「我が名はむきむき。紅魔族随一の筋肉を持つ者!」   作:ルシエド

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一章最終話


1-9-2 この素晴らしい世界に―――

 めぐみんは、夢の中に居た。

 呪いが高熱を発生させ、彼女の体力を奪いながら、その意識を記憶の深層にまで沈める。

 記憶のとても深い所で、めぐみんは懐かしい想い出を思い出していた。

 

 月が明るい夜だった。崩れた家の中で、幼い頃のめぐみんがうめき声を上げている。

 

「……うっ」

 

 紅魔族は、里の建築物を守りながら戦うことにあまり頓着しない。

 里が全焼しても、三日くらいで全部元通りにしたりする。

 壊すのを躊躇わないし、直すのも規格外に速いのが紅魔族だ。

 

 それが、この日は珍しく悪い方向には働いてしまった。

 魔王軍による紅魔の里の侵攻作戦の中、魔王軍が放った魔法の流れ弾が、めぐみんの家に当たってしまったのだ。

 貧乏ゆえに大した補強もされていなかった家屋は一気に崩れ、幼い頃のめぐみんはそこに生き埋めになってしまった。

 

 自力で家から脱出できそうにもない状況。

 それどころか壊れた家が崩れかかっていて、今にも押し潰されそうだった。

 魔王軍との戦いに大人は皆出払っていて、助けが来てくれそうにもない。

 

「これで、わたしも、おしまいってやつですかね」

 

 めぐみんは、賢い子供だった。

 同い年の誰よりも早く歩けるようになり、同い年の誰よりも早く言葉を喋った子供だった。

 自分の死を、どこか他人事のように語る口調は、達観しているようで、諦めて現実を受け入れているようで、隠しきれない悔しさが滲みでている。

 

 崩れ始めた天井を見上げ、小さな体を小さく震わせ、めぐみんは目を閉じる。

 

「……死にたくないなぁ……」

 

 目を閉じ、力を抜いて、床に横たわる。一分、二分、三分と経つ。

 すぐ落ちて来るはずだった家の残骸は、いつまで経っても落ちて来ない。

 不思議に思って目を開けると、そこには月を背にした巨人が立っていた。

 

 瓦礫を掴み上げる巨人。

 これが現実であることを疑ってしまうくらいに雄大な巨人。

 命の恩人の巨人は、めぐみんを見てホッとした様子で微笑む。

 

「よかった、人間だった。可愛くて動かないもんだから、人形だと思ったよ」

 

「―――」

 

 巨人は助けた彼女に微笑んで、背を向けて去っていく。

 

「さ、早くここを出て。僕は次の人を助けに行かないといけないから」

 

 巨人はめぐみんを気遣ってはいたが、気にも留めていない。

 彼は里の瓦礫や崩れた家を撤去し、その下に埋められていた人達を助け、激しい戦いで大怪我をした人達を里の奥に運んでいく。

 巨人は多くの人を助けていて、めぐみんはその途中で助けられた小さな子供の内の一人でしかなく、巨人が彼女のことを記憶に残さなかったのは当然だった。

 

 巨人は里の仲間を助けるためにひた走る。

 それは、彼にとっては里の皆に仲間として扱ってほしいという思いから来た、優しさと媚売りが入り混じった行動だったが。

 めぐみんの目には、とても立派で力強い人助けに見えた。

 

「あの髪、あの眼。同じ紅魔族のはず」

 

 後日。言えなかったお礼を言おうとして、めぐみんは彼を探した。

 月を背にしたあの巨人を探し、彼女は里の中を駆け回る。

 そうして、目当ての巨人を見つけて。

 

「おい、魔法使えない奴は脇にどいてろよ」

 

「……うん、ごめんね」

 

 彼女は深い失望を感じ、それでも何故か消えないあの夜の感情に、不思議な感慨を覚えた。

 

「これからはちゃんと、見かけたら道を譲るから」

 

「……けっ」

 

 卑屈な笑みを浮かべる巨人。あの夜に見ためぐみんの無事を喜ぶ微笑みとは大違い。

 悪ガキにどかされているその姿は、情けないを通り越して哀れですらある。

 礼を言おうという気持ちは、既に消え失せていた。

 そんなしおらしい気持ちはもうどこにも見当たらなかった。

 あったのは、この光景に苛立つ気持ちと、それが引き出したいつもの彼女らしい性情。

 

 気付けばめぐみんは、悪ガキをぶん殴って転がしていた。

 

「いてっ、何すんだよ!」

 

「反撃してこない相手をいじめるのは楽しいですか?

 後ろめたく感じてるくせに攻撃的に接して楽しいですか?

 本当は普通に話したりしたくて、不器用に気を引くのは楽しいですか?

 見下しながら、格下をいじるような接し方をするのは楽しいですか?

 好きな子にいじわるしてしまうのは同性の友情でもあると聞きますが、本当なんですね」

 

「……っ」

 

「恨まれる前にやめておいた方がいいですよ」

 

 木の棒を杖のように振り回し、めぐみんはむきむきに歩み寄る。

 

「?」

 

 こんなに子供のような顔をする人だっただろうか、と、めぐみんはあの夜に自分がかけていた色眼鏡の色の濃さを自覚した。

 

「君は……?」

 

 名を問われたなら、名乗らねばならない。

 

「我が名はめぐみん。紅魔族随一の職人の娘。やがて、紅魔族最強の魔法の使い手となる者!」

 

 彼もまた、その名乗りに返す。

 

「我が名はむきむき! 紅魔族随一の筋肉を持つ者!」

 

「もうちょっと胸を張ってもいいと思いますよ、あなたは。

 あんなのはちんぴら? とかいうのと変わりません。ぶっとばせばいいんです」

 

「ぶ、ぶっ飛ばすのはちょっと……」

 

 この少年が歳下だということは知っていた。

 そのせいかなんとなく、めぐみんはこの少年に年上のお姉さんぶっていた。

 年上のお姉さんのように振る舞えていると思っているのは、彼女だけだったが。

 

「……君は、僕が嫌いじゃないの?」

 

「大きくて、強くて派手で、豪快。そういうのが私は大好きですからね」

 

「―――」

 

「他の人が変だと思っても、私はかっこいいと思います!」

 

 めぐみん五歳。むきむき四歳。

 あの夜が、めぐみんの未来を決定した運命の出会いだった。

 

「私の家、最近ちょっと壊れてしまったので、外で遊んでないといけないのです」

 

「そうなんだ。僕に、何かお手伝いできることはあるかな?」

 

「存分に私を楽しませてください」

 

「ええ……」

 

 あの夜に、めぐみんはとても大きく、とても強いものを見た。

 その時刻まれた幻想は、今でも続いている。

 めぐみんは"あの日見た強く大きな巨人"という、ありもしない幻想を今も見つめている。

 彼の心が弱いと知った後も、その幻想は消えていない。

 

 たとえ、むきむきの弱さを誰もが理解し、彼を弱虫だとなじる日が来たとしても。

 

 めぐみんだけは友として、その強さを信じてくれる。

 

 むきむきは、あの日めぐみんがくれた肯定がなければ、今でもきっと卑屈なままで。

 めぐみんは、あの日見た強く大きな巨人の幻想を、巨人の心を知った今でも忘れずにいる。

 彼女は信じている。

 あの日見た、目に焼き付いた、力強い彼を。

 その信頼こそが、弱い彼を強くしているのだということに気付きもしないままに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イスカリアは、言葉が武器として有用であることを十分に理解していた。

 彼は準幹部級の力を持っているものの、即死技を除けば準幹部級の中でも下層クラスの強さしかない。

 そのため彼は、言葉でむきむきの思考と行動を誘導していた。

 

(最近、神々をも殺す可能性がある魔剣使いが一人増えたばかりだというのに。

 今度は凶悪なまでに肉体特化の人間か。神に愛された人類という種は、本当にしぶといものだ)

 

 空を飛ぶ飛行機を指先で追うくらいなら、子供にもできる。

 音速を超えて飛ぶ戦闘機も、指先で追うだけなら十分可能だ。

 距離さえあれば、人の体がどんなに速く動こうとも、連射可能な死の宣告で追いきれないということは、普通あり得ない。

 馬でイスカリアが逃げ、むきむきがそれを追うという構図である以上、馬の速度の分むきむきの速度は差し引かれるのだから、尚更に。

 

 デュラハンが指差してから、魔法か呪いの名を告げるまでの一瞬で、横に跳んでそれを回避するむきむき。

 死の魔法、死の宣告を見切ってかわす人間の恐ろしさは、戦っているイスカリアが一番よく分かっていた。

 

(十二分に化物だ。背筋がヒヤリとする)

 

 大抵の敵は一発で倒せるのに、今は即死の指差しを連続で撃って、詰将棋のように追い詰めていかなければならない。

 追い詰める方もかわす方も、共に手が抜けない全力の時間が続いていた。

 

『頃合いだ。接近するふりをして逃げろ』

 

 銃弾の速度で密閉空間に撃ち込まれたスーパーボールのような動きで回避を続けるむきむきに、幽霊が声をかける。

 それは、彼の勝利の可能性が存在しないことを意味していた。

 

『彼我の戦力差ははっきりした。

 今日までの貴様の戦いを見てきた(それがし)が保証しよう。

 貴様はこの化生には勝てない。生きるため、逃げろ』

 

 もはや勝敗は揺らがない。

 むきむきはいずれ精神と肉体の疲労によってつまらないミスをして、そのたった一度のミスのせいで死に至るだろう。

 しからば、後はどう負けるかしか選べない。

 逃げて負けるか。死んで負けるか。

 ならばせめて生きる方を選べと、幽霊は少年に語りかける。

 

『誰にも文句は言えないはずだ。

 人はいつでも、自分が生きるための行動を選ぶ権利がある。

 どんな人間にも、他人に"人助けのための死"を強要する権利など無い。

 逃げろ。貴様にはその権利がある。ここで逃げることは、貴様の罪にはならない』

 

 その忠告を無視して、少年はデュラハンに立ち向かい、敗北に繋がる戦いを続けた。

 

『逃げろ』

 

 無視して、戦いを続けた。

 

『逃げろ』

 

 無視して、戦いを続けた。

 

『よいのだ、逃げろ』

 

 その優しさと気遣いから来る言葉を、むきむきは無視して、戦い続けた。

 

『逃げろ! 死ぬぞ!』

 

「死なない!」

 

 無口だった幽霊が、無感情そうだった幽霊が、自分に興味も無さそうだった幽霊が、こんな大声を出すのを、少年は初めて聞いた。

 従順で純朴だった少年が、自分の忠告にこうまで強く反発するのを、幽霊は初めて見た。

 

「僕もめぐみんも、死んだりしないっ!」

 

 むきむきの速度が上がる。

 昼間の戦いで痛めた筋肉は超高速での超回復を既に終えており、昨日までのむきむきでは到底出せないようなスピードを叩き出していた。

 

(情報通り。精神の高揚と共に、身体能力が上がっていく……なんと厄介な)

 

 距離が詰まり、むきむきの拳が届く千載一遇のチャンスが訪れる。

 振るわれる拳。回避するデュラハン。騎士の脇下から、指先だけが少年に向けられる。

 

「『デス』」

 

 拳を振るった直後、むきむきは体を捻って跳ね跳び死の魔法を回避する。

 しっかりした姿勢から拳を放たなければならないむきむきと、どんな姿勢・距離からでも指差すだけで殺せるイスカリア。

 その差は、戦闘においてあらゆる場面で作用する。

 

「殴れるのなら、壊せるはずだ!」

 

 また無情に距離が離され、少年は必死に追いすがる。

 指差しを併用して距離を離しながらも、イスカリアは徐々に身体能力を増すむきむきに僅かな驚きを覚えていた。

 

「壊せるのなら、倒せるはずだ!」

 

 叫ぶ度に、少しづつ。

 立ち上がる度に、少しづつ。

 立ち向かう度に、少しづつ。

 強さが増している。赤い瞳の輝きが増している。

 

(ここがこの少年の長所であり、いとも容易く付け込める欠点)

 

 その強さでさえ、頭で戦う魔王軍上位層にとっては、手の平の上で転がせる強さでしかなかった。

 

「今、君の里には我が魔王軍の隠密部隊が入り込んでいる」

 

「!?」

 

 ぐらり、と少年の心が揺れた。

 

「これを期にあの里の何人かだけでも始末しておこうと思ってね。

 高レベルの潜伏スキルを持つ者達を何体かこの隙に放っておいたのだ」

 

「一対一の決闘だって、言ったじゃないか!」

 

「一対一の決闘は続けるさ。さあ、戦いを続けたまえ。

 放った者達には族長、病人、女子供を先に狙うよう言い含めてある」

 

 集中が乱れる。

 熱意が冷える。

 戦意が揺らぐ。

 今自分がここに居ていいのか。今すぐに戻って確認するべきじゃないのか。こうして戦っている内に取り返しのつかない事態になったらどうするのか。

 

『ハッタリだ。耳を貸すな』

 

 経験の足りない少年と違い、幽霊はそれが虚偽である可能性に気付いていた。

 そも、そんな風に里に魔王軍が侵入できるのであれば、真夜中にでも襲撃させて皆殺しにしてしまえばいい。

 そうしないのは、それができないからだと幽霊は考える。

 このタイミングでこれを言い出すという時点で怪しい。

 事実、イスカリアのこの言葉は根も葉もない嘘だった。

 

 されど、むきむきは幽霊に何を言われても、イスカリアの言葉に引き起こされた動揺と思考を、無いものとして扱うことができなかった。

 

『これは腐っても騎士だ。

 体も心も腐っているが、矜持は残っている手合いだ。耳を貸すな』

 

 少年の肉体は、それ自体が魔力と親和する魔法のようなもの。

 魔法は精神力で制御するものであり、彼の筋肉は彼の精神状態と密に連動している。

 精神の不安、集中の散漫、意識の動揺……それらは、ダイレクトに彼の力を削いでくる。

 

『耳を貸すなと……いや、もはや、無意味か』

 

 ()()()()という弱点を、敵は的確に突き、それが決定的な一打と成った。

 

(精神状態で強くなる手合いを処理するには、この手に限る)

 

 スペックが下がったむきむきが、川を前にして敵の指差しを見る。

 

「『君は、二週間後に死ぬだろう』」

 

 川の前で斜め上後方に跳躍し、むきむきはその死の宣告を回避して。

 "呪いが体に当たってから"、何故この敵が今即死の魔法ではなく、死の呪いを放ったのかを理解した。

 

「……え」

 

 イスカリアの指先は、"川の水面に映ったむきむき"を指差していた。

 

(川……水面……かが、み?)

 

「我が呪いは指差しの呪い。

 即死の魔法は指差した軌道に沿って飛ぶ魔法。

 即死の呪いは"指差した対象に呪いをかける"もの。

 魔法ではなく呪いならば、水鏡越しにも君には当たる」

 

 指差しを照準として魔法を放つ、デス。

 指差した相手を呪う、死の宣告。

 二つは魔法と呪いであるがゆえの違いを持ち、呪いであれば鏡越しでも十分効果を発揮する。

 

 かくして、二週間後の死を約束され、重度の熱病と同じ症状がむきむきの動きを止める。

 

「う、あ……」

 

「『デス』」

 

 そうして、容赦なくトドメの一撃が飛び。

 

 指差した軌道に沿って放たれた死の魔法は、発射と命中がほぼ同時に行われる弾速で飛び、そのまま綺麗に命中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幽霊が師で、少年が弟子で。

 異世界から訪れた奇妙な転生者の幽霊は、基礎的な鍛錬法、基礎的な技術、すなわち応用が利く自分の技の基礎を少年に叩き込んでいった。

 武術とは一生涯かけて磨くもの。

 鍛練とは体が動かなくなるその時まで習慣として続けるもの。

 

 基礎だけに留めたのは、そこから自分に合わせた技を編み出すのは少年の仕事だと考えたから。

 

「ありがとうございます、幽霊さん」

 

 イスカリアとの戦いの数日前、少年は唐突にそんなことを言い出した。

 

『藪から棒だな』

 

「なんというか……ちゃんと、強くなれてる気がするんです」

 

 これは、幽霊の想い出。

 少し何かを教えてやっただけで、無条件に懐いてくる無邪気な子供に、"ありがとう"と感謝された記憶。

 

「幽霊さんのおかげです。

 ここは魔法使いしか居ない里。

 そこから出ないで僕が師を得られるなんて、思っても見ませんでした」

 

 本当に、奇跡みたいな幸運です、と少年は嬉しそうに言う。

 

 その尊敬を、幽霊は少しむず痒く感じた。

 

「まだまだ色んなこと、教えて下さいね!」

 

『よかろう。存分に鍛えてやる』

 

 結ばれた約束があった。

 

 破られた約束があった。

 

 

 

 

 

『約束破りとは、(それがし)も堕ちたものだ。

 (わらべ)の心を裏切るなど……畜生にも劣る所業だろうに』

 

 

 

 

 

 少年が目にしたのは、自分を庇って魔法を受ける幽霊の姿。

 

「幽霊、さん?」

 

―――我ら兄弟の死の技は、生者のみならず死者さえも二度目の死に至らしめる

 

 死の魔法は単体指定の即死魔法だ。

 一人を殺せば、その向こうにまでは届かない。

 

「これは……亡霊にもなっていない、この世界に馴染んでもいない魂か?」

 

 イスカリアはここでようやく、幽霊の存在に気付いたようだ。

 眼の焦点を概念的にズラし、可聴域を死に寄せて、その姿と声を捉える。

 そうしてようやく、転生者の魂という可視化しづらいものを認識した。

 

「馬鹿な、魂の基礎構造が歪んで、まっとうな転生さえできなくなるぞ」

 

『構わん。

 次の生などと考えること自体おかしいのだ、本来はな。

 命は全て短き道果(みちはて)に終わるもの。死ねばそこで全て終わりよ』

 

 死の後に復活があるとしても、死の後に来世があるとしても、それを理由に"後があるから"と今の生を適当に扱う者には、何も成すことはできない。

 

『来世があるのだとしても……

 来世のことを考えて今の人生を生きるなど、その時点で間違いである。

 来世を良くするために生きるのではない。今ここにある心に従い、生きるべきなのだ』

 

 それは今を生きる生者の理屈。

 

死に損ない(アンデッド)の貴様には、生き損ない(アンデッド)の貴様には、分かるまい』

 

「―――」

 

 動く死体であるデュラハンが、いつかどこかで忘れた摂理。

 

『死んでたまるかという想いで死を跳ね返すこと。

 果てることを恐れ、生きた屍として終わりから逃げ続けること。

 来世などというものを考え、余計な生き方をしてしまうこと。

 全て別だ。

 浮浪者の如く生きた屍として生き恥を晒している貴様のような者を、某は何より軽蔑する』

 

「亡霊が生を語るのか」

 

(それがし)も貴様も死んでいるのだ。

 死人が生者の足を引っ張るなど、それこそ醜悪極まりない』

 

 死してなお、この幽霊には信念があった。

 

「あ……幽霊さん……」

 

 そんな幽霊を、泣きそうな顔でむきむきが見つめる。

 熱病の呪いに蝕まれながらも、少年は幽霊に手を伸ばした。

 邪神ウォルバクのダークプリーストであるイスカリアの死の魔法は、幽霊の魂魄の基礎構造を破壊し、その体は既に崩壊を始めている。

 

『そんな顔をするな。莫迦者が』

 

「だって……だって……!」

 

『生きる気もなく、既に死した亡者である(それがし)

 守りたいものがあり、今を生きようとする貴様。

 どちらが残るべきかなど語るまでもない。生きよ。貴様にはその価値がある』

 

 男の価値は決断で決まると断じる幽霊は、他人のために決断することができる少年の価値を、最後の最後に肯定していく。

 

『生きて、生きて、生きて……この広い世界を、見て回るがいい』

 

 幽霊の姿が、完全にかき消える。

 

 

 

 

 

『貴様のような者でさえ、素晴らしい友と出会うことができる、この素晴らしい世界を、な』

 

 

 

 

 

 通りすがりの幽霊は、ただの一度も名を名乗らないまま、少年に言葉を残して消えて行った。

 

『心定まらぬ時は、右の拳を握れ。右の拳を見よ』

 

 耳を通してではなく、胸の奥に直接に、届けられる最期の声。

 

『そこに勇気を置いていく。拳を見るたび思い出せ』

 

 最後に胸に響いたその言葉に、少年は一筋の涙を流した。

 

「あ」

 

 感情の爆発が、心の中を空白にする。

 

「あああああああああああああっ!!」

 

 もはや思考さえも伴わない、激情に任せた行動だった。

 踏み込む足が、踏み込んだ地面を爆裂させる。

 体が空気の壁にぶつかって、それを体当たりで粉砕し、爆裂させる。

 体内で爆裂するエネルギーを、全て振り下ろす手刀に乗せる。

 

 イスカリアは超人的な反応速度でそれを剣にて受け止めたが、手刀は火花を散らしながら衝突し、その刀身を真っ二つに叩き切った。

 

「な―――」

 

 折れた剣が地に落ちるその前に、イスカリアの腹に蹴り上げが突き刺さる。

 騎士の体は馬から強制的に引き剥がされ、空中では四方八方からの拳と蹴りが待っていた。

 

「くぐぁっ!?」

 

 力任せ、筋肉任せの強烈な連打。

 空中に蹴り上げられてから、空中で体が落下を始めるまでの間に叩き込まれた攻撃、実に14発。

 最後に空中から蹴り落とされ、地面に叩きつけられた一撃も加えれば、ちょうど15撃。

 殺意に満ちた連続攻撃だった。

 

「な……あ……」

 

 地面に埋まった体を引き抜き、イスカリアは顔を上げる。

 そこには、月光を背にした巨人が立っていた。

 

 夜の闇に混じり合う、逆立った黒い髪。

 夜の黒に赤い軌跡を刻む、赤く輝く眼。

 人型モンスターの大半よりも大きそうな、人間離れしたその巨体。

 目に見えそうなほどに吹き上がる殺意。

 肉体より湧き上がる莫大な熱。

 涙を流すその双眸。

 

 その姿を見て、アンデッドは思わず呟いた。

 

「……あ……悪魔……?」

 

 それは、かつてめぐみんが月の夜に見たものの対極にあたる姿。

 ホーストが見た少年の未来の可能性。

 子供の純粋さに、優しさと残酷さの二面性があるように。

 正義という言葉に、光と闇の二面性があるように。

 この少年にも、一歩間違えれば魔王軍に堕ちる素養があった。

 

(……私が人間でなくなった日のことを思い出す。

 そうだ、これが、これこそが……自分が死ぬという予感、そのおぞましさだ)

 

 イスカリアの中に、既にこの少年の強さを計ろうという意識はない。

 ここまで来てしまえば、下手を打った瞬間に殺される。

 それゆえにか、イスカリアは最も確実な方法を選んだ。

 

「デ―――」

 

 指差し、たった二文字を口にするだけで殺せる魔法。

 むきむきは横に跳んで避けようと考える。

 だがそこで、右の拳が目に入った。

 

 幽霊の最後の言葉が脳裏に蘇り、思考に満ちていた黒い殺意が僅かに薄れる。

 ここでまた魔法の回避が始まれば、先程の繰り返しになりかねない。

 横に逃げてはいけない。人は前に進まなければならない。

 文字にすれば二文字しか無いその刹那を、彼は勇気をもって踏破する。

 

(―――前に踏み込む、勇気を)

 

 横ではなく、前に跳ぶ。

 そして、ワンモーションで拳を突き出す。

 結果、『デス』の二文字の内一文字しか口にできないままに、イスカリアは胴を殴り飛ばされていた。

 

「―――バカ、な」

 

 自身が発揮できる最大最高の力を発揮している今のむきむきに、この距離で死の魔法は通じない。 

 昨日のむきむきになら、明日のむきむきになら、通じるかもしれない。

 けれども、今のむきむきには通じない。

 

(たった二文字だ。

 たった二文字の発音で発動する、即死の魔法だ。

 なのに……なのに……それさえ、口に、できないと、いうのか……!?)

 

 頭の中を真っ白にして、真っ黒な殺意に身を任せていられればよかった。

 けれど、消えてしまった師匠のことを思い出してしまった。

 だから、熱病の呪いに浮かされた顔で、むきむきは泣き出してしまう。

 

「うっ、えぐっ、ああ」

 

 悲しかった。

 大泣きしてしまうくらいに、少年は師匠のことを慕っていた。

 手の暖かさ、抱きしめてもらった時の暖かさを覚えているだけの両親の仇さえ、取ろうとしていたのがむきむきだ。

 めぐみんも、ゆんゆんも、あるえも、こめっこも、ひょいざぶろーも、ゆいゆいも、ぶっころりーも、そけっとも、そして幽霊も。

 彼は、本当に大切に思っていた。

 

「うっ、えうっ、うぇ、ああぁ」

 

 殴り飛ばされ倒れたままのイスカリアに、彼は執拗な攻撃を加え始める。

 泣きながら、拳を叩きつけ始める。

 

「う、あ、ああっ……ああああああああっ!!」

 

 叩き潰して、叩き潰して、叩き潰して、叩き潰して、叩き潰す。

 磨り潰して、磨り潰して、磨り潰して、磨り潰して、磨り潰す。

 踏み潰して、踏み潰して、踏み潰して、踏み潰して、踏み潰す。

 

「『デス』! 『デス』! 『デス』! 『デス』!」

 

 鎧を隅々まで砕くような念入りな殺害。

 対し、イスカリアは発動タイミングによっては死の結果さえ覆す、回復魔法となった死の魔法を自分の体にかけ続ける。

 だが、回復が追いつかない。

 回復速度と破壊速度が完全に釣り合ってしまっている。

 もはや、むきむきに死の魔法をかける余裕さえなかった。

 

 ゲーム的な表現をするならば、回復のボタンを全力で連打しているのにHPが1より上に行かないようなもの。

 別のコマンドを実行しようとすれば、別の行動を取ろうとすれば、その瞬間に死ねると確信できるだけの殺意の連打。

 

「ごめんなさい……ひくっ、ごめんなさい……なさいっ……!」

 

 『もっと自分がしっかりしていれば、誰も犠牲にしなくて済んだはずなのに』。

 『もっと圧倒的に戦っていれば、誰も居なくならなかったはずなのに』。

 『もっとちゃんと殺せば、上手くいったはずなのに』。

 『こんなにも上手く行かなかったのは』。

 『こんなにも悲しいのは』。

 『自分がちゃんと殺してないからだ』。

 

 と、死と喪失のストレスが子供の思考をぐちゃぐちゃにかき回す。

 無茶苦茶な思考が、ひたすらに拳を叩きつけさせる。

 癇癪を起こした子供のように、泣きすぎてまともにものが考えられなくなっている幼い子供のように、思考がぐちゃぐちゃになる。

 

 『自分も生きて、めぐみんも助けて、幽霊さんも死なせない』。

 『三つ果たさないといけないことがあって』。

 『でも、一つはもうダメで』。

 『戦う前には、幽霊さんが消えてしまうなんて思ってもみなくて』。

 『一つ余計に仲間が殺されてしまったから』。

 『一つ余計に、この敵を殺さないといけない』。

 『そうすれば、戻って来てくれるかもしれない』。

 『戻って来て欲しい』。

 『もう一度会いたい』。

 『まだ、色んなことを教わりたい』。

 

 一つ殺せば、一つ甦るのか。

 そんなわけがない。そんなことが起こるはずがない。

 正義の味方が一つ守れば、それは命が一つ蘇るのと同義か。

 否。正義の味方が一人救っても、過程で死んだ一人は生き返らない。

 取り返しの付かないことがある。

 覆せない死というものがある。

 それは、この世界でも同じこと。

 

「く……が……」

 

 やがて、回復に使われていた死の魔法の行使も終わった。魔力が尽きたのだ。

 それでも、攻撃は終わらない。

 肉体による攻撃に、魔力切れはない。

 念入りにイスカリアを破壊する連打は一向に止まりはしない。

 

「―――、―――っ、―――ッ!」

 

 その時、またしても叩きつけた右の拳が目に入り、脳裏に言葉が蘇った。

 

―――忘れるな

―――お前の拳は、誰のために握られたのだ

 

 怒りで、悲しみで、殺意で、忘れてしまっていた想いを思い出す。

 助けたかった友達のことを思い出す。

 そこから連鎖的に、様々なことを思い出した。

 無事を喜んでくれたひょいざぶろーとゆいゆい。子供心に自分を責めていたこめっこ。心配そうに送り出してくれたゆんゆん。そして、めぐみん。

 そこから、今日までの日々の想い出が一気に頭の中を駆け巡る。

 

 『戦う理由』を思い出した頃には、頭の中の黒い感情は、綺麗さっぱり押し流されていた。

 そうして、彼は一瞬で冷静さを取り戻す。

 涙を拭い振り返れば、そこには騎士の体を置いて逃げる馬と、その馬と一体化した騎士の頭部があった。

 

「っ、まさかあの状態から気付くとは……!」

 

 初めて会った時から、イスカリアの頭部は馬と一体化していた。

 "頭と胴体が離れている"というのが、デュラハンの特徴である。

 言葉を発しているのは胴体。動いているのも胴体。

 そのため本体も胴体、とむきむきは自然に考えていた。疑問さえ持っていなかった。

 

 だが、違う。

 本体は頭の方だったのだ。

 デュラハンとはいえ、本体が胴体であるのなら、本体の九割を粉々にされても生きていられるわけがない。

 

 イスカリアが馬を降りている時は、馬は少し離れて本体の頭部に戦場全体を眺めさせる。

 そうやって本体を安全圏に置きつつ、胴体の死角を無くす。

 馬に乗っている時も、頭部は胴体の死角を見て潰している。

 

 そして、負けそうになった時は胴体を囮にして頭と馬だけで逃げる。

 なんとも奇天烈な、初見であればほぼ見抜けない逃亡法であった。

 

 だが、むきむきはそれに気付いた。

 『誰のために戦うか』を思い出せた奇跡が、イスカリアが仕込んだ最後の最後の逃亡策を見破ったのだ。

 少年は、腰だめに手刀を構える。

 

「……我、久遠の絆断たんと欲すれば、言葉は降魔の剣と化し汝を討つだろう」

 

 振るうと同時に踏み込んで、すれ違うように手刀を振り切る。

 

「『ライト・オブ・セイバー』」

 

 闇夜を切り裂く光の剣が、イスカリアの頭部を両断した。

 

「……これで終わりだなどとは、思わないことだ」

 

 からん、と二つに切り分けられた兜が落ちる。

 馬も消える。

 イスカリアは消滅を前にして、最後に負け惜しみを吐いていった。

 

「君が人類である以上、魔王軍は必ず君を滅ぼすだろう。必ずだ」

 

 むきむきの最大最高の力を見てなお、イスカリアは魔王軍の勝利を疑っていない。

 

「先に地獄で待っている。いつでも来るがいい。……申し訳ありません、セレ―――」

 

 イスカリアの最後の言葉を噛み締めながら、少年は砂になっていくイスカリアを見つめる。

 体から、死の宣告と熱病の呪いも消えた。

 まごうことなく、術者が死んだ証である。

 それは同時に、めぐみんが助かったという事実の証明でもあった。

 

 むきむきは無言で、夜空の月を見上げる。

 大きな虚無感と大きな達成感が、同時に胸の中に広がっていた。

 

 仲間を殺した敵を殺すことができたとしても、殺された仲間を取り戻すことはできない。

 暴力なんて、所詮はそんなものだ。

 人を救い、導き、蘇らせると伝えられる女神のような力なんて、力自慢なだけの人間に備わるわけもない。

 

「むきむき! 大丈夫!?」

 

 心が光と闇の間で揺れているそんなむきむきの前に、ゆんゆんが現れた。

 

 彼女の中にも多大な葛藤があったことだろう。

 めぐみんのそばに居て欲しいという友人との約束を守るか、破るか。

 弱っているめぐみんの傍に居てやるか、戦う友の下に行くか。

 自分が行って敵に見つかればそれで敵が逃げてしまう可能性もあり。

 自分が行かなかった結果、むきむきもめぐみんも死んでしまうという可能性もあり。

 助けに行った結果自分が死んでしまう可能性もあった。

 

 イスカリアが出していた決闘の条件がある以上、見つかれば終わりなため、他の人を連れて行くわけにもいかない。

 ゆんゆん一人が行って、何ができるという話でもある。

 それでも彼女は、こっそり隠れながら彼を助けに行くという選択を選んでいた。

 それは間違いなく、勇気を要する選択である。

 

「この気配……あ、勝ったのね! 流石むきむき! これでめぐみんも助かるよね!」

 

 そして、その勇気こそが、今日この時この場所で、むきむきの心の救いとなってくれていた。

 

「……むきむき?」

 

 抑えていた感情が、友の姿を見たことで決壊する。

 こらえていた涙が、友の姿を見たことで流れ出す。

 一人では潰れそうになっていた心が、友の声で潰れることを免れる。

 

 むきむきは、今は誰でもよかったのかもしれない。

 安心して寄りかかれる相手だったなら、誰でもよかったのかもしれない。

 けれども、最初に来てくれたのが生まれて初めて出来た友達だったことは、間違いなく彼の幸運だった。その幸運は、女神様がくれたものだったのかもしれない。

 

 少年は、縋り付くように少女を抱きしめる。

 

「え!?」

 

 ゆんゆんは少し驚き慌て、抱きついてきた少年の様子を見て、更に大きく驚いた。

 

「うあああああああああああっ」

 

 少年は泣いた。一人で泣いていた時よりも泣いた。

 より大きな声を上げ、より多くの涙を流した。

 涙とは心から溢れた感情の雫。

 それが多ければ多いほど、その心が悲しみに満ちているという証明になる。

 

 次第に溢れる感情を流し出すのには目だけでは足りなくなり、少年の口が嗚咽と吐露という形で想いを吐き出し始めた。

 幽霊と出会った時のことから、今日まで教えてもらったこと。

 手に入れた力で、守れたものもあったこと。

 めぐみんが呪いをかけられてから、胸の奥にくすぶっていた後ろ向きな気持ち。

 本当は、イスカリアと戦うのも怖かったこと。

 戦いの中でも持っていた、足が震えてしまいそうだったくらいの死を恐れる気持ち。

 そして、既に死した幽霊との死別。

 

 感情を声にして、胸の奥で破裂しそうなくらいに膨れ上がる気持ちの全てを、友達に吐き出す。

 ゆんゆんはその全てを、黙って聞いてくれていた。

 

「ずっと、ずっと、自分のことなんて分かってて。

 情けないって分かってるのに、変われなくて。

 みんなに嫌われたくなかった。

 みんなに好かれたかった。

 僕がちゃんとみんなと同じに扱ってもらえる、居場所が欲しかったんだ」

 

 幽霊との永遠の別れは、彼が何年も前から抱え込んでいた想いも、連鎖的に吐き出させていた。

 

「嫌われると胸が苦しくて……

 誰にも好かれてないのが悲しくて…

 居場所がないのが辛くて……

 これ以上嫌な思いなんてあるわけないって……

 だからこれからは良くなるだけだって……自分にずっと言い聞かせてて……」

 

 誰にもどこにも行って欲しくなかったから、全員で生きて終われる結末を求めて、恐ろしいデュラハンにも勇気を出して挑んだのに。

 結末は、別れで締めくくられてしまった。

 

「なのに―――今が、一番苦しくて、悲しくて、辛い」

 

 子供らしく、彼らしく、むきむきは涙と共に想いを吐き出しきった。

 そんな彼を、一人の友として、ゆんゆんは受け入れる。

 

「うん、むきむきは頑張ってるよ。ちゃんと頑張ってたよ」

 

 ゆんゆんは頑張り屋で努力家だ。

 だから知っている。

 適当にやったことが失敗しても、人は泣かない。

 精一杯頑張って、一生懸命頑張って、それでも駄目だった時にこそ、人は泣くのだと。

 

「頑張ったから、泣いてるんだよ」

 

 弱虫なりに一生懸命頑張って、それでもハッピーエンドを掴めなかった少年を、ゆんゆんは優しく抱きしめた。

 ああ、なんか友達してるなあ、と思いながら。

 ああ、なんだかもう本当にむきむきはむきむきらしいな、なんて思いながら。

 でも鼻水と涙でぐちゃぐちゃになっちゃうのだけはちょっとね、なんて思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 めぐみんの病室の扉が開く。

 ベッドで上半身だけを起こし、月を見上げていためぐみんが、ゆっくりと顔をそちらに向けた。

 窓から差し込む月光が、部屋に入って来たむきむきを照らし出す。

 

「勝ちましたか?」

 

「うん、勝ったよ」

 

 むきむきが覚えていない二人が初めて出会った夜、月はむきむきの背後にあった。

 だが、今はめぐみんの背後にある。

 めぐみんは窓から差し込む月光を背にして、むきむきの表情をじっと見て、肩を竦めてやれやれと呆れたような微笑みを浮かべた。

 

「ありがとうございます。ま、私は勝つと思ってましたけどね」

 

 あの幽霊も、最後はむきむきの勝利を信じて逝った。

 こうして今日の戦いを見返してみれば、彼はめぐみんの信頼で戦いに挑むことができ、幽霊の信頼で戦いに勝利できたと言えるだろう。

 

「勝利を信じてくれる人が居ないと、僕は誰にも勝てないのかもなあ」

 

「なんですかそれ? ザコには負けないでしょうザコには」

 

「いや、なんとなく、そう思っただけ」

 

 二人揃って笑い合う。

 

 信頼が力に変わることを知った夜だった。

 右手に勇気が宿った夜だった。

 永遠の別れの痛みを知った夜だった。

 溜め込んでいた感情の全てを吐き出した夜だった。

 何かが終わって、何かが始まった夜だった。

 

 月の明るい、夜だった。

 

 

 




 次回から、第二章開始です

 ベルディアの天敵みたいな規格外魔法を数種撃ち、ハンスの最大の強みである毒が効かない上に触れるだけで毒を消し、即死外傷がないシルビアの与えたダメージの大半は回復余裕な上に悪魔に効く魔法も持ち、ウィズが色んな意味で勝てない女神で、おそらく世界で唯一バニルを押さえ込める人物で、ウォルバクの爆裂魔法の破壊速度より速い建築速度を持ち、デストロイヤーの結界も吹き飛ばし、幹部全員倒さなくても魔王城の結界を吹き飛ばせる、魔王の力さえ抑え込んで強制的に弱体化させられるアクア様。
 あらゆる状態異常が通じずほぼ全ての魔法・スキル・魔法効果を吹き飛ばし魔王軍の主要種族ほとんどに特攻が付く回復蘇生解毒なんでもござれなアクア様。
 あの人かカズマさんが居ないと基本的にこの世界はクソゲーと化します、はい

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