鉄仮面に囚われたボーボボの知人──トモヒロを救出すべく私たちはモヒカン・ランド園内を、生命が放つ気、それを探る能力を持った美鈴を先頭に、彼がいると思われる方向に向かってひたすら走る。
「 公衆便所 だけどな」
「俺がボーボボたちと敵対した時、いろいろあって公衆便所が決着をつける場所になったことがあったけど……今、ボーボボの立場になってみて分かったよ。
公衆便所 はないよな……」
すぐ隣を走る首領パッチと天の助が前を見ながら真顔でいらんことを言う。私だって本音は公衆便所はないと思う。正直、紅魔館の件がなければ今すぐ回れ右して帰りたい。そんな帰りたい衝動を抑えつつ私は黙って走る。
少女移動中 NowLording…
目的地の場所はすぐに分かった。何しろ辺り一帯にモヒカンの一団が地面に倒れているのだから……。おそらく、トモヒロが暴れたせいだろう。
では肝心のトモヒロは? と周囲を見渡すとモヒカンとは別の──胸に七つの傷を持っていそうな濃い男と一緒に公衆便所から出てきた。ただし、原型をとどめないほどに顔を腫らし、肩に担がれた状態で……
「トモヒロ!?」
暴力の跡と思われる痣だらけの彼の姿を見たボーボボが堪らず叫ぶが無反応。代わりに男の後に現れた鉄仮面が応える。
「こちらの話し合いに一向に応じないのでね。君たちには悪いが力付くで黙らせてもらった」
──と男に担がれているトモヒロを顎で指す。気配に気づいたのか、トモヒロは弱々しくも喋り始める。
「……すいません、ボーボボさん。俺が──
☆時給 2,000円 ☆交通費 全額支給
☆完全週休2日制 ☆制服貸与 ☆まかない あり
──につられたばかりに……」
「時給と待遇いいな、おい」
ボーボボたち3人も時給と待遇の良さを聞いて、王にかしずく騎士の如く片膝を地面につけて履歴書を両手で手渡そうとしているし……無論、鉄仮面が採用するはずもなく──
「残念だが君たちは 不採用 だ」
直後、ボーボボたちは両腕を交差させた状態で後ろに飛び退く(──端から見れば謎の力によって吹き飛ばされたように見えなくもない──)
「トモヒロを救出しようと接近したんだが、隙がなかった……!」
両膝両肘を地面につけて、さも悔しそうに涙を流しながらボーボボが言う。そんなあからさまな態度に私が呆れて無言になるのも致し方無い。
「そちらの中華のお嬢さんはこちらの指定するウサギスーツを着てくれるなら雇っても構わないんだが?」
ウサギスーツ。要はバニースーツのことだろう。美鈴の方に顔を向けながら野卑たことを宣う鉄仮面。正直、美鈴なら似合いそうではあるが……。
ちなみにボーボボたち3人は厚化粧を施した顔でバニースーツを着て突っ立っているが鉄仮面は無視。そこまでして雇われたいのか、こいつらは……
「ちなみにこれがそのウサギスーツだ」
そう言って懐から取り出したのは、顔の部分に穴が空いており、着ている人の顔が見える作りになっている ウサギの着ぐるみ だった。
「そっち!?」
「冬場は兎も角、夏場の炎天下での着ぐるみは堪えるのでね。体が丈夫な者でないと倒れる恐れがある。その点、妖怪や妖魔ならばその心配をする必要はない」
至極真っ当な理由だった。
そんな中、今まで沈黙していた男──鉄仮面が連れている男が突然、私たちに向けて話しかける。
「お前たちは胸に七つの傷を持った男を知っているか?
俺はその男をリスペクトしているリスペクターズの一人……」
肩に担いだトモヒロを乱暴に地面に放り捨てると「ほぁぁぁ…」と奇妙な呼吸音を口から漏らし、同時に炎のような揺らぎを見せる赤いオーラを全身から放つ。
さらに変化はそれだけでは止まらず上半身の筋肉が大きく膨れ上がり、筋肉の膨張に耐えきれなくなった上半身の衣服が弾け飛び、その衣服の下から北斗七星と同じ配列をした七つの黒く丸い点が露になった。
「 七つ の 乳首 を持つ男──クリスティーヌ・薫だ!」
「 それ乳首だったの!? 」
とんでもない暴露をしたクリスティーヌ・薫。彼は上半身を剥き出しにしたままボーボボを指差すと次のようなことをぬかした。
「俺が勝ったらボーボボ、貴様の乳首を頂こう 」
「 その乳首、人の物なの!? 」
「 いいだろう、その挑戦受けて立つ 」
「 受けちゃうの!? 」
ボーボボ戦闘中 NowLording…
「 いやー、乳首を取られちゃったよ~ 」
「 負けてるし! 」
さして時間も掛からず決闘から戻ってきたボーボボ。暢気に「あははー」と後頭部に片手を置いて笑っている彼だが、彼が身に付けている衣服の乳首部分が円形に切り取られてていて、そこにある筈の乳首がなくなっていた。
「ところでレミィ、乳首って生えるのかな?」
「知るか! 私に聞くな! んなもん!」
自分の胸の部分を凝視しながら、こちらに尋ねるボーボボ。あまりにもアホな質問に怒りと羞恥心で私は顔を多少赤く染めてたかもしれない。
「まさか乳首を取られたら終わりだと思ってはおるまい?」
「まだ、あんの!?」
薫の背後の空間が揺らめき、次いでその揺らぎが人型を取り、最後に機械的な女性の形を取って具現化した。
突如、現れたそれに私たちは警戒を強め身構えると、薫がその正体を口にする。
「これは私のイマジナリーフレンドだ」……と、
【イマジナリーフレンド】
本人の空想の中だけに存在する人物、及びキャラクター。
当然、他人には見えないし、実体を持って具現化しない。
「私の知っているイマジナリーフレンドと違うんですけど!?」
「一回呼び出すごとに10000円かかるのが難点だがコイツの能力は折り紙つきだ」
「なんで呼び出すのにお金がかかるのよ!?
それホントに友達って言えるの!?」
「俺のイマジナリーフレンドであるシンデレラ。その能力は……」
「ちょっと! 無視しないで答えなさいよね!」
コ" コ" コ" コ" コ"
そんな地響きするような腹にずんと来る重い音とともにボーボボの心臓辺りにダイナマイトの束にデジタルタイマーのパネルのついた物体──時限爆弾らしき物が浮かび上がった。
「俺の手で乳首を奪われた者を時限爆弾に変えて爆殺させることができる」
「乳首を奪われたぐらいで!?」
「尚、それを解除する唯一の方法が……」
薫が言い終える前に無数の、二個で一組の乳首が乗った長方形の肌色の板が私たちの周囲に現れ……
「──この中から自分の乳首を探し当てて嵌めることだ」
カチリという不吉な音ともにボーボボの胸にあるパネルの数字が10,000から9,999へと減った。
「「 あのー、すいません!
俺たちも技を喰らってんですけど!!? 」」
見れば首領パッチと天の助もボーボボと同様に時限爆弾が取り付けられていた。薫に乳首を取られた覚えはないハズなのだが……
「例外として元から乳首のない者は無条件で爆弾に変えることができる」
「「 そんなー! 」」
しかもよく見れば二人のタイマーはそれぞれ天の助は「ぬぬぬ」。首領パッチは「13月0日」と設定されている。何これ?
「ところでスカーレット・レミリア嬢」
「なによ? 鉄仮面?」
「年頃の娘が乳首を連呼するのはいかがなものかと思うのだが?」
「やかましい! 誰のせいだと思ってんのよ!?」
いくつもの乳首が漂うというふざけた空間の中、その日、一番ダメージを受けたのはこの私かもしれない。
( ´・ω・)にゃもし。
◆書きたいこと書いたやつが優勝を糧に書いてます。