地面に横たわるミイラ化した天の助。
彼の表情は苦しそうに歪んでいた。
さながら、息苦しさのあまり空気を求めたまま窒息したかのように……実際、その通りなんだけど…
「なんと、むごいことを…」
さきほどの光景を──天の助とティアラ婆さんの接吻を──思い出したのか、さしもののボーボボも片手を口に当てて年頃の少女のように内股の格好で怯える。
「──でもオレじゃなくてよかった! ホントによかった!
ありがとう天の助! お前がいてくれたおかげで喰らわずに済んだ!」
両手両膝を地面につけ、涙を流しながら天の助に感謝の言葉を述べるボーボボ。これには私たち紅魔館一同も同調し「うんうん」と頷く。そこへティアラ婆さんが絶望的な言葉を投げ掛ける。
「くっくっく… 喜ぶのはまだ早いぞ?
何しろ素敵な一週間は始まったばかりじゃからなァ?
ほれほれ間もなく火曜日が始まるぞ?」
頭上の巨大な回転盤であるボーボボ・ルーレット。天の助が再起不能に陥ったことで変化が起きる。天の助と書かれた二枚のパネル。その文字が徐々に薄れて消えて、新たに『紅魔館の誰か1名』という文字が浮かび上がった。
すなわち、6枚あるパネルのうち5枚が私たちということになる。
「もうこれルーレットを回す意味なんてないじゃない!?」
あまりの理不尽さに思わず叫んだが、それでパネルが変化するハズもなく、ルーレットの針がぐるぐると動き出す。
針が回ること数回転。案の定『紅魔館の誰か1名』へとピタリと停止。次いでドラムが勢いよく回転。三つのうち二つが順に『レミリア』『クイズ』と止まり、宙に浮かぶ巨大スクリーンに問題が出題される。
問2)太郎と次郎。どっちがオカマ?
「知るわけないでしょ!? んなもん!!」
間を置かずに鳴らされる「ブッブゥゥゥ!」という不正解の音。もはやクイズでもなんでもない。
『裁き』を決定する残り一つのドラムが止まる。
『中国がフリーザと戦う』
「中国って、もしかしなくても私ですか!?
それにフリーザって、あのフリーザですか!?
それ以前になんで私なんですか!?」
美鈴が自分を指差してそう言う。現状、この中で中国を連想する人物は彼女しかいない。なんで裁きに彼女の名前が出てくるのかはこちらに聞かれても正直困る。
やがて地面に大きな穴が空き、そこから卵型の浮遊する乗り物に乗った小柄な体躯の何者かが「ほーっほっほっほっ」と高笑いを上げながら現れる。
「わたしの戦闘力は530000です。
ですが、もちろんフルパワーであなたと戦う気はありませんのでご心配なく…」
いったいどんな方法で呼び寄せたのか私たちの前に現れたのは宇宙の帝王こと、あのフリーザだった。
「ならば本気を出される前に倒すのみです!」
覚悟を決めた美鈴が両腕を腰だめに構えて急接近。先制攻撃を仕掛ける。
──それから数分後…
「…はぁ、はぁ。な、なんとか、勝ちました……」
傍らには倒れ伏せたフリーザ。その側には片目を閉じ、口の端から血を流し、力なくダラリと垂れ下げる左腕を右腕でおさえ、服装も所々破れ……満身創痍ながらも立つ美鈴の姿があった。
「「 フリーザに勝っちゃった!!? 」」
「すいません、お嬢様。
どうやら私はここまでのようです。
大して役に立てず申し訳ございません…」
そう言うと力尽きたのか前のめりになって倒れかけ、そこを咲夜が慌てて駆けつけて、寸前のとこで彼女を支える。
「イヤイヤ、十分役に立ってるよ!?
フリーザに勝ったんだよ!?」
「カカカッ! 次は水曜日じゃ!
他人を称賛してる場合じゃないぞ!?」
三度、ルーレットの針が動き出し『紅魔館の誰か1名』を指す。しかし今回、裁きを受けるのは人物ではなかった。
『 紅 魔 館 が 爆 発 す る 』
「……はい?」
我ながら間の抜けた声が口から出た。
例のごとく巨大スクリーンには見慣れた紅魔館の全容が映し出され、それが何の前触れもなく白い閃光に包まれ──瞬時に崩壊……跡には光でできた巨大な白く輝く天へと伸びる十字架が立つ。
「うちの紅魔館がァァァ~~~っっっ!!?」
建て直して一ヶ月も経たないうちに紅魔館が崩壊。それで私が思わず絶叫したのを致し方なし。いったい何処の誰が責めようか…
「くっくっく… ワシが図書館に置いてきた500kgの庭石。あれの正体は対妖魔用の爆弾じゃよ!」
紅魔館の突然の爆発の原因をあっさりと露呈するティアラ婆さん。
「図書館内部の書物が強固な魔法防護で守られているのは周知済み。しかし中にいた魔女は無事に済まんじゃろ。あとは主の居なくなった図書館の本を回収するのみじゃな」
ティアラ婆さんの視線の先、スクリーンの向こう側では──十字架が消え去り、瓦礫の山と貸した紅魔館にはわらわらと動き回るモヒカンたちの姿が…
『あびしっ!?』『ひでぶ!?』『ザクレロ!?』
──紅いレンガで造られた見覚えのあるゴーレム。それが数体。近くにいるモヒカンを殴って片っ端から再起不能にしていた。
『悪いけど私があんな怪しいものをいつまでも放っておくわけないでしょ?』
画面越しに話しかけるパチェリー。
彼女はゴーレムたちの後ろで部隊の指揮を執っていた。
今も彼女に襲いかかろうとしたモヒカンを我が妹であるフランが槍の柄の部分で殴り倒して阻止している。
「ふん。まあ、よいわ。あちらは後回しにして先ずはこっちのを優先するかのぅ…?」
こちらをチラリと見つつ、余裕綽々の態度を取るティアラ婆さん。もはや私たちに勝った気でいる。
「なら試してみたらどうだ?」
対して何か策があるのか自信に満ちた表情で答えるボーボボ。
「鼻毛真拳奥義は厳しい修行の果てに修得するものだ。
伝承者でない者が使えば己の身を傷つける諸刃の刃となる」
「ならば見せてもらおうかのぅ!?
おぬしの言う鼻毛真拳奥義とやらを!?
出せるものならじゃがなァっ!?」
こちらの攻撃は無効化されるのを知って強気のティアラ婆さん。ルーレットの針が動き、『紅魔館の誰か1名』を指し、裁きのドラムが回転する。
そこへ両手の指の間にナイフを挟んだ咲夜が動き出す。
「また性懲りもなく『時間停止能力』かァ!?
無駄無駄無駄無駄無駄ぁぁぁ~~~っ!!
能力対策はすでに施してるのは周知じゃろぉ!?」
構わず裁きのドラムに向かってナイフを投擲。回転しているドラムに次々と突き刺さり回転を止めさせた。
「カーッカッカッカッ!
何がしたかったのか知らんが、キサマの行動は仲間の死期を早めさせただけのようじゃなァ?」
「カーッカッカッ…」と高笑いを上げるティアラ婆さん。
私たちが一向に言葉を発しないことに訝しげ、私たちがティアラ婆さんではなく、その後ろ、頭上の裁きのドラムを見ていることに気づいた。
『首領パッチ、ぶっ殺すゲーム』
裁きのドラムはそこで止まっていた。
「キサマが放った『ワンダフル鼻毛7DAYS』は首領パッチをエネルギー源にして放っている。
その首領パッチがいなくなれば、はたしてどうなるんだろうな?」
上空から様々な種類の剣が降って地面に突き刺さり、ボーボボはそのうちの二振りを手に取って抜き放つ。
「どうやら有効みたいだな?
いくぜ『首領パッチぶっ殺すゲーム』止められるものなら止めてみせろ!」
そう言ってティアラ婆さん、否、その後ろにいる首領パッチを目指してボーボボが走る。
(´・ω・)にゃもし。
後書きを書く前に投稿しちゃった。