パチェとフラン。二人が首領パッチを救助、奪還したことで「ワンダフル鼻毛7DAYS」が解除されたのだろう、テレビの収録現場だった世界が元のドーム状の室内へと戻っていく…
…とはいえ完全に戻ったというわけでもなく、戦闘の余波の跡があちこちに見られた。頭上に空いた大穴もその一つだろう。
「アレクを道連れにしたゴリラの仕業じゃな、キサマら二人はあの穴を通ってここに来た──というわけじゃな?」
「…ええ、道中に首領パッチもいたから助かったわ。見張り番のモヒカンがいたけど、フラン相手には分が悪かったわね」
ティアラ婆さんとパチェの二人の会話から、どうやらあの奇妙な空間には限度ってのもがあったらしい。さすがに本家大元がやれば結果が違ってくるだろうが…
…ト″ ト″ ト″ ト″ ト″ ト″ ト″ ト″ ト″
頭上の穴の奥から段々と近づいてくる動物の足音──それも群れが一塊になって駆け付ける轟音。パチェはその正体を答える。
「──それと、ゴリラがあなた方に用があるらしいわよ?」
次々と穴から降りてくるゴリラの群れ。
彼らは降りたそばからモヒカンたちに殴りかかってきた。
無論、モヒカンたちもただ大人しく黙ってやられるハズもなく手にした武器で応戦する。
「もはや、これまでのようじゃな…」
怒号と罵声が飛び交う中、ティアラ婆さんは静かに立っている。その間にもモヒカンたちは少しずつ数を減らしていき、機械兵器もパチェの魔法とフランの能力の前には鉄屑と化す。
「──がキサマらが一ヶ所に集まってるのは好都合じゃ!」
床にある取っ手を掴んで一気に引き抜くと、円柱の台座らしき物体が床からせり出す。
「魔力が一点に集中している。まさか自爆する気?」
床からせり出した物体を見てそう判断するパチェ。これに慌てたのは私たちではなく、未だに残っているモヒカンたち。彼らは我先にとエレベーターのある方角へとを脇目も振らずに走り出す。
「貴女、正気なの? ここの施設はこの組織にとって重要なものでしょ? ここを壊すなんて…」
「魔女にそう言われるとは光栄じゃな、しかし貴重品やデータ等はすでに息子たちに託した! 老兵はただ去るのみよ! キサマらを道連れにしてな!」
円柱型の台座に設置されてる赤いボタンに向かって叩きつけるように右手の人差し指を振り下ろす。
「『スイッチ』を押させるな───ッ!」
そうはさせまいとして私は両翼を翻して滑空。ティアラ婆さんの下へと飛ぶ。
だがティアラ婆さんの指令を受けたのか、かろうじて残っている四本足の青い機械兵器の群れが進行の妨害をする。
「いいや! 限界だ、押すね!」
振り下ろされる寸前、虚空よりティアラ婆さんの前面を覆うように数多のナイフが出現。彼女に向かって飛んでいく。
「うォぬぉれぇぃ! 拾った恩を仇で返しおって!」
それを行ったであろう咲夜──床に倒れたままナイフを投げた姿勢で止まった彼女を睨みつつ、全身にオーラを纏い、瞬時に膨張、膨れ上がった気でナイフを弾いて防ぐ。
「──だが、キサマらの寿命が数秒伸びただけじゃ!」
弾かれたナイフが床に落ちるよりも早く、赤いボタンへと指を伸ばす。
「…でも、数秒あれば魔法を発動できるわ」
──ティアラ婆さんの足下の床がひび割れて窪み、動きが止まる。パチェの魔法による重力操作。突然の重力の負荷に彼女は足をもつれさせてバランスを崩す。
「なんのこれしき、この程度の重力で庭石500キロを使って修行をしてきたワシを止められるものかァ~~~っ!!」
両膝に手を置いて耐える。
再度、ボタンに指をかけようとして…
ホ────ホケキョ
場に相応しくない小鳥のさえずりが聞こえてきた。
それもティアラ婆さんのお腹から…
「……ほ、ほぅあァァァ─────っっっ!!!?」
顔を歪ませ両手でお腹を抱えるティアラ婆さん。その顔には尋常じゃない量の汗が浮き出ている。
「 腹がァァァ~~~っ!!!? 」
「 さっきのは腹の音だったの!? 」
苦悶に満ちた表情で体をぷるぷると震わせるティアラ婆さん。どうやら本気で苦しんでいるようだ。
「当然だ…」
エンジェル・キッスで体液を吸われて再起不能に陥ったと思われた天の助。彼はしわくちゃになった紙みたいな状態でうつ伏せのまま応えた。
「オレの賞味期限は 3年以上 過ぎている。
そんなもん体内に取り込んで腹が無事でいられるはずがない!!」
それ、食品として致命的だよね!?
そう言われ、天の助に対して何かを言いかけようとしたのだろうが、腹痛の痛みに耐えられないのか、途中で口をつぐむ。
それでもぷるぷる震える指を動かし、ボタンに触れるか触れないかという間際、私でない何者かがティアラ婆さんの指を掴んで止めた。
「そこまでです」
「ほォわァ!?」
ティアラ婆さんの指を掴んだのは美鈴だった。掴んだ指を逆方向にへし折って怯ませると、胸板に蹴りを叩き込んで台座から離す。
「フリーザ相手に重傷だったけど大丈夫なの?」
「はい、パチュリー様の魔法のおかげでだいぶ動けるようになりました」
残った機械兵器を槍で片付け終えた後、フワリと美鈴のそばに降り立ち、吹っ飛ばされたティアラ婆さんへと視線を移す。
美鈴の一撃を喰らってもなお立ち上がってみせるが……生まれたての小鹿のように足をぷるぷると震わせて、もはや戦えないのは一目でわかる。
「美鈴、やっちゃいないさい!」
そんな彼女に私は無慈悲な命令を美鈴に下し…
「はい、やっちゃいます! お嬢様!」
美鈴の姿がかき消え、ティアラ婆さんの背後に現れる。
彼女の気配を察し顔面蒼白になるティアラ婆さん。
「ま、待て……今、ワシを倒せば大変なことになるぞ!?」
狼狽え慌てふためくティアラ婆さんの首筋に容赦なく手加減なしの後ろ回し蹴りを叩き込み…
「これは咲夜さんの分です」
足をめり込ませたまま告げる美鈴。
さらに前のめりに倒れかけるティアラ婆さんの彼女のアゴの下から掌底を叩き込み、勢い余った力がティアラ婆さんの巨体を仰向けに浮き上がらせる。
「 これは咲夜さんの分です! 」
浮き上がって宙にいる間に今度は右足を垂直に高く上げ、腹筋に踵落としを喰らわせ、床に叩きつける。あまりの威力にティアラ婆さんの体半ばが床にめり込み、陥没。四方八方に亀裂が走る。
その一撃が決め手となったのだろう、ティアラ婆さんは口から泡を吹き、大の字になって動かなくなった。
そんなティアラ婆さんに美鈴は形の整った柳眉を逆八の字に、怒りを露にして叫ぶ。
「 これは咲夜さんの分です! 」──と、
さっきから、咲夜の分しかないんですけど!?
(´・ω・)にゃもし。
一応、ティアラ婆さんとの戦闘は終わった。
長かった。スマン。