ダンジョンで出会ってしまったのは間違っていただろうか?   作:ハヤさん。

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ふぅ...疲れた。


第三話[強き者/月夜見ノ双月/黒き風]

 

第3話

   [強き者/月夜見ノ双月/黒き風]

 

 

レベル2、冒険者にとっての一番重要と言っても過言ではない、冒険者のステイタスだ。レベルが1違うだけでも戦闘力は大きく変わる。

 

遂に、今まで積み上げてきた努力が報われた。俺も漸く、レベル2だ!!!

 

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「あの···ツキ様」

 

「??どうしたのですか?ルミナさん?」

 

ツキ様との食事中、俺は唐突に口を開いた。

 

 

突然変異種、"深紅のキラーアント"との激戦から一夜明け、翌日。なぜか、俺より早く起きていたツキ様に朝を挨拶をし、一緒に洗濯物を干し(ああもう、ええ神様やぁ!!)、朝ご飯。

今日のメニューは黒糖パンと半分に切った茹で卵、こんがり焼いたベーコン、コンソメブロックを溶かして作った玉ねぎ入りコンソメスープ。うん、とても美味しい。

 

ホカホカの黒糖パンに少量のバターを塗り、溶けるまで待つ。トロリと蕩けてきたバターの甘い匂いを吸い込み、かぶりつく。舌を流れる黒糖独特の甘味とバターの香ばしい甘味が混ざりあい、思わず顔が蕩けそうになる。甘いものって素晴らしい。

こんがり焼いたベーコンを、ナイフを使って一口大に切り、肉汁が溢れ出す。うお、これは凄い。それではさっそく···

 

「···ルミナさん」

 

「あー···はい?」

 

口まで持っていき、ほうばろうとした瞬間、ツキ様が口を開く。なんだなんだ?

 

「···あーん、です」

 

そう言って、ツキ様は食べやすい一口サイズに切ったベーコンを、フォークに突き刺しこちらに持ってくる。え?あれ?はい?どゆこと?

 

「つ、ツキ様、こ、これは···?」

 

「···っ···!!!ち、巷で流行ってる神の食事法です!!わ、私あまりやったことないから、れ、練習しておこうと思いまして!!!」

 

···マジすか···?神様達何やってんの···?それ人間界ではやったら死ぬと言われる(否、殺される。)最終鬼畜奥義[はい♪あーん♪]じゃないですかぁ···!!!!

 

「···あああああ、あのおおおお!!!!そっそそ、そんな恐れ多いことを、俺がやるわけには!!!」

 

死ぬから!!!!余裕で鼻血吹いて死ぬから!!!

 

「い、いえ!!いつも頑張ってくれているルミナさんに、食べて欲しいのです!!!」

 

「いや、自分の分はありますから!!!」

 

「わ、私のベーコンが食べられないって言うのですか!?」

 

「めちゃくちゃ食べたいです!!!」

 

···やっちまったー···。

 

「ほら、そうでしょう···え?ルミナさん何て?」

 

しまった、口を滑らせてつい本音が···でも、食べたいよね?しかもあーんだよ?これが普通の反応であり人間として常識的な行動であって俺は何も悪いことはしてないつまり(ry

 

そんなこんなで、朝食は進んでいく。

 

それで、冒頭部分の俺の発言になるわけだ。メタいね。

 

「ツキ様、あの突然変異種のことで」

 

「え?まだ何かあったのですか?」

 

「はい、実は···」

 

俺は椅子の下に置いておいた白い布に包まれた板を取り出す。その布を巻き取り、その姿が露になる。

それは、光を反射する深紅の装甲。艶の掛かったその紅い光に一瞬目を眩ます。これは、あの"突然変異種/スカーレットキラーアント"を倒した際にドロップしたモンスターアイテム、[深紅の甲殻]。

 

「これのことなんですけど···」

 

「うわっ···凄いですねそれ!!」

 

「えぇ。それで、これをどうしようかなと思っていまして···」

 

モンスターアイテムなんて普段手に入らないから、どうしたらいいか分からない。

 

「そうですね···そうだ!!私が腕利きの鍛冶屋さんを知ってます!!これを機に、ルミナさんの防具を新調しましょう!!!」

 

「え!?そんな事できるんですか!!!」

 

あれ?どっかで見たことあるような流れ。

 

「もちろんです!!やりますか?」

 

「!!お願いします!!」

 

···被ったー···。

 

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「では、加工が終わるまで、ダンジョンに行っては行けませんよ?今日はゆっくり休んでください」

 

「はい、分かりました」

 

ツキ様に深紅の甲殻を渡し、俺は玄関で靴を履いていた。俺のガントレットとチェストプレートを元に作らしいから、今日1日暇だ。なので、街を歩くことにした。

それに、[会いたい人物がいる]。

 

「それでは行ってらっしゃい!!」

 

「行ってきまーす」

 

さぁて、[セツナ·クロカゼ]さんって、どんな人だろう?

 

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エイナさんから聞いた話だと、俺はその[セツナ·クロカゼ]という冒険者に、気絶して倒れていたところを助けてもらったらしい。

俺はそのお礼を言うために、掲示板に捜索表を張りに行っている。

 

掲示板は、街のいろんな人の悩みをクエストとして受けたり、誰かを探している時、捜索表を出して来てもらったりと色々便利な掲示板なのである。それは街の至るところにあり、俺は全部回っていった。

そして、最後の場所、酒場[豊饒の女主人]。

 

「こんにちはー」

 

「?あれ?ルミナさんですか!?ちょっと待っててくださいね!!!」

 

そこには、テーブルをせっせと拭く、豊饒の女主人店員[シル·フローヴァ]さんだった。振り撒く眩しい笑顔は、酒場に来ている冒険者の癒しの種らしい。俺もそう思う。

 

「あぁ、あの食べに来たわけじゃないんで···」

 

「リュー?ちょっと来てー?」

 

···え?···リュー···さん···?

 

「どうしたのですか?シル?まだ店は始まっt···」

 

階段を降りてくる、黄金の風。吸い込まれるようなエメラルドの瞳。整った異国風の顔立ち。彼女は、[リュー·リオン]

···俺の、"気になってる人"だ···。

 

「···るるるる、ルミナさん!?!?」

 

そんな人が、無防備な寝間着姿で出てきたら···?答えはこうだ。

 

「あわわわわわ(ブシュー)···きゅぅ~···」

 

正解は、鼻血を出して倒れる。これ正答。

 

「る、ルミナさん!?」

 

「あーぁーリュー、何やってんのー?」

 

「そんな事言ってる場合では!!あぁでもこの格好じゃあ···」

 

いつも冷静沈着、クールで淡白なリューでも、"気になってる人"の前では、それを失う。気になってる人の前では、普通の女の子になる。

 

「ふふっ···私が運んでおくから、リューは着替えて、"看病"してあげて?」

 

「···恩に切る」

 

リューは、名の通り風のように走り去っていった。

 

「さぁて···運べるかな···? あ!!!"ベルさん"!!!ちょっと来てもらっていいですか!?」

 

シルはシルで、頑張っているようだ。

 

 

~少年休憩中~

 

うぅ···ここは···?確か、女神を見たような気がしたんだが···ツキ様じゃないな···えーっと···

 

「···お目覚めですか?ルミナさん?」

 

女神が、そこにいた。

 

「リュー···さん···?」

 

···あれ、なんだ?この後頭部の感覚は?スベスベして、柔らかい。そして、整ったリューさんの顔が、寝ている俺の上にある。つまり···これは···?

 

「りゅ、リューさん!?こ、これは!?」

 

こりゃー···膝枕じゃないですかーーーー!!!!???

 

「いやあのこれは!!し、シルが看病するにはこれが一番効果的だと言われたので!!」

 

あの人何教えてんだ!!!! (てへっ☆※シルです)

 

「る、ルミナさん、あまり動いてはいけません···ふ、不本意ですが、このままいてください」

 

「···はい···」

 

うあぁ~···顔まともに見らんねぇー···。

俺は気まずくなり、目を背ける。しかし、リューさんは、頬を染めながらも、俺から眼を離そうとしなかった。そして、時折、俺の髪を撫でてくる。それがくすぐったくて後ろめたい事をしてるような気がする。身体を捩って堪えている俺を面白いと思ったのか、でも優しい笑みは消さず、ずっと俺の髪を、丁寧に五本の指を使って撫で続けていた。

 

そうして、のんびりとしたお昼前は過ぎていく。

 

 

「···リューさん···」

 

「はい?」

 

「···道行く方々が此方を見てるのですが···」

 

そういえば、店の前のベンチだった。ここ。

リューさんは、俺の顔を見てから、道行く人達を一瞥し、もう一度俺の顔を見る。そして、顎からおでこまで顔を真っ赤にしていく。

 

「やっ、あの···すみません!!!!」

 

リューさんは手をあたふた忙しなく動かし、急いでベンチから離れる。あまりにも早くベンチから離れてしまったため、俺は後頭部を強かにベンチに打ち付ける。いてぇ···。

 

「あ、あの大丈夫ですか···?」

 

「あ、あはは···大丈夫ですよ」

 

俺は後頭部を擦りながらベンチから起き上がる。さてと···俺は何をしにここに来たんだっけ?

 

 

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「うし···これで全部回ったかな···?」

 

やることは忘れてなかった。豊饒の女主人の店の掲示板に捜索表を張り、他の場所も回り終わった。こんだけ張れば、あの人にも目に入るだろう。

 

因みに内容は、[この紙を見たら、8時に[豊饒の女主人]まで。ルミナ·トゥルーレコード]。簡単な内容の方が怪しまれないと思い、簡潔に書いた。

 

「さてと···そろそろ時間かな···?」

 

もうとっくに日は暮れ、いい時間帯のはずだ。そろそろ行くか···

 

「···ルミナさん」

 

「わっ!?!?」

 

突然後ろから声が掛かる。でも、聞いた事のある、ドキドキする声。

 

「···びっくりしたぁー、リューさんかぁ···」

 

そこにいたのは、沢山の食材の入った紙袋をもった、リューさんだった。

 

「はい。すみません、驚かせてしまって···今買い出しの帰りなんです。確か、[セツナ·クロカゼ]さんという方を捜しているのですよね?」

 

「はい、来てくれると良いのですが···」

 

「···何故、その人を捜しているのでしょうか?」

 

「え?あぁ···ダンジョンで、俺気絶しちゃってたみたいで。それで、俺を入り口まで運んできくれた人が、セツナさんなんです。」

 

「気絶···ですか?···そういえば、深紅を倒したのはルミナさんでしたね」

 

「あぁ、や···俺のより凄く強いミノタウロス倒した人いるんで、俺なんかまだまだですよ···もっともっと強くならないと···」

 

事実、俺はその人を越えることができなかった。あの変な力のお陰だ。あれが無かったら楽勝で負けてた···そういや、あれ何だったんだろう···?スキル、なのか?

 

「···あなたは、強い人だ」

 

「···え?」

 

「人は、自分を遥かに越える者がいた場合、高みを目指す事を止めます。いいえ、眼を逸らす···という方が合っているでしょうか。とにかく、上がいるから高みを目指せる、なんてのはただのおとぎ話です。ですが、あなたの眼は、諦めていない。逸らしていない」

 

···そう、かな···?

 

「喋り過ぎましたね。あなたは、自分に自信を持って良いということですよ」

 

真剣な顔から一転、少し柔らかい表情になるリューさん。そっか···自分に、自信を···

 

「ありがとうございます、リューさん···」

 

「···いえ、どういたしまして」

 

リューさんと帰る帰り道は、少し暖かい気がした。

 

 

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「ホントに来てるとは思わなんだ」

 

豊饒の女主人に着き、今日も元気の良い女将さんの声、そしていつも騒がしい冒険者達の声で、店は賑わっていた。

そして、あまりにもオーラが違う人が一人、二人用テーブルに陣取っていた。その人は、黒いローブを身に纏い、髪をポニーテールのように纏めてる。この人に違いない。勘だけど。

 

「···あ、あのー···」

 

「ん?おっ、君は···また会ったね。でも私しか君を知らないか」

 

やっぱり。顔立ちは···綺麗整った顔。女性みたいな顔立ちで切れ長の眼、結構背は無いな、俺と同じくらいか。綺麗な黒髪、ツキ様みたいだ···

 

「あ、はい。はじめまして、なのかな?[ルミナ·トゥルーレコード]です。この前は助けてもらって、ありがとうございました」

 

「ははっ、そんな畏まらなくてもいいよ。じゃあ私も。私の名は[セツナ·クロカゼ]。よろしくな」

 

そう言って、爽やかな笑顔を向けるセツナさん。うわぁ···眩しいなぁ···

 

「あ、あの···お礼がしたくて、お呼びしたんですけど···何か食べますか?俺、お金持つんで」

 

「えっ?いいのかい?悪いね···じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「えへへ···俺、腹減っちゃてるんで···すみませーん!!」

 

さぁて、食べますか!!!

 

~ムシャムシャモグモグ~

 

「そうだ、ルミナ君。すまないが、酒を頼んでも良いだろうか?」

 

「モグモグ···え?お酒飲めるんですか?」

 

「はっはっは。これでも18だ。すまない···えっと、これを頼めるか···」

 

すげー···格好いい···お酒飲める人ってめちゃくちゃ格好いい···。

 

「ふぅー···美味い。ここの酒は、良い酒だな···」

 

コップに入った氷を転がしながら、眼をうっとりとする。···モグモグ···。

 

「ん?おいルミナ君」

 

「?はい?」

 

「おべんと着いてるぞ?どれ、とってやる」

 

「???おべんt···」

 

···わお、名前ぴったり。刹那、俺の唇の側に、セツナさんの綺麗な手が伸びる。ふえっ!?えっ!?えっ!?

 

「ふふっ、食事中だと君も一人の少年だな」

 

そう言ってセツナさんは、指に着いたご飯粒をぱくっと食べる。···えっ?何?この人?やっばい。心拍数やっばい。やっばい。やっばい。何かもうやっばい。

 

「···(ぷしゅ~···)」

 

「お?赤くなったな?可愛いやつめ!はっはっは!!」

 

こうして、セツナさんとの食事会は過ぎていく。

 

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(sideツクヨミ)

 

「···そろそろですかね···これを渡すのも」

 

ツクヨミは、二本の刀を持ち、月を眺める。その刀は刀身に刻まれた文字が黄金に輝き、月光に負けない光を放つ。

 

これは、昔、"腕利きの鍛冶屋"に作ってもらった神器[月夜見ノ双月]。

 

「···あなたは、強くなりたいのですね···。良いですよ、たくさん"私を頼ってくださいね"」

 

ツクヨミは、首から下げた首飾り[三日月の石護り]に、そっと口づけする。その眼は、黄金の輝きの中に、淀んだ色が混じっていた。

 

 

 

 

 

第3話

   [強き者/月夜見ノ双月/黒き風]

 

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