ToLOVEる~氷炎の騎士~   作:カイナ

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第十四話 爆炎少年ナイトエンザ!?

[エンザエンザー! この前送ってもらった漫画とDVD届いたよー!!]

 

「はいはい。そんな事でいちいち連絡してこないでよ」

 

[もー冷たーい!]

 

氷崎家。ここに一人で住んでいる少年――炎佐は学校の宿題を片づけながら宇宙回線によるテレビ電話である女性と話していた。

 

[あ、今度マジカルキョーコのDVD送ってね?]

 

「キョー姉ぇに頼んどく。母さんが見たがってるっつってね」

 

女性――エンザの母親の言葉に炎佐はそっちを見ることなくそう言う。と、エンザの母親は嬉しそうにうんうんと頷いた。

 

[うんうん。可愛い姪っ子の晴れ姿、しっかり見とかないと。ところで、エンザはキョーちゃんとどうなの?]

 

「ん?……今度マジカルキョーコでバイトする事になった」

 

エンザの母親の言葉に炎佐は少し考えた後にそう言い、それにエンザの母親はふ~んと鼻から息を漏らす。

 

[ま、いいや。んじゃそのバイトとやら頑張ってね。それから漫画とかありがとね、今度お礼するから~♪]

 

「期待しないで待ってるよ」

 

[ちぇ~。じゃ、ばいばーい♪]

 

その言葉を最後に通信は切れ、炎佐は確実に通信が切れているのを念入りに確認した後自分からも通信を切る。そしてしばらくの間、部屋に静寂が走る。

 

「……はぁ~……」

 

その静寂を破ったのは、家主の重いため息だった。

 

 

 

 

 

そして翌日。炎佐は心なしか光が消えた瞳を覗かせ凄くだるそうな様子で騒がしい公園に立っていた。

 

「あ、あの~エンちゃん?……きょ、今日は頑張ろ~、おー……ね?」

 

恐る恐る声をかけ、えいえいおーとする恭子――こっちもマジカルキョーコの衣装だ――に対し炎佐はわざとらしいほどに大きくため息をつき、恭子を若干睨むような目で見る。

 

「数日前いきなり“エンちゃんマジカルキョーコ出演おめでとー!”とか言い出して凄まじくなし崩し的に俺をこの場に引っ張り出したのはどこの少女アイドル様でしたっけ?」

 

「……」

 

無呼吸で言いきった言葉に恭子は頬を引きつかせ汗を一筋流しながら目を逸らす。

 

「つーか、何なのこの状況?」

 

「えーっと、この前視聴者がマジカルキョーコに出演みたいな特番の企画が立ち上がってね? 色々応募が来たんだけどプロデューサーがその中の一組をすっごく気に入って……で、アマチュアが出るんなら炎佐君も出したらどうだいって監督が……」

 

「それとギリギリまで言わなかったのと何の関係がある?……」

 

「そりゃー前もって言ったらエンちゃん絶対理由つけて断るけどギリギリに言っちゃえばエンちゃんは絶対に断らないから!」

 

そう言い、笑顔でびしっとサムズアップまでする恭子。が、それを聞いた炎佐がゴゴゴと背後に燃え盛る炎のようなオーラを背負い始めると一気に彼女の表情が引きつった。

 

「……て」

 

恭子はサムズアップしていた右手をグーにして頭の上まで持ってくる。

 

「てへっ☆」

 

次に頭に右手をこつんと当ててウィンクしながらペロッと舌を出す。

 

「ふぎゃっ!?」

 

直後ごんっという至極原始的な打撃音と女子の小さな悲鳴が響き渡った。

 

 

 

 

 

「いやーいきなりごめんね炎佐君」

 

「ああいえ、バイト代出るんならその分はしっかり働かせていただきます」

 

監督に対し炎佐は若干引きつりながらも笑顔で応対する。ちなみに恭子は頭にたんこぶを作りながらしくしくと泣き声を上げている……が、その目に涙の粒はなく明らかな嘘泣き。炎佐もそれを理解しているのかガン無視の姿勢を取っていた。

 

「それじゃあこれ台本と今回の君の設定ね? あと衣装はあっちにあるから」

 

「はい。よろしくお願いします」

 

監督から台本などを受け取り、炎佐は衣装を取ると公園内にあったトイレの中で着替えるつもりなのかそっちに歩いていく。

 

 

 

 

 

「エンちゃんとっても似合うよ!!」

 

「……いっそ殺せ」

 

目をキラキラさせながら言う恭子に、衣装を着替えた炎佐はそう呟く。彼の姿は一言でいえば、恭子が女子高生アレンジされた魔女服なのに対し炎佐の衣装は正に男子高校生アレンジされた騎士鎧風の服とでもいうべきものだ。しかも普段着用している機能性と機動力重視のものに対し、鎧や今回使うのだろう模造剣も見た目のかっこよさ重視な装飾過多とでもいう感じだ。

 

「しかも設定がマジカルキョーコと同じ力を持つ義理の弟ってなんだよ……」

 

「設定立案会議には私も参加しました!!!」

 

「お前のせいか!?」

 

炎佐の呟きに恭子が手を挙げながらとても元気よく言うと彼も怒鳴り声を上げる。

 

「まあまあ、そんなの気にしないで。それよりもうすぐ今回共演する人が来るから」

 

「ああ……っつうかどういう人達なんだ?」

 

「そうだね。大抵の人はマジカルキョーコの味方とかで応募してくるのに敢えて悪役を選んでくる辺り渋いとか、設定が作り込まれてるってプロデューサーは言ってたみたい」

 

「へー……」

 

今回視聴者応募に当選した団体の事を恭子はそう評する。

 

「あ、どーもー。キョーコさんですか? 今回応募した者ですがー」

 

「あ、どうもどうもー。今回はよろしくお願いしま……」

 

と、そこにそんな男性っぽい声が聞こえ、恭子はそっちを向いて挨拶しようとするがその言葉は途中で止まり、炎佐は不思議そうに首を傾げて声の方を見る。緑色の顔に大きく丸い二つの目とそれとはアンバランスすぎる地球人風の身体、顔立ちはどこかデフォルメされたカエルっぽい……

 

「唐突にボディブロー!!!」

 

「グフッ!?……イグナイテッド……」

 

その顔立ちから分析を終えた瞬間炎佐は鋭いボディブローをその相手に叩き込み、崩れ落ちそうになったそれの胸ぐらを掴みあげる。

 

「何やってんだおいケロン人……」

 

「ゲロッ!? よく見たらエンザ殿! お久しぶりであります!」

 

「あー久しぶりだなケロロ……」

 

完全に脅しのような形で声をかける炎佐に呑気に挨拶する相手――ケロロに炎佐は呆れたようにそう呟く。

 

「えーっとエンちゃん……お知り合い?」

 

恭子が困った様子で問いかける。彼女は現在「サインくださいですぅ~!」と黒い顔のやはりデフォルメカエルっぽい顔立ちの少年に頼まれサインをしていた。

 

「宇宙人だよ、ケロン人。こいつはケロロでそっちはタママ」

 

「え、エンザさん!? キョーコちゃんに宇宙人だってばらしちゃっていいんですかぁ!?」

 

炎佐のあっさりした言葉に、恭子にサインをせがんでいた少年――タママが慌てたように叫ぶ。

 

「問題ない。その女も宇宙人なのだろう?」

 

「ギロロ!? お前もいたのか!?」

 

と、赤い顔のデフォルメカエルな顔立ちの青年がそう言い、その姿に炎佐が意外そうに叫ぶ。と、ギロロの言葉にタママが目を丸くした。

 

「そ、そうだったんですかぁ!?」

 

「そいつの炎、自らで出しているとしか思えん。クトゥ……いや、フレイム星人だろう?」

 

タママの言葉に対しギロロは冷静に分析、一発で恭子の正体を言い当てる。それに炎佐は驚いたように、また意外そうに目を丸くして沈黙。その視線を感じたのかギロロは炎佐を睨みつけた。

 

「なんだ?」

 

「いや……お前そこまで見抜けるほどにマジカルキョーコ見てるのかと思って……」

 

「!? ば、馬鹿を言うな! その、なんだ。世話になっている相手がよく見ていてな……」

 

「世話に?……つーか」

 

炎佐の指摘にギロロは元々赤い顔をさらに赤くしながら怒鳴り声をあげた後歯切れの悪い調子で続け、その後炎佐は未だ掴みあげているケロロに目を向ける

 

「そもそもケロロ、お前らなんで地球にいるんだ?」

 

「あー……地球(ポコペン)侵略にきたのでありますが、その……捕虜になったと言いますか……」

 

「捕虜? 地球人相手に、お前らが?」

 

炎佐の質問にケロロは居心地悪そうに目を逸らしながら説明し、その中の捕虜という単語に炎佐は心底意外そうな声を出す。

 

「ぐ、軍曹!? 何してるの!?」

「ちょっとボケガエル! あんたいきなりスタッフに迷惑かけてるんじゃないわよね!?」

 

と、突然そんな少年少女の声が聞こえてきたと思ったら青みがかった黒色の髪にアホ毛が跳ねている優しそうな少年と、赤色の髪をツインテールにした気の強そうな少女が駆け寄ってきた。

 

「あ、冬樹殿夏美殿! エンザ殿、紹介するであります。日向冬樹殿と日向夏美殿であります」

 

「へぇ……」

 

しかしケロロは平然とそう言い、少年――冬樹と少女――夏美を炎佐に紹介。炎佐はケロロを下ろすと二人の方を向いて微笑を見せた。

 

「初めまして、俺はエンザ。地球では炎の(えん)に、左右の左に人偏をつけた()で炎佐って名乗ってるからそう呼んでくれ。ケロロ達とは……ま、ちょっとした旧友ってとこだ」

 

「え? じゃああなたも宇宙人?」

「嘘……地球人にしか見えないのに……」

 

炎佐の挨拶に冬樹と夏美は目をパチクリさせながら彼を見る。

 

「まあ、宇宙人によっては擬態とかして地球人に溶け込んでるが俺は幸い両親が元々地球人似で、俺も見ての通り地球人似だからな。特に変装の必要はないんだ」

 

「そうなんですか……」

「えーっと、炎佐さんはボケガエ……ケロロとはどういう関係なんですか?」

 

炎佐から説明を受けた冬樹は興味深そうにふむふむと頷き、夏美がそう尋ねてくる。とギロロが腕組みをして口を開いた。

 

「エンザは昔、ケロン軍に雇われていた事がある。俺達とも二、三度共に戦った事があってな……なかなかの使い手だ」

 

「ま、今は地球で静養中だけどね。一応地球に非公式で遊びに来てるさるお姫様の護衛任務にも就いてるっちゃあ就いてるけど」

 

ギロロの真剣な声での言葉に炎佐はへらへらと笑いながらそう返し、ギロロはふんと鼻を鳴らす。

 

「あ、あの~……」

 

と、そこに恭子が苦笑いをしながら口を開いた。

 

「もうそろそろ打ち合わせとかに入ってもらいたいんだけど……」

 

「っと、そうだった……つーかケロロ、なんでお前らこれに出演しようとか考えたんだよ?」

 

「ゲロゲロゲロ! これも地球(ポコペン)侵略の一環なのであります!」

 

恭子の苦笑いしながらのお願いに炎佐はそういえば自分達はマジカルキョーコの撮影に来てるんだったと今更ながら思い出し、その後ケロロにふと気になった今回の出演について尋ねる。それにケロロはゲロゲロと笑いながらそう言い、びしっと何故か虚空を指差した。

 

「昨今のアニメ、漫画業界では人気が出たキャラは、脇役であろうとも主役を張れることがあるのであります!!」

 

そう言ってケロロが指差している先には某ツンツン髪の不幸少年が主役の物語に出てくるビリビリ中学生や緑色の服を着た左利きの勇者が主役の物語に出てくるおっさん等の幻影が映っているように見える。

 

「それに習い我々ケロロ小隊もまずマジカルキョーコに出演し、視聴者から人気を得て我々が主役のアニメを作り地球(ポコペン)においての我々の知名度を高めるのであります!! いわばこれは地球(ポコペン)侵略の布石!!」

 

「……」

 

ケロロのぐっと拳を握りながらの叫びにタママが「ですぅ~」と同調、それを聞いた炎佐はなんとも言えないような表情でギロロの方を見る。

 

「……何も言うな」

 

それに対し彼は静かに首を横に振った。

 

「まあ、お前らが地球侵略しようが、宇宙法にさえ則ってりゃ俺は別にとやかく言わん……だが無茶しすぎて銀河警察や惑星保護機構とかに目ぇつけられるなよ?」

 

「もちろんであります!」

 

炎佐の忠告にケロロも頷く。

 

「あと」

 

「ゲロ?」

 

と、炎佐はさらに何かを付け加えようとする。

 

「せっかく静養してんのに俺の仕事無駄に増やしたら承知しねえぞ?」

 

そう言ってケロロの胸ぐらを掴みあげる炎佐は、完全にキレた目を見せていた。

 

「も、ももももももちろんでありますっ!!!」

 

それにケロロは汗をだらだらと流しながらこくこくこくこくこくと小刻みに頷いたのであった。

 

 

 

それから行われた打ち合わせ等も終わり撮影が開始する。今回のストーリー設定はとても大雑把に言うと“マジカルキョーコの義理の弟エンザが、義理の姉キョーコと力を合わせて悪の組織ケロン軍と戦う”という内容だ。

そして撮影が進んでいき、次は今回のハイライトである騎士エンザとその義理の姉たる爆熱少女マジカルキョーコVSケロン軍の対決シーン。現在はケロン軍であるケロロ、タママ、ギロロの三人がエンザとキョーコの二人と対峙している状態だ。

 

「では本番、よーい!!」

 

監督がメガホンを手に叫び、よーいの後「アクション!」と合図がかかる。

 

「ゲロゲロゲロ! エンザ! 今日こそ貴様の最後の日であります!!」

 

「ふん……それはこちらの台詞だ」

 

ケロロの悪役笑いでの言葉に炎佐も今回のキャラであるクール状態で剣をケロロ達に向けながらそう言う。

 

「かかるであります!!」

 

「いくぞ、キョーコ!!」

 

ケロロが合図を出してケロン軍三人が二人目掛けて突撃、炎佐と恭子もタイミングを合わせ一度ポーズを決めた後突撃。ここからアクションシーンのスタート、炎佐は手順の決まったそれに若干慣れないような感覚を覚えながら突進するが、その時直感的に何か、殺気を感じた。

 

「ギロロ!」

 

「!」

 

「覚悟でありまゲロォッ!?」

 

咄嗟に炎佐が叫び、それより一瞬早くギロロが隣を走っていたケロロを後ろに吹っ飛ばす。

 

「キョー姉ぇ!」

 

「わっ!?」

 

それとほぼ同時に炎佐も恭子の前に腕を出して彼女を足止め。その瞬間彼らの数歩先、彼らが戦闘シーンを開始しようとしていた地点に何かが着弾するようなガガガンッという撃音が響き渡った。

 

「な、なんだ!? カットカット!!」

 

監督が叫び撮影が中止、一体何が起きたのかとスタッフが確認しようとする。が、それよりも早くギロロが何かが着弾した地点を調べる。

 

「……これは地球(ポコペン)の弾丸じゃない……」

 

「見つけたぜェ、氷炎のエンザァ……」

 

「!?」

 

ギロロが呟いたその次の瞬間聞こえてきた声、それに炎佐にケロン軍、一瞬遅れて恭子が反応する。その目の先には黒ずくめの服に顔全体を隠すような仮面をつけた男達が立っており、数人は銃を構えている事から彼らが狙撃をしてきたらしい。

 

「まさかこんな辺境の星にいやがるとはなぁ」

 

「エ、エンちゃん?……」

 

「賞金稼ぎ時代の恨みか……最悪だな、こんな時に……」

 

黒ずくめの集団のリーダーらしい男の言葉に恭子が不安げな声を漏らすと炎佐も辺りを見回して呟く。ケロロ小隊メンバーと、それの知り合いらしい日向姉弟はともかくマジカルキョーコのスタッフに見物人と人目が多すぎる。

 

「チッ、考えてる場合じゃねえか! ケロロ、いくぞ!! 地球人は誰一人傷つけさせるな!」

 

「りょ、了解でありますっ!!」

 

だが考えていたら被害が増える、とにかく今は敵を倒すことが先決と判断しエンザはケロロに援護を頼みながら敵目掛けて突進、ケロロ軍もそれに続いた。

 

「キョー姉ぇ、悪いけど俺の鞄から趣味の悪いグルグル目玉のバッジと、刃の無い刀の柄を出して!」

 

「わ、分かった!」

 

さらに恭子にも指示を出し、恭子は慌ててエンザの荷物の方に走る。

 

「せあぁっ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

黒ずくめの敵の銃弾をかわしながら銃を構えている集団に突進し、回し蹴りや連続蹴りを叩き込んで銃撃班を撃破、銃を奪い取ると両手に持ち、さらに別の銃を一丁真上に蹴り上げる。

 

「ケロロ! ギロロ! タママ!」

 

「「「!」」」

 

声をかけて銃を投げ蹴り飛ばし、格闘戦を行っていたケロン軍三名は相手を殴り飛ばした後銃を受け取る。エンザはそれを確認するまでもなく再び黒ずくめの敵に殴り掛かった。

 

「くそ、動きにくいな……」

 

しかし現在彼が着ているのは普段の戦闘用の鎧ではなく見た目のかっこよさ重視という感じのもの。機動性や実用性はある程度無視されており、特撮等での戦闘シーンならともかく実戦で使用するには少々やりにくいものだ。

 

「もらった!」

 

「しまっ――」

 

黒ずくめの男の一人がエンザの背後を取り、彼はしまったと声を漏らす。その時ヒュンッという風切音が聞こえた。

 

「甘いでござるな」

 

そしてエンザの背後を狙っていた男が倒れ、そのさらに背後で青い顔のデフォルメカエルな顔立ち、というか二足歩行のデフォルメカエルな姿の存在が呟く。その姿にエンザは苦笑を漏らした。

 

「ゼロロ、お前もいたのかよ」

 

「今の拙者はドロロにござる」

 

「へえ? ま、とりあえず助かった」

 

その相手――ゼロロ改めドロロにエンザは軽く礼を言って背中合わせになり構えを取って黒ずくめの敵を睨みつける。

 

 

 

 

 

「えっと、バッジと刀って多分これだよね……」

 

その頃エンザの荷物の中から言われたバッジと刀の柄を探し出した恭子は大急ぎでそれらをエンザに届けようと走っていく。

 

「ひゃはー!!」

 

「!」

 

と、その時黒ずくめの敵の一人が恭子に襲い掛かり、それを見た恭子は咄嗟に右手を掲げ、そこに炎を集中する。

 

「マジカルフレイム!!」

 

「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!!」

 

そして右腕を振り下ろし掛け声と共に炎を放ち、男は爆炎に包まれる。

 

「キョー姉ぇに何してくれてんだテメエッ!!!」

 

「ガハァッ!!!」

 

直後恭子が狙われているのに気づいたのか近づいてきていたエンザがキレた目で怒鳴り飛び蹴りを叩き込んだ。

 

「チッ、雑魚が舐めた真似しやがってよォ」

 

「あ、あはは……」

 

舌打ちを叩き呟くエンザと、普段の状態から豹変した状態の彼に恭子は苦笑を漏らす。

 

「大丈夫、キョー姉ぇ?」

 

「あ、うん。これ言ってたバッジと刀」

 

声をかけてきたエンザに恭子はそう返して簡易ペケバッジを渡し、エンザはそれを自らの胸辺りに装着。

 

「エンザ、いざ参る!!!」

 

戦闘用の鎧を装着し刀の柄を握って赤い刀身の刃を形成させるとケロロ小隊を見る。

 

「ケロロ! 俺が敵の大将を討ち取る! 雑魚は任せたぞ!!」

 

「任せるであります!!」

 

エンザが指示を出しケロロが頷くと、エンザは一気に敵のリーダーらしき男の方に向かいそれの前に立つ。

 

「……いちいち覚えちゃいられないんだが……あんた、俺とどこかで戦ったのか?」

 

「ふざけんじゃねえ!! 俺の手下どもを皆殺しにした事、忘れたとは言わせねえぞ!!」

 

「忘れた……だが、何よりも」

 

敵リーダーの怒号をエンザは受け流した後、目を研ぎ澄ませる。

 

「静養中なのを襲ってきた上に、こんなめんどくせえ状態にしやがって……俺達(宇宙人)の存在は地球ではまだ公になってねえってのに、どう責任取ってくれるんだテメエ……」

 

「へっ、知るかよ。俺はテメエが殺せりゃそれでいいんだよぉ!!」

 

身勝手な敵リーダーの言い分にエンザは目を瞑りため息をついて脱力したかのように刀を下ろす。それを見た敵リーダーがにやりと笑った。

 

「死ねえええぇぇぇぇっ!!!」

 

「!」

 

叫び、剣を掲げて突進。エンザが刀を構えてその斬撃を受けるが、その瞬間エンザは自分が押される感覚を覚える。

 

「重――」

「ひゃはははは!!!」

 

攻撃の重さを感じたその次の瞬間相手はさらに斬撃を加え、エンザはどうにかそれを防ぎ受け流す。が、じりじりと後ろに下がる事を余儀なくされ防戦一方の状態だ。

 

「くっ!!」

 

勢いよく振り下ろされた剣をエンザはどうにか刀で受ける。

 

「ククク、いいぜぇ。力が溢れてくる……」

 

「くそ、どういう事だ……」

 

敵の言葉に炎佐は呟き、「少し本気でいかなきゃやべえ……」と小さく呟くと腕に力を込めて刀を振るいさらにその刃の軌跡を爆発させ相手の剣を弾き飛ばすとその勢いのまま反撃を開始する。

 

「っ!」

 

しかし二、三度目の攻撃の後エンザは攻撃を止めてバックステップを踏む。その直後相手が剣を振り上げエンザを斬り裂かんと刃が迫る。

 

「ちいぃぃっ!!」

 

ぎりぎりで刃が身体に当たる事はなかった、が、その軌道上にあった、刃が半分ほど消えている刀が上空へと弾き飛ばされる。

 

「くっ……」

「死ねぇっ!!」

 

相手が歓喜の笑みを浮かべて剣を両手で握り締め振り下ろす。が、その直前彼とエンザの間を阻むように氷の壁が地面から生えるようにせり上がってくる。

 

「邪魔だっ!!」

 

剣で氷を殴るように斬りつけ、厚みのある氷が簡単に砕け散る。しかしその先からはエンザの姿は消えていた。

 

「危ない……回避した時に咄嗟にブリザドにシフトしてなかったら間に合わなかった……」

 

エンザは青い瞳で相手を睨み、左手の指の間に握った氷の針を敵目掛けて投擲。しかし相手はそれを剣を振るって弾く。だがエンザはそれは予想通りだといわんばかりに、相手が剣を振るっている間に左手を頭上に掲げる。と、いきなり相手の頭上に巨大な氷の塊が作られた。

 

「潰れろっ!!」

 

叫び左腕を振り下ろすと同時に吊るされていた紐が切れたかのように氷塊が落下、敵は咄嗟に剣を頭上に構えて氷塊を防ぐ。

 

「ひゅぅっ……」

 

その隙を突いてエンザは息を吐き構えを取る。その後ろに下げられた右手には炎が纏われている。

 

「ぜりゃああああぁぁぁぁぁっ!!!」

 

そして気合一閃とばかりに捻りを加えて右手を突き出し、それと共に握り込まれた拳から炎が螺旋を描いて氷塊を防いでいる敵目掛けて飛んでいく。そして炎が大爆発を起こし、エンザはふっと短く息を吐くと両腕を下ろす。

 

「ガアアアァァァァッ!!!」

 

「!?」

 

その直後響くまるで獣の咆哮のような声、それと同時に爆炎によって起きた煙の中から爆発に巻き込まれボロボロ状態になった敵がエンザに斬りかかってくる。

 

「エンちゃんっ!!」

 

「!」

 

だがそこにさらに聞こえてくる声にエンザは声の方をちらりと見る。恭子が戦いの合間にさっきエンザが弾き飛ばされた刀の柄の方に走り、それを拾って投げてきたのだ。

 

「サンキュ、キョー姉ぇ!」

 

エンザは恭子に笑みを見せてお礼を言った直後、手を伸ばして刀の柄を受け取り握ったその瞬間その笑みを綺麗さっぱり消して赤い刃を形成、そのまま足を踏み込むと相手に斬りかかった。そして二人が一瞬交差し、離れる。

 

「く……」

 

斬撃をかわしきれなかったのかエンザの左肩から出血が走る。

 

「がは……」

 

だが同時に相手の左肩から右脇にかけて切り傷が走った。しかしまだ、倒れるには至らない。

 

「くそ、こうなりゃ……」

 

敵は自分の前にいる恭子を睨みつけ、その眼光に恭子はひっと唸る。

 

「テメエを人質にしてやらぁっ!!」

 

「キョー姉ぇ!!」

 

相手が恭子に飛び込むのを見たエンザも足の裏を爆発させその勢いで一気に加速する。が、距離を考えるとやはり相手の方が恭子に近い。

 

「させるかあああぁぁぁぁっ!!!」

 

「げふぅっ!?」

 

だが恭子に手が届く直前、何者かが飛び蹴りで相手を吹っ飛ばした。

 

「キョーコちゃん、大丈夫!?」

 

「あ、えっと……夏美、ちゃん?」

 

飛び蹴りを叩き込んだ少女――夏美が声をかけ、恭子がぽかんとした表情で彼女の名を呼ぶ。その様子から恭子が怪我してない事を悟った夏美は安心したように微笑んだ。

 

「よかったー。キョーコちゃんが怪我したらマジカルキョーコが見れなくなっちゃうからね」

 

「え?」

 

夏美の言葉に恭子が目を丸くすると、夏美は照れくさそうに頬をかいた。

 

「マジカルキョーコ、いつも見てるの」

 

「なるほど」

 

その言葉に恭子もにこっと微笑んだ。

 

「くそ、あの女……ふざけやがって……」

 

夏美に蹴り飛ばされた男が立ち上がり、怒りに燃えた目で、談笑している二人を見てそう呟く。

 

「ぼーっとしてていいのかな?」

「!」

 

そんな声が聞こえ、男は咄嗟に振り返る。その眼前には既にエンザが迫ってきていた。

 

「ぐっ!!」

 

男は咄嗟に剣を振り下ろす。その瞬間、鮮紅が煌めいた。

 

「甘い!」

 

一瞬で刀を振り上げて相手の剣を弾き飛ばし、刀の柄を相手に向ける。

 

「ふんっ!!」

 

「がふっ!?」

 

そして額に一撃、相手がふらついた瞬間さらに前蹴りを叩き込み当たった瞬間爆発を蹴りに付加させて相手を上空に吹っ飛ばす。

 

「銀河警察、いや、惑星保護機構の知り合いに突き出してやっから覚悟しとけやクソ野郎」

 

空高く吹っ飛ばされた後落下、地面に軽くめり込んだ敵リーダーの頭を踏みつけながらエンザは携帯電話をカチカチカチといじり始めた。

 

 

 

 

 

「やーエンザさん、ご協力感謝ですよー!」

 

「やけに速かったな……今お前、地球での仕事にでも就いてるのか?」

 

銀髪ロングの美少女のおふざけ敬礼しながらの言葉にエンザが首を傾げて問いかける。それに美少女は「はい」と頷き、「まあ最初は有給休暇取って地球に来てたんですけど」と付け加えておく。

 

「ああ、それと悪いがここの面々に宇宙人見られた。どうにかしてくれ」

 

「うぇ~……ひょっとしてそれが理由であたし呼びました?」

 

「顔見知りの方が話速ぇし楽だからな。とっととやれ」

 

その次のエンザのさらっとした無茶苦茶な要求に美少女は露骨にめんどくさそうな顔をし、それにエンザは圧倒的なまでに理不尽に言う。それに美少女は「はいは~い」とやる気なく返事し唇を尖らせてぶつくさ呟きながら何らかの装置を取り出す。

 

「あ、そうだ……おい」

 

と、そこでエンザはふと思いついたように声を出し、美少女に声をかける。それから彼の要求を聞いた美少女はまためんどくさそうな顔を見せたのであった。

 

 

 

 

室内にある大きなモニター。そこでは白銀で軽装の鎧を身に纏い、顔にはシャープで目元から耳を隠す形の仮面を着けた少年――エンザが、黒ずくめの男達と対峙していた。その後ろには緑、黒、赤、黒のデフォルメカエルのような顔立ちの男性が立っている。

 

「皆……いくぞ!」

 

「了解であります!」

 

エンザの宣言にデフォルメカエルことケロロが頷き、

 

「ケロロ小隊、突撃であります!!」

 

「はいですぅ!」

「ふん!」

「ござる!」

 

ケロロの指示と共に色とりどりのデフォルメカエルが敵に突っ込んでいき、肉弾戦を始める。

 

「キョーコ……行くぞ!」

 

「うん!」

 

エンザも横に立つ女子高生アレンジされた魔女服を着た少女――キョーコと共に戦いの中に走っていった。

 

 

 

 

そして戦いが終わり、エンディングに入るとモニターの映像が消える。

 

「うむ、なかなか良い出来だな」

 

「そうですね……でも、よく一日で撮影終わらせられたな……」

 

監督やスタッフが確認の感想を話している、そんな光景を炎佐やケロロ達は後ろの方の席を陣取って見ていた。

 

「ゲロゲロゲロ。まさか吾輩達も味方枠になるとは思いもしなかったであります!」

 

「その方が何かと手っ取り早いしな」

 

ケロロの言葉に炎佐がため息をつく。と、「ク~ックックック」という笑い声が聞こえ、黄色い顔の二足歩行デフォルメカエルがこっそりと姿を現す。

 

「クルル……チッ、助かったよ。代価は後で払う」

 

「分かってくれて何よりだぜぇ~?」

 

黄色いデフォルメカエル――クルルに炎佐は舌打ち交じりにお礼を言い、クルルもそう返すといなくなる。

 

「大変ですね~エンザさん」

 

「ま、画像加工やらなにやら、そういう技術は確かだからな。この状況を上手く利用させられるなら利用させてもらうよ。クルルに貸しを作るのは色々と危険なんだけど……」

 

「はぁ」

 

黒ずくめ宇宙人の連行準備が完了し、少し顔を出しに来たと言う銀髪美少女に炎佐はそう話し、彼女はそうとだけ声を盛らす。

 

「ああそうだ、エンザさん」

 

「なんだ?」

 

そこで銀髪美少女が思い出したように炎佐を呼び、彼がそれに反応すると美少女は小さな声で炎佐に囁く。

 

「さっき軽く取り調べをしたんですが……どうやらあなたがここにいるという情報は外部からもたらされたらしいです」

 

「……どこのどいつだ?」

 

美少女の言葉に炎佐が目を吊り上げて尋ねる。が、それに美少女は目を閉じてひょいっと肩をすくめるように上げて返すのみだ。

 

「そこまでは……でも、気をつけた方がいいですよ」

 

「ああ。肝に命じとく」

 

二人はそう軽く話し合っただけで会話を終え、美少女は宇宙人を連行。撮影も終了しスケジュールも空いたため炎佐は恭子と一緒に帰路についた。

 

「は~やれやれ。いきなり大変だったね~。ま、撮影あっという間に終わったから楽っちゃ楽だったけど」

 

「バトルシーンは撮影と言っていいのか分からないけどな……半分以上合成とかだし」

 

恭子は伸びをしながら言い、その言葉に炎佐も苦笑を漏らす。

 

「でもさ~。なんでエンちゃん仮面なんて合成しちゃったの?」

 

「あんな格好をプリンセス・ララや最悪リト達に見られてたまるか」

 

「仮面ぐらいで隠せるのかなぁ……」

 

恭子の頬を膨らませての言葉に炎佐が悪あがきのように返すと彼女はぼそりと呟く。

 

「それにしてもまさか俺の居所がばれたとはな……これから先は寝首をかかれることも考えねえと。家に宇宙式の防犯システムを組み込むことも考えておくか……」

 

炎佐はこれからの対策をぶつぶつと呟き、ちらりと恭子を見る。それに彼女は首をかくんと傾げ頭の上にクエスチョンマークを浮かべる。

 

「しばらくキョー姉ぇとも会わない方がいいかもな」

 

「えー!!!」

 

その言葉に恭子は悲鳴のような声を上げ、炎佐に抱き付いた。

 

「やーだー! エンちゃんに会ってエンちゃん分補給しなきゃ死んじゃうー!!」

 

「……」

 

おいおいと嘘泣きする恭子に炎佐は抱きつかれていない方の手で顔を覆う。

 

「分かった。それについてはおいおい考えよう」

 

「やったー!」

 

問題を先送りした炎佐に恭子はやったーと歓声を上げ万歳する。

 

「んじゃキョー姉ぇ、とっとと帰るよ。ってかホテルまで送るよ」

 

「はーい♪」

 

炎佐の言葉に恭子は嬉しそうに返して彼の腕に抱き付き、炎佐も困りながら満更ではなさそうに頬を緩ませて歩き出す。

 

 

 

「……ククク」

 

その光景を遠くから眺めていた何者かが笑い声を漏らしたのに、彼らは気づいていなかった。




えーっと、今回の話ですが……感想で色々言われ冷静に考えた結果P4キャラとのクロスを取りやめ、その部分の削除及び修正作業を行いました。

なんていうか、本当すいませんでした。言い訳ですが、悪ノリで変なテンションになってしまった結果とだけ言わせていただきます。とりあえず……以降のコラボは熟考を重ね、一時の思い付きから悪ノリをせず冷静に書かねばならないという勉強になりました。
こんな無計画に突き進む駄作ですがこれからもお読みいただければ嬉しいです。それでは。

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