロエロなことができるサキュバスサービスはまさにパラダイス。

 カズマは仲間とエロいことをする夢を見せてもらったり、地球で好きだったゲームヒロインとエロいことをする夢を見せてもらったり、割とロリもイケるがために条例に引っ掛かりそうな子の夢を見せてもらったりと、好き放題やっていた。

 

 ここを守れなければ、このヴァルハラは消滅してしまう。

 魔王軍に聖地が破壊されてしまう。

 今はシコリティの高い美少女とエロエロする夢を見られているが、そこが無くなれば(シコ)リティの高い醜女(しこめ)が立ち並ぶリアルの店しか残らない。

 悩む必要など無い。守ればいい。

 だが、それも生きてこその話だ。

 ここで引き際を誤って死んでしまっては意味がない。

 

 カズマは『本当に守りたいもの』か、『自分達の命』か、大切なものを二つ天秤に乗せられて、苦渋の選択を迫られていた。

 まるで、正統派主人公のように。

 

「そう時間もないですよ。

 今はアクアが囮、むきむきとウィズが時間稼ぎをしてなんとか保っていますが……

 それもあの上級悪魔がアクアを狙っている間だけです。どう転がるか分かりませんよ」

 

「分かってるよ。……もう皆で逃げるか?」

 

「カズマ。あの悪魔はアクアとめぐみんを狙っていることを忘れるなよ」

 

「逃げても無駄だって教えてくれてありがとうな!」

 

 (シコ)リティの高い一般的な風俗店になど行きたくもないカズマは、頭を必死に回した。

 "あいつ下半身で物事を考えてるよな"という揶揄がある。

 今のカズマは頭で物事を考え、下半身でも物事を考え、エロパワー・ツインドライブシステムで並列思考をぶん回していた。

 

 地球において、エロ画像を貼るスレをスレ立てし、複数IDを使ってセルフでエロ画像を貼ることで、他の人達が自然とエロ画像を貼る流れを作り出したこともある知将カズマの頭脳があれば、きっと希望は見つけられる。

 

「信じているぞ、カズマ。むきむきも言っていた。

 お前はとことん追い詰めた時にこそ、誰もが考えつかないような策を生み出すと……」

 

 ダクネスが、その背中を信じて見つめていた。

 

「……待てよ?」

 

 カズマはダクネスから聞いた、アクアがアーネスを取り逃してしまった流れのことを思い出す。

 そして、盗聴スキルを発動した。

 以前むきむきから勧められ、先日習得してみることにした、普段は大きな音で耳を傷めないようOFFにしている聴覚強化スキルだ。

 強化された聴覚が、物陰に隠れている中級悪魔達を見つけ出す。

 

「アーネス様……!」

「行ける、行けるぞ、アーネス様!」

「頑張って!」

 

 その時、カズマは閃いた。

 

「むきむきー! アクア連れて一旦こっちに戻って来てくれ!」

 

 カズマが呼ぶと、むきむきはアクアを抱えてあっという間に跳んで来た。

 マジンガーンダムの攻撃目標がカズマ達の方に向くが、カズマはうろたえない。

 勝負は一瞬で決まると確信していたからだ。

 

「カズマくん、僕はどうすればいい!?」

 

「あそこの悪魔を殺さず捕まえてきてくれ。そうしたらなんとかなる」

 

「りょーかいっ!」

 

 カズマは主人公のような凛々しい顔で、主人公のように孤軍奮闘していたむきむきに指示を出した。

 

 

 

 

 

 カズマは必死だった。

 死なないために。サキュバス風俗を守るために。

 大抵のことは実行できるくらいには必死な気持ちになっていた。

 

「アーネスだっけ? 今どんな気分?」

 

「アーネス様ー!」

「我々のことはお気になさらず!」

「この外道を我々ごとやってしまって下さいっー!」

 

『げ、外道っー!』

 

 正統派主人公による正統派人質大作戦。

 人質という手は、何故大昔からどの世界でもなくならないのか。

 決まりきっている。

 主人公が勝ち悪役が負けるという運命の下でもなければ、人質作戦はほぼ確実に一定の戦果を上げる、効果的な策であるからである。

 

『この卑怯者! 正々堂々戦いなさいな!』

 

「ざっけんなー!

 そんなデカブツ使って戦ってる奴が正々堂々とかほざいてんじゃねー!

 いいか! 一番の卑怯ってのはな!

 強いやつが弱いやつに正々堂々真正面から戦うことを強要することに決まってんだろ!

 強いやつが弱いやつに不意打ち禁止とかしたら必ず勝つに決まってんじゃねーか!」

 

『ぐっ』

 

「大人が子供の格闘大会に出て本気出して

 『私は正々堂々戦い優勝しました。私は正しい』

 とか言って、周りから褒められるとでも思ってんのか!? あ!?」

 

 カズマはお前だけには卑怯だけとか言われたくねえよ、と言わんばかりだ。

 

「いいからとっととそっから降りて来い! 話はそれからだ!」

 

『あ、あたしは悪魔さ。そんな情に訴えるようなこと……』

 

「むきむき、こいつらって倒したらどうなるんだ?」

 

「このレベルだとおそらく残機持ちだから、肉体を失って地獄に帰るんじゃないかな?」

 

「なるほど、じゃあ三人の内二人まではみせしめにやっちゃっても平気か」

 

『待ってぇ!』

 

 この悪魔達が倒せば消滅する類の存在であれば、時と場合によってカズマが同情して殺すのは勘弁してやった可能性もあるが、この悪魔達は殺しても死なない化生の類。

 その躊躇いも生まれようがない。

 対しアーネスは、自分を逃がすために命がけで戦った部下達の生き残りを見捨てられない。

 躊躇いも迷いもたっぷりだ。

 

 悪魔は恐ろしいものを見るような目でカズマを見ていて、冒険者達も恐ろしいクズを見るような目でカズマを見ている。

 

「カズマ……」

「カズマ……」

「しょうじきひくわー」

 

「お前らよく考えてみろ!

 あんな巨大ロボに乗って正々堂々とか言うやつのどこが卑怯じゃないんだ!」

 

「そう言われてみるとそうかもしれないが……」

 

「第一だな、めぐみんのペット連れて行こうとしたんだろ。

 そんで最終的に実力行使に出たんだろ?

 じゃあ誘拐犯みたいなもんじゃねーか。

 なんで俺達が悪魔の都合に合わせてわざわざ踏み潰されないといけないんだ?」

 

「カズマの保身発言って時々正論みたいに聞こえるのが不思議よね」

 

 カズマの口撃には破壊力があり、カズマの言い分にはなんとなく正当性があるように聞こえる。……ただの詭弁とも言う。

 冒険者の反応も「あれ? 敵の方が悪いんじゃね」と「流石カズマさんだぜ」と「何言ってんだこいつ」の三つに分かれてきた。

 一方悪魔の捕縛に協力したむきむきと言えば、先日のブルーとの戦いで『敵にどんな事情があろうとも迷わず打倒する』という心意気を手に入れていたものの、この所業に協力してしまった罪悪感で顔を手で覆っていた。

 

『あたしの部下に手を出したら承知しないよ!』

 

「めぐみん、罪悪感で胸が痛い……」

 

「よしよし、よく反対もせずカズマにちゃんと協力しましたね。

 大丈夫ですよ、むきむきは悪くありませんから。これも世の常というやつです」

 

「めぐみん……」

 

 ダクネスも誇り高き聖騎士としての自分に何かが突き刺さる気分になっていて、顔を手で覆っている。

 

「めぐみん、今の私は、極悪非道の悪役の気分だ……」

 

「気分の問題じゃなくて今普通に悪役ですよ、私達」

 

 上司と部下のため戦う情に厚い悪魔と、その情を利用する人間の構図。

 

『お前達みたいなのが居るから、悪魔が人間の願いを叶えるサービスは廃止されたんだよ!

 契約した後に口八丁手八丁!

 あたしらがお前らの願いを必死に叶えてやっても!

 お前ら人間はあの手この手で魂の支払い拒否しやがってさあ!

 なんっでお前ら人間は約束を守るとか、誠実に生きるとか、そういうことができないんだ!』

 

「よかったじゃないか、俺は約束を守る男だ。

 お前が降りて来ればこいつらは約束通り開放してやるぞ。

 降りて来なかったらもちろん大変なことになるけどな」

 

「カズマ、カズマ、降りて来たら消しちゃっていいのよね?」

 

「いいぞ。思いっ切りやってやれ、アクア」

 

『んぎいいいいいいいいいっ!!』

 

 降りたら部下と一緒に消される。降りなかったら部下が消される。

 もう本当にどうしようもない。

 なのだがアーネスも上級悪魔。ここで思考を止めることはしなかった。

 普通の者ならばここで"二つの選択肢のどちらを選ぶか"だけを悩んでしまい、視野を狭めて事実上の思考停止をしてしまうものだが、アーネスはここで第三の選択肢を創造してきた。

 

『分かった、あたしはここから降りよう。ただし条件を付けさせてもらうよ』

 

「条件?」

 

『そこのアークプリーストを戦わせないと約束することさ。

 そんなに冒険者が居るんだから、そいつ一人くらい構わないだろう?』

 

「ちょっと! そんな条件飲めるわけないじゃない! ほらさっさと諦めて私に消されなさい!」

 

「分かった。アクアは戦闘に参加させないと約束する」

 

「カズマー!?」

 

『契約完了。少し待っていなさいな』

 

 アーネスはコクピットからロボの体内の通路を通って、数分かけて地上に向かう。

 気持ちが逸り、アーネスの移動速度は無自覚に早まっていく。

 

(あのアークプリーストさえいなければ、なんとか……

 爆裂魔法だって消費魔力は相当なもの。

 マナタイトや吸魔石でもう一発撃つというのも、現実的な話ではない……

 ここは一旦立て直しに入って、ホーストと連絡を取るべきだろうね)

 

 地上に降りて、アーネスは開放された部下達と合流する。

 

「アーネス様!」

 

「お前達!」

 

 感動の再会。

 そして、悪魔達の前にぬっと現れる筋肉の巨人。

 

「あ」

 

 カズマにけしかけられたむきむきは、ちょっと、いやかなり申し訳無さそうな顔をしながら、拳を振り上げた。

 予想はしていたのか、悪魔達が防御の姿勢を取ったが、むきむきパンチは問答無用。

 

「エンッ」

「ひでぶっ」

「うわらばっ」

 

 ワンパン三回、ワンキル三回。

 悪魔達はあっという間に残機を失い、その肉体は消えていく。

 アーネスは詠唱抜きで極めて安定した魔法発動を行い、少年に魔法を放った。

 

「『ライトニング』!」

 

 その魔法も、腰に手を当てたむきむきの胸筋にパァンと弾かれてしまう。

 悪魔を一撃で屠る筋力もそうだが、この物理防御力と魔法抵抗力は明らかにおかしい。

 

「こ、このステータスは……!」

 

「アクアは戦いに参加させない」(その前にバフかけないとは言ってない)

 

 どうやらカズマは、アーネスがロボの中を降りて来る間に、戦闘に参加できないアクアにむきむきをひたすら強化させていたらしい。

 

「なんで一から十までこすっからくてまともに戦わないのさあんたはっ!」

 

「なんで強い上級悪魔とガチンコしなくちゃなんねえんだよ。お前頭アクアなの?」

 

「こんのっ―――!」

 

 アーネスはホーストほど強いわけでもなく、ホーストとは違う後衛型の上位悪魔である。

 ホーストよりも早く飛べるが、ホーストより速くは走れない。

 ホーストより多彩な魔法を操れるが、ホーストと比べれば筋力も耐久力も無い。

 爆裂魔法が当たれば、それに耐えることもできない。

 

 むきむきに近寄られてよーいドンで戦った時点で、勝敗など決まりきっていた。

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

 

 一撃必殺の手刀でギャグ漫画のように吹っ飛ばされるアーネスを見て、消え行く部下悪魔達はカズマを睨んで恨み言を言って逝く。

 

「……あ、悪魔め……」

 

 その昔、むきむきはデュラハンのイスカリアに悪魔と評された。

 今現在、カズマは悪魔そのものに悪魔と評された。

 悪魔よりも悪魔らしいという評価。

 魔王軍でもやっていけたかもしれない資質への評価。

 されども意味合い正反対。

 変なところでも、魔王軍から同じような言葉で評価される二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 強化むきむきが鬼神のような四連攻撃で悪魔をあっという間に全滅させると、冒険者全員がほっと安堵の息を吐いた。

 

「ねえねえカズマ、頭アクアってどういう意味? 褒めたの? けなしたの?」

 

「むきむきにでも聞いてみろよアクア」

 

「むきむきー! どうなの?」

 

「え゛っ?

 ……そ、そうですね。

 アクア様は誰にでも分け隔てなく優しい人ですよね。

 街の人達やアクア様の知人も皆、アクア様を慕ってますね。

 とてもいい人だと思います。尊敬できる人だと思っていますよ」

 

「うんうん、よく分かってるわね!」

 

「……」

 

 アクアの知力への言及がないことに気付かないアクア。

 こいつさっきまで踏み潰されそうになっててピーピー泣いてたくせに、とカズマは思ったが、口には出さなかった。

 

「ふ、ふふ……これで勝ったとは思うなよ……」

 

「! アーネス、生きて――」

 

『自爆機能が起動しました。

 デストロイヤー・コアにコマンド到達。

 コロナタイト臨界化開始。

 30分後に、両機のエネルギーを集約させメルトダウンを開始します。

 搭乗員は、誘導に従い当機からの離脱を開始してください』

 

「!」

 

「逃げるための時間稼ぎに用意していた、時限式の自爆機能さ!」

 

 アーネスは言うだけ言って、消えていく。

 

「イタチの最後っ屁かよ、クソッ! むきむき!」

 

「うん!」

 

 むきむきはマジンガーンダムの胸の高さまで飛び上がり、勢いのまま回し蹴りをぶちかます。

 自爆カウントを初めたロボは抵抗もせずに倒されたが、むきむきはここでカズマが自分に求めたことが不可能であると確信した。

 

「カズマくん! 僕のパワーじゃこれを運んで遠くまで行くのは無理だ!」

 

「クソ、ダメか、なら!」

 

 カズマはギルドが今回のデストロイヤー討伐にあたって貸し出してくれた数々の武器を眺める。

 弩弓、攻城用の投石機、機上のゴーレムを破壊するためのハンマー、体力回復のためのポーション、そして攻城の際に扉をぶち抜くために使う、大きな丸太。

 

 カズマの指示で、皆が巨大な一本の丸太を持った。

 

「皆、丸太は持ったな! 行くぞォ!」

 

「うおおおおおっ!」

 

 狙うはアーネスが出て来た出入り口。

 目敏くアーネスがどこから出て来たかを見て覚えていたカズマの指示で、冒険者達は丸太を持って疾走する。

 冒険者のパワーと速力。その二つを加算された攻城用丸太は、合体ロボ内部に繋がる出入り口を、閉ざされた扉から大穴へと変えていた。

 

「でかした!」

 

「カズマくん! ゴーレムとかが沢山出て来たよ!」

 

「……仕方ない、戦う班と侵入する班に別れるぞ!」

 

 本来ならばデストロイヤーの機上で冒険者を迎え撃つはずだったゴーレム達が、ジェノサイダー内部に格納されていた小型兵器群が、次々現れ冒険者に襲いかかっていく。

 だが、冒険者達は物怖じしない。

 怯えの欠片も見られない。

 特に男達の勇猛果敢っぷりは凄まじかった。

 

「俺達は男だ! そうだろ!」

「ああ、分かるさ! 男だからこそ、譲れないものがある!」

「行くぜ皆! 俺達の夜を守るために!」

「俺達が笑って眠れる、穏やかで幸せな夜のために!」

 

 男達の性なる凄まじい熱気に当てられ、女冒険者も大なり小なり奮起していた。

 めぐみんは「何か変ですね」と優れた知力で何かを察していたが、むきむきは単純に先輩達の勇姿に感動と尊敬を覚えていた。

 

「行きますよ、むきむき」

 

「うん、行こう!」

 

 むきむきは機外にてゴーレム達の中から強そうな個体を選んでさっさと破壊して、先行して機体内に突入したカズマ達の後を追う。

 ダクネスが外に残って皆の統制を取ることを名乗り出てくれたため、もはや後顧の憂いはなかった。

 少年はめぐみんを右肩に乗せ、皆の後から機内へと突入する。

 

 先行したカズマに付いてくれていたのは、二人の強者。ウィズとアクアだ。

 ウィズが付いて行ってくれたことが安心要素。

 アクアが付いて行ってしまったことが不安要素である。

 

「むきむき、あれを」

 

「? あれは……壊れたゴーレムに、魔法の斬撃痕?」

 

「これはゆんゆんのライト・オブ・セイバーの跡ですね。

 どうやらあの子、カズマのすぐ後くらいにここに入っていたみたいです」

 

「ゆんゆん……」

 

 むきむきがゆんゆんの名を呼び、かあっと顔を赤くして、申し訳無さそうな顔をしていた。

 

「ゆんゆんと何かあったんですか?」

 

「……ゆんゆんに嫌われちゃったかもしれない」

 

 赤くなっていた顔も、今ではすっかり暗くなってしまっている。

 むきむきは詳細を語らなかったが、めぐみんであれば彼の心など手に取るように理解できている。

 

「その様子だと、またゆんゆんが何かやらかした感じでしょう。

 で、むきむきが変に気にしてると。いつものことですね」

 

「そ、そういうわけじゃ……」

 

「嫌われないよう気を付けて接するのが知り合い。

 嫌いな所も好きになろうとするのが恋人。

 嫌われても仲直りしてもっと仲良くなるのが友達。

 嫌った嫌われたをいつか笑い話にできるのが仲間です。

 ゆんゆんは嫌いになんてなってないでしょうし、なっていたとしても仲直りすればいい話です」

 

「……それは……そう、かも……うん。そうだよね」

 

 めぐみんは微笑んで、肩の上から彼の右頬をつまんで、ぐにぐにと揉む。

 

「むきむきは本当に気にしいですよね。

 かくいう私も、あなたが今さっき顔を赤くしたことが気になっていますが」

 

「……何も無かったよ」

 

「本当にー? 本当の本当ですかー? 誓って嘘は無いと私に言えますか?」

 

「……う、ううっ……!」

 

 めぐみんはいじめっ子である。

 惚れた男にはストレートに好意を示し、気に入った人間にはガンガン心の距離を詰め、こういう風に接していくことも多い。

 少女は少年の頬をぐにぐにして遊ぶのをやめ、小さな手の平で少年の頬を優しくぺちぺちと叩いている。

 

「……ん? この空気の流れ……」

 

「まあ私としてはゆんゆんよりアクアの方がずっと不安要素……あ」

 

 空気の流れでむきむきが異変に気付き、めぐみんを降ろす。

 めぐみんが魔力の流転で異変に気付く。

 異変が目に見えた時には、回避する時間的余裕も空間的余裕も存在しなかった。

 

「水―――!?」

 

 むきむきが咄嗟にめぐみんを抱きかかえるようにして庇うが、水は彼らを飲み込んで、壁や天井に彼らをガンガンぶつけながら、機外へと彼らを排出する。

 めぐみんは少年に庇われ無傷で、少年は壁や天井にぶつけられても怪我一つなく、されども水は窒息死を意識させた。

 機外に水に押し出され、ようやく息ができるようになるなり、めぐみんは叫ぶ。

 

「……ぷはぁ! な、何事ですか!? 機内の罠ですか!?」

 

 次々排出されてくる水。

 次々水と共に排出される冒険者。

 軽い怪我人はちらほら見えるが、死んでいる者は一人も居ない。

 誰も死んでいないのは、流石冒険者といったところか。

 

 めぐみんの叫んだ疑問に応えたのは、最後に排出されてきたカズマであった。

 

「……あぁの、アクアンポンタンがぁーーーっっっ!!!」

 

 皆が、全てを察した。

 

「カズマくん、何があったの!?」

 

「……俺はゆんゆんと合流して、コロナタイトってのがある場所に到達した。

 ゆんゆん、ウィズ、アクア。

 これだけ揃ってればなんとなるだろうと思ってた。

 実際、ウィズはしっかり詠唱したテレポートなら余裕って言ってた」

 

「ああ、私は分かりました。カズマ、そこでウィズをベタ褒めしましたね」

 

「……」

 

「え、めぐみんどういうこと?」

 

「それでアクアがウィズに対抗心を燃やしたってことですよ。

 しかも他の誰でもなくカズマが、ですよ?

 アクアが無駄に張り切ってしまって、大失敗してしまったことは想像に難くないです」

 

「……あいつはな、俺達の前で

 『冷やせばいいんでしょ冷やせば!』

 とか言い出してな……で、前に使った大量の水を出す魔法をな……」

 

「コロナタイトにぶち込んだ、と。

 アクアは揚げ物で火事を起こしたら、燃える油に水をぶっかけるタイプなんですね……」

 

 後は説明されるまでもない。

 機内を満たすほどの大量の水が、まず冒険者達を飲み込んだ。

 そして超高熱のコロナタイトに水が触れ、あまりの高熱に水が全て熱湯になる前に、コロナタイトに触れた水が一瞬で水蒸気爆発を起こしたのだろう。

 その爆発の圧力が、機内から機外へ流れ出る強力な水流を作り出したのだ。

 カズマの幸運でも回避できないこの災害級の大自爆こそが、アクアの持ち味である。

 

「か、カズマくん! ゆんゆんは!? ゆんゆんは無事!?」

 

「悪い、分からん。俺が見たのは吹っ飛ばされて頭を打って気絶してたアクアだけだ」

 

「無事だと信じましょう。

 今姿が見えないのは……ゆんゆん、アクア、ウィズですね」

 

「……そうだ! 時間がない! アクアが土壇場でやらかしたが、多分自爆まで三分も無いぞ!」

 

「ええっ!?」

 

「くそっ、急がないと!」

 

「乗ってカズマくん!」

 

 むきむきはカズマとめぐみんを肩に乗せて疾走。

 めぐみんの頭脳、カズマのスキル、むきむきの筋肉だけでどこまでできるか、と三人が不安になりながらも先に進んだ、その先で。

 

「……あぁ、カズマさん」

「こっちはこっちで、なんとかしてみせましたよ……」

 

「ウィズー! ゆんゆんー!」

 

 優秀なアークウィザード二人は、体のあちこちをぶつけた水浸しの姿で、二人だけでコロナタイトを処理し終えていた。

 

「コロナタイトの周りに氷の層が……

 むきむき、見てください。凄い魔力ですよ、これ」

 

「うん、分かる。僕でも分かるくらいの凄い魔力だ」

 

 コロナタイトは氷に包まれ、めぐみんが片手で持てるくらいのサイズで、床に転がっていた。

 おそらく使われた魔法は『カースド・クリスタルプリズン』。

 この魔法は"対象を内に閉じ込める"という特性も持ち、呪的にも強い魔法であるため、高い魔法耐性を持つ上位のスライムにも効果があるとされる魔法だ。

 この魔法で、二人がかりでコロナタイトを封じたのだろう。

 

 元から最上級のアークウィザードだった上、リッチーとなったことでスペックアップしているウィズ。

 本物の天才であるめぐみんにこそ及ばないものの、里で唯一その天才に追随し、『紅魔族随一の魔法の使い手』を名乗ることを許された少女に次ぐ能力を持つゆんゆん。

 二人が自身の持つ魔力全てを吐き出すことで、コロナタイトさえも封ずる氷の封印が完成したというわけだ。

 

「ほんっとうにギリギリでした……!

 臨界到達まであと一秒ってアナウンスされてました……!

 私の得意魔法が氷でなかったら、きっと間に合わなかったと思います……!」

 

「お、お疲れ様です……」

 

「流石ウィズは違うな。ちゃんとしたアークウィザードは胸がないとなれないんだろうな」

 

「おい、ちゃんとしてないアークウィザードが誰のことか教えてもらおうか」

 

 カズマに絡もうとするめぐみんをむきむきが脇に抱え上げる。

 

「とにかく外に出よう。

 アクア様もここに居ないってことは、きっと外に居るよ。早く探してあげないと」

 

「えぇー……」

 

「カズマくん、えぇとか言わない。仲間でしょ」

 

 むきむきに先導され、降ろされためぐみん含む皆で外に歩き出して行く。

 五人の内三人が魔力切れの大魔法使いという珍妙な一行であった。

 むきむきはふと右に目をやって、そこで自分を見上げていたゆんゆんと目が合った。

 

 ゆんゆんがぷいっと顔を逸らして、むきむきがガーンとした顔になる。

 両方共に、顔がちょっと赤かった。

 

「……」

「……」

 

 互いに何か言い出そうとするが、何故か気恥ずかしくて言い出せない。

 沈黙が流れる。

 その時、むきむきの左の手の平に何かが触れた。

 むきむきがそちらを向くと、ゆんゆんとは逆の左隣にめぐみんが居た。

 

 めぐみんは無言のまま指差して、むきむきの顔をゆんゆんに向け直させる。

 そうして、何も言わないまま、むきむきにゆんゆんを見つめさせたまま、こっそりむきむきの左手に文字を書いていった。

 

(しっぱいしたら、わたしがふぉろーしてあげますよ)

 

 言葉なくとも背中を押す、心遣いの魔法。

 むきむきは魔法にかけられて、気恥ずかしさを蹴り飛ばす。

 

「ごめんね、ゆんゆん」

 

「……どうして謝るの? むきむきは悪いことしてないのに」

 

「ゆんゆんに嫌な思いをさせちゃったから」

 

 先に謝れた子の方が偉いんだよ、という決まり事は、子供にだけ適用される。

 大人になると皆が忘れてしまう、子供だけに適用される幼いルールだ。

 

「……私にとって、されたくないことではあっても、嫌ではなかったよ」

 

「……え」

 

「そ、そういうことをするのは恋人同士だけなの!

 だからされたくないこと! 分かるでしょ!?」

 

「う、うん」

 

「でも思い出して! めぐみんは事あるごとに私の胸叩いたりしてたでしょ!」

 

「あ」

「え、そこで私を引き合いに出すんですか?」

 

「嫉妬に狂っためぐみんと比べたら可愛いもんよ、ええ、本当に……」

 

 ゆんゆんは水に濡れた姿で、ふっと遠くを見るような表情になったり、むきむきを見て顔を赤くしたり、忙しなく表情をコロコロと変える。

 

「でも、すっごく恥ずかしかったから……今後は、気を付けるように!」

 

「は、はい!」

 

「本当に本当に恥ずかしかったんだからね!?

 胸がドキドキして、息が切れて、顔が熱くて……!」

 

「本当にごめんね! 嫌だったよね!」

 

「だから嫌とかそういうのじゃないって言ってるでしょ!」

 

「そ、そうだった! されたくないことだったよね!」

 

 今のゆんゆんは、カズマがウィズとゆんゆんを交互にガン見しているくらいには扇情的な格好をしている。

 濡れた髪は頬に、服は肌に張り付いている。

 肌は艶やかに水で濡れ、髪から滴った水滴は首に流れて、鎖骨を伝って服の下の胸の谷間に流れ落ちていく。

 カズマは張り付いた服が見せる体のラインや、張り付いてちょっとやらしい感じになったスカートなどを、これでもかとガン見している。

 ゆんゆんはあるえほどではないが、13歳には見えないほど育っている少女だ。

 

 その容姿は、実年齢以上に大人びて見える。

 けれども笑顔は、実年齢以上に幼い子供のようで。

 むきむきと笑い合っているのを見ると、とても大人には見えない子でもある。

 

「……」

 

 ゆんゆんとウィズを交互にガン見しているカズマは、めぐみんには目もくれない。

 むきむきまでもが、ゆんゆんやウィズの体の方は見ないようにと意識して視線を逸らしていた。

 めぐみんはそこで怒ることもできたが、二人の素の反応にちょっとばかりダメージを受けて、何も言わずに地味な落ち込み方をしていた。

 

 めぐみんは自分の体を見下ろしてみる。

 他二人の女性と同じく、水濡れの服が肌に張り付いていた。

 ぺたんこの体にぺたっと服が張り付いて、めぐみんは自分で"何この貧相で情けないの……"と微妙な自己嫌悪感に陥る。

 その自己嫌悪を、"いやまだこれから育つはず"と自分に言い聞かせて吹き飛ばす。

 めぐみんは、まだ発育を諦めてはいないのだ。

 

 頭は良いめぐみんだが、むきむきが水濡れのゆんゆんだけでなく、めぐみんの方も見ないように目を逸らしていることには気付いていない。

 これでは色恋上手にはまだまだ遠いだろう。

 もう少しの成長が必要だ。

 その成長がどんなものであるかは、また別の話。

 

 

 

 

 

 アーネスのカズマに対する「逃さん……お前だけは!」という念を反映したかのように、マジンガーンダムは執念深く彼らを殺そうとしていた。

 

「……ねえなんかガチガチ言ってない?」

 

「カズマくん、何か分かる?」

 

「ちょっと待ってろ盗聴スキルで……ん? ……あー、ええ……?」

 

「か、カズマさん?」

 

 既に全員脱出した後だというのに、カズマの態度にウィズが不安そうな声を漏らした。

 

「……コロナタイトが無くなったから、二つの機体のエネルギーだけで爆発するってよ」

 

「駄目じゃないですか!」

 

 機体内部の音を拾えるカズマが居てくれた幸運を喜ぶべきか、二つの機体の残りエネルギー全てが大爆発を起こしそうなこの不運を嘆くべきか。

 ジェノサイダーの方は元々コロナタイトでは動いていないのだ。

 実際にメルトダウンするかはともかくとして、この機体を作った人間がメルトダウンという単語をぶっ込んでいた以上、それに類する大被害は間違いなく発生するだろう。

 アクセルの街が消し飛ぶ可能性は、非常に高い。

 

「そうだ! こんな時こそ筋肉か大魔法……あ」

 

 めぐみん、ゆんゆん、ウィズ、魔力枯渇。

 むきむき、ダクネス、役立たず。

 アクア、頭を打って気絶して水に流され行方不明。

 残りは駆け出しを中心とした冒険者達のみ。

 

「しまったあああああああっ!!」

 

 頭を抱えるカズマ。本格的にリソースが尽きてきたようだ。

 

「魔力を回復して、魔法でなんとかならない?」

 

「私の爆裂魔法もそうですが、これをどうにかできる魔法となれば格別です。

 その魔力消費量は、アクセルのマナタイトを全部集めても足りないかもしれません」

 

「そもそも、駆け出しの街に上質なマナタイトなんてそんなにないわよ!」

 

 紅魔族三人も思いつけない。

 

「そうです……ドレインタッチです!」

 

 なのだが、この中で一番歳を食っているウィズは何かを思いついたようだ。

 ドレインタッチ、と言い出して駆け出そうとする。

 そのあまりに物騒な言動と行動に、むきむきは思わず彼女を羽交い締めにしていた。

 

「待ってくださいウィズさん!

 そんなことしたらウィズさんがリッチーだってバレてしまいます!

 お店はどうするんですか! だってウィズさん、好きだからあのお店やってるんでしょう!?」

 

「ですけど、ですけど!」

 

「いや、そこは大丈夫だ。そこは俺がなんとかする。

 むきむきがさっきから何度もなんか期待する目で俺をじっと見てるし」

 

「……カズマさん?」

 

 ピンチにこそ強い男は、なんだかんだ頼りになる。

 むきむきもカズマも、本当に大切な時には本当に頼りになる者達だった。

 

「キールの昔の話はギルドを通してもう色んな所に広まってる。

 俺達がキールと付き合いがあったのも周知の事実だ。

 なら、俺がこのスキルを持っているのも、使うのも、何ら不思議じゃない」

 

 カズマは冒険者カードを取り出し、その上で指を滑らせる。

 

「ドレインタッチがあれば、なんとかできる……かもしれないんだろ?」

 

 冒険者カードが光を放ち、カズマの手に不死者の力が静かに宿った。

 

「……はい! ドレインタッチは魔力と生命力を吸うスキルです!

 また、その逆で与えることもできます!

 カズマさんが吸って、私かめぐみんさんに与えていただければ……」

 

「どうにかできるってわけだな。だけど……」

 

 ウィズもめぐみんも、共に爆裂魔法を操るほどの魔法使いであることを、カズマは既によく知っている。

 同時に、爆裂魔法がどれだけの魔力を必要とするのかも知っている。

 

(アクアが居てくれりゃあな)

 

 この窮地に、カズマは自然とアクアを頼ろうとする気持ちになっていた。

 だがすぐに"いやあいつが居ても面倒事が増えるだけだ、いっつもそうだ"と自分に言い聞かせるようにして、アクアを頼ろうとする気持ちを頭から追い出していく。

 アクアはどこにも居ないのだ。

 爆裂魔法を使うだけの魔力を、どうにかして集めなければならない。

 

「カズマくん。任せて」

 

 そして、カズマとむきむきの関係は、互いに足りないものを補い合う関係である。

 

「みなさーん! すみませーん! 力を、魔力を貸して下さーい! 街を守るためにっ!」

 

 普段からむきむき少年を弄って遊んでいる大人達が、普段は先輩風吹かせている青年達が、普段むきむきの筋肉を触って遊んでいるような同年代達が、むきむきの声に『しょうがねえなあ』といった表情でぞろぞろと集まって来るのを、カズマはちょっと驚きの目で見ていた。

 

 

 

 

 

 何故か途中からは、街から逃げ出す途中だった人や、街には居ても防衛には出ていなかった者達まで集まってきていた。

 見覚えのある顔も、見覚えの無い顔もある。

 挙句の果てにはギルド職員までもが魔力を使ってくれと来る始末。

 マジンガーンダムの爆発までどれだけ時間があるか分からなかったが、必要な魔力量が魔力量だったため、相当な人数が集まって来ていた。

 

「いや、ちょっと驚いた。むきむきってこんなに人望あったんだな」

 

「カズマは付き合いが長いようで、まだ付き合いも短いからあんまり実感ないんでしょうね」

 

 魔力を集めるカズマの横で、めぐみんが少し離れた所に居るむきむきを眺めている。

 

「カズマは『しょうがねえなあ』と他人を助ける人です。

 むきむきは『しょうがねえなあ』と他人に助けてもらえる子です。

 ジャンルの違い……いえ、繋がり方の違いでしょうか。あなた達は真逆なんですよ」

 

「そういうもんか?」

 

「人をよく見ている人なんて、そんなもんです」

 

 しょうがねえなあ、という言葉を挟んで二人はそこでも対極に居る。

 むきむきは人助けの時に「しょうがねえなあ」とは言わないし、カズマは助けるのに乗り気だったとしてもひねくれ者なため、ついつい「しょうがねえなあ」と言ってしまったりもする。

 二人は正反対の少年コンビなのだ。

 

「さて、ウィズか、めぐみんか……」

 

 カズマはそろそろどちらに任せるかを決めなければならない。

 めぐみんかウィズか、どちらかに魔力を注ぐのだ。

 冷静に判断するのであれば、めぐみんより格上の魔法使いのウィズ一択なのだが……

 

「カズマくん」

 

 色々と考えるカズマに、むきむきが声をかけた。

 

「賭けるなら、めぐみんに賭けて欲しい」

 

 100%私情で、効率も計算もへったくれもない台詞。

 ただ単純に、『彼がこの局面で誰を信じているのか』という話でしかない言葉。

 なのだがカズマは、これだけの人と魔力を集めてくれた少年の私情100%なその台詞に、「しょうがねえなあ」という感想を抱いて、ニッと笑う。

 

「まったく、お前はいっつもブレないな」

 

 めぐみんの首にカズマの左手が触れ、右手は継続して皆の魔力を集め続ける。

 

「むきむきのオーダーだ。裏切るなよ、めぐみん」

 

「裏切りませんよ。裏切りたくないですし、裏切れるわけないじゃないですか」

 

 カズマは最後に、むきむきの魔力を吸ってめぐみんに送る。

 

「僕の魔力なんて、大したものでもないけど……」

 

「むきむきは魔法が使えないだけで魔力は多少なりと有るんじゃないか、これ?」

 

「ええ、力強くて、心強い魔力を感じます。これがむきむきの魔力ですね」

 

「……二人とも……。うん、頑張って!」

 

 だが、急場しのぎの思いつきというものは、得てしてアクシデントに弱いものである。

 

「めぐみん、どうだ!? これで全員分の魔力だ!」

 

「……駄目ですね。あと少しだけ、足りません」

 

「!? なんだと……!」

 

 理由なんていくらでも挙げられる。

 戦闘で魔法使い達が多少魔力を使った後だった。

 突然の襲撃に、街の冒険者は全員揃っておらず何割かは街から離れていた。

 ここが初心者の街で、総合的な戦力はたかが知れていた。

 前衛の魔力に至っては雀の涙程度のものでしかなかった。

 爆裂魔法のスキルレベル上昇に合わせて、消費魔力も上がっていた。

 だが、そうだったとしても。

 街一つ分の冒険者達の魔力をかき集めても一発も撃てないだなどという事態が起こり得るなど、カズマは想像してもいなかった。

 

(こいつの魔力量と爆裂魔法の消費魔力ってのは、一体どうなってんだ……!?)

 

 めぐみんの爆裂魔法は魔力で換算しマナタイトに換算すれば、一発数千万というとてつもない数字を叩き出す域にある。

 魔力を溜めたり引き出したりできる市販の吸魔石にめぐみんが魔力を込めれば、規格外の魔力で石が爆発するというレベルだ。

 めぐみんの魔力の比較対象になるのは、それこそ本物の神くらいしか居ない。

 

「……しょうがないですね」

 

 そこで、めぐみんは溜め息一つ。

 

「私の宝物で、切り札だったのですが……

 このままだと期待外れの大魔法使いになりかねないですし、しょうがないです」

 

「……めぐみん?」

 

 二度目の溜め息を吐いて、めぐみんは名残惜しそうにローブの中からマナタイトを取り出す。

 カズマは「持ってるなら最初から使えや!」と叫び、むきむきはそのマナタイトが、どこかで見た覚えがあるような気がしていた。

 マナタイトは結晶であり金属。特定材質の総称であり、魔法の魔力消費の肩代わりをして消滅する性質と、杖に混ぜることで魔法の威力を跳ね上げる性質を持っている。

 このマナタイトがあれば、爆裂魔法は撃てるのだろう。

 ならば、爆裂魔法を撃つことを愛して愛して愛してやまないめぐみんが、何故爆裂魔法を撃つためにこのマナタイトを使うことを、こうまで躊躇っているのだろうか。

 

「むきむきは覚えていませんか?

 いや、覚えていたとしても、一度加工したから分からないかもしれませんね」

 

「何を?」

 

「むきむきがあるえにペンをプレゼントしてた日のことですよ。

 あなたは私とゆんゆんに、自分で取ってきたマナタイトをくれたじゃないですか」

 

「……あ」

 

「ゆんゆんは早くに使ってましたね。

 むきむきの目の前で魔法の練習に使っていました。

 あれはあれでよかったんでしょう。

 むきむきの前で大切に使ったんだと教えてあげられたんですから」

 

「そのマナタイト、もしかして……」

 

「あの日から一ヶ月くらいゆんゆんはギャーギャー煩かったです。

 やれ友達から貰ったものがなんだの、転売は最低だのなんだの」

 

「めぐみん、まさか、あなたずっと私に嘘ついてたの!?」

 

「あの日、貰ったマナタイト」

 

 マナタイトに触れるめぐみんの手つきは、とても優しかった。

 

「あの日からずっと、こっそり肌身離さず持ち歩いていた私の切り札。私の宝物です」

 

 後でニヤニヤしたゆんゆんが鬱陶しく絡んで来るんだろうなあ、と思いつつ、めぐみんは何年も『使うべきだけど使いたくない』という気持ちで使ってこなかったマナタイトを握る。

 めぐみんは"むきむきの期待を裏切らない"という言葉を嘘にしないために、かつて吐いた"貰ったマナタイトは生活費のために売った"という嘘を、捨てる。

 

 人を繋いで、魔力を集めて、最後の最後に絆と想い出を放り込み。

 

 その全てを、よい終わりをもたらす紅き魔の爆焔へと変える。

 

「紅き黒炎、万界の王!

 天地の法を敷衍すれど、我は万象昇温の理! 崩壊破壊の別名なり!

 永劫の鉄槌は我がもとに下れ―――『エクスプロージョン』ッッッ!!!」

 

 めぐみんは、信じれば応えてくれる女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 マジンガーンダム討伐後。

 アクアの支援魔法の効果が残っていためぐみんのハイパー爆裂により、マジンガーンダムは跡形もなく吹っ飛んでいた。

 その後泥に埋まっていたアクアもカズマが回収して、冒険者達は報酬の確認兼、大勝利のお祝いに大宴会を開くべく、アクセルの冒険者ギルドに集まっていた。

 

 皆が楽しそうにガヤガヤと話しているギルドの片隅で、むきむきはといえば、受付嬢のルナにこっそりと今日の戦いで活躍した人のことを語って聞かせていた。

 "あの人は頑張ってたんだからもうちょっとお金貰ってもいいはず"という、子供の浅知恵による可愛らしい裏工作である。

 

「―――というわけで、実際はアクア様も大活躍だったんです。

 あ、ダスト先輩も凄かったですよ。

 丸太を使って侵入経路を作ってくれた方の一人でした。その後もゴーレムを何体か倒してて」

 

「むきむきさん」

 

「リーン先輩は、魔法でマジンガーンダムの気を引いて助けてくれたんです。

 その後も機体外のゴーレム戦でも魔法を使って大活躍でした。

 あ、キース先輩も格好良かったですよ! 狙撃にロープ張りに器用な活躍でした!」

 

「むきむきさん?」

 

「機上の高い位置に魔法使いが陣取れたのは、キース先輩のおかげですよね。

 あ、テイラー先輩もいぶし銀に活躍してましたよ?

 こちらももっと褒められるべきです。

 あの人がデコイしてなければ何人怪我してしまっていたか見当もつきません」

 

「むきむきさん、あのですね」

 

「それでダクネスさんは……」

 

「むきむきさん! 多分本気で分かってないようなので言いますが!

 今のであなたは今回の戦いに参加した全員に

 『この人活躍したので報酬をもうちょっと上げてあげて下さい』

 って言ったことになります! あなたはもう全員褒めてるんですよ!?」

 

「……あれ?」

 

「褒めてないのはあなた自身のことだけです!

 それ以外はもう全員分褒めてます! 第一賞金の総額は決まってるんです!

 これで褒めた人達の分の賞金だけ増やしたらどうなると思います!? バカなんですか!?」

 

「……あっ」

 

「『僕の賞金減らせば良いのか』って顔してますね。しませんよ?」

 

 裏工作をしているつもりのむきむきを、冒険者達が遠巻きに見ていた。

 

「こんなことして、むきむきさんは贔屓でもしたかったんですか?」

 

「誰かを贔屓してるとかじゃないです。

 これは僕の、皆への『ありがとう』なんです。

 ありがとうは、何でもいいからちゃんと形にした方が伝わるかなって……」

 

「……口で言えば伝わりますよ、そんなもの」

 

 感謝してる人を一人ずつ挙げていったら、戦場で目についた"頑張っている人"を一人ずつ挙げていったら、必死に戦っていた人を一人ずつ挙げていったら、全員になってしまった。そんな話。

 苦笑しているルナの気持ちが分かるのか、並んで座るカズマとダクネスもつられて苦笑してしまっていた。

 

「めぐみんがカズマに言っていたな。『人をよく見ている人なんて、そんなもんです』と」

 

「ああいうことなんだろうな。ダクネスは知ってたのか? そういう顔してるけど」

 

「ああ。だから友人をやっている」

 

 むきむきは考えが浅かったり、思う通りに物事を運べなかったりすることも多いが、だからこそ周囲から"しょうがねえなあ"と思われるのかもしれない。

 この少年は足りていないのだ。

 強さがあっても、足りていないものが多すぎる。

 飛び抜けた戦闘能力が無いカズマも、頭と幸運が足りないアクアも、爆裂しかできないめぐみんも、攻撃ができないダクネスも、さびしんぼなゆんゆんも。

 きっと何かが足りていなくて、補い合ってこそ無敵になれる。

 

 カズマはむきむきをほんわか見守っている冒険者達の中心に立ち、シャワシャワがたっぷりと注がれたジョッキを掲げて、皆の注目をそこに集めた。

 

「皆、言いたいこととかたくさんあるだろうけど、まずはこれだろ?」

 

 酒を飲みたくてうずうずしているアクアとは目を合わせずに、カズマはジョッキを掲げて叫ぶ。

 

「―――乾杯ッ!」

 

「「「 乾杯っ! 」」」

 

 酒を飲んだり、騒いだり。

 語り合ったり、はしゃいだり。

 からかい合ったり、褒め合ったり。

 話の流れでカズマがわーっしょいわーっしょいと胴上げされたり、力自慢達にむきむきがわーっしょいわーっしょいっと胴上げされたり、アクアが私も私もとそこに突っ込んで行ったり。

 

 最後にアクアが胴上げされて、受け手の冒険者達がうっかり手を滑らせてしまい、床にビターンと落ちてしまったりもしたが、それもまた、アクセルの日常らしい光景だった。

 

 

 




 ガンダムと生身で殴り合うのは男のたしなみ

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