ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第二十三話 奮戦

ゴォンッ!!!という轟音と共に、巨大な花火と錯覚させるような爆発が彩南高校の上空に発生する。

 

「アハ、アハハハハハ!」

 

その爆発の横を飛びながら、ハレンチな格好をした少女――ダークネスに支配されたヤミが笑う。その背中には堕天使を思わせる黒い羽が生えており、自由自在に宙を舞っていた。

そして彼女はまるで銃に取り付けられたポインターで狙いを定めるように、光の消えた目を宿す顔を機械的に動かして爆発地点周辺を確認。やがてにたぁと笑みを浮かべた。

 

「見つけましたよ、結城リト」

 

ばさりと翼が羽ばたいて急上昇。

 

「どわー!? 来たー!!??」

 

「うっさい黙ってろ! 風馬、頼む!」

 

その先ではリトが翼のついた白馬に乗って手綱を握るナナ――プールから脱出した時に着替えたのか制服姿だ――の後ろに乗るようにして彼女にしがみつきながら悲鳴を上げていた。

リトの悲鳴にナナが怒鳴り返しながら白馬――風馬に頼むと声をかけると、風馬も「あいよっ。あねさんっ」と言って――実際の言葉はナナにしか理解できず、一緒に乗っているリトにはただいなないたようにしか聞こえないのだが――一気に加速する。

その時ナナの手元にヘッドセットの要領で固定されたデダイヤルから通信が入った。

 

[ナナ! あまり学校の敷地から出ないように注意して! リトさんを殺されるのは絶対に避けなければいけないけど、あまり離れすぎるとエンザさんが追いつけない!]

 

「分かってる! 風馬! 悪いけどあまり高く飛び過ぎないでくれ! あとあの建物! あれからあまり離れ過ぎないで!」

 

モモからの通信を聞いたナナも風馬にそう追加で指示を出し、突然の無茶振りに対しても風馬は「まかせろっ」といなないて従ってスピードアップしダークネスから逃げ続ける。その時再びモモから通信が入り、ナナはインカムに片手を当てて指示を聞き、了解と頷いた。

 

「追いつきましたよ」

 

その時、ダークネスが風馬の背後に出現。右腕自体が変身(トランス)した剣を振りかぶる。

 

「風馬! 急降下!!」

 

ナナから指示が飛ぶと同時に風馬は羽根を折り畳んで急降下。見事なタイミングでの回避にダークネスの剣が空振り、ダークネスは苛立たったように目を細めるとこちらも羽根を畳んで急降下し後を追う。

 

「風馬、ありがとっ!」

 

「!?」

 

直後ナナは風馬を電脳サファリに戻し、スピードが乗ったまま空中へと投げ出されながら身体を反転。「しょ、しょうがないんだからな!」とか言いながらリトを抱きしめる。それを見たダークネスの額に怒りマークが浮かんだ。

 

「キャノンフラワーさん、一斉掃射!!!」

 

「っ!」

 

しかしそこにキャノンフラワー――種子を遠くに飛ばすことで生息地を広げるという習性を持ち、それに応じて種子自体も硬い外皮を持つよう進化した結果、その名の通り砲弾のような種を飛ばす花だ――がその硬い種を一斉にダークネス目掛けて放つ。

ただでさえ地面を抉ることさえ可能な威力を持つ種子であり、それは急降下状態でスピードが乗ったダークネスからすればより強力な一撃となる。どうにか身体を逸らして種子を回避するが、ぐるぐるときりもみ回転するような状態になってしまい、あまりの高速回転にダークネス自身一瞬周囲の状況が分からなくなってしまう。

 

「!」

 

しかし彼女は重力で辛うじて判別できる下の方、地面に水晶の花が開くのを見た。

 

――マズイ!

 

自分の中の本能が警鐘を鳴らし、ダークネスは無理矢理に身体を捻ってその水晶の花――いや、自分目掛けて口を開いた氷の塊から逃れることに成功する。

 

「チッ」

 

氷による捕獲に失敗したと判断した瞬間、その氷を生み出した存在――エンザは素早く銃を抜き構える。ダンダンダンと連続した銃声が響くが、ダークネスは地面に着地しながらグルグルとローリングして転がり弾丸を回避。その合間に辺りをきょろきょろと見回して標的(リト)を探す。

 

「のわーっ!?」

 

リトはナナに抱きしめられたまま、何故か空を飛んでいた。というよりはまるでトランポリンにでも乗っているように跳ねていたという方が正しいだろう。

実際、彼のすぐ下にはまるでクッションのように柔らかく揺れる植物が存在していた。

 

「「うぎゃ!」」

 

そしてリトとナナはそのクッションのような植物から離れて落下、小さな悲鳴を上げる。

 

「「……」」

 

なおリトがどういう理屈かナナを押し倒すような格好でしかも制服の下に手が入っていた結果、ナナのおへそが見えて辛うじて下乳が露出しないギリギリまで制服をまくり上げており、顔を真っ赤にしたナナにぶん殴られていたのは別のお話。

 

「——っ!」

 

しかしそれを見てナナに対する殺意を再び覚えた瞬間、ダークネスは弾かれたようにその場を離れる。それと彼女がさっきまで立っていた場所に何者かが突撃し、そこが大爆発を起こすのはほとんど同時だった。

そしてその煙の中から空中目掛けて何かが飛び出す。かと思うとその何か――巨大な球体状の氷が同じく氷で出来た鎖につながれたハンマーだ――がダークネス目掛けて振り下ろされた。

 

「この程度――」

 

瞬時に右腕を長い片刃の剣に変身させて振り下ろされた球体状の氷を木っ端微塵に斬り刻み、氷の鎖の先を見る。攻撃を仕掛けてきた相手——エンザは間違いなくそこにいる。その核心の元相手が次の行動に移る前にダークネスは攻撃を仕掛けようと試みた。

 

「——っ!?」

 

直後、後ろから感じた僅かな殺気にダークネスは髪をくるくると広げるように巻いて盾へと変身させる。直後その盾に何かが当たる手ごたえを感じた。

 

「はぁっ!!!」

 

男の声が響く。と同時にその手応えの先が爆発し、その衝撃でダークネスが前の方へと吹き飛ばされる。

 

「ギーちゃん! いっけー!!」

 

「——なっ!?」

 

そして先ほどから消えていない煙の中から巨大なイノシシ――ギガ・イノシシのギーちゃんが背中に乗るナナの指示の元突進してきた。

 

「けほっけほっ……もうエンザさんったら……こんな無茶何度も出来ませんよ……」

 

ちなみに突進の勢いで晴れた煙の中では、氷の鎖の端っこを左手で掴んでいるモモが煙にむせたのかけほけほと可愛らしい咳を漏らしていた。

しかしそんな事を気にする余裕はダークネスにはなく、吹き飛ばされてたたらを踏んだダークネスはしかし盾に変身させなかった分の髪を巨大な手へと変身させ、ギーちゃんを正面から押さえようとする。

 

「チッ」

 

しかしギガ・イノシシの突進力の前に押さえるのは不可能と一瞬で判断、その手でギガ・イノシシの牙を掴むとそれをとっかかりに大ジャンプ。その勢いで再び堕天使のような黒い羽を羽ばたかせ飛翔した。

 

「なっ!?」

 

乗っていたナナが驚きに目を見開き、その後ろに乗るリトも同じく目を見開いているのを見るとダークネスはニヤリと笑う。そして彼女の髪が三つ編みのように撒かれて一本のロープへと変身、リトを捕らえるつもりか彼目掛けて伸ばしていった。

 

「させるかっ!!」

「キャノンフラワーさん、もう一度お願いします!」

 

しかしそれをこちらもギーちゃんを踏み台にして空中に躍り出たエンザが刀で弾き、赤い刀から放たれた炎が髪を焼く。紫色に変色した両瞳がダークネスを睨み、彼が左手を前に尽き出すと氷の槍がダークネス目掛けて放たれた。同時にモモもさっき種子を放ったのとは別固体のキャノンフラワーを呼び出し、種子弾丸で援護を行う。

 

「チッ」

 

いきなりの攻撃にリトを捕らえる余裕がなくなったか、ダークネスは髪を変身させた無数の手で氷の槍と種子弾丸を弾き、その合間を縫って斬りかかってきたエンザに右腕を変身させた剣で応戦。エンザの炎と氷の剣による二刀流に対しダークネスも両腕を剣に変身させた二刀流での剣劇が開始された。

 

「はぁっ!!」

 

「遅いですね――っ!」

 

振り下ろされた右手の刀はダークネスが左腕を変身させた刃に阻まれ、熱波が相手を焼くことすら叶わない。そして素早く反撃に右腕を変身させた刃を突き出そうとするが、その直前で彼女は羽を羽ばたかせその場を離れる。

 

「く、惜しい!」

 

そこに投擲されたのは黒い薔薇、モモが相手の動きを止める時に使用する、即効性かつ強い麻痺性の毒を持つ惑星ゼラスの黒バラだ。

 

「うっとうしい」

 

ダークネスはモモをちらりと見て不機嫌そうに眉を顰め、くるんと空中で一回転しながら姿勢を整えると先ほど風馬がやったように羽を折り畳んで急降下、一直線にモモへと向かう。

 

「モモ! 逃げろ!!」

 

「もう遅い」

 

空中で動けないエンザが叫ぶが、ダークネスはニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべて剣と化した両腕をクロスさせる。あとはこれを振るうだけでモモの首は刈り取られる事だろう。

 

「かかり――」

「!?」

 

しかし突然の命の危機を前にモモは不敵な笑みを浮かべていた。

 

「——ましたね!」

 

そしてその言葉と同時、地面から何かが撃ち出される。ダークネスへと絡みついたのは何故かリトの形をした人型の根をした植物だった。

 

「っ!?」

 

突然のそれ、しかもリト型の者に一瞬目を奪われたダークネスはその植物の根が身体に絡みつくのを回避出来なかった。しかしそれだけではない。

 

「頑張って品種改良を施し、リトさんの形にした植物。さらにその葉にはもう一つ種を仕込んでいます!」

 

突然空中へ撃ち出され、ダークネスにぶつかった衝撃で葉に前もって仕込まれていた種が発芽する。それは急速に根と茎が伸びて近くのものに絡みつく習性を持つダヅールの種。二種類の植物に絡みつかれたダークネスの動きが完全に止まり、羽ばたくことも出来ず地面に墜落する。

 

「こんなもので私を捕らえられるとでも!」

 

しかしたかが植物、ダークネスの刃の前では捕まえるなんて不可能。

 

「一瞬動きが止まれば充分です!」

「転装!!」

 

モモの叫びとエンザの掛け声が重なる。太陽を背に、竜を模したフルフェイスのヘルメットに全身を覆う鎧姿になったエンザが両手で剣を握りしめ上段に構えた。その水晶のような青い刃に冷気が宿る。

 

「離れろ、モモ!」

 

背中のブースターを吹かして一気に急降下、剣を構えながらのエンザの叫びにモモも巻き込まれないように素早くその場を離れる。

 

「凍りつけ! ダークネス!!」

「ほんの少しの辛抱ですヤミさん! すぐにダークネスを解除する方法を見つけて助けますからね!」

 

冷気を放出し剣を振るう軌跡の先を凍らせる絶氷の剣を解放するエンザの叫びとモモの言葉が重なる。

 

「――クス」

 

その言葉を聞いたダークネスの口角が僅かに持ち上がった。

 

「まあ、ウォーミングアップはこのくらいでいっか」

 

そう呟いたと同時、彼女の髪の毛が高速で円を結ぶ。さらにその内部に不可思議なエネルギー場が展開された。

 

 

 

 

 

「……え?」

 

エンザの呆けた声が校庭に漏れる。自分はたしかにダークネスを頭上から強襲していたはず。それなのに――

 

「なんで、()()()()()()()()()?……」

 

空中にいるダークネスを頭上から強襲している以上自分の空中にいるのは当然。しかし彼の両足は地面につき、振り下ろされた剣は前方になんの意味もない氷の塊を作り出しているだけだった。

 

「炎佐ー!!! 逃げろー!!!」

 

「っ!?」

 

リトの叫びと濃密な殺気が重なり、エンザは振り返りざま殺気の方目掛けて巨大な氷柱を作り出す。

続けて聞こえてくるのはガリガリガリという氷を削るような音。いや、ダークネスの両腕を変身させて作り出した巨大な刃がエンザが盾に作った氷柱を高速で斬り裂く音だった。

 

「ぐっ!」

 

即座にまだ斬られていない箇所の氷の強度を上げ、さらに斬られた氷を再凍結させて剣を止めようと試みる。しかしそれよりも速く勢いは止まることなく刃は突き進む。

 

(——止められない!)

 

エンザがそう直感した直後、ダークネスの作った剣が氷柱を突破。その勢いのままエンザの胸を横薙ぎに斬りつけ、その刃は鎧さえも斬り裂いたか破片が飛び散り、彼の胸から鮮血が噴き出るのだった。

 

「な、なんだよ!? 何が起こってんだよ!?」

 

「ダークネス! あんなに高速でワームホールを作り出せるなんて……でも、それならもっと速く私達を倒せたはず……」

 

空中にいたはずのエンザが突然地上に移動し、ダークネスに斬り倒された。そんな目の前の光景を理解できない様子で叫ぶナナに対し冷静に目の前の状況を把握しようと努めるモモ。

しかし高速戦に持ち込めばワームホールを展開できないという前提で今回の戦闘を行っていたが、あの不意打ちに対応できるのならキャノンフラワーの弾幕を防ぐなりそもそもワームホールを作って距離関係なくリトを奪うなんて難なく出来たはず、とモモの頭に疑問が現れる。

 

「この身体に慣れる準備運動にはなったかなー」

 

しかし、その答えはすぐ見つかる。というかダークネスがあっさりとそう独り言の様子で答えたからだ。

すなわちダークネスに覚醒した事でレベルアップした運動能力及び変身能力とそれを扱うための感覚機能の微調整、つまりエンザ達の必死の奮闘は彼女にとっては単なる準備運動でしかなかった。というわけだ。

 

「私達、舐められてたっていうの!? ナナ! リトさんを連れて逃げて!! こうなったら電脳サファリでもどこでもいい!!」

 

「お、おうっ!」

 

エンザがやられた以上自分達でダークネスをどうにかする手立てはない。と判断したモモは少なくともリトの命だけでも守るためにナナにリトを電脳サファリに放り込んで守るという荒業を指示、ナナも他に手段はないのか頷いてデダイヤルを取り出した。

 

「——させませんよ、プリンセス・ナナ」

 

「うわぁっ!?」

 

しかし彼女が電脳サファリへの道を開くより先にリトの後ろの虚空に不思議な穴が開き、そこから無数の髪の毛が伸びるとリトに絡みついて引きずり込む。

 

「離せーっ!!」

 

さっきまでの奮闘が嘘のように、リトはあっさりとダークネスに囚われてしまった。

 

「リトさんっ!!!」

「リトッ!!!」

 

モモとナナが叫び、ダークネス目掛けて走る。しかしそれよりもダークネスが右手を変身させたカギ爪——その内人差し指だけがまるで鎌の刃のような形の曲刀になっている――でリトを斬る方が間違いなく速い。

 

「さあ、結城リト。あなたのアツイ血……浴びさせてください」

 

奮戦空しく。ダークネスの恍惚の笑みと共に、その死神の鎌が振り下ろされようとしていた。




全くネタが思いつかずぐだぐだしていました。楽しみにしていた皆様申し訳ありません。

今回はエンザ&ナナ&モモVSダークネスヤミ。完全にバトル編です。
そして今回エンザは完全に噛ませ犬です。しかもナナとモモの援護あり&ダークネスはワームホール無しの舐めプ……だってエンザ如きがダークネスに勝てるわけないじゃん。この子単純な戦闘力だとララ未満ですよ?(実は親衛隊時代本気出してもララに喧嘩で勝ったことがないしその辺の力関係は今も変わらない裏設定)……まあ実戦でよくある罠に嵌めるとかエンザお得意の初見殺し仕掛ければワンチャンあるかもですが、基本エンザはララより弱いです。
そしてエンザが倒れ、リトが囚われて殺されかけ。ここからどうなるのか!?……どうなるんだろうなー本当に。(遠い目)
一応この先の流れは二種類用意しています。で、この二種類の内どちらのルートにするかがまだ決まってないので今回はターニングポイントになるここで切らせてもらいました。

ちなみに序盤でナナが出していた白馬こと風馬ですが、小説版ToLOVEるダークネス「りとしす」にて登場しております。その直後モモが出した……事になっているトランポリンみたいな植物やダークネスの動きを止める一手となった地面から撃ち出された植物は完全に別漫画から持ってきてますが。(汗)

では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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