ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

53 / 67
第十八話 恋するサムライガール

昔ながらの武家屋敷。そんなイメージを発する日本家屋の庭で、黒髪ポニーテールの美少女が額に汗を流し、真剣な表情で竹刀を振るっていた。目の前に敵が存在し、それを一太刀で切り捨てる。彼女の鋭い眼差しはそれほどまでの気迫を宿していた。

 

「精が出ますわね、凜」

 

「!」

 

するとそこにそんな声が聞こえ、美少女は驚いたように声の方に顔を向ける。

 

「沙姫様、どうして……」

 

「お父様との待ち合わせまで、少し時間が空きましたの」

 

美少女――凜の問いかけに、見るからにお嬢様然とした美少女――天条院沙姫は微笑を浮かべながらそう返し、縁側に置いてある汗を拭くためらしいタオルを手ずから拾うと凜へと手渡した。

 

「も、申し訳ありません」

 

「いえ」

 

一言謝ってタオルを受け取った凜は、その陶器のように白い肌に浮かぶ玉のような汗をタオルで拭っていく。それから休憩なのか沙姫と凜は縁側へと腰かけた。凜は水分補給用のスポーツドリンクを入れたペットボトルを手にしており、使用人が沙姫にお茶を持ってこようとしていたが「すぐに帰るから結構」と沙姫自身が断っている。

 

「あなたは昔から真面目ですわよね……」

 

「九条家のものとして、当然です」

 

沙姫の言葉に凜はその名の通り凜とした様子で返し、沙姫がくすくすと笑う。

 

「ええ、その通り……それにしても最近のあなたは剣に関してより力が籠っているように見えますわ。何か心境の変化でも?」

 

「……いえ」

 

沙姫の質問に凜はそうとだけ返すと、誤魔化すようにペットボトルを口につける。

 

「氷崎炎佐ですの?」

 

「ぶふぅっ!!」

 

不意に放たれたその言葉の瞬間、凜は飲んでいたスポーツドリンクを噴き出すのであった。続けてげほっげほっと咳き込む凜を見た沙姫はあらあらと微笑ましく笑う。炎佐の名を出した瞬間凜の顔が真っ赤になったのはきっとスポーツドリンクが気管に入って苦しいからだけではないだろう。

 

「あらあらまあまあ。あなたのそんな姿を見るなんて、思いもしませんでしたわ」

 

沙姫が微笑ましく笑うのに対し、ようやく呼吸器官が平常仕様に戻った凜がうぅ、と弱々しい声を漏らす。

 

「ふふ。ここはあなたの主にして親友として、一肌脱ぐ必要がありますわね! 凜、確かあなた、明日は私のお付き以外の用事はありませんでしたわね?」

 

「は、はぁ……」

 

沙姫が突然何か言い出し、凜が目を点にしてこくりと頷く。すると彼女は携帯電話を取り出してあるアドレスへとかけた。

 

「もしもし、結城美柑ですの?」

 

相手はどうやら美柑らしい。いつの間にかアドレスを交換する程度の仲にはなっていたようだ。

 

「氷崎炎佐のアドレスを教えていただける? ええ、言い値で買いますわ」

 

「沙姫様ー!?」

 

突然彼女の口から出た驚きの要求に凜の悲鳴が響き渡る。だが混乱している彼女の口を沙姫は自分の片手で塞ぎ、混乱の最中&それでも主に手は出せない律義さを持つ凜がむぐむぐ言っている間に沙姫は美柑と交渉、炎佐のアドレスを手に入れたらしく新たなアドレスに電話をかける。

 

「あぁもしもし。氷崎炎佐の携帯ですの?……ええ、結城美柑に教えていただきました。あら、もう知っている? 流石は結城美柑ね。結城リトと違って気が利きますわ……ええ、折り入ってお願いが。あなた、明日は暇ですの? 暇ですわよね?」

 

沙姫はぐいぐい押して炎佐と交渉。トントン拍子で「明日一緒に出掛けなさい」という約束を取り付ける。しかしそこで沙姫の頬がぽっと桃色に染まり、彼女はくねくねとした仕草を見せる。

 

「あぁ、出来ればザスティン様も一緒に来ていただければ、と……」

 

しれっと沙姫の私欲が紛れ込んだのであった。

 

そして翌日の日曜日。炎佐はザスティンを連れて待ち合わせ場所の駅前へとやってきていた。ちなみに炎佐は当然だがザスティンも鎧姿はアウトであり、部屋着にしている文字入りTシャツもアウトと現代日本で通用するカジュアルな格好になっている。(ファッション担当:結城美柑)

 

「ふむ……エンザ、私達は何をすればいいんだ?」

 

「さあ?」

 

あごに手を当て考え込む様子のザスティンに炎佐もため息交じりにそう返す。ちなみに黙って立ってれば見た目麗しい青年であるザスティンは周りを歩く女性陣からちらちらとした視線を受け、職業柄周囲の気配に敏感になっていなければならない彼はしかしそういう方面に鈍感な性格もあって視線を受ける理由が分かっておらず、結果としてやや居心地の悪い様子を見せていた。

 

「「ん?」」

 

すると二人は異変に気づく。ある一方からやけに人の気配が消え、そう思うと車のエンジン音が聞こえてくる。多分車が来たから通行人はその場を離れたんだろうな、程度に炎佐は思いながらふとエンジン音の方を見る。

 

「……」

 

そして彼が固まるのと、彼らの前に高級に黒光りするリムジンが止まるのはほとんど同時だった。

 

「お待たせいたしましたわ、氷崎炎佐」

 

そのリムジンから黒服のSPっぽい男性がざざっと無駄のない動きで降り、後ろのドアを開けるとリムジンから優雅な所作で少女――天条院沙姫が降りてさっと髪を片手でかき上げながらそう言う。が、彼女は炎佐の隣に立つザスティンを見ると途端にメロメロな顔になる。

 

「ま、まあザスティン様! 本当に来ていただけるなんて……」

 

「は、はぁ……」

 

メロメロな顔でザスティンに駆け寄る沙姫にザスティンは曖昧な表情を見せる。

 

「で、天条院先輩……結局何の用事なんですか?」

 

「え? え、ええ……ん?……す、少し待ちなさい」

 

呆れたため息をつく炎佐に沙姫が説明しようとするが、そこできょろきょろと辺りを見回し、少し待つように二人に答えてからリムジンへと向かう。

 

「ちょっと凜! 何をしてるんですの!?」

 

「ま、待ってください沙姫様、まだ心の準備が……」

 

沙姫の声を潜めながらも聞こえてくる声ともう一人少女の声。二人の言い争いと共に沙姫が誰かを車から引きずり出そうとし、最終的には少女の「せ、せめて竹刀だけでも!」という懇願、沙姫の「綾! 竹刀を奪い取りなさい! そして押し出しなさい!」という命令、もう一人少女の「はい、沙姫様!」という声が続いて何者かが沙姫によってリムジンから引きずり出される。

 

「うぅ……」

 

それは九条凛だった。いや、いつもの凜とは違う。普段はボーイッシュな格好をしている彼女だが今日はフリルのあしらわれた可愛らしい服に、動きやすさを重視したズボンではなくミニスカートをはいていてしかし恥ずかしいのか下の方に引っ張って足を隠そうとしている。それにポニーテールもゴムではなく可愛いリボンによってポニーテールに結われていた。その顔は羞恥心によって真っ赤に染まっている。

 

それから挨拶もそこそこに炎佐、ザスティン、沙姫、凜は駅前から出発する。ちなみにリムジンに乗っていたSPらしきお付きの人々は帰らされ、普段なら一緒の綾も今回は一緒に帰ったようだ。

 

「す、すまない……」

 

「ああ、気にしないでください」

 

ぽつり、と謝罪の言葉を出すのは凜だ。それに隣を歩く形になっていた炎佐が苦笑する。

 

「どうせ天条院先輩が俺をダシにザスティンに会いたかっただけでしょ? 俺も今日は暇でしたし」

 

そう言って炎佐が目を向けるのはザスティンの腕を抱きしめとても上機嫌な様子を見せている沙姫とどうしたものかと困った様子を見せているザスティン。沙姫の私欲のせいで炎佐は、沙姫がザスティンに会うためのダシにされただけだと勘違いしている事に凜が心の中で頭を抱える。なお炎佐は気づいていない。

 

「あぁ、うん、まあ……そんなところだ……」

 

「やっぱり」

 

違うと言い訳する勇気も持てず、凜はため息を必死で押し殺しながら炎佐の言葉を肯定。炎佐も苦笑の表情のままそう返す。

 

「しかしまあ、九条先輩も大変ですよね」

 

「そんな事はないさ」

 

沙姫に振り回されて大変だな、と言っているのだろう炎佐に凜はすぐさまそう本音を返す。

 

「ああ、そうですか?」

 

それに対し炎佐はきょとんとした顔で凜を見る。それに凜も不思議そうな顔を見せた。

 

「いや、天条院先輩の護衛しなきゃいけないのに。そんなヒラヒラした格好で動きづらくないかなと思って。俺も昔ララ達の護衛してた時にパーティへの出席もあったんですが、場に溶け込むためにスーツ着てたんですけどああいう服は動きづらいから嫌いですよ」

 

「へ、変か?」

 

炎佐の台詞の内後半にあたる昔の愚痴を聞かず、凜は不安気な顔になる。と、炎佐は「あ、すいません」と言って笑った。

 

「そんな事ないですよ。凄く似合ってて可愛いと思います」

 

「!」

 

さらっと可愛いと褒めてくる炎佐に凜の顔が赤く染まる。

 

「凜、何をしているんですの?」

 

「あ、はい。沙姫様……炎佐、今日は遊園地に行く事になっている。すまないが一日付き合ってくれ」

 

「ええ、喜んで」

 

沙姫の呼びかけに答え、凜は炎佐にそう、まるで彼女も沙姫がザスティンに会いたがっている事の方が目的であるかのように振る舞う。それに対し炎佐もにこりと柔らかく微笑んで頷いた。

 

 

それから炎佐達は彩南町の遊園地へとやってくる。なお炎佐はまさか沙姫が貸し切りにでもしていないかと心中戦々恐々していたが流石にそこまではされておらず、賑わいを見せる遊園地に安堵の息を吐いていた。

 

「凜、おいでなさい」

 

ザスティンから離れた沙姫がこいこいと凜に手招きし、凜は首を傾げつつ歩き寄る。ちなみに炎佐はザスティンに沙姫がSPも連れてきていない事を話しており、何故そんな事をしたかはともかく沙姫は反社会的な者に狙われてもおかしくはない相手だと認識したザスティンと互いに注意しておこう。と認識を共有していた。

 

「私はここでザスティン様を連れて離れますわ。凜は氷崎炎佐と二人きりを楽しみなさい」

 

「え!? し、しかし沙姫様……」

 

「ふふ、私がなんのためにザスティン様を連れてくるよう氷崎炎佐に指示を出したと思うのです? これなら怪しいところはありませんわ」

 

「い、いやしかし沙姫様……私は沙姫様の護衛として……」

 

沙姫はそう言い、ぐっとサムズアップをする。凜が慌てておろおろ反論しようとするがその時には沙姫は炎佐とザスティンと一言二言話すとザスティンを引っ張って去っていた。それから炎佐はすたすたと凜の方に歩き寄る。

 

「えーと、まあ……ザスティンがいるなら心配ないでしょうし。九条先輩もたまにはちゃんと楽しみましょうよ」

 

「あ、ああ……」

 

苦笑しながらもザスティンがいるなら沙姫は大丈夫だと、ザスティンを全面的に信頼している様子で炎佐は話し、凜もたまにはゆっくりしたらどうかと言う彼に凜も頬をひくひくさせながらなんとか頷いた。

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

それから楽しさ溢れる遊園地の中を、明らかなほどに挙動不審というかそわそわとした様子で歩く長身ポニーテール女子――九条凛。その隣を歩く炎佐も苦笑を漏らして凜を見た。

 

「九条先輩、天条院先輩が心配なのは分かりますけど。ザスティンが一緒だから大丈夫ですよ。あいつだって伊達に王族親衛隊隊長名乗ってるんじゃないですから」

 

「あー、いや、その……」

 

炎佐の言葉に対し、凜はそう声をどもらせつつポニーテールをくるくるといじる。彼女としてはいきなり炎佐と二人きりにされてどうすればいいのか分からないのだが、炎佐の方は沙姫を心配しているだけと勘違いしていた。

 

「九条先輩が天条院先輩を本当に大事に思っているのは俺はよく知ってます。だけどこういう時ぐらい羽を伸ばさないと持ちませんよ?」

 

「あ、ああ……そうだな」

 

炎佐は凜を安心させようとそう心構えを説き、凜も照れくさそうに微笑んだ後、自分が照れくさそうにしていたのに照れたのか慌てたように一つの方を指差した。

 

「そ、それじゃあ、あっちから行ってみようか」

 

その先に何があるかも確認していない。が、もう止まらずに凜はそう口にする。

 

「……あそこ、売店ですよ? 土産物買うには早くないですか?」

 

指差した先にある店――売店というかショッピングコーナー的な店舗を見ながら炎佐は首を傾げる。が、まあ土産物の目星を先に付けておくのもいいかもなと勝手に納得すると彼は凜を連れてその店へと入っていくのであった。

炎佐達が入った売店に売っているのはやはりというか遊園地のマスコットキャラクターをモデルにしたストラップやクッションに、マスコットキャラクターや遊園地内の建物をプリントしたようなクッキーといったお約束のものだ。

 

「リト達にクッキーでも買って帰ろうかな……九条先輩も藤崎先輩辺りにお土産買った方がいいんじゃないですか?」

 

「あ、ああ。そうだな……うん、検討しておく」

 

炎佐はリト達にお土産を買う事は決め、凜には綾にお土産を買った方がいいかと聞く。それに凜はどこか心ここにあらずな様子で頷いた。

 

(……ま、周りはカップルばっかりじゃないか?……わ、私達もそう見られているのだろうか……)

 

男女でおそろいのストラップを買おうとはしゃいだり、女の子の方が遊園地内のマスコットキャラクターの一体である猫系のマスコットキャラの耳、つまりはネコミミのカチューシャを被り、男の子の方が可愛いよと褒めていたり。そんな所謂カップルのイチャイチャ空間が凜の目に移り、自分達もその内の一つと見られているのかもと考える。恥ずかしいが同時に何か高揚感のようなものを凜は心の中で感じていた。

 

「……ぱい……せん、ぱい……九条先輩?」

 

「ひゃあうっ!?」

 

そこに突然声をかけられ、凜は悲鳴を上げて飛びすさる。普段ならば絶対ありえない様子に、声をかけていた炎佐もぽかーんとした顔を隠せていなかった。

 

「九条先輩、さっきからどうしたんですか? もしかして具合でも悪いんですか?」

 

「い、いや、なんでもない!」

 

ぽかーん後不安気な顔になる炎佐に凜は首をぶんぶんと横に振った後、さっき向いていた方を見てどう誤魔化そうかと必死で頭を回転させる。

 

「こ、これ……そう、これを見ていたんだ!」

 

そう言って咄嗟に手に取るのは髪留め。それもゴムではなく髪を挟み込む形の所謂バレッタだ。しかもそれは遊園地のマスコットキャラをプリントしたような子供っぽいものではなく、恐らくはお姫様のイメージなのだろうかシンプルながらも美麗さを重視したようなデザインになっていた。

 

「へぇ……綺麗ですね」

 

「あ、ああ。そうだな……」

 

炎佐は凜が選んだバレッタを見ながら感想を漏らし、凜もこくりと頷きながら咄嗟に取ったにしてはいいものを取ったなと自分に感心する。

 

「あ、お客様。よろしければ付けてみてはどうでしょう?」

 

「いいんですか?」

 

「ええ」

 

そこにすかさず声をかけてくる店員に試しに付けてみてはどうかと聞かれ、凜が聞き返すと店員はご遠慮なくと頷いた。

 

「は、はい……」

 

炎佐も特にどうとも思ってなさそうだし、せっかく勧められたのだからと凜はポニーテールに結っているゴムを外すと右手に握るバレッタを頭の後ろに持っていき、左手で髪を押さえながらバレッタで髪を留める。近くに鏡もないため簡単にだが、左手で髪を一掴みにしてバレッタで留める。髪を下ろして後ろで一本にまとめている形だ。

 

「ど、どうだろう?」

 

「とてもよくお似合いですよ」

 

やはり少し気になるのか、凜は僅かに頬を染め、目線を右上方向に向けながら下ろしてまとめた髪を右手でいじりながらそう尋ねた。その言葉に店員がにこっと微笑みながらそう返し、炎佐に目を向ける。

 

「彼氏さんも、そう思いますよね?」

 

「か、かれっ!?」

 

店員の言葉に狼狽するのは凜だった。

 

「ち、違う! 彼は私の学友で、その……」

 

「あ、はい。その、学校の先輩に連れてこられただけです……」

 

わたわたと否定し始める凜に、炎佐もそう自分達はそういう関係ではないと否定する。しかし炎佐は照れたようにはにかみ、頬を指でかいて凜から目を逸らしていた。

 

「いや、でも、その……似合ってると思いますよ」

 

「……」

 

その反応に凜もびっくりしたように固まり、その後店員に向き直る。

 

「すいません、これください」

 

そして即決でバレッタを買う事を決めたのであった。

 

それから売店を出て炎佐達は園内を散策する。当然凜は先ほど買ったバレッタをつけたまま、やけに上機嫌な様子を見せていた。

 

「よかったですね、九条先輩。気に入ったものが見つかって」

 

「あ、ああ……」

 

実際はバレッタそのものではなく炎佐に褒めてもらえたから気に入ったのだが、それを口にするのははばかられ、凜は曖昧に頷くのみでその話を終える。

 

「さてと、どうします? とりあえずザスティンに連絡取って合流のタイミングでも合わせときましょうか?」

 

「ああ、そうだな。昼食についても用意があるそうだが……聞いておいた方がいいだろう」

 

炎佐からの質問に、凜は沙姫が昼食も用意している様子であることを言い、炎佐も「了解」と返すと携帯電話を取り出してザスティンのアドレスにかけ始める。すぐに話は終わるだろうが、凜はその間に遊園地をちらりと眺めまわした。するとその一つの方向を見て顔をしかめた。

 

「お嬢さん一人ぃ? よかったら俺達と遊ばない?」

「一人は寂しいだろ? な、俺達も一緒に遊んでやるよ」

「遠慮なんかしなくていいからさぁ」

 

「あの、こ、困ります……」

 

一人で遊びに来ていたのか、あるいは連れがいるのだが今は別行動を取っているだけなのか。とにかく一人の女の子に三人ほどガラの悪そうな男達が迫っている。明らかに性質の悪いナンパに凜はふぅと息を吐くとそっちに歩き寄った。

 

「おい、お前達」

 

「ああん? っと、なんだ別嬪さんが来たぞ」

「ほほ~。なに、姉ちゃん? 俺達と遊びたいの?」

 

威圧するような重い声質で声をかけるが、男達はその威圧に気づいてないのか凜のナイスバディを見てひゅ~と口笛を吹きじろじろと舐め回すような視線を凜に投げかける。

 

「お前達に付き合う道理はない。それはこの子も同じだ」

 

「あ、う……」

 

男達のぶしつけな視線にやや嫌そうな表情を見せつつ、凜は毅然とした態度で男達に言い放つ。最初迫られていた女の子も凜が「逃げろ」と視線で訴えかけ、それに気づいて小さくこくんと頷くと男達の隙をついてその場を離れる。

 

「あ、あの子行っちゃいましたよ」

「放っとけよ。もっと上物が見つかったからよ」

「姉ちゃん、責任取って俺達に一晩付き合ってもらうからなぁ」

 

「……全く」

 

男達のいやらしい笑みに対し、凜はため息をつく。あまりもめ事にはしたくないが、こうなれば仕方がない。

 

まず、無造作に自分の腕を掴もうと右手を伸ばしてきた男の、その右手を軽くパシンと叩く。

 

「っ!?」

 

「お前達に付き合う道理はないと言ったはずだ」

 

「な、なんだとこの女!」

 

軽くとは言ったがスナップの効いた一発に右手を痛そうに押さえる男Aに対し、凜は冷たく言い放つ。すると凜から見て右前の方にいる男Bがそう怒鳴り声をあげて左手を振りかぶり、殴りかかった。

 

「甘い」

 

「うお!?」

 

しかしフェイントもない単純な軌道で見切る事は容易、凜は僅かに下がって右手でその腕を掴み、引っ張って相手のバランスを崩すと足払いをかけ、相手の殴る勢いを利用して投げ飛ばす。男Bはすっ転ぶだけでなくぐるんと前転するように転がった。

 

「てめえ!」

 

今度は左側の男Cが襲い掛かり、凜はその相手に蹴りを入れようとする。しかしその瞬間彼女が今何をはいているのかを思い出す。普段愛用しているズボンなら別に足を大きく上げて蹴りを使っても問題ない。しかし今彼女がはいているのは足を大きく露出したミニスカートである。

 

「っ!」

 

咄嗟に上げていた足を下ろし、翻りかけたスカートを両手で押さえる。

 

「くっ!?」

 

だがその時凜は無防備になってしまい、その隙に男Cが凜の右腕を取った。

 

「きゃっ!?」

 

さらにその後ろから、先ほど投げられた男Bが凜を羽交い絞めにした。

 

「きさむぐっ!?」

 

さらに羽交い絞めにされ、右腕の自由が利かなくなったので右腕を押さえていた男Cが凜の口を右手で塞ぐ。

 

「よし、どっか人気のないとこに連れてくぞ。それからゆっくりお楽しみだ」

 

ヒヒヒ、と男Aが下品な笑みを浮かべながら凜のナイスバディな肢体をじろじろと舐めるように見回し、凜が嫌悪感を露わにする。しかし流石に男二人に捕まったら抵抗しても意味をなさず、凜の身体がどこかに引きずられていく。

 

「何してんだテメエ!!!」

 

「がぁっ!?」

 

しかし次の瞬間、そんな怒号が聞こえてきたと思うと凜の口を塞いでいた男Cが殴り飛ばされる。

 

「え、炎佐!?」

 

「ザスティンと電話してる隙にいなくなったと思ったら……」

 

凜が驚いたように声をあげ、炎佐が呆れた顔を凜に向け、危険な状況に陥っていることを責めるような視線に凜が居心地悪そうに顔を逸らす。

 

「あぐ……」

 

すると突然凜の後ろからそんなくぐもった声が聞こえ、そう思うと彼女を羽交い絞めにしていた男Bが倒れ込んだ。

 

「ふむ。エンザに言われて合流したのはいいが……どういう事か説明してもらってもいいだろうか?」

 

「り、凜! 大丈夫ですの!?」

 

「は、はい……心配をおかけして申し訳ありません」

 

その後ろから、男Bの頭に拳骨でも叩き込んだのだろうか右手を軽く挙げながらザスティンが炎佐に尋ね、彼の後ろに隠れていた様子の沙姫が血相を変えて大丈夫かと凜に尋ねる。それに凜が面目なさそうに頭を下げるが、沙姫は「いいですわよ」と優しく微笑んで答えた後、残る男Aを睨みつけた。

 

「あなた、この私、彩南クイーン天条院沙姫の親友に狼藉を働くとは……天条院家を敵に回すと知っての所業かしら?」

 

「ひ……」

 

普段こそザスティンに懸想する残念美少女な沙姫だが、天条院家のお嬢様という上に立つべき選ばれし者から放たれる威圧に庶民の男Aはひっと唸り、腰を抜かす。

すると凜が助けた女の子が係員を連れてきたらしく、男達は係員に連れていかれ、女の子が凜に向けてぺこぺこと頭を下げ、凜が苦笑しながら「怪我がなくてよかった」と女の子をいたわる。

 

「それにしても、凜が不覚を取るとは。珍しいですわね」

 

「本当に申し訳ありません……」

 

くすくすとからかうように言う沙姫に凜が再び面目なさそうに頭を下げる。

 

「いいえ。しかし役得ですわね、そのおかげで氷崎炎佐の救出シーンを堪能できたでしょ?」

 

「なっ!? べ、別に、そんな事……」

 

沙姫の言葉に凜は顔を真っ赤にして沙姫から顔を逸らし、唇を尖らせながらぶつくさと言葉を漏らす。すると沙姫は「あら」と声を漏らして凜の髪をまとめているバレッタを見た。

 

「凜、あなた普段のヘアゴムはどうしたんですの?」

 

「あ、いえ、これはその、ショッピングコーナーで買ったもので、その……」

 

沙姫からの質問に凜は慌てたようにどもりながら呟き、顔を真っ赤に染めながらぶつぶつと呟く。

 

「ひ、氷崎炎佐が、似合ってるって言ってくれて……」

 

「まあ、まあまあまあ!」

 

その言葉に沙姫は目を輝かせるのであった。

 

「うふふ、どうやら脈ありのようですわね。任せなさい凜、昼食の後もしっかり計画を立ててますわよ!」

 

「あ、いや、その、沙姫様!?」

 

凜の言葉を聞いた途端嬉しそうに笑い、るんるんと鼻歌を歌いながら炎佐とザスティンに「氷崎炎佐、ザスティン様! 昼食もホテルに用意してますわよ!」と呼びかける。なにやらやる気満々になった彼女に慌てて凜が呼びかけるが彼女は取り付く島もなし、パニックになって顔を真っ赤にし、目もぐるぐる渦巻きになってあたふたしている凜を見た炎佐も不思議そうに首を傾げるのであった。




ToLOVEる最新刊にしてダークネス最終巻を読みました。まずは矢吹先生、長谷見先生、連載お疲れ様でした。そして美柑主人公の魔法少女ものとかめっちゃ読みてえwwwだけどマジで連載されたらと思うとプリヤかなのは辺りとのクロスオーバー小説の設定を今から考えてしまう哀しき習性。魔法少女美柑(仮題)の設定が分からん以上深くは無理だけど、異世界とかの設定なしでいくならやっぱ冬木や海鳴の隣町が彩南町だったとかその辺が妥当かな?
無印の時と同じくまた別のタイトルで続編出そうな終わり方でしたが、はてさてどうなる事か。この作品が完結を迎える前に続編が情報だけでも出てくれればいいなぁと思います。そしてなんか雑誌の方では番外編があった模様……残念だ。どっかで画像付き感想レビューでもやってないものか。

さて今回は凜とのデート編……っていうか、前回凜メインのブラディクス編なのに凜大好きなのが感想からでも分かるユキ11さんが一切お見えにならないのが正直驚いた……いや、凜大好きだからこそ僕如きの駄作では感想を貰うには値しなかったのか……精進せねば。
とりあえず、まず炎佐と凜の関係が現状恋愛感情のあるカップルではなく背を預け合う相棒という感覚なので、まずは凜→炎佐はさておき炎佐の方に凜を異性として認識させなければならないところから始まりました。まあ凜もかなりの美少女ですし、ボーイッシュ系からガール系に衣装チェンジをさせやすいのでそこら辺のイメチェンは割と簡単でした。そういう点では里紗の方がある意味面倒そうだな、普段からギャルな分。

とまあそんな感じで、これからも凜の出番は作っていきたいところです。次回をどうするかは未定ですけども、またオリジナルでいくか原作進めるかちょっと考えてみます。
では今回はこの辺で。ご意見ご指摘ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。