十六夜の月が咲く夜に…
毎度毎度、紅魔館を襲撃してくるハンターたち。
彼らが襲撃方法をあの手この手と千差万別に変えようとも、相手の気配を察知することができる美鈴がいる限り、私たちが不意討ち闇討ちに遭う可能性は無いに等しい。
だがその夜、満月が少し欠けた十六夜の日、一堂に集まった私たちに美鈴はこう述べた。
──紅魔館に近づく気配を、二つしか感じられない……と、
私の首を求め、紅魔館にやって来るハンターたち。
彼らの雇い主は魔女狩りを盛んに行っていたとある宗教の過激派組織の末裔。
以前は吸血鬼や魔女などの人為らざる者たちの「殲滅」なんてのを掲げていたが……年月を重ねるごとに少しずつ変化していき……今は「捕獲」を目的とする組織へと変貌した。
それは彼らの目的が人間を守るためではなく、
私たちが持つ限りなく不老に近い命。
それを解き明かし、自らを「不老」にするための組織へと変わったからである。
組織がわざわざハンターたちを使って紅魔館を襲撃させていたのはこちらの戦力を測るため……だがそれも終わったのだろう。連中の代わりに一人の少女が紅魔館の門扉の前に現れた。美鈴が察知した気配は二つ。うち一つは姿を隠しているのか、ここからでは確認できない。
修道服を身に纏った銀髪の少女。私ほどではないがやや幼さを残している。
首から下げているのがロザリオではなく銀色の懐中時計という点を除けば教会にいるシスターの一人に見えたことだろう。
逆手で持った右手にある大振りのナイフさえ無ければ…
俄に信じがたいが……彼女こそが例の組織の刺客……ということなのだろう。大勢のハンターよりも彼女一人を推す。それだけ自信があるのか、或いは罠か…?
外にいる彼女にはこちらの姿は見えていないだろうが、パチェが作り出した外の映像を通して視線を交わす私と彼女。美人ではあるが表情が乏しい、人形のような印象を感じる。
錆びた金属を擦り合わせたような不快な音を出しながら、紅魔館の門が外側に向かって開かれていく……。
度重なる戦闘で壊されているものの、紅魔館には広々とした中庭があり、戦闘するには十分の広さはある。そこに私の声が流れる。
『遠路はるばる遠くからお越しになった御客様には……盛大にもてなすのが家人の務め、というものよ』
中庭にはボーボボたち三人が待ち構えていた。いつものふざけた態度は鳴りを潜め、鋭い眼光を彼女に向ける。
『ようこそ紅魔館へ、十字架に磔にされた聖人を奉る宗教家さん?
先ずはそちらにいる殿方たちがダンスの相手をしてくれるわ。存分にご堪能あれ…』
「よっしゃぁぁぁっ! 先ずは天の助、例のあれをやるぞ!!」
言うな否、天の助の背後に回り込み、その場でしゃがみこんで両足首を掴むボーボボ。
天の助はいまいち理解していないのか…「え? 例のあれって何?」と問い掛けるもボーボボは無視。答える代わりに天の助の足を掴んだままコマのように高速で回り始め…
「新必殺技ところてんミサイルぅぅぅ────っ!!!!」
彼女に向かって天のすけを放り投げるも、彼女は当たる直前に横にヒョイと移動して躱した。
「しまった!? その手があったか!!」
イヤイヤ、物騒なモノが飛んできたら普通、避けるでしょ!?
勢い余った天の助が紅魔館の門の横の壁に大の字で激突、そのまま壁に張り付いた状態で動かなくなる。
「おのれぇぇぇ…。よくも天の助をォォォ────!!!!
次は『首領パッチ爆弾』だ! 準備はいいな!?」
「いいわけねぇだろうが! 名前からして俺が被害を受ける技だろ、それ!?」
「うるせぇ、つべこべ言わずに逝って来いや!」
首領パッチの後頭部に後ろ回し蹴りを叩き込むボーボボ。
バットで打たれたボールのごとく緩やかな弧の軌跡を描いて大空を飛んでいき……やがて爆発、夜空に橙色の華を咲かせた。
オレンジ色の淡い光が中庭にいる二人の顔を照らす。
夜空を背景に爆発した首領パッチにボーボボはボソッと呟く。
「首領パッチはいいや…」
いいの!?
「どうやら天の助と首領パッチの仇は俺が取るしかないようだな!」
人差し指で彼女をビシッと指差すボーボボ。
アフロがパカッと開かれて、中から饅頭のような頭部だけの胴体に捻れた二本の角を持った奇妙な生物が飛び出す。ボーボボのアフロに大量に住んでいる「ゆっくり」という謎生物。その一匹。ボーボボはそのゆっくりの角を持つと…
「必殺! ゆっくり萃香ブゥゥゥゥゥ────メラン!!!!」
縦に高速回転しながら地面すれすれを滑空するゆっくり萃香。途中で二つ、四つと分裂していき……彼女の手前に到達する頃には十数を超えるまでに数を増やしていた。
流石の彼女もこの攻撃は避けきれないと思いきや……当たる寸前で彼女の姿が掻き消え……ボーボボが投げ放ったゆっくり萃香が目標物である彼女に当たることなく、空を切る。
──同時にボーボボの背後に現れる彼女。逆手に持ったナイフを後頭部目掛けて一気に振り下ろす。
「てんめぇ、さっきはよくもやりやがったな!?」
回避不可能の一撃を……横から復活した首領パッチに蹴り飛ばされ、ボーボボは難を逃れる。代わりに首領パッチが刺された。
後頭部を刺され、堪らず絶叫し、その場でのたうち回る首領パッチ。暫くして痛みが引いたのか、地面に片膝をつき不敵な表情で「今のは効いたぜ…」と宣うと…
「──だが俺には効かねぇ!!!!」
彼女を指差しながら、そう叫び…「残念だったな!」と腕を組んで後ろにふんぞり返る。
どっちなのよ…
「一瞬にしてボーボボの後ろに回り込んだ。移動系の能力者か? どうするボーボボ? 背中合わせで戦うか? それなら周囲360度カバーできるから何処に現れようとも対処できる…」
ボーボボの隣で憶測を立てて、提案を出す天の助。その表情はいつになく険しい。
「いや、こちらは彼女の能力の全てを知っているわけではない。相手の技次第では一塊に集まったところを一網打尽にやられる可能性がある。
ここは離れて戦おう。大丈夫だ。私にいい考えがある。彼女の能力を見破る方法がある」
相槌一つ返すと、彼女を取り囲むように移動する首領パッチと天の助。
さらにボーボボは彼女の周囲を縦横無尽に鼻毛を伸ばして張り巡らせて、彼女を中心にした包囲網が完成した。
「くらえッ! 半径20メートルの
張り巡らした鼻毛から枝分かれした鼻毛が彼女に向かって一斉に襲いかかる。
…だが鼻毛が彼女を捕らえる瞬間──彼女は消えて──ナイフの切っ先を向けた状態でボーボボの前に現れた。
気付いたボーボボが後方に跳んで距離を取ろうとするも……ナイフから光線を放出、ボーボボの腹を貫き、衝撃で吹き飛び、背中から壁に激突した。
ボーボボがやられたのを見て硬直する二人。
そのボーボボは壁に体をめり込ませたまま…
──メ…ッセージ……で…す…。これが…せい…いっぱい…です。
首領パッチ…さん。天の助…さん受け取って…ください…。伝わって……ください……
全身から血を滴らせながら弱々しくそう伝えると、それっきり動かなくなった。
「はあっ!? 『カスタネット叩くと気持ちいい』何言ってんだ? こんな時に?」
「ちげぇよ首領パッチ、ボーボボはこう言いたいんだよ。
『神様、ごめんなさい。パトラッシュ食べたの僕なんです』って」
残念だけど微塵も伝わらなかった。それどころか敵の見ている目の前で殴り合いを始める始末。
そんな中、空の彼方から一匹の鳥が飛来、首領パッチの頭上で止まる。
それは絶滅危惧種の鳥──トキだった。
「「ト、トキが止まった…」」
まさかアレで「トキが止まる」→「トキを止める」→「時を止める」…とでも伝えたつもりなのだろうか…?
そう思考に耽っている間に首領パッチの足元で爆発、右足を起点に亀裂が走り、全身をくまなく覆うと……岩石のように砕け散って辺りに破片が散乱した。
「ひぃぃぃぃぃっ~~~!? 首領パッチ組み立てなくちゃ!!」
次々と味方がやられて錯乱したのか、首領パッチの破片を集めて元に戻そうと試みる天の助、無論それで元に戻るハズもなく…
「ぎゃあああっ!?
首領パッチを元に戻すハズがネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲 になっちゃった~~!!!!」
巨大な砲身を上に向けさせた、卑猥なオブジェを完成させた。
なんで!?
それにアームストロング2回言ったよ! あるわけないでしょ、あんな卑猥な大砲!
「なんだよオイ、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか、完成度高けーなオイ」
例の大砲をまじまじと見た美鈴がボソッとそう呟いた。
え゛え゛え゛え゛え゛!?
なんでしってんの!? あんの? まじであんの? 私だけしらないの!?
「江戸城の天守閣を吹き飛ばし、江戸を開国に導いた黒船の決戦兵器よ。レミィ」
隣にいるパチェがそう付け加えた。
何? あんなカッコ悪い大砲に屈したのあの国は!?
彼女のナイフ捌きで賽の目状に斬られた天の助。粒子となって周囲に弾け、青い濃霧と化して辺りに漂う。
三人の中でも再生能力の高い天の助、宙に浮かぶ破片の一つを核として徐々に頭を再生させていく。
そこへ下から手刀で貫く彼女、貫いたその指にはオレンジ色の球体を摘まんでいた。
「ヤメロぉぉぉぉぉ~~~~~!!!!」
怒鳴り声を撒き散らす天の助を無視して、彼女はそれを潰す。
「あふぅ…」
形を崩して液体のように地面に落ちる天の助。それ以降、彼が再生することはなかった。
(´・ω・)にゃもし。
久々の投稿。スマン。