どうやらオレは巻き込まれ体質らしい   作:どらい

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関西弁難しい・・・。


運命の出会い

死亡フラグが立ってしまった温泉旅行は終わり、迎えた平日の放課後。オレは今図書館に向かっていた。今日学校で出された宿題を終わらせるためである。その宿題の内容は、海鳴市について調べるというものだ。

そんなもんわざわざ図書館で調べずにパソコンで調べれば良いのでは・・・と思うだろう?オレも最初は家にあるパソコンで調べて終わりにしようとしていたんだけど、急に家のパソコンが壊れてしまったのだ。オレに対するストライキである。滅多に働かないくせに(家族はパソコンをあまり使わない)まだ休息を求めているのだろうか。期限は3日後だけど、今日は特にすることもないので図書館で早めに終わらせてしまおうという訳だ。面倒くさいことは早めに終わらせるべし。

 

「あ~涼しい」

 

だんだん熱くなってきた外とは違い、図書館の中はオレにとって適度な温度になっていた。本を借りて早めに帰ろう。

 

「ん?」

 

この図書館はとても広く、様々な種類の本が置かれている。案内を見ながらオレが海鳴市についての本を探していると、車いすに乗った少女が必死に手を伸ばしているのが見えた。

 

「あと、もう少しや。大丈夫、私ならいける。私ならいける・・・はず」

 

・・・何かぶつぶつ言ってて心配になった。どうやら本を取ろうとしているらしい。よしここは、颯爽と現れて少女を助け、スピードワゴンさんばりのクールな退場を披露することにしよう。一度やってみたかったんだ、「名乗るほどの者じゃありません(キリッ」って言って去っていくの。

そうと決まればいざ実行である。オレはその子が取ろうとしているであろう本を目指して手を伸ばし・・・誰かの手に重なった。

 

「「あっ」」

 

そして2人の声が重なる。

こ、これはッ!!生きているうちに体験したい少女漫画のシチュエーションランキング5位(当社調べ)の『あっ、手が触れあっちゃった』じゃないかッ!!ついにオレにも運命の出会いが来たというのか。・・・何か手がゴツゴツしてるけど。・・・これが少女の手の感覚だというのかッ!!・・・節々がはっきりわかって、オレの手よりも大きいけど!!何か話に聞いていた柔らかさとかはないけど!!

どう考えても少女の手ではないという大きな問題を頭の片隅に追いやって、オレは運命の出会いをした相手の方へと首を動かす。何かスーツが目に映ったけど気にしない。これがオレの第一歩なんだから!

 

「・・・すまない。この本は君が読んでくれ。私は別の本を読もう」

 

「・・・・・」

 

知 っ て た 。

最初からわかってたんだ。うん、わかってた。こんなはずじゃなかった。こんなはずじゃなかったんだッ!!今頃は、『これが・・・私たちの出会いだった(トゥンク)』ってなるはずだったんだよ!!世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだよ!(3回目)

 

「では、私はこれで」

 

「・・・・・」

 

オレと運命の出会い(笑)を果たしたスーツを着たおじさんは、オレに本を渡した後そう言って去っていった。オレはおじさんに渡された本を、固まったままの少女に手渡す。

 

「・・・・・コレ」

 

「あ・・・うん、おおきに」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

オレは無言のまま走り去った。「図書館の中は走らないように!」という司書さんの声をバックにオレは図書館から逃走した。目からこぼれ落ちていく汗が夕日に照らされて光っていた。

そして家について気が付いた。宿題をやるための本を借りていないことに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は家で今日あったことを思い出していた。

足が悪くなってから学校に行けなくなり、家ですることが勉強や読書くらいしかなくなってしまった。だから、私は図書館に来て本を借りるのが日課みたいなものになっていた。

私は、今日も家で読むための本を探すために図書館に行っていた。図書館で本を探して数分後に、私が読みたいと思う本を見つけることはできた。だけど、その本は私の手がギリギリ届くか届かないぐらいの場所にあった。私は試しに手を伸ばしてみたけど、全然本に触れることができなかった。

 

『あと、もう少しや。大丈夫、私ならいける。私ならいける・・・はず』

 

暗示みたいなものを自分にかけて手を伸ばしてみても届かない。諦めて司書さんを呼ぼうとした時に彼は現れた。

 

「あれはおもろかったなあ」

 

いつの間にか目の前でおじさんと少女漫画みたいな状況を引き起こしていて、私は思わず固まってしまった。彼も首を横に動かした後、固まっていた。そして彼は真顔で、私に本を差し出して去ってしまった。

 

「ちゃんとお礼言えたんやろか・・・」

 

私自身あの時何を話したか覚えていない。私と彼が話したのは一瞬だったと思う。それは、互いにすぐ忘れてしまうような会話だったのだろう。だけど私の中でとても印象深く残っているあの状況は忘れることはないだろう。

 

「ぷっ・・・あははははは!!・・・思い出したら笑えてきてしもた。まさかあんなことになるなんて思わんかったわ~」

 

もし彼にまた会う機会があったのなら、ちゃんとお礼を言って話をしてみたいと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やってしまった・・・」

 

「にゃ~ん?」

 

「ああ、タマ(仮称)。オレを慰めてくれるのか?」

 

「にゃ~」

 

オレは自宅に着いた後、すぐに自分の部屋に駆け込んで悶えていた。格好つけようとして失敗するわ、本は借り忘れるわで今日は良いことがなかった。しかし、タマ(仮称)はそんなオレの所まで来て慰めてくれようとしているらしい。

 

「タ・・・タマ(仮称)!!」

 

オレは感動してタマ(仮称)を抱きかかえようとした。

 

「にゃ!!」

 

しかしタマ(仮称)はオレの腕から抜け出して部屋の隅に逃げてしまった。一体どうしたのだろうか。

数秒後にタマ(仮称)はオレのもとへと姿を現した。口に金属ボウルを咥えて。

 

「にゃ!」

 

前足で口で咥えてきた金属ボウルを指す。

 

「あ、餌ね」

 

どうやらこの子はオレを慰めてくれるつもりではなかったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近なのはちゃんとアリサちゃんの雰囲気がギスギスしている気がする。

温泉旅行に行った時からなのはちゃんは何か悩んでいるようだった。アリサちゃんが直接聞いても、何でもないという返事が返ってくるだけだった。このままだとなのはちゃんとアリサちゃんの仲がこじれてしまうと思った私は、カイ君に頼んでそれとなく聞いてみることにした。

 

「えっと、なのはちゃん?」

 

「すずかちゃん、どうしたの?」

 

今は昼休み。アリサちゃんには少し外してもらって、私とカイ君はなのはちゃんに質問することにした。まずはカイ君が遠くから攻めていく。

 

「今日な、オレ近所のおじさんに朝の挨拶をしたんだよ」

 

「え?う、うん」

 

遠い!!遠すぎるよカイ君!?なのはちゃんも戸惑ってるよ!!

 

「それでな、そのおじさんがな何か困ってることはないかって聞いてきたんだ」

 

「そ、そうなんだ」

 

今度は直球過ぎるよ!!何でいきなり核心を突くような話になってるの!?アリサちゃんとあまり変わらないよ!?しかも何で脈絡もなく悩み相談してるの?

 

「そしてオレの悩みを聞いてもらったらスッキリしたんだ」

 

「うん、それでどうなったの?」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・終わりだ」

 

「え?」

 

終わっちゃったよ!!カイ君それは最早質問すらしてないよ!!ただ知らないおじさんに悩みを聞いてもらった話になっちゃってるよ!!

 

「そこでオレは思ったんだ。1人で抱え込むだけじゃなく誰かに話してみることが大切だと・・・」

 

「カイ君・・・」

 

「やっぱな、1人で抱え込んだままだと辛いんだ。しかも視野が狭くなって周りのことが見えなくなってしまう」

 

「・・・・・」

 

あれ、何かいい感じになってる。カイ君、まさかこの雰囲気を作るためにあの話をしたのかな?そう考えると、カイ君凄いよ!

 

「例えその内容が他の人でも解決できないことだとしても、話すだけで何かが変わることだってあるんだ」

 

「・・・そうなの?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「そうだよ、なのはちゃん」

 

「カイ君、すずかちゃん・・・」

 

私もなのはちゃんの目をしっかり見て言葉を紡ぐ。これでなのはちゃんも悩みを言いやすくなったはず・・・。『カイ君、頼んだよ』と、私はそれをアイコンタクトで伝える。するとカイ君から『任せろ』という心強い返事が返ってきた。

 

「だから悩みができた時は1人で抱え込まずに、誰か信頼できる人に悩みを相談すれば良いんだ・・・」

 

「・・・・・」

 

カイ君!!

私は思わず立ち上がって拍手しそうになった。最初は少し心配だったけど、今は話すのに完璧な雰囲気になっている。

そしてなのはちゃんは口を開いて・・・

 

「カイ君・・・良かったね」

 

にっこり笑いながらそう述べた。

 

「違う、そうじゃない」

 

「え?」

 

ちょうどそこで昼休み終了を告げるチャイムの音が鳴ってしまった。




読んでいただきありがとうございます。

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