咲夜の話によれば──城内にある中庭を突っ切って行くと地下へと下りるエレベーターに辿り着く……という。
しかし、その場所へ向かおうとした時に浮かれて先を急いだ首領パッチが前方不注意で 肥溜め に落下してしまった。
今も現在、肥溜めの中に沈んでいるとは思うのだが……正直、助けたくない。他のメンバーも同じ思いか、私が顔を向けると心底イヤそうな顔で無言で首をブンブンと左右に振っている。
そんな私たちの心情を知った上か、はたまた私たち同様にイヤなのかボーボボは力強く雄々しく叫んだ。
「 いなかった!
紅魔館にいるメンバーの中に首領パッチという存在は始めから存在してなかった! 」
そんな非情なことを宣うとスタスタと前を歩き出した。無駄に無意味に強者のような存在感を放つ背中をこちらに向けて…
「そうだね」
無情にも私もまたボーボボに激しく同意。首領パッチを見捨てることにして目的のエレベーターへと向かうことにしたのであった。
「なら急ぎましょう」
そこへ、この古城を知る咲夜が先を急ぐよう私たちに促す。
「この中庭には ゴリラ が放し飼いになっていますので…」
「 ゴリラ!? なんで!?
何で ゴリラ がこんなヨーロッパの古城にいんの!?」
「実験の一環に必要ということでヨーグルトで釣って捕まえてきた。…と、あの老人──セイント・バレンタインは言っていましたが…」
「実験!? ゴリラ で!? いったい何を!? それにゴリラの好物ってバナナじゃないの!?」
「その研究の産物で道具を使用してですがゴリラとの意志疎通が可能になりました。それとゴリラの好物がバナナというのは勝手なイメージで実よりも寧ろ茎や若芽を好んで食べます。あとグーではなくパーで胸を叩いて音を鳴らします。他にも…」
「言っている途中ですいませんけど、ここは ゴリラ を研究する研究所か機関か何かですか!?」
真面目な顔で語る咲夜からゴリラに関する無用な知識を取り入れつつ、林の中にいるような錯覚を起こす広大な中庭を早足で駆け抜けていく。
その道中、私の背後を影のように走る美鈴が何かを感知したのだろう。
「お嬢様、気をつけてください!
周囲から生き物の気配、おそらく咲夜さんの仰るゴリラの群れです!」
声を大にして張り上げる彼女。だが時すでに遅かったか、私たちの左右にある草むらがガサガサと音を立ててざわめく。私たち以外の何者かが姿を隠して並走している複数の気配。
やがて、草むらと木々の隙間を縫って全身黒色の──ゴリラの群れが飛び出し、私たちの後ろを陣取ってこちらの跡を追う。
「モヒカンならともかく、相手は絶滅危惧種に指定されておるゴリラじゃ。むやみに倒すわけにはいかんぞ」
「どうする小娘?」と走る速度を落とさずに走りながら問いかけてくるティアラ婆さん。
存在自体がおかしい老人マッチョのくせにこんな時にだけ至極真っ当なことを言う。
絶滅危惧種とはいえ、こちらに危害を加えるようなら一戦を交えることに躊躇いはない。
面倒だなと思いつつも私がゴリラを迎撃をするよりも早くボーボボが動いた。
「安心しろレミリア!
目には目を! 歯にはハオ様!」
「ハオって誰よ!? それに何で様付け!?」
「シャーマンキングに出てくるラスボスだ!
とにかく、ゴリラには同じゴリラをぶつければいい!
出でよ! ゴリラ召喚!」
言うな否、ボーボボが手を翳した前方の空間に「ぽんっ!」と軽い音と煙とともに現れたのは……一応メスなのか、後頭部に大きな赤いリボンをつけた一体のゴリラ。
「さっきティアラ婆さんが倒したモヒカンにゴリラの着ぐるみを着させた。コイツをオトリにしよう。
なーに大丈夫だ。全身に接着剤を塗ったくったから、そう簡単には脱げない」
「鬼かアンタは!?」
「よし行ってこい! オトリ作戦だ!」
私の非難も何のそのゴリラ(モヒカン)の背に思いっきり蹴りを入れて蹴飛ばすボーボボ。
哀れモヒカンは一直線にゴリラの群れの中に吹っ飛んでいき、あっという間にゴリラたちの中に埋もれて…
「 あ″あ″あ″あ″ぁ″ぁ″ぁ″っっっっ!!!? 」
モヒカンのおぞましい艷声が木霊した。
「よし、今のうちに行くぞ!」
「え? あ、うん…」
ボーボボの指示の下、私たちは今もなおゴリラの群れにもみくちゃにされているモヒカンをその場に置き去りにして先を急いだ。
少女移動中 NowLording...
古城の雰囲気にそぐわない鉛色の金属質でできた扉。その横にあるパネルを咲夜が慣れた手つきで操作すると扉が左右にスライドし中へと入っていく。
私たちも入ってみると、ちょっとした小屋ほどの大きさはあるだろうか…? その大きなエレベーターの中、出入口付近にあるパネルの前に私たちに背を向けた咲夜が口を開く。
「このエレベーターで99階まで降りることができます」
扉が閉まり、小さな揺れとともにエレベーターが下へと動き出す。
「──そのさらに下、地下100階にはこの組織が今まで捕まえてきた妖魔や妖精が囚われています。
この組織が扱う神秘や魔術は彼らを触媒にして発動させるものだと、セイント・バレンタインが言っていましたので…」
「なるほどね」
うちに居候している魔女や八雲紫が管理する幻想郷なら兎も角、神秘や奇跡が失われつつある今の時代に組織がそういった力を持っているのには理由があったようで……すなわち、その力の源を排除、及び無効化させれば────
「ここに囚われている妖精たちを解放すれば、ここにいる連中は弱体化──場合によっては力を失う。…というわけか?」
確認の意味を兼ねて問うボーボボに咲夜は無言で頷いてみせる。
「ならばオレたちのすることは決まったな、倒された首領パッチのためにも」
なぜか首領パッチの遺影を胸に掲げた天の助が涙を流しながら熱く語り……ボーボボがそっと彼のそばに近づいて肩に手を乗せる。首領パッチに関しては自業自得な気がするのだが…
「天の助、もう泣くのはよせ」
「ボーボボ…」
「首領パッチという存在はいねぇつったろ!?」
「へぶっ!?」
渾身の右ストレートを天の助の顔面に叩き込んで黙らせた。
いったい何がボーボボをそこまで駆り立てるのかは知らぬが……そんなことをやっている間にどうやら目的地に着いたらしく重厚な音を鳴らしてエレベーターが止まった。
「エレベーターで行けるのは99階までです。
100階へ行くためには99階にある階段を利用しなければ降りることができません。
それに残った敵が待ち構えているのも、おそらくこの階でしょう」
気配を察する能力に長けた美鈴の方へ顔を向けると小さく頷いて咲夜の言葉に肯定を示し、当然のようにボーボボが意見を出す。
「それじゃあ、扉を開けると同時に天の助を外に放り込んで様子を見てみるかレミレア?」
「そうだね。咲夜、扉を開けてちょうだい」
「わかりました。少々お待ちください」
「え? オレの意思は?」
天の助の意思は無視されて話が進められていく。
扉が半分ほど開かれボーボボが天の助の頭を掴んで投げる体勢に入ったときに…
「いや、ワシが行こう」
ティアラ婆さんがスッと前に出てそのままエレベーターの外へと出ていってしまった。
ティアラ婆さんを目で追い、彼女の向かう先には軍服にベレー帽を身につけた厳つい顔のゴリラ。ついでに葉巻なんぞ吸っている。
「そういや、お前さんがたにはワシの苗字を言ってなかったのぅ…」
鍛え上げられた逞しい背中をこちらに向けたまま、顔を振り向かずにティアラ婆さんは私たちに言った。
──バレンタインじゃ、
ワシの名は『ティアラ・バレンタイン』じゃよ?
名乗りを終えると軍服姿のゴリラは恭しく彼女に頭を垂れ、次いで薄暗い部屋に明かりが灯され部屋の全容が明らかになる。
鋼鉄の壁でできたドーム型の建物の内側。
世紀末ファッションのモヒカンが多数。
さらに青いボディに単眼、四本足というどこぞの殺人機械が数体。それらが私たちを待ち構えていた。
「さあ、楽しいパーティーを始めようか?」
軍服姿のゴリラが流暢な人間の言葉で話しかけ…
「「 ゴリラが喋った!!!? 」」
咲夜を除く、私を含めた紅魔館陣営は物凄く驚いた。
(´・ω・)にゃもし。
この作品とは別にもう一つ連載しててツラい。