ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか?   作:ハヤさん。

6 / 11
良い事言った気がする。


第五話[影入斬裂/シャドウケイズ]

 

第5話

[影入斬裂/シャドウケイズ]

 

 

「つ、ツキ様···ホントにいいんですか···?」

 

「勿論ですよ。ルミナさん、あなたは強くなりたいのでしょう?」

 

ツキ様から渡された二本の剣、[月夜見ノ双月]。なんでも、神の力が注がれた剣だそうだ。鞘に刻まれた文字が、神秘の力を秘めていることを窺わせる。

 

「···私は、これまでルミナさんにたくさんお世話になりました。そしてこれからも、たくさんお世話になると思うのです。だから、私はルミナさんの力になりたい」

 

ツキ様は、潤んだ瞳で俺を見つめ、手を握ってくる。その手はとても暖かい。

 

「この剣で、もっと強くなってほしいのです。私を、頼ってほしいのです」

 

「···ツキ様···」

 

俺は、剣を置き、躊躇い無くツキ様に抱きつく。強く強く抱き締める。そして、眼からポロポロと涙が溢れてくる。あぁ、俺は···このファミリアに入って良かった。

 

「ツキ様···!!!ツキ様···!!!」

 

「ふふっ···どうしたのですか?ルミナさん?」

 

「うわぁ···あぁ···!!!あり、がとう···ございます···!!うぅ···!!」

 

「···はい、どういたしまして···」

 

ツキ様は俺の背中をポンポン、と叩いた後、優しく撫でてくれる。

 

ツキ様と出会えたのは、間違いなんかじゃない。何も間違っていない。だってこんなにも暖かくて、幸せなんだから。だから、きっと

 

 

 

"俺達がダンジョンで出会ってしまったのは間違っていないんだ"

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ツキ様ー?行ってきまーす?」

 

「ふぁ~い···お気をつけて~···」

 

···可愛いな。じゃなくて!!!

 

俺はあの後、恥ずかしさのあまりベッドに籠ってしまった。しかし、ツキ様が俺のベッドに入ってきた時はどうしようかと思った。柔らかい感触が背中に伝わり、夜は一睡もできそうになかったので、ツキ様が眠ってしまうまで待ち、寝たらツキ様を抱き上げ、ベッドまで持っていった。···何も破廉恥な事してないよ!?ホントだよ!?したくなったけど我慢したよ!!!なんて事言ってんだこの馬鹿!!!

 

俺はツキ様からいただいた、深紅の胴板と籠手を嵌める。陽光に照らされ、紅い光が反射する。うん、ピッカピカだ!!!

そして後ろ腰に、[紅桜]を装着する。これは、他の武器の扱いもしておいた方が良い、というツキ様の計らいだろう。本当に良い神様だ。

そして、両腰に[月夜見ノ双月]を装備する。特徴的な形をした刃、三日月の装飾が施された黒い鞘。こんなに凄い剣を今まで見たことが無い。そういえば、何でツキ様はこれを持っていたんだ?···まぁいいか。ツキ様の事だ。何かあるんだろう。

 

俺は足取り軽やかに、ホームを飛び出した。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「お、来たねルミナ君」

 

「おはようございます、セツナさん」

 

豊饒の女主人に着いた時にはもう、セツナさんは、モーニングのコーヒーを飲んでいた。うわぁ···この人ホントに女性?めちゃくちゃかっこいいんだけど···。

 

「おはようございます、ルミナさん」

 

声のした方を見ると、いつもの従業員の制服に戻ったリューさんが笑顔で挨拶してくれた。···ここに通い始めた頃は、挨拶してくれなかったのにな···うん、頑張った俺。今はとっても嬉しい。

今日もリューさんは、綺麗だ。

 

「あっ、おはようございますリューさん!!」

 

「···ふっ、私には!マークが付きましたね」

 

「ふん、抜かせ。私は私のキャラ上、!マークが付かないだけだ」

 

···え?何の話してんの···?何かツッコまなきゃいけない様な···?

 

「こら二人共!!そういう話しない!!!」

 

突っ込むべきか、突っ込まないべきか悩んでいたとこに、木のお盆が二人の頭に炸裂する。おぉお見事。ていうか、何で今の話分かったん···?

 

「シルさん···」

 

「あっ、おはようございます、ルミナさん!!!」

 

···二人をぶっ叩いた人とは思えない清々しい笑顔としゃきっとした挨拶。お見事です、シルさん。何で叩いたのかは聞かないでおこう。うん、懸命な判断。

 

「もうー、"ベルさん"が居なくて良かったですよー、居たら叩けないし···」

 

「居なくても叩かないでください···」

 

「それは無理♪」

 

···ベル···?ベル···って、まさか!!!

 

「シルさん!!ベルって···[ベル·クラネル]ですか!?」

 

「え?あ、はい。ベルさんなら、確か10分前ぐらいにダンジョンに行かれたと思いますけど···?」

 

「ダンジョン行ってきます!!」

 

俺はバベル目掛けて駆け出す。10分前ならまだダンジョンにいるはずだ!!!うおおおおお!!!待ってろよベル·クラネルうううううう!!

 

「お、おいルミナ君!!ファミリアの件はどうなったんだー!?」

 

後ろからセツナさんの声が聞こえるけど今はそれどころじゃない!!!(当初の目的を忘れる失態)あれ···?何か忘れてるような···?まぁいいか!!!

 

「···はぁ、しょうがない。追いかけるとするか···リュー、お代ここに置いておくから。釣りはとって置いてくれ」

 

「はい···あの、明らかに足りないんですけd」

 

「さらばだ!!!」

 

セツナは疾風のように駆け出し、ルミナを追っていった。そして、取り残される従業員二人。

 

「···次あったら腕の2、3本は覚悟してもらいましょう」

 

「うん。リュー?1本多いからね?それだと背骨までいっちゃうよ?」

 

さして問題では無いでしょう いや大問題だよ···

 

 

 

今日も、平穏ではない1日が始まる。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「はぁ、はぁ···」

 

「ベル様!!!次、数は···3体です!!」

 

「うん!!ありがとうリリ!!」

 

ダンジョン11階。白髪の少年と、茶髪の背の低い少女がダンジョンモンスター[ゴブリン]と[オーク]と会戦していた。その数、合わせて七。

 

「はぁあ!!!」

 

しかし、少年にとって、それはあまり問題では無かった。彼こそが、最速でレベル2へ上がった[世界最速兎(レコードホルダー)]、[ベル·クラネル]。

小柄で華奢な体から放たれる、高速のナイフと蹴りは7体のモンスターを倒すのに十分、いやそれ以上だった。空中に飛び上がり、オークを串刺しにし、周りに群がるゴブリンを回転蹴りで消滅させる。

しかし、少年も無敵ではない。背後の死角からゴブリンの棍棒が放たれるのにベルは気づかなかった。しかし、ゴブリンの手は途中で止まり、代わりに苦しげな呻き声を放つ。リリの腕から放たれた矢が、ゴブリンの眼球にヒットしたのだ。

 

「ベル様!!」

 

「ありがとうリリ!!はあぁ!!!」

 

逆手に持ったナイフがゴブリンの首を吹き飛ばし、残った体が力無く地に伏し、黒灰と化した。

 

「うん、こんなもんかな。結構魔石も貯まったし···」

 

「そうですね。今日はこのぐらいにしておきましょうか」

 

二人分の魔石入れはパンパンに膨らみ、中には大小様々な大きさの紫の光を放つ魔石が光っていた。これが、モンスターの核(コア)となる部分であり、冒険者の主な収入源。今日も大漁だ。

 

ウオオオオ!! マチタマエルミナクン!!

 

「···?ベル様、何か聞こえませんでしたか?」

 

「えっ?何が?」

 

「??気のせいでしょうか···?」

 

「ウオオオオオオォ!!!」「待ちたまえルミナ君!!!」

 

「···大丈夫だよ、リリ。気のせいじゃない」

 

「デスヨネー」

 

うん、僕にもちゃんと聞こえた。しかし···誰の声だろう···?何か荒ぶってるっぽいけど···

 

「はぁ、はぁ···あ!!そこの人!![ベル·クラネル]って冒険者を見かけませんでした!?

 

綺麗な金髪を振り乱し、汗を流す冒険者。え?何で、僕の事···。

 

「···へ?僕に何か用ですか?」

 

「···え?あなたが、ベル·クラネル···なんですか···?」

 

何だろう、この人。会った事も、話した事もないんだけど···。

 

「···嘘だっ!!(声高め)」

 

「いや、本当なんですけど···」

 

何だ、何なんだこの人。格好は···黒いコートに、紅いチェストプレート。紅いガントレット···二本の剣、そして、後ろ腰にある一本の刀。装備は何か凄いな···

 

「おい、ルミナ君。どうしたっていうん···あぁ、なるほど」

 

「えっ?セツナさん···やっぱりこの人がベル·クラネルなんですか!?」「いや、本人が言ってるんですけど」

 

「あぁ、正真正銘、彼が[ベル·クラネル]だ。」「だから本人g」

 

「···嘘だっ!!(声高め)」

 

うわ、ネタの使い回ししたよこの人。もう一人の人は、濃い茶色がかったブラックローブに身を包んでいるが、隙間から鎖帷子(くさりかたびら)が見える。結構な重装備だ。

 

「っ!!ベル様、お話している場合では無いようです!!」

 

「僕だって好きでやってるわけじゃないよ!!!」

 

モンスターが再び沸いてでてきた。数はかなりある。目視できるだけで···およそ15体。結構な数だ。だけど、今のこの人数ならやれる。連携とかできないけど···ごり押しなら!!

 

「···私が"殺ろう"」

 

声がしたかと思った刹那、黒いローブの人が消えた。一瞬の出来事だった。

 

『影入斬裂/シャドウケイズ』

 

黒いローブの人がいた場所の地面から、黒い何かが伸びる。それはモンスターの群れにぐんぐん迫り、瞬間、斬裂音。

モンスターの至る部位が斬り刻まれていく。しかし、そこには何も無い。何も無いのに、モンスターは斬られていく。そして、一匹、また一匹と倒れていき、黒灰に変わっていく。何が、何が起こっているんだ···?

 

「これが私のスキル【影入斬裂/シャドウケイズ】さ」

 

「うわっ!?セツナさんいつの間に!?」

 

「はっはっは!!驚いたか諸君!!どうだ?凄いだろう?」

 

そう言って、ニンマリと笑う、セツナと呼ばれた黒いローブの人。本当に、いつの間に···?さっきまでいなかったのに···シャドウケイズ···影に入り、斬る···? !!そういうことか!!

 

「凄いですね···そのスキル···」

 

「そうだろうそうだろう!!はっはっは!!」

 

高らかに笑うセツナさんは、ご機嫌のようだ。

 

「···あの、ベル·クラネルさん···一度、ダンジョンを出ませんか?」

 

突如、金髪の少年から声を掛けられる。何だろう?

 

「あなたと、話したい事があるんです」

 

そう言って、少年はきっと僕の眼を見つめる。その眼には···何が描かれているのか分からない。ただ、僕の姿が写し出されてるだけだ。

 

「···リリ」

 

「···はぁ、しかたないですね」

 

リリも、しぶしぶのようだが、承諾してくれた。

 

「ありがとう、リリ。じゃあ、行きましょうか」

 

僕達は、ダンジョンの入り口に向かって歩き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

ベル·クラネル···やっと会えた···!!俺の、目標···!!!

てか

 

「セツナさん?さっきのあれ何ですか?」

 

「ん?あれかい?あれはな···私のスキルだよ」

 

「スキル?」

 

俺はスキルを一つも持っていない。まだ発現していないのだ。いいなぁ、スキル。欲しいなぁ、スキル。

 

「私のスキル[影入斬裂/シャドウケイズ]は、相手の影に潜り込む事ができるんだよ」

 

「えっ!?何ですかそのスキル!?チートじゃないですか!!!」

 

そりゃそうだ。相手は影をどうすることもできない。こちらがやりほうだいってわけだ。

 

「ところが、そういうわけにもいかなくてね···影の潜れるのは、ほんの十数秒間。それに私の影に攻撃を受けるとスキルが解除されてしまうんだ。それにその攻撃はダメージ二倍の補正付き」

 

「うわぁー···メリットとデメリットのパレードですね···」

 

「ははっ、その表現で合ってるよ。でも私はこのスキルが気に入っているんだ」

 

そう言って、セツナさんは、穏やかな笑みを浮かべる。確かに、そのスキルはセツナさんにぴったりな気がする。隠れて行動する、なんて攻撃が、彼女のイメージにぴったりだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「···ルミナさん?何であんなに慌ててダンジョンに向かったの?」

 

「それはですね、エイナさん···この人を捜していまして···」

 

「?あら、ベル君!?」

 

「ど、どうも。エイナさん」

 

俺達はダンジョンを出て受付ホールに戻ってきていた。ついでにセツナさんが倒してゲットした魔石を換金する。···ジャラジャジャーン···ジャン!!2400ヴァリス!!!うむ、まぁいい方だな。セツナさんに後でお酒ご馳走しようっと。

 

「それじゃベルさん。場所を変えましょうか」

 

「?何処に行くんですか?」

 

ベルはこてん と首を傾ける。仕草が動物みたいな人だな。うむ、最速"兎"の名は伊達じゃない。じゃなくて。そうだけども。

 

「[豊饒の女主人]です」

 

「あー、なるほど」

 

あれ?知ってる?そういえばシルさんが言ってたんだから、知ってるのも当たり前か。

 

「じゃあ行きましょうか」

 

 

 

~キング・クリムz(ry~

 

 

「それでですね、ベルさん」

 

「モグモグ···はい?」

 

俺達一行は、お馴染み[豊饒の女主人]で食事していた。今日もミア母さんは元気だ。こんなにも美味い飯をたんまり作ってくれて、おいたした奴にはしっかり厳しく叱って、悩んでる奴には優しく諭して。···そう言えば、俺には親の記憶が無い。ていうか、幼少期の記憶が無い。この街、[迷宮都市

オラリオ]に来たところまでは覚えているが、それ以前の記憶が途絶えている。俺に母さんがいたら、あんな人だろうか。妙に懐かしく感じる。

 

っと、昔話に浸ってる場合じゃないな。

 

「今日は、あなたに聞きたい事があるんです」

 

「聞きたい事、ですか?」

 

「はい。どうしても聞きたい事が」

 

今まで、ずっと聞きたかった事。彼の[強さ]について。その華奢な体の何処に、ミノタウロスを倒す力があるのか。1ヶ月半でレベル2に到達した、その成長の秘密を。

 

「あなたは、どうしてそこまで強いんですか?」

 

「···えっ···?」

 

突然ベルはうつ向き、黙りこんだ。まぁ、そうか。自分の強さをはいどうぞ、なんて見せる奴なんかいない。

 

しかし、ベルの返答は、俺の予想の180度反対の言葉だった。

 

 

 

「僕は、全然強くないですよ···少しも、早くも、強くも···」

 

そう言って、ベルは唇を噛み締めるように、また黙りこんだ。···は?少しも、強くない···?

 

「···あなたは強いでしょう···?多少の謙遜にしては、あんまりじゃないですか···?」

 

「そんな事ないです。僕は弱い。ちっとも強くもないし、早くもないんです。そんな事言うの、止めてください。僕は、まだ全然届いてないんですよ[アイズ·ヴァレンシュタイン]に···」

 

···そうか、そうか···。君は、そんな奴なのか···。なんか、残念だな···

 

普通、多少の謙遜はするにしても、強くありたいって言うのが普通なんじゃないか?なのにこいつは···弱い、強くない、早くない、届いてない···

 

あーもう···腹立つ。

 

パアアァァン!!!

 

喧騒に包まれる店に、乾いた音が響く。それは、俺がベルを平手打ちした音だった。

 

「···えっ···?」

 

「···お前、謝れよ。お前みたいな、へなちょこ野郎に、冒険者を名乗る権利はねぇ!!!!!!!!!!!!!!」

 

俺はひどく激昂する。腹立つ。ムカつく。自分を越えた奴が、こんななよなよした奴だと思うと、本当に腹立つ。

 

謙遜?まぁいいよ。俺つえー、なんて奴よりは増しだ。だけど、自分の強さを完全に否定する奴は、一番嫌いだ。こいつからは、強くなりたいと思う気持ちも伝わってこない。自分の力をもて余す、雑魚だ。そんな奴に、冒険者の名を汚されてたまるか。

 

分かってる。このベルという少年は強くなりたいんだろう。そんなのは誰だって分かる。そうじゃなきゃ、ミノタウロスなんてたおせない。

 

「お前は、ミノタウロスを倒したんだろ!?!?レベル1で!!!!冒険者成り立てで!!!!その時のお前は、そんな雑魚だったのか!!!!そんな奴がミノタウロスを倒せるわけがねぇ!!!!強くないだ?ほざけ!!!レベル1でミノタウロス倒した奴が弱いわけねぇんだよ!!!!届かないだ?抜かせ!!!!届くための努力が足んねぇだけだろうが!!!!もしくは、気持ちが伴ってねぇんだよ!!!!強くなりたいって、あいつを越えたいって、想いが足んないんだよ!!!!」

 

ベルは半ば放心したような顔で俺を見続ける。俺の口は止まらない。

 

「冒険者は、誇りある戦士だ!!!!自分の力を信じ、自分の技を磨き、自分を強くすんだよ!!!!自分が強いって思えるまで!!!!だがな、ベル·クラネル、お前にはその冒険者の覚悟が、冒険者の誇りがねぇんだよ!!!!ふざけんな!!!!そんな奴が、冒険者の名を語るんじゃねぇ!!!!!」

 

最後にテーブルをバンッと叩く。あまりにも強い衝撃に食器がカタカタと揺れ、グラスに入った水が零れる。だが、そんな事は気にしない。俺は、まだ、言いたい事を言ってない。

 

「···なぁ、ベル。お前は強いんだよ、一級冒険者と遜色無いぐらい。アイズ·ヴァレンシュタインだって越えられる。その覚悟が無いだけだ。だから、少しでいい。自分を強いなんて思わなくていい。だけど、自分が今までしてきた努力を、積み上げてきたその強さに、自信を持てよ。誇りを持てよ。そうしたら、お前は[冒険者]だ」

 

 

冒険者は、そうでなくてはならない。自分の強さに心酔せず、鈍らせず、過信せず、強くあらなければいけない。自分の磨いてきた、積み上げてきた強さを、技を、想いに、自信と誇りをもたなければならない。そう信じているからこそ、俺はベルに怒りを感じたのだろう。いや、本当は、自分よりも強いはずのこいつが、なよなよしてるからイラついただけかもしれないが。

 

「···ルミナ、さん···」

 

「もっかい言うぞ。ベル、お前は強い。だから、少しだけ自分に自信を持ってみろ。誇りをもってみろよ」

 

「···すみません、でした···。そうか、そういうことだったんですね···強さって···。だから、あの人は強いのか···」

 

「分かったんなら、いい。すまなかったな、いきなりぶっ叩いたりして」

 

そういや、勢いでぶっ叩いてた。ベルの白い頬は、殴られた衝撃で赤く腫れている。やり過ぎたか···?

 

「いえ、良い喝でした···。ありがとうございます、ルミナさん」

 

「おっ、おう···。あのさ、ぶっ叩いた相手に、さん付けされるのも、な···

 

 

 

「そう?それじゃあ、···[ルミナ]、ありがとう」

 

 

そう言って、彼は晴れやかな笑みを浮かべる。そこに、弱々しい、迷いの色は無かった。そして、俺達は、自然と握手を交わした。その手は、強く、強く、俺の手を握っていた。

 

 

 

 

 

 

 

第5話

   [影入斬裂/シャドウケイズ]

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

···タイトル詐欺?知らんな!!!

 

というわけで、シャドウケイズ要素3%でお送りした、第5話ですが、読んでいただきありがとうございました。

 

今回の目玉は、ルミナ君の説教ですね。彼なりの強さは、ああいう事なんです。

 

自分に自信を持つこと。それはとても難しい事です。自分を越える壁にぶつかれば、その自信は、いとも簡単に崩れてしまいます。それを保ち続けるのは、長年の努力をしていた人ほど、難しいことです。自分の今までの努力は無駄だった、と"錯覚"してしまうからです。

 

努力は決して無駄になんかなりません。だけど、結ばれることも、報われることも、絶対では無いというのが現状です。生まれ持った力を持つ者の方が、有利に生きるこの世界で、努力なんていうのは、一撃で壊れるぼろぼろの剣です。

 

だけど、それで立ち向かわなきゃ、勝てないのがこの世界。だから、その剣を信じなきゃいけないんです。誇りを持たなければいけないんです。努力は、報われない、結ばれないと自分で納得し、それでもその剣で立ち向かうことができたのなら、その剣は、決して折れない鋼の剣となるでしょう。僕は、そう信じています。

 

 

次回予告

 

ついにツクヨミファミリアに入団したセツナ。そこでいきなり問題発生?ツクヨミとセツナ、どっちを選ぶ!?さらにそこに、リュー参戦!?

 

そして、強さの意味を知ったベルは、今日もダンジョンに潜る。自分の強さに自信と誇りを持って。しかし、その先にある運命は、残酷であった。

 

その名は[怪物進呈/パス·パレード]。容赦無いモンスター達の攻撃が、ベル達を襲う。その時、ヘスティアは!?ルミナ達は!?

 

次回、ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか? 第6話[怪物進呈/救出決行]

 

 




上のやつ後書きで書けば良かったと後悔。書き終わったあと、「あ! やべこれ後書きじゃねぇ!」ってなりました。許して...。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。