ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか?   作:ハヤさん。

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良い感じに仕上がってきました!!


第四話[刹那の剣/淀んだ三日月]

第4話

   [刹那の剣/淀んだ三日月]

 

 

「ところで、ルミナ君」

 

「モグモグ···はい?」

 

場所は[豊饒の女主人]。いつも元気なミア母さんと、従業員のシルさん、リューさんを筆頭に様々な女性店員が働いている冒険者の食い処。冒険者と従業員、そしてミア母さんの喧騒に包まれる店の中で、俺はミステリアスな雰囲気を放つ冒険者、[セツナ·クロカゼ]さんにお礼をするため、一緒に食事をしていた。

 

「君はどこのファミリアなんだい?」

 

「え、俺ですか?俺は[ツクヨミ·ファミリア]ですけど?」

 

「ツクヨミ···聞いたことの無いファミリアだな」

 

「えぇ。まぁそうでしょうね。最近できたばかりだし、ツキ様と俺一人しか居ない零細ファミリアですから」

 

事実、戦えるのは俺一人だ。それでも生活していけるのはxツキ様が趣味でやってる工芸品の売り上げがいいのと、何とか俺が稼いでいるからである。ツキ様の[お守り]が売れてなかったら、こんな生活できないだろう。しかし、今は違う。

 

「あっ、お金の事は気にしなくていいですよ!!突然変異のキラーアントを倒したお陰で、報酬が沢山入ってきましたから!!」

 

そう、俺はあの深紅のキラーアントを倒したお陰で、10万ヴァリスという大金が手元に入ってきたのだ。なんでも、"勇気あるその行動とギルドへの情報提供料"らしい。情報提供料というのはおそらく、あの深紅の装甲の破片を「突然変異種の研究に使ってほしい」と渡したからだと思う。これから変異種は増えるだろう。またあの深紅のキラーアントが出るかもしれない。あの破片を研究すれば、弱点や耐性が解るだろうし、何より何故変異したのか、が解るかもしれない。

 

「いや、お金の事じゃないんだ。その、君に頼みたいことがある」

 

セツナさんは、お酒の入ったコップをテーブルに置き、俺を正面に見据える。その灰紫色の眼には、一切の迷いも濁りも無い、綺麗な色をしていた。

セツナさんは一度深呼吸をし、少し俯いたあと、唇をきゅっと結び、口を開く。

 

「私を、君のファミリアに入れてほしい。君のため、君のファミリアの主神のために何でもする。だから、私を君の仲間にしてくれないか···?」

 

「···えっ···?」

 

 

世界が止まった。そんな気がした。

 

 

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「···ねぇ、リュー···」

 

「(カチャカチャ)···何ですか?シル?」

 

「あなたはこのままでいいの!?!?」

 

···シル、あなたは何を言ってるのですか?

 

ここは豊饒の女主人、調理場。今日も家は大盛況で、山盛りの食器やらグラスやらが水洗場を占拠していた。この量は、凶悪だ。あ、これ一度言ってみたかったんです。え?小説でも、アニメでも言ってるって?気にしたら死にますよ?

 

「何がですか?」

 

「何がって···ルミナさんとあの黒い"女の人"の事!!!」

 

「···この量はきょうあk」

 

「はいそこ逃げなーい」ガシッ

 

何でこんな時ばっかり早いんだこの娘は?私が皿洗いに戻ろうとした腕を飛燕のような速さで掴んできた。何なのだ、本当に。

ルミナさん···なんて···

 

「···私は、気にしてませんから」

 

「···なんで、そんな事言うの···?」

 

なんで、そんな事を···?そんなの決まってる。

 

「私の、血で汚れたこの手を、彼が、握ってくれるはずがないから···」

 

そうだ。私の手は、濁った紅い血で汚れている。私が、誰かと結ばれるなんて、そんなおとぎ話を夢見てはいけない。それはきっと、相手に多大な迷惑と後悔が襲いかかる。そして、私は恨まれるのだろう。想いが通じあった相手に恨まれるのは、死ぬ事のように辛い。いや、それがルミナだったら、死以上かもしれない。私は、それが恐い。

 

「···そんな事、関係無いよ。私が聞いてるのと違うよ!!!」

 

突然、いつも温厚で穏和なシルが、私に叫ぶ。その眼は、明らかな怒りを孕んでいた。シル···?

 

「私が聞いてるのは、リューが、ルミナさんの事、[好き]なのかってこと!!!」

 

「しっ、シル!?!?!?」

 

突然、何て事を言い出すのかこの娘は!?ルミナさんに聞かれてたら···!!!

すると、シルがいやらしい笑みを浮かべる。

 

「ふふっ。今、ルミナさんの事考えたでしょ?」

 

「っ!?何で、それを···?」

 

「いいんだよ。それは相手を意識してる証拠だよ。ルミナさんの事を思ってる証拠。···リュー、あなたの手は、確かに血で汚れてるのかもしれない。ううん、実際そうなんだと思う。だけど、それに縛られなくていいんだよ?いつまでも、そうやって引き摺っちゃだめだよ。それに、ルミナさんなら、それを洗い流してくれるよ、きっと」

 

···シル···。

そう、なのか?私は、縛られなくていいのだろうか?ルミナさんなら、私のこの両手を取り、こびりついた血を洗い流してくれるのだろうか?あの優しい青年は、"私の手をとってくれるのだろうか?"

 

いや、きっとそうだ。彼は多分、縛られていても、引き摺っていても、全部抱き締めてくれる。全部受け止めてくれる。そういう人だ。

私は、良い友人を、いや"家族"を持ったな。

 

「···ありがとう、シル」

 

おそらく、私は穏やかな笑みを浮かべているだろう。それが分かるくらい、私の心は暖かかった。

 

「···!!うん!!!」

 

私は一度、深呼吸をする。もう一度、自分の気持ちを確認する。そしてそれを貫く覚悟を決める。どんなに汚れていようと、縛られていようと、引き摺っていようと、私は···

 

「···やっと決心がつきました。私は···ルミナさんが、好きです」

 

私は、彼が好きなのだ。この思い、そしてルミナさんを、もう壊させはしない。初めての恋を私は護りたい。

そうと決まったら、何かルミナさんとあの黒い女性が楽しく話しているのを見ると、腹が立ってきた。

 

「···ちょっと行ってきます。ミア母さんに言っておいてもらえませんか?」

 

「!!うん!!頑張って!!」

 

私の足取りは、速く、そしてとても軽かった。

 

 

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「俺のファミリアに···?」

 

「そう。君のファミリアに」

 

···マジすか···?マジすか···?一人で頑張って早数ヶ月。ついに、俺にも仲間ができるのか···!?しかも、こんな凄そうな人が···!?

 

「あ、あの[すみません、ルミナさん]わっ!?あ、リュー、さああああああん!?!?」

 

俺は、知り合いの声に少しびっくりするも、聞いた事のある声に安心して振り向く。しかし、そこにいたのは、リューさん···なんだけど、いつもと違う···もはや別人だ。

リューさんに良く似合う深緑のワンピース、エメラルドを嵌め込んだイヤリング、ほんのり上気し、紅く染まった頬。そして、それらにより、より一層綺麗に見える、吸い込まれそうになる緑色の瞳、整った顔立ち。

そこにいたのは、いつも以上に綺麗になった、リュー·リオンだった。

 

「りゅりゅりゅりゅ、リューさん!?!?そそそ、その格好は!?」

 

うわああああ!!!何かもう凄すぎて、ろれつ回んねーーーー!!!

 

「あぁ、えっと···ミア母さんに今日は休みを貰って、たまたまルミナさんを見掛けたので···」

 

「偶然ナイス!!!!!」

 

あっ、思わず声が。

 

「···ところで、ルミナ君?彼女は···?」

 

···ごめんなさい、セツナさん。あなたの事忘れてました。完全に蚊帳の外でした···。

 

「す、すみませんセツナさん!!えっと、彼女は[リュー·リオン]さん。豊饒の女主人の店員さんで、俺の知り合いです」

 

···気になってる人です。

 

「あなたがセツナさんですね?噂は聞いております。私の知人を助けていただき、ありがとうございました」

 

リューさんが、セツナさんに向かって丁寧にお辞儀する。綺麗な服装と相まってより一層、その仕草は綺麗に見えた。

 

「いやいや、いいんだよ···それにしても、[知人]ねぇ···」

 

「はい?」

 

セツナさんが顎に手をあて、リューさんをまじまじと見る。

 

「ふふっ。[知人]のために、今やってた仕事を抜け出して、おめかしまでして来たんだね?ずいぶん[知人]思いだね」

 

ニコッと、セツナさんは、リューさんに笑い掛ける。何だろう、この笑顔は怖い。

 

「なっ···!?!?」

 

え?ドユコト?ドユコト?ドユコト?

 

「それにしても、何だね?私はルミナ君と楽しく食事をしているのだが」

 

「いえ、せっかく休みを貰ったので私も何か食べて行こうかと···ルミナさん、隣良いですか?」

 

何だろう···セツナさんとリューさんの間に、閃光が走っている気がする。すると、鼻腔を擽る、爽やかな柑橘類の匂いがした。隣を見ると、片手で髪をかき上げたリューさんが少し背を下げて、上目遣いでそこにいた。···俺の心臓撃ち抜く気か、この人。

 

「えっ!?あ、はい···やぁ、リューさんのそんな綺麗な格好初めてみましたよ」

 

「へっ!?あ、そうでしたか···」

 

「はい。とっても似合ってるし、綺麗ですよ。やぁ、いつも綺麗なのになぁ、こんなの反則ですよ」

 

俺は心からの素直な気持ちを述べる。うん、今のリューさんは洒落にならんぐらい綺麗だ。絵に描いて額縁に飾っておきたいほどに。

しかし、リューさんは顔を真っ赤にして、手をわたわたと忙しなく動かす。

 

「へっ!?あぅ···いや!?そんな事···ぁぅ···」

 

ぷしゅー、音を立てるかのように赤くなり手を膝におき(膝と言っても、あれ太ももの間ぐらいだと思う)俯く。···まずった···よくよく考えてみれば、さっきの台詞ってすんごく恥ずかしいやつじゃん···

 

「···むぅ···」

 

セツナさんは、何か面白く無さそうな顔してるし···どうしよ、この状況···。

 

 

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「ふぅー···結構食べたな···すまないなルミナ君、遠慮せずに食べてしまって」

 

「いえ、逆に遠慮なく食べてほしかったので、とても嬉しいですよ。リューさんも」

 

「へ!?あぁ、いや、ご馳走様でした···」

 

お金を払い終わり(ミア母さん、何故そんな眼で俺を見る?)メインストリートに出た俺達。そうだ

 

「セツナさん、ファミリアの事なんですが···」

 

「ん?そうだったな」

 

「はい。今日、ツキ様···ツクヨミ様に話してみます。でも俺は、セツナさんには家のファミリアに入ってほしいと、そう思っています」

 

セツナさんは、とても良い人だ。そう断言できる。だから、家のファミリアに入ってほしい。

 

「···そうか、嬉しいよルミナ君。それじゃあ、良い返事を待っているよ。そうだな···またここで待ち合わせにしようか」

 

「はい!!ありがとうございました!!」

 

セツナさんは、俺に手を振り、リューさんをじっと見つめる。そして、一瞬でリューさんの近くに行く。その動きに俺の眼はついていけなかった。

 

「···」

 

「···なっ!?」

 

···?何かリューさんに囁いたようだが、俺には聞こえなかった。何だったんだろう?リューさんに目を向けると、顔を真っ赤にして俯いているリューさんが目に入った。何があったんだ?

 

「あの、リューさん?」

 

「っ!?ひゃい!?」

 

ひゃ、ひゃい···?何ソレカワイイ。

 

「え、あ、あの···今日はありがとうございました···」

 

「あ、いえいえ。全然ですよ···あの、リューさん」

 

「はい?」

 

俺は一度深呼吸し、穏やかな笑みをリューさんに向ける。少しでも、この人の記憶の片隅に俺が残れるように、俺は口を開く。

 

「今日のリューさん、とても綺麗でしたよ」

 

「···!!ありがとうございます···」

 

リューさんも、俺に穏やかな笑みを向けてくれた。それは、夜の幃が落ちたこの街でも輝きを放つ宝石のようで、俺は恥ずかしくなり眼を背ける。駄目だ、これ以上このままでいたら理性が崩壊する。ここで、ずらかるとしよう。かなり名残惜しいが。

 

「では、俺はこれで。また来ます」

 

「はい、いつでもお待ちしております。ルミナさん」

 

この日は、俺の記憶の1ページに残るだろう。そして、リューさんの記憶の1ページにも残ってほしいと、夜空に輝く星々と、三日月に祈った。

 

 

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「ツキ様~?ただいま帰りましたー」

 

「あ!!お帰りなさい!!ルミナさん!!」

 

あぁ、癒される音色だ···音色ではなくツキ様の声だが。しかし、そこら辺の楽器より何百倍も綺麗な声だと思う。リラックス効果でもあるのか?この声は?

 

「ツキ様、あの···」

 

「はい?」

 

俺はバックパックを背中から外し、中を探る。そして、硝子の箱に仕舞われた、黄金の輝きを放つイヤリングを取り出す。

 

「これ···いつもお世話になってるお礼で···ツキ様に似合うかな、と···」

 

これは、豊饒の女主人からの帰り道、少々値の張る装飾品店に行き、買ってきたものだった。前から欲しいと思っていた物で、懐に余裕のある今買ったというわけだ。三日月の形をしたイヤリングは、ツキ様にぴったりだ。

 

「···これを、私に···?」

 

「はい。神々からしたら、安っぽい物なんでしょうけど···俺の感謝の気持ちを伝えたくて···受け取ってもらえないでしょうか···?」

 

「······ほら、やっぱり私なんじゃないですか···」

 

「はい?今何て?」

 

「いえ!!ありがとうございます、ルミナさん。私にとってこれは、どんな綺麗な神々の装飾品よりも価値のある、私の宝物です。大切にしますね!!」

 

「···!!ありがとうございますツキ様!!!」

 

ツキ様は、とても幸せそうな顔して、イヤリングを受け取ってくれた。良かった···。あれ着けたら、もっと綺麗になるんだろうな···早く見たい。

それじゃ、本題に入ろう。

 

「それでですね···ツキ様」

 

「はい、“セツナ·クロカゼ„さんの事ですね?」

 

「っ!?何でその事を!?」

 

おかしいな。セツナさんの事は朝話しただけで、ファミリアとかは話してないんだけど···

 

「そ、それはですね···私は、ルミナさんの事なら何でも分かっちゃうんですよ!!」

 

「な、なんだってー!?」

 

そんな、神にそんな力があったなんて···知らんかった···え!?じゃあ今までのあんな事こんな事までも!!!???そんな馬鹿な!?

 

「···だから、ルミナさん。あまり他の女の子達とイチャイチャしてはいけませんよ···?私、妬いちゃいますからね?」

 

「···へ?」

 

「それでは、そのセツナ·クロカゼさんついてですが、ルミナさんの考えを聞きたいですね」

 

···何か、最近のツキ様は変だ。何か、得体の知れない何かがあるような気がしてならない。俺が聞き返すと、話をはぐらかすし、さっきみたいに何でも知ってたり···まぁ、神様だし、そんな力があっても不思議じゃないか···。何はともあれ

 

「はい。俺としては、レベル2なったし、そろそろ中層に挑みたいのですが···さすがに一人では限界が来ると思います。いつかは、進めない壁にぶち当たる···そんな気がします。それに、話してみてセツナさんは、とても良い人です。何より、俺を助けてくれた恩人の願いに添えたいのです」

 

「···そうですか···。はい、分かりました。"彼女”のファミリア入宗を許可しましょう」

 

「···え?彼女···?」

 

「えっ?はい。セツナさんは、女性ですよ?」

 

「えーーーーーーーーーー!?!?」

 

マジかーーーーー!!!どうりでドキドキすると思ったああああああああ!!!やられた!!あの人女だったのか!!!!!!

 

「···あの、ツキ様。ありがとうございます···俺の我が儘を聞いてくれて···」

 

「いえ。子どもの我が儘を聞いてあげるのも神の役目、そして私の役目です。ですが、これだけは約束してください」

 

「はい?」

 

「仲間を、裏切らない事。見捨てない事。そして、信じる事。それが、仲間の条件です」

 

「···はい、分かっています!!!」

 

セツナさんを、裏切らない···そんな、裏切るなんて事、できるわけがない。だから、大丈夫。

 

「はい、よろしい!!! では、私の方からもプレゼントがあります。ルミナさんの装備が届きました!!!」

 

「えっ、ホントですか!?」

 

そう言えば、朝ツキ様に[深紅の装甲]渡したな···もう出来たのか···早いな···。

 

「えーっとですね···[深紅の胴板(スカーレットプレート)]、[深紅の籠手(スカーレットガントレット)]、そしてこれは追加で頼んだのですが、[紅桜]。これは一振りの片手刀です。では、どうぞ」

 

「うわっ···こんなに···!!!ありがとうございますツキ様!!!」

 

「いえ、これでこれからも攻略頑張ってくださいね」

 

「はい!!!」

 

「それと、私からこれを···」

 

そう言って、ツキ様は白い布で包まれた何かを手渡す。···?軽い。何だこれ···?

 

布を取るとそれは、見事な装飾施された鞘に納刀された、双剣だった。これは···!?

 

「それは、[月夜見ノ双月]。私の力が注ぎ込まれた、神の武器」

 

「···これが···!?」

 

 

 

「あなたに、これを振るう覚悟がありますか?」

 

 

 

 

 

 

第4話

   [刹那の剣/淀んだ三日月]

 

 

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ヤンデレって最高。

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