どうやらオレは巻き込まれ体質らしい 作:どらい
「フェイト、よく頑張りましたね」
「うん!」
「そんな貴女にプレゼントです。受け取ってください」
私はアリシアにそっくりな顔で笑うフェイトに、自分で作ったデバイスを渡す。
「ありがとう!・・・これは?」
「これはインテリジェントデバイス、名前はバルディッシュ」
「バル・・・ディッシュ?」
≪Yes,sir≫
バルディッシュ・・・闇を貫く雷神の槍。夜を切り裂く閃光の戦斧。
「そうですよ、じゃあ早速ですがマスター認証を終わらせてしまいましょうか」
「うん!」
マスター認証を終え、フェイトは自分のベッドで寝てしまった。私の目の前で、すやすやと安らかに眠っている顔を見ると自然と笑みが浮かんでくる。
「契約・・・完了ですね」
フェイトに魔法を教え、デバイスを渡した今、私のやるべきことは終わった。後は消えゆくだけ。
主人との契約を果たせたことは喜ぶべきことのはずなのに、何故か涙があふれてくる。
・・・やはり私は。
「
フェイトが自分の娘だったらどんなに良かっただろう。そしたらこの手で抱きしめてうんと可愛がれたのに。
しかしそれは叶わぬ願いだ。私の体も消えかかっている。
「フェイト・・・」
自分の弟子であり、娘だと思っていた女の子を見る。
「これから大変なことがたくさん起こると思いますが・・・貴女なら乗り越えられるはずです、頑張ってください」
次に彼女の相棒となったバルディッシュを見る。
「バルディッシュ・・・フェイトを任せましたよ」
≪Yes. I promise you≫
彼は確かに答えてくれた。これなら任せても大丈夫だろう。
もう体もあと少しで消える。やり残したことはもうない。
「いえ・・・」
たった1つだけ叶えたい願いがあった。
「私は・・・」
私は・・・
「貴女たちと・・・もっと過ごしたかった」
ひねり出すように自分の願いを口にした後、私の意識は途絶えた。
『・・・私は・・・また家族みんなで幸せに暮らせるようになりたいんだ』
私の意識が覚醒する。真っ暗な空間で聞こえた声。この声は・・・フェイトだろうか。
(フェイト・・・私も貴女と・・・)
そう思った瞬間目の前に温かい光が現れる。決して眩しいわけでもなく、只々こちらを包み込むような優しい光。
(これは・・・?)
その光に誘われるように、私の意識は飲まれていく・・・。
(私なんで生きて・・・?)
私が目を覚ましたらそこは知らない場所だった。目の前に広がる、舗装された道路や民家。
とりあえず立ち上がって情報収集をしようと思ったが、体が重くて動かない。しかも体が猫の状態になっているようだった。
(動かなくては・・・)
体を引きずるようにして移動する。しかし行く当ては何処にもなく、体も動きづらい。
(あそこで・・・少しやすみましょう)
体を引きずりながら移動しているうちに見えた民家で休むことにする。体が重いうえに、体力も消耗してしまってとにかく眠い。瞼が自然と下がってくる。
眠気に必死に抗おうとしているうちに、私に影がかかる。目の前に男の子が立っているのがわかった。
「・・・にゃ~」
声を出して敵意がないことを伝えたいが、こんな鳴き声しか出なかった。
「・・・・・」
「・・・にゃ~」
「・・・・・」
しばらく泣き続けていると彼はこちらにやってきた。自分よりも大きな体に震えてると、彼は優しい手つきで私を撫で始めた。
その手つきが心地よくて思わず声が出てしまう。
そして・・・
「君は家で飼うことにしよう」
私は救世主と出会った。
男の子に体を持ち上げられたと思いきや、家の中に連れていかれる。すぐ下ろしてくれるのではなく、ある場所に向かっているようだ。
(え?ここって・・・)
彼にやっと下ろされたと思ったら目の前にはシャワーやバスタブが見えた。ここって浴室・・・!?
嫌な予感がして逃げようとするが体が重くて動かない。
彼はレバーのようなものを動かしながら口を開く。
「まずはお湯攻めか」
お湯攻め!?彼は、水の出たシャワーをこちらに近づけてくる。や、やめ・・・
(あれ・・・?)
お湯攻めと聞いていたのに、その温度はむしろ丁度いい。お湯の温度が気持ちよくて変な声が出てしまう。
「ふむ、心地よさそうに鳴いておるな。ここか?ここがいいのか?」
「にゃ~」
脱力感が凄く、彼に身を任せるように倒れる。
「この欲しがりさんめ」
・・・何故かお湯攻めというより言葉攻めされているような気分になった。彼はどんなキャラクターを演じているのか。
一通り流し終えた後、彼はなにか液体のようなものを掌に出し、こちらに近づいてくる。この匂い・・・ボディーソープ!?
私はこの後されることが予想でき、必死に逃げようとする。
「あ、動いちゃダメだって」
その抵抗はわずか1秒で終わった。扉が閉まっている時点で、元から勝ち目は無かったんだ。
・・・もう好きにしてください。
もう・・・お嫁に行けないかもしれません。
先ほどあったことは全て夢だと思いながらミルクを飲み続けた。少し温めてあるところが憎いですね。気遣いはばっちりということですか。
「いいか、タマ(仮称)?この子は新しい家族だ。喧嘩するんじゃないぞ?」
「にゃ!」
男の子にはもうすでに飼っている猫がいて、名前はタマさんと言うようだ。タマさんはこんな私にも良くしてくれて、私たちはすぐに仲良くなった。先ほど敬礼していたような気がするけど・・・気にしてはいけないのかな。
「うおおおおおお!!」
「にゃー!!」
「にゃー!!」
食事を終えぐっすりと眠り、すっかり体調がよくなった私は、タマさんと仲良くなった後、彼を一緒に追いかけることにした。
タマさんが言うには、彼の頭の上は乗り心地がいいらしい。先ほどの仕返しもかねて追いかけ続けた。こんなに笑ったのはいつ以来だろうか。
数日後、私は男の子の頭の上を占領しくつろいでいた。タマさんの言う通り確かに乗り心地がいいのだ。
彼はタマさんで慣れているのかそのままゲームというものをしている。爆弾を置いて相手を倒すゲームらしい。
≪ピンポーン≫
そのときインターホンが鳴った。彼は私を頭の上に載せたまま玄関に移動する。
「どちら様でしょうか~?」
そして彼が玄関を開いた先には・・・
「お、フェイトじゃん。久しぶり。アリシアさんもプレシアさんもこんにちは」
「こんにちは、カイ」
「こんにちは~、呼び捨てでいいって」
「ええ、こんにちは」
フェイトたちがいた。私は驚きのあまり目を見開き、固まってしまう。
≪フェ・・・フェイトなんですか?≫
≪・・・え!?≫
私は彼女との再会を果たすことができた。
山猫さん(結局名前が決まらなかった)を頭の上に載せながら、ゲームをする。もう猫たちが頭の上に載ってくるのを阻止するのは諦めた。だって飛び掛かってくるんだもの、しょうがないじゃないか。
≪ピンポーン≫
インターホンが鳴るのが聞こえたので、やっていたゲームをやめ、玄関に向かう。宅配便だろうか。
「どちら様でしょうか~?」
玄関のドアを開くとそこにはテスタロッサ家の人たちがいた。前見た時よりも顔の表情が柔らかくなってる。なにかいいことでもあったんだろうか。
「お、フェイトじゃん。久しぶり。アリシアさんもプレシアさんもこんにちは」
「こんにちは、カイ」
「こんにちは~、呼び捨てでいいって」
「ええ、こんにちは」
オレが声をかけると、返事が返ってくる。いや、フェイトの姉さんを呼び捨てで呼ぶのはどうかと思ったが、本人がそう呼んで欲しいならそう呼ぼう。・・・呼べるのか?
家に来た要件を聞こうとしてフェイトの顔を見ると、なにか驚いているような顔をしていた。
・・・頭に猫を載せているのは一般的ではなかったか。オレは頭の上に載せていた山猫さんを下ろそうとして・・・
「リニス!?・・・リニスなの!?」
フェイトの驚いた声を聞いて手を止めるのだった。ん?どういうこと?
フェイトたちは遠くに出かけるため、しばらく会えなくなるらしい。カンリキョクがどうとか言ってたけど、わからなんだ。もっとオレにもわかりやすい説明を・・・。
そして驚くべきことにオレの拾った山猫さんは、リニスという名前で、フェイトの家の猫だったらしい。いや~良かった良かった、飼い主が見つかって。すずかもこんな気持ちだったのだろうか。
「カイには本当に助けてもらってばかりだね、本当にありがとう!」
「・・・ただ世話しただけだよ?」
フェイトに手を握られ、ぶんぶん振られながらお礼を言われた。いや、本当にそこまでのことをしている訳ではないんですが。フェイトの中のオレってどうなってるの?
リニスに、帰り際ににゃ~と鳴かれた。挨拶のつもりだろうか。よせやい、そんな風に鳴かれるとなんか寂しくなるだろ。
オレの頭の方をじっと見て鳴いていたのは気のせいだろう。オレの頭の上が名残惜しいという訳じゃなくて、オレと離れるのが寂しいんだよね?そうだと言ってよ、バーニィ。
少しシリアス気味にしたけど、上手く書けたのだろうか。
驚くべき速さで家族と再会するスタイル()。
フェイトさんの中で、カイの評価が急上昇中。カイには自覚がないッ。
羽島家で過ごした数日間で、リニスはカイの頭上の魅力に陥落した模様。