レミリア と ボボボーボ・ボーボボ   作:にゃもし。

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婆さん一人でよくね?

 

 

黒いビキニを着けているものの、上半身はほとんど裸に近い格好の婆さん。

だが彼女の肉体は……一言で言えば マッスル だった。

 

そんな屈強な肉体を持つ婆さんが上半身をほとんど動かさず今にも敵に襲いかからんばかりに両腕を前方に、地面に足跡をくっきりと跡を残しながら前をひたすら走る。

ぐわははは」と豪快な高笑いを上げながら──大型の草食獣、あるいは巨大な重機のごとく辺り一帯に爆音を響き渡らせつつ、地を揺らしながら森の中を爆走していく。

 

婆さんが走り行く先々では野性の勘か、はたまた婆さんの発する存在感に怖じ気づいたのか、鳥たちが大空へと飛び立ち、獣たちは我先にと逃げるように離れていく。さながら海を二つに分けるモーゼのように…

 

その婆さんの後ろを走るのは私たち紅魔館のメンバー。

私は地面すれすれを己の翼で滑空し、右隣には美鈴が地面を蹴って跳びながらの移動を繰り返し、左には天の助を下敷きにして上に片膝を曲げて乗っかるボーボボが地面を滑るようにして移動をしており、彼の肩には首領パッチがしがみつき、背中にひっつくように咲夜が乗っている。

乗用車ほどの速度を出しているにも関わらず私たちの先を行く婆さんとの距離は一向に縮まらない。

 

 

「何者だあの婆さんは? 俺たちのスピードについてこれるどころか、先を行っているぞ」

 

「いやいや、あの婆さんボーボボが連れてきたでしょ!? 何で知らないのよ!?」

 

「レミリア。人の過去は根掘り葉掘り聞くもんじゃないぞ?」

 

「どこをどう見ても怪しいでしょ!? 何でうちに連れて来たのよ!? あれ!!

 

「おい、ボーボボ。それよりも天の助から魂っぽいのが出かかってるんだけど、大丈夫なのか?」

 

 

私たちの会話に割り込んできた首領パッチが指差す先──天の助の後頭部からは体が透き通った小さな天の助が出ていた。さしもののボーボボも「ヤバいな」と口にしたが……だからといって、それで止まるようなボーボボではない。速度を落とすことなく、天の助の身の安否などお構い無しに走り続ける。

 

それから走り続けること数分。森が途切れて川へと辿り着いた。

その川にかけられている和風の作りの橋の前まで移動すると、誰からともなく私たちは足を止める。

川の向こう岸に三人のモヒカンがいたからだ。

 

 

フンっぬ!!!!

 

 

いの一番に婆さんは首領パッチの頭を片手で鷲掴みにすると「 隕石落とし(メテオ・ストライク)!! 」という技名を叫びつつモヒカン目掛けて投擲。

重さを微塵に感じさせない速さで飛んでいく首領パッチ。──しかし、橋の半ばで見えない壁にでも激突したかのように空中で大の字で停止し……そのままズルズルと落ちた。

 

 

「小癪な、モヒカンごときが小細工を…」

 

 

獰猛な肉食獣のように嘲笑う婆さんにモヒカンたちが怯えるのは致し方無い。

モヒカンの一人が指先を震わせながら私たちの横を指す。そこには一枚の立て札が立てられており、その内容は──

 

 

この橋 渡るべからず

 

 

…と 日本語でかでかと書かれていた。

えーっと、トンチ…? なんで? しかも日本語。ここヨーロッパだよね?

困惑する私に天の助がもっともらしいことを言う。

 

 

「なるほど。トンチを用いた結界術。

 このトンチを解かなければ向こう岸には渡れない──ってわけか…」

 

「なにそれ!? それ結界としての機能を果たしているって言えるの!?」

 

「まったくだ。こんなもん橋の()ではなく、橋の()()()を渡ればいい」

 

 

自信満々に橋の真ん中を「簡単♪簡単♪」と陽気に歩いて進んでいく天の助。

彼が倒れた首領パッチの下まで辿り着くと……二人の足下──橋の真ん中に突如巨大な大穴が空いて二人を呑み込む。

 

 

「ぬぉぉぉっ!! プルプル真拳奥義 手足伸天!!!!

 

 

──あわや川へ落ちる寸前に手足を伸ばして橋の手摺を掴んで難を逃れる天の助。背中にはうまい具合に白目を剥いて気絶した首領パッチが乗っかった。

 

 

「気をつけろ天の助!! その川には…」

 

 

両手両足をプルプル震わせて今にも落ちそうな天の助にボーボボは声をかける。

 

 

イリエワニ が棲息しているんだ!!!!

 

 

 

 

イリエワニ

世界最大のワニ。主に東南アジアに棲息。体長は最大で6メートルを超える。

草食獣はもちろんのこと、ときには人を襲うことがあり犠牲者が跡を絶たない。 獰猛

 

 

 

 

「なんでそんなものがヨーロッパにいんのよ!?」

 

 

水面付近で獲物が落ちてくるのを今か今かと待ち構える巨大なワニ。その数は多く、川を埋め尽くさんばかりである。

そのワニの出所と思わしき場所を咲夜が答えた。

 

 

「あのワニは組織が実験のために飼われていたものです。

 私たちの襲撃に対して川に放ったのでしょう」

 

 

なんとも傍迷惑なことをする。

それだけモヒカン連中は切羽詰まっているのだろう。

天の助と首領パッチを放っておくわけにはいかず、私が空を飛んで二人を回収しようとしたその矢先に婆さんが動いた。

 

 

「安心せい。ワシがこのトンチを見事解いて、道を切り開いてみせようぞ」

 

 

言うな否、川へ頭から飛び込む婆さん。当然、ワニたちが気づかないハズもなく婆さん目掛けて一斉に飛び掛かる。

 

水飛沫を激しく上げ、大口を開けて迫り来るワニ。

婆さんは慌てず騒がず冷静に、そのワニのアゴに下から拳を突き上げ──ワニの巨体を上空に打ち上げた。

それも一匹だけではなく、()()のワニがである。

 

 

廬山昇龍覇!!!!

 

「なんか婆さんがスゴい技を出した!?」

 

 

宙に舞う無数のワニたちはほどなくして頭を下にして落下。頭を水面に強く打ち付けて気絶。腹を上にして水面に漂う。

妨害するものがなくなり川を悠々とクロールで泳いで渡る婆さん。

向こう岸に辿り着き、川岸に上がった婆さんはモヒカンたちに言った。

 

 

「くっくっく。どうじゃ? キサマらのトンチは解いてみせたぞ?」

 

力業 でしたけど!?」

 

「今度はこちらのトンチを見せようぞ?」

 

 

ワニを素手で仕留める婆さんに敵わないと悟ったか、いきなり婆さんに背中を向けて逃げ出すモヒカンたち。

正しい判断だが、さすがに遅すぎた。

婆さんは右拳を地面に思いっきり叩きつけて局地的な地震を起こしてモヒカンたちの動きを止めると…

 

 

ターボ・ババア・タックル!!!!

 

 

腕を交差させ、身を低くした体勢でモヒカンたちに突進。

モヒカンたちは勢いよく上に撥ね飛ばされ、やがて先のワニたちと同じく頭部を地面に向けて落ちていき、受け身を取れないまま地面と激突。口から血を吐いて気を失う。

 

 

「トンチのトンは重さの単位であり…

 トンチのチは血飛沫の を表すのじゃ!!

 

んなトンチがあってたまるか!!

 

 

ワニを素手で倒し、モヒカンたちを蹴散らす筋肉ムキムキの婆さん。

正直、私たちがいる必要があるのか疑わしい。もう婆さん一人でよくね? そんな視線をひしひしと感じる。とくにボーボボと復活した天の助と首領パッチから…

 

 

「これだけ強ければ何も私たちに頼み込む必要はなかったんじゃないですか?」

 

 

美鈴が私たちが心底思っていたことを述べると…

 

 

「相手が魔法使いとか雇ってきたときのための対処法じゃ」

 

「いや、 婆さん なら大丈夫でしょ」

 

 

ティアラ婆さんの理由にすかさず言う私に他の面々も思っていたのか「うんうん」と何度も頷いたのは言うまでもない。

 

 

「それにモヒカンたちの巣の入口がわからんからな… お前さんがたなら知っているかもしれん、と思ってな? いちおう怪しいと思ってるとこはあるんじゃが…」

 

 

モヒカンの巣って、本格的にモヒカンを害獣扱いしてるぞこの婆さん。…とはいえ秘密結社が使ってる隠れ家が一般人に見つからないようにカモフラージュするのはごく自然。私たちはティアラ婆さんのいう怪しい場所とやらに案内されることにした。

 

そこは薄暗い森の中にひっそりと建つ古びた中世の城。ところどころ蔦で覆われており、正面にある城の入口の門扉の両脇には鎮座するガーゴイルの像が二体。さらに見張りらしき二人のモヒカンが絶えず周囲に目を配っている。

 

 

もはや怪しいっていうレベルじゃないんですけど!?

 

 

私たち紅魔館一行は数多の困難とトラブル、紆余曲折を得て遂に目的地に辿り着いた。

 

 




(´・ω・)にゃもし。

日本人だけど、日本語って難しいって思うときがある。

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